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ロングインタビュー2018/04/23

アンソニー・ダウエル(「真夏の夜の夢」振付指導) 特別インタビュー 

 まもなく初日をむかえる東京バレエ団「真夏の夜の夢」のリハーサルのためにアンソニー・ダウエルが来日。かつて英国ロイヤル・バレエ団を代表する名ダンサーで、同団の芸術監督も務めた彼に、舞踊評論家の長野由紀さんがインタビューを行いました。ぜひご一読ください。


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 ゴールデン・ウィークに東京バレエ団が再演する『真夏の夜の夢』は、1964年、シェイクスピア生誕400周年を記念して英国ロイヤル・バレエ団によって初演された。このとき、主役の妖精の王オベロンを踊ったのが、20歳を過ぎたばかりの新進のスターだったアンソニー・ダウエルである。振付家フレデリック・アシュトン亡き後は、世界各国のバレエ団で上演指導にあたってきた。


Q:オベロンは、美しく堂々としてノーブル、ちょっと冷たくもあります。アシュトンは、ダンサーに合わせて役柄を作り上げる人だったといいますが、オベロンにはあなたの個性が反映されているのでしょうか?


ダウエル: 若かった頃の私は、じつは内気で神経質な性格だったんだ。そのせいで、「氷の箱で周りを囲って、人を寄せ付けない」と言われたこともあったのだけど、そうしたところの一部はもちろんオベロンにも取り入れられたし、これはとても私にフィットする役だったと思うよ。そしてダンサーにとって、作られた役があってその肌の下に入り込めるのは、100%素のままでいなくてはならないより、ありがたいことでもあるんだ。


Q:オベロンの妻で妖精の女王であるタイターニアは、アントワネット・シブリーさんが初演しました。


ダウエル:アントワネットはとてもセンシュアルで、感情を隠さず強い表現をするダンサーだった。だからアシュトンはタイターニアを、気位が高くセクシーで、ちょっとクレイジーでもある役にしたんだ。シェイクスピアの原作でもそうだから、すべてを彼女に合わせたとは思わないけれどね。ただ、そうした性質をやりすぎにならないよう表現するのはとても難しいことで、やはり彼女は特別だった。多くのダンサーがこの役を可憐な妖精、たとえばクリスマス・ツリーのてっぺんに飾る人形のように演じるけれど、じつはそれは間違っている。


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アンソニー・ダウエル


私とアントワネットは、音楽を全く同じように聴くことができたんだ


Q:このとき初共演したお二人は、やがて「美しい双子のような」と賞賛されるパートナーシップを築いていかれます。そのシブリー&ダウエルが正反対の個性の持ち主だというのは、意外でもあります。


ダウエル:アシュトンが私たちに目を留めたのは、まず、身体的に釣り合いがよかったから。そして何より私たちは、音楽を全く同じように聴くことができたんだ。だからたとえば、リハーサルの写真でも舞台の写真でも、同じタイミングで写せば寸分たがわず同じことをやっている。そういう相手と組んでいると、新作を作っていても、次に相手がどう動くか無意識に分かるようになる。他のダンサーたちと比べても、これは私たちの大きな強みだったね。


Q:パートナーシップの何よりのポイントは、音楽性?


ダウエル:そして、ユーモアのセンス! 私自身はいつも仕事の相手に恵まれてきたけれど、悲惨な例も見てきている(笑)。バレエではだいたい、女性が「ノー」「もっとこうして」と要求を出す。それが時々男性の逆鱗に触れるんだけど、お互いがエゴをむき出しにすると、スタジオの雰囲気が険悪になってしまうんだ。


アシュトンが何より心がけていたのは「ストーリーを伝えること」


Q:ダウエルさんご自身、指導の折々に、その場を和ませるような一言、二言をはさまれますよね。ところで、東京バレエ団のダンサーたちはいかがですか?


ダウエル:3人のタイターニアが、それぞれ自分のやり方を見つけかけている。作品の伝承にはまず振付のテキストを尊重しなくてはならないけれど、ダンサーの個性はさまざま。だから、自分なりの踊り方を探り、私のような指導者がそれを見ながら「ここは気に入らない」「これは新鮮だ、これでいこう」という風に、調整していくんだ。ステップを凍結してしまわず、今のダンサーに合わせてこそ、作品は生き続けていくんだからね。3人のパックにもそれぞれ持ち味があるし、クリストファー(・カー氏、上演指導者)も、妖精たちのコール・ド・バレエの正確さを絶賛しているよ。


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Q:ゲストのフリーデマン・フォーゲルについては?


ダウエル:今年に入ってフロリダ(サラソタ・バレエ)にこの作品を指導に行った時に、ゲストとして招かれていたのが彼だった。じつはそれまで彼のことは知らなかったんだけど、長身で貴族的な雰囲気もあり、とても魅力的だね。


Q:ファンのみなさんに、メッセージをお願いします


ダウエル:アシュトンがこのバレエを作る時に何より心がけていたのは、「ストーリーを伝えること」。リハーサルにもよく人を呼んで、「何が起こっているかわかる?」と確認していました。細部まで作り込まれた多面体の作品の中に、原作のエッセンス、つまり人間とその脆さ、愛、そしてミステリアスな超自然の力が描かれた、素晴らしい作品です。



オベロン役を引退する際には、まだ存命中だったアシュトンから「場当たりするだけのつもりでいいから、出続けてくれ!」と懇願されたというダウエル氏。指導を続けながら改めて作品に向き合うことも多く、衣装についてもいくつかのアイディアを温めているのだという。誰よりもこの作品を知る彼が仕上げる舞台が、ほんとうに楽しみである。

(取材・文 / 長野由紀 舞踊評論家)

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