さて本番。主に東京バレエ団が参加した個所について触れると、第一楽章にベジャールが込めた「誕生の苦悩と喜び」を、柄本弾を先頭に、団員たちがこぶしを高く振り上げ力強く表現。「第九」というベートーヴェン晩年の最高傑作の導入部にインパクトを持たせることで、この作品がいかに大きなメッセージを携え、人類に熱い理念を訴えようとしているか、その先に続く膨大な交響曲への期待感を高めることに大きな役割を担っていた。
静かな第三楽章は、白いレオタードとタイツに身を包んだ吉岡美佳とBBLのジュリアン・ファヴローのデュエットが会場を神秘的空間へと導いた。吉岡のしなやかな腕と指先が醸し出す優しい動きが、命の水をすくい、人を癒す。ジュリアンのたくましい身体が、吉岡を愛おしく包み、異なる世界の二人が溶け合い、限りなく純粋で清らかな愛へと昇華する様を表現していた。最終の第4楽章は「歓喜」がテーマだ。BBLのオスカー・シャコンが変容するリズムを通じて人類の複雑さ、葛藤、多様性を提示すると、それに続く柄本弾とBBLのジュリアンと大貫真幹の3人で成すソリスト集団が、祝祭的な音楽にあわせ、人間と宇宙、神の間に存在する秩序、その調和を高らかに表現した。フィナーレに近づくとBBLの女性ソリスト、アランナ・アーキバルトが持前の上背と大きな手の平を生かして人類の存在を再びアピールするが、生命の終焉を物語るかのように舞台中央に横たわる。そして80人の合唱が高らかに歌い上げるなか80人のダンサー全員が舞台に集結、東京バレエ団、BBL、ルードラ・ベジャールの生徒たちが手を取り合い、歩調をあわせ、一歩ずつ前に進む。それは、肉体は朽ちても精神は不滅であり、人類が抱き合い、助け合うというベートーヴェンの理念を文字通り体現していた。最後は、オーケストラ、合唱、ダンサーの総勢250人が一体となって盛り上げた舞台に、5000人の観客のエネルギーも加わり、会場全体が歓喜の渦に包まれた。
満場の観客が一斉に立ち上がり、拍手とブラヴォーの嵐は長い間、鳴りやまなかった。
舞台間近の客席に座っていたジュネーブ在住のアンナ・ヴィラットさんは「ダンサーの一人ひとりの顔にも喜びが見てとれました。本当にダンサーと観客が心を通じ合わせた最高の舞台。これ以上のものってあるの?この先、何を観たらいいの、と思ってしまいます」と、目頭を熱くして語っていた。
取材/文:熊野舞(在仏ライター)
ボリショイ劇場の前で。柄本弾、秋山瑛、宮川新大審査委員を務...
今週金曜日から後半の公演が始まる「ロミオとジュリエット」は、...
新緑がまぶしい連休明け、東京バレエ団では5月24日から開演す...
あと1週間ほどで、創立60周年記念シリーズの第二弾、新制作『...
2023年10月20日(金)〜22日(日)、ついに世界初演を...
全幕世界初演までいよいよ2週間を切った「かぐや姫」。10月...
バレエ好きにとっての夏の風物詩。今年も8月21日(月)〜27...
見どころが凝縮され、子どもたちが楽しめるバレエ作品として人気...
7月9日、ハンブルク・バレエ団による、第48回〈ニジンスキー...
7月22日最終公演のカーテンコール オ...