レポート2021/10/18
今回の上演ではココに注目! ー「中国の不思議な役人」の魅力
11月6日に世界初演をむかえる金森穣振付「かぐや姫」(第1幕)上演では、金森氏が深いかかわりを持つ2人の振付家の傑作も同時に上演します。巨匠イリ・キリアン振付「ドリーム・タイム」。武満徹の音楽にのせて、5名の男女がたゆたう美の世界へと客席をいざないます。
そしてベジャールの代表作のひとつ「中国の不思議な役人」。ここでは東京バレエ団が上演する「中国の不思議な役人」の魅力を改めてお伝えしたいと思います。
全てが音に忠実な、音楽を立体化したバレエ幕があくと、スモークのたちこめた舞台の上を1人の男が歩いてくる。男が机をたたいた瞬間、不協和音が鳴り響き、劇場はあっというまに怪しげな空間に様変わり......1992年にベジャールが創作した「中国の不思議な役人」は、バルトークが作曲した同名のパントマイムのための舞台音楽に振付けられ、2004年の東京バレエ団初演以降、時のバレエ団を代表するダンサーたちによって踊り継がれてきた珠玉の名作です。今回は新キャストで、4年ぶりの上演が実現します。
今回のリハーサル指導をつとめる小林十市氏(役人の名演技をご記憶の方も多いのではないでしょうか?)は、「すべてが音に忠実にできている。振付が音楽を立体化しているような作品で、観客も音楽を聴く感覚で観ることができるバレエ」だと語ります。
今回の上演ではココに注目! 新 "役人" 大塚卓(おおつか すぐる)
今回の公演でタイトルロールに抜擢されたのは東京バレエ団ソリストの大塚卓。ローザンヌ国際バレエコンクール出場後ハンブルク・バレエ学校に留学。その後、オーストラリアのクイーンズランド・バレエ団で活躍したのち、2020年に「もっと多彩なレパートリーを踊りたい!」と東京バレエ団に移籍したニューフェイス。入団後すぐに頭角をあらわし、子どものためのバレエ「ねむれる森の美女」デジレ王子をはじめとする主要な役に次々と抜擢され、バレエ界から熱い視線を集めている。ベジャール作品では本年7月に復活上演を果たした「ロミオとジュリエット」のパ・ド・ドゥで主役のロミオを射止め、均整のとれた美しいプロポーションと確実なテクニックで高評を博した。
改めておさらい。「中国の不思議な役人」はこんな話
悪党たちが娘をつかって道行く男たちを誘惑し、金目の物を奪っていく。ベジャールのバレエでは3名の犠牲者――ジークフリート、若い男、そして中国の役人が登場するが、最後の役人だけは娘に異常なまでの執着をみせ、何度殺しても蘇り、娘にせまってくる。物語の最後に本懐をとげ、役人は息絶える――バルトークの作曲したパントマイム劇初演時、上演禁止となった理由がこの刺激的な物語。このバレエでは男性ダンサーが娘を演じ、女性ダンサーが若い男を演じることで、より性倒錯的な世界を創り上げることに成功している。