レポート2016/08/25
初演30年記念 「ザ・カブキ」創作の舞台裏――世界初演に携った制作スタッフ座談会より③
「ザ・カブキ」の海外公演から、一流オペラハウスへの客演が始まった。
市川 これはもう、東京バレエ団最高の古典作品と言ってもいいんじゃないでしょうか。約30年間、全然古びることなく、「今出来上がったばかり」のような新鮮さで観ることができる。『忠臣蔵』という話に目をつけたベジャールさんは凄いですね。
立川 我々の中に『仮名手本忠臣蔵』の劇的な世界を、ごく普通に受け入れられるメンタリティが残っていたんだと思います。逆に、「お前たち、いまだにこうだろう?」と言われている気がしました。東京バレエ団にとっても、私個人にとっても大事な作品です。市川さんもですが、初演のときからずっと、1回も欠かさず現場に立ちあってきましたから。
東京バレエ団はそれまでにも海外公演をしていたけれど、大きなオペラハウスでやるのは、初めて『ザ・カブキ』をもっていった86年の海外ツアーが最初。当時はオペラハウスのどこをつつけばどう動くかというのを知らなくて、あれもダメ、これもダメ、そんな話は聞いていないということがたくさんあって、外国のオペラハウスで仕事をするということはこういうことなんだ、と思いましたね。
photo: Sébastien Mathé
photo: Brescia-Amisano/Teatro alla Scala
高沢 機材はどんどん新しくなってきている。照明については、これまでも少しずつ変えてきているけれど、今後新しくすべきところは新しくしていったほうがいいのではないかと思いますね。振りは変わらないけれど、ダンサーが変わっていく以上、作品は変化していくもの。
立川 こういった作品を再演する際には、ダンサーもスタッフも、つねに原典にあたることが大切ですね。歌舞伎で観る、浄瑠璃台本を読む──。ベジャールさんが読み解くように広く、深くというわけにはいきませんが、自分の中で、「ザ・カブキ」をしっかり位置づけ、納得してから現場にいく。そこがとても重要だと思います。
高沢 この仕事に入る前に、歌舞伎座で『仮名手本忠臣蔵』の通しを観に行ったね。昼と夜、通して観たな。
市川 ダンサーたちにも歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』は観てもらいたいですね。「ザ・カブキ」は、ベジャールさん、黛さんという、もう二度と現れないであろう天才たちが、物凄く一所懸命に工夫して結晶させた。これは東京バレエ団の大変な財産です。僕はこの作品で初めてバレエの仕事をして、本や振付を通じてベジャールさんからたくさんのことを教わりました。ベジャールさん、黛さんについては、まだまだ勉強していかなければと思います。
高沢立生:1970年に東京バレエ団の第2次海外公演に照明スタッフとして随行した後、NBSの招聘する外国のオペラ、バレエ公演のほとんどに携わっている。
市川文武:1986年「ザ・カブキ」以降、東京バレエ団等、舞台芸術の音響も担当し、現在に至る。
立川好治:1977年「エチュード」の初演から東京バレエ団のスタッフとして参加。現在まで東京バレエ団技術監督を務める。
2013年「ザ・カブキ」公演プログラム掲載記事抜粋再録
取材・文:加藤智子(フリーライター)