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2019/10/21

【ロング・インタビュー】 那須野圭右 (『春の祭典』振付指導)

東京バレエ団が勅使川原三郎さん振付の新作を上演する注目の舞台まで1週間をきりました。今回は新作に加え、『セレナーデ』(バランシン振付)、そして『春の祭典』(ベジャール振付)という東京バレエ団の至宝ともいえる2作品を併演します。特に『春の祭典』は今夏の海外ツアーでも上演し、ローマ、ミラノで喝采をあびたばかり。本日は5月に振付指導のために来団した那須野圭右さん(モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督補)のロングインタビューをご紹介します。ぜひご一読ください!


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左から秋元康臣、奈良春夏、那須野圭右氏。


東京バレエ団では現在、勅使川原三郎振付『雲のなごり』世界初演と同時に上演する、モーリス・ベジャール振付『春の祭典』のリハーサルが進行中。ストラヴィンスキーの、またベジャールの大傑作で、東京バレエ団では1993年のレパートリー入り以来、国内外で上演を重ねている作品だ。今年5月、第34次海外公演での上演を前に、2週間にわたって東京バレエ団でリハーサルを指導したモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)の那須野圭右氏に、稽古の様子や作品の見どころを聞いた。

──那須野さんは2017年の日本公演を最後にダンサーを引退、現在は指導者として活躍されていますね。

ジル(・ロマン芸術監督)のもとで芸術監督補佐という肩書きで指導をしています。おもに、BBL以外のカンパニーがベジャール作品を上演する際の指導を担当していますが、たとえばミラノ・スカラ座やロイヤル・フランダース・バレエ団の『ボレロ』、ボリショイ・バレエでの『ゲーテ・パリジェンヌ』、ボルドー・オペラ座バレエ団の『さすらう若者の歌』などを手がけてきました。(2019年秋からの)来シーズンに入るとまた体制が変わり、BBL本体での指導の機会も増えるかもしれないので、ますます充実、です!

──ベジャール作品に初挑戦するダンサーたちを指導する機会も多いのでは。

東京バレエ団のように、昔からベジャールさんの作品をいくつも踊ってきているカンパニーのダンサーたちは、身体にベジャールさんのスタイルがちょっと染み付いていたりするものです。が、初めての人ばかりとなると少し時間が必要です。
ベジャールさんの動きは、ベースはクラシックだけれど、腕の形だったり上半身の形だったりにちょっと違うスタイルが入ってくる。リハーサルでは、どうすればそのポジションに入りやすくなるか、身体のどこを意識すればいいか、どこの筋肉を使えばいいか、といったことを繰り返し繰り返し伝えます。今回の『春の祭典』も、振付をなぞるだけならそれほど難しくはないけれど、重要なのはそこから先、です。

──今回のリハーサルはたっぷり2週間でした。

東京バレエ団には何度も指導に来ていますが、2週間かけて1つの作品をじっくりリハーサルするのは初めて! 男性の生贄役の二人(秋元康臣、樋口祐輝)が初役ですから、この機会に指導を、となったのだけれど、実はほかにも『春祭』は初めてというダンサーがたくさんいるじゃないかと(笑)!! 取り組みがいがありました。
皆若くて、すごく踊れるダンサーたちですが、ベジャールのスタイルが全くわからないところから始めて、徐々に形になってきて──。その過程は、指導者として本当に楽しいです!


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日本で生贄役を初披露する樋口祐輝。パートナーは伝田陽美


──リハーサルでは、音の取り方についてとても細やかに指導をされていました。

ベジャールさんは、本当に音に厳しい方でしたから! 「つま先を伸ばしなさい」「脚を伸ばしなさい」なんてことはいちいち注意されませんでしたが、いつも「音!」「音!」「音!」と。

とくに大事なのは細かい音符です。ダンサーにとって音楽は、聴くだけのものではなくて、聴いて、しっかり理解して、身体で表現するものでしょう。そこには四分音符だけの単純なリズムだけでなく、より複雑なリズムもあるわけだから、耳で聴いて合わせるだけでは表現しきれない。そうならないよう、ベジャールさんの音の取り方がしっかり身体に染み込むよう、厳密に、稽古を重ねています。

──つい群舞の迫力に目がいってしまう作品ですが、実はかなり緻密に組み立てられていますね。

たとえば冒頭、ダッダッダッダッダッダッという音で男性群舞が四つん這いになって跳ぶ場面はすごく印象的ですよね。四つん這いなんて誰でもできる形だけれど、どこをどう気にしながらどんなポジションにもっていくか──。そこをしっかり押さえることで、ぐんと野性味が出て、動物的になり、だからこそ迫力が出てくる。

『春の祭典』では、その動物的な雰囲気がとても重要。ベジャールさんはよく「鼻で探せ!」とおっしゃっていました。まさに、獲物かメスを探す動物の姿です。

──新キャストが加わっての『春の祭典』は、海外ツアーののち、10月の東京で上演されます。

より迫力ある、素晴らしい『春祭』になると思います。だって僕が指導したのだから(笑)! ベジャールが描き出した、人間のストーリーの、それも原始的で野生的な部分があふれ出る迫力のバレエです。一人でも多くのお客さんに、「ベジャール面白い!」と思ってもらえたら嬉しいです。


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圧倒的な迫力で魅せるフィナーレ。中央は伝田陽美と樋口祐輝


取材・文:加藤智子(フリーライター)


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