取材/文:新藤弘子(舞踊評論家) ロシアのチェリャビンスク・バレエなどを経て、2015年8月に入団した秋元康臣。以来、恵まれたプロポーションと正確なテクニックが生み出すのびのびした表現で、踊るごとにバレエ・ファンの心をつかんでいる。12月に行われたシルヴィ・ギエム・ファイナル東京公演のリハーサル後、慌ただしいスケジュールを縫って話を聞くことができた。 *バレエとはいつ、どのようにして出会いましたか? 3歳になるちょっと前です。もともと神奈川のほうに住んでいて、鎌倉を散歩していたとき、たまたま母親がバレエ教室の看板を見つけたんです。母はバレエの経験はないのですが、舞台やオペラを鑑賞するのが好きで、それで習わせてみようと思ったらしいです。 *ご兄弟は? 3人きょうだいのいちばん上です。弟と妹も一時期バレエを習っていましたが、続かなかったですね(笑)。 *バレエを習うことに抵抗はありませんでしたか? 最初のうちは、行きたくないとだだをこねた時もあったかも。バレエ教室には他に男の子もいませんでしたし。でも行ってしまえば楽しかったし、自然と生活の一部になっていました。小学校では他のスポーツも楽しかったけど、だからといってバレエがいやになったことはないですね。 *その後、ロシア・バレエ・インスティテュートを経てボリショイ・バレエ学校へ留学なさいました。 薄井(憲二)先生と、ロシアからいらしていた先生の勧めで留学を決めました。12歳から卒業まで6年間学び、冬休みや春休みはありましたけど、基本的にはロシアで過ごしましたね。もちろんロシア語は話せなかったけど、留学する前に先生と1対1で辞書を引きながら教えていただき、正確な意味や発音はわからなくても片言程度に話せるように、とりあえずアルファベットというか文字を発音できるようにだけはしておいたんです。留学での経験が、いま役に立っていますね。 *NBAバレエ団、Kバレエカンパニー、チェリャビンスク・バレエなど、いろいろなバレエ団で活躍されました。思い切りよく決断するほうですか? 常に自分の中で悩んだり考えたりしていて、スパッと切り替わるというふうには思わないです。自分で一つのテーマを作って、そこまでいったら終わり、というふうにはしたくないんです。ボリショイ・バレエ学校に関していえば、毎日いい意味で何も考えずに、ひたすらバレエと向き合っていられる環境だったので、卒業するまでの6年間がすごく長くて濃厚で。とても充実していただけに、いざ卒業と言われた時、正直なにかこう、ひとつ終わってしまったような感覚になりました。 *憧れや目標になるようなダンサーはいますか? なかなか1人には絞れません。もちろんいろんなダンサーを観て素晴らしいなと思いますし、それが正直な気持ちではありますが、例を挙げてしまうと、きりがなくなってしまうので。(笑) *色々な経験をされた秋元さんが、東京バレエ団を選ばれた理由は何だったのでしょうか。 やはりレパートリーですね。作品の種類や幅というか、古典に限らず、これだけ幅広いレパートリーを持つというのは、どの劇場(バレエ団)でもできるということじゃないですから。 入団した時の印象は、スタジオが大きい!(笑) 最初見たとき、とにかく広いなあと。床の環境もとても良くて、いい環境だなあと思いました。ロシアでの経験でよかったのは、舞台数をこなして構えずに舞台に立てるようになったこと。余裕が出てくると、演技の細かい部分なども次はこうしてみようとか、いろいろチャレンジすることができたと思います。東京バレエ団では公演の間隔がかなり違うので、身体の作り方などは変わってくるんだろうなと思います。 *2015年8月の入団後、印象的な作品や役にはもう出会いましたか? 『ドン・キホーテ』のエスパーダは、今後もずっと覚えていると思います。これまで主役のバジルは踊っていたけど、エスパーダは踊ったことがなかったんです。体力以前の問題で、バジルとはまったく性格が違う役なので、重々しさが出せるのかとか、不安もありました。(斎藤)友佳理さんにが本番前までずっと見てくださっていて、いただいた注意を全部こなせるだろうかという不安もありましたけど、直前になったら「あとはもう思い切ってやりなさい」と言ってくださって。ほんとうにもう、思い切ってできました。友佳理さんの指導は厳しくて、細かい!(笑) でもそれがあるからこそ、リハーサルで指導されたことが自然に身体の中に入っていって、本番で思い切りできるんです。もちろんまだまだですけれど。 *東京バレエ団のレパートリーで、これから踊ってみたいものは? まずは2月の『白鳥の湖』のジークフリート王子。このブルメイステル版は、以前から「かっこいいなあ」と思って観ていたものなので、その主役を踊れるのはほんとうに楽しみです。あとは『ラ・バヤデール』のソロルも踊ってみたいです。 *ギエムの引退公演ではフォーサイス振付『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』も踊られていますね。 フォーサイス作品を踊るのは初めて。昨日の公演で3回目でしたが、舞台の数を追うごとに、だんだん身体の使い方、動き方、自分がどれだけ動けるか、難しさの中で少しずつ掴んできている感じでしょうか。まだまだやるべきこと、目指すところは限りなくあるんですけど...。 *ベジャール作品などは? 今までやったことのないものだし、もちろん興味はあります。 *将来こういうふうになりたい、という理想像のようなものはありますか? 正直、特に描いていません。その時を楽しもうと思うので、何年後にこうなりたい、それには今こうしなければ、というような計算はしてないです。こちらからやりたいと言うことはないけれど、来た役はしっかりやる。そのとき出会った作品や舞台をいかに楽しめるかを考えます。レパートリーの多い東京バレエ団は、そういう意味でも楽しみです。 *バレエ以外ではどんなものに興味がありますか? 本では伊坂幸太郎の独特な世界が好きですね。一つの物語を、いろいろな人の目線から描いている。映画もけっこうジャンル問わず見ています。いちばん最近は「007」。邦画だと「グラスホッパー」。これも伊坂さんの本で読んで、映画化されたら観に行こうと思っていたので。 *ミステリアスな雰囲気もお持ちです。バレエ以外の時は何をしていますか。 至って普通です(笑)。バラエティ番組もお笑いも観るし、その時したいことをしてる。ツイッターやFacebookはやっていません。それよりは踊りを観てほしい。 *ギエムさんとの共演で感じるものはありましたか? 感じるというか、いつもダメ出しをされていて。この前も終演後の移動中に、その日の本番の映像を見ながら注意してくれました。 *見どころがあるからこそ注意したくなるのでしょうね。ブルメイステル版『白鳥の湖』を観に来てくれるファンの方たちにメッセージをお願いします。 作品や物語の、全体の魅力をぜひ観てほしいです。特にぼくだけ観てくださいとは言いません(笑)。 華やかな舞台での姿に比べ、素顔は穏やかでクールに見える。けれども話を聞くほどに、バレエに対する迷いのなさや、芯のしっかりした性格が浮き彫りになってくる。優美さと力強さが同居する秋元の踊りの原点は、やはりロシアでの体験にありそうだ。ボリショイ・バレエ学校の恩師イーゴリ・ニコライヴィッチ・ウクススニコフについて、「どなられるし拳骨は飛ぶし、でもすごく男らしくて心の広い先生。踊る楽しさを教えてもらえた」と語る秋元。東京バレエ団という絶好の活躍の場を得た彼が、揺るぎないダンス・クラシックの基礎を活かしてどんな舞台を見せてくれるか。これからの活躍が楽しみだ。
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