4月19日、目黒の東京バレエ団のスタジオで、今月末に公演を控えた『ラ・シルフィード』の公開リハーサル及び記者懇親会を実施いたしました。ライターの小田島久恵さんによるレポートをお届けします。
4月末の公演に向けて行われた東京バレエ団の『ラ・シルフィード』の通し稽古を目黒のスタジオで見学した。1幕を踊ったのは4/29のペア、渡辺理恵と宮川新大。4月にプリンシパルに昇格した渡辺は、2月のブルメイステル版『白鳥の湖』のオデット/オディールを成功させたばかりだが、シルフィード特有のクラシカルな肩のラインがとても美しく、稽古場であることを忘れさせるような瞑想的な表情を見せた。生きた女性ではない空気に漂う妖精、というシルフィードという役の設定は役作りとして大変抽象的で難しいはずだが、現実世界に薄い被膜を張って優美な幻影で恋人を魅了する渡辺の演技は、とてもチャーミングだった。ジェイムズを踊る宮川新大は、2015年8月入団のソリストで、ブルメイステル版『白鳥の湖』では、パ・ド・カトルの端正な演技が印象的だったダンサー。ジェイムズの若々しい跳躍や鮮やかなバットマン、高速のアントルシャを正確にこなし、婚約者エフィー(29日・吉川留衣)との明るいパ・ド・ドゥも表情豊かだった。ラコット版で印象的な、現世でのカップル~ジェイムズとエフィー~とシルフィードとのパ・ド・トロワは見事なバランスで、3人による絵画のような静止ポーズにロマンティック・バレエの極致の美を見る想いだった。
2幕では30日の主役・沖香菜子と松野乃知が登場。小悪魔的な沖のシルフィードは、快活でロマンティックな松野のジェイムズと相性がよく、魔法のベールのシーンも真に迫っていた。松野は3年ぶり2度目のジェイムズだが、目で追っているだけで多くの楽しみを与えてくれるオーラがあり、現世を捨てて妖精の世界に迷い込んだ青年の無鉄砲さを生き生きと表し、跳躍にも思い切りが感じられた。沖のシルフィードの軽やかさと蠱惑的な表情も素晴らしい。儚げで可愛らしく、知的な個性も備わっている。新鮮なシルフィードであった。
稽古場では、芸術監督の斎藤友佳理からコール・ド・バレエへの細かい指示が飛び、「呼吸が止まらないように」というアドバイスが頻繁に伝えられた。ソリストには、「5番のポジションをつねに忘れないように」というアドバイス。モスクワ音楽劇場でピエール・ラコットのアシスタントを務め、ギレーヌ・テスマーからも直々の指導を得た斎藤は、この演目の本質を深く知り抜いており、現役時代にも完璧なシルフィードを演じていた。具体的で愛情深い指導でバレエ団の挑戦を完成へと近づけていた。
その後行われた記者懇親会では、斎藤芸術監督とメインの4人のダンサーが質疑応答に答えた。キャスト一人一人に励ましの言葉を向け「ロマンティック・バレエの原点であるこの作品で本当に大切なことは、『香り』を伝えること」と語る斎藤。
「同じ基本のポーズではじまって、息果てるシーンも同じポーズで終わるバレエです。その間にずっとジェイズへの想いがある...それを軸に表現を深めていきたいです」(渡辺)「毎日が勉強の連続です。物語を通して一人の主人公を作り上げる『幕もの』の魅力にとりつかれ、毎日友佳理さんと相談しながら経験を積んでいます」(宮川)「この3年間に色々な作品を、色々な先生からの指導を受けて踊ることが出来ました。それを今回のシルフィードで生かしていきたいです」(沖)「今の僕が出来るジェイムズとして舞台を生きていけたらいいと思います。3年前の自分をビデオで見ると、今のほうが成長しているかもと思う反面、今にはない若さも感じます」(松野)
完成間近の東京バレエ団の『ラ・シルフィード』は4月29日と30日に公演が行われる。
(撮影:引地信彦)
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