レポート2024/08/16
〈Choreographic Project 2024〉上演レポート
「振付家・ダンサー双方の創造力・表現力を刺激し、アーティストとしてのモチベーションを高めてもらいたい」という、芸術監督 斎藤友佳理の強い想いから、2017年にスタートした〈Choreographic Project〉。
定期的な公演継続のため、また、より多様な挑戦ができる場として発展させていくために、ダンサー主体でのクラウドファンディングにも挑戦。多くのご支援によって実現した〈Choreographic Project 2024〉初日の様子をレポートします!
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東京バレエ団のスタジオ内に暗幕が張られ、平台を積み重ねてつくった客席は小劇場の芝居小屋を思わせる。入場するとブラウリオ・アルバレスが立っていて、チケットを確認し、座席の場所を案内してくれる。しばらくすると加藤くるみが司会として登場し、開演前の注意事項(スマホはOFFに、飲食は禁止など)の際はダンサー数名が身振り手振りを使ってユーモラスに表現。この〈Choreographic Project〉ならではの"手作り感"ある演出で、ダンサーが普段よりもぐっと身近に感じられ、会場全体が温かい雰囲気に包まれる。
最初に上演されたのは、木村和夫振付の『チャイコフスキー・ピアノ・コンチェルト第1番より第3楽章』。3組のカップル(足立真里亜、富田紗永、福田天音、生方隆之介、樋口祐輝、陶山湘)と、男性ダンサー8名による群舞が混ざり合う。男女カップルによるパ・ド・ドゥは、互いのピュアな感情が交差して心が弾む。一方で、男性ダンサーだけのアンサンブルではアレグロの動きも多く、迫力満点。クラシック・バレエをベースにしながら、ダイナミックさと繊細さをあわせ持つ作品世界に魅了された。
続いて、岡崎隼也が振付けた、秋山瑛のソロ作品『ふたつのかげ』。ガブリエル・フォーレの切ない調べにのせて、白いシャツと赤い靴下姿の秋山が時折顔を隠しながら踊る。配役表には、振付家からのメッセージとして「影と陰 見えているものと見えていないもの ふたつはひとつ」という言葉が添えられており、秋山の動きからは内側に抱えた悲しみや切なさのような、どろりとした感情と向き合い、もがく様が感じられる。ぞくっとするような妖しい美しさも垣間見え、心をとらえて離さない作品だった。
次の作品は 、井福俊太郎の『la Mano』。ムルコフによる打ち込み系のサウンドをベースに、ダンサーたちは重心を低く落として踊る。井福からのメッセージは「空間と振動」。時に転がり、時に地を這いながら、リズミカルにアップダウンの動きを繰り返す。その力強いムーブメントは音楽と一体化し、身体でもって空間を切り裂いていく。ダンサーたちもそれぞれの力量を存分に発揮し、客席も含めて劇場全体が一体となるような、そんなパワフルな作品だった。
今回、富田翔子は大活躍だった。クラウドファンディングでは富田がデザインしたオリジナルグッズ(Tシャツとトートバッグ)が人気で、ダンサーとしても出演。さらに初振付作品『ma vie』を上演した。長谷川琴音と生方隆之介による、思わず笑みがこぼれるようなパ・ド・ドゥ。富田によると、この作品は大人と子どもを描いた物語で、「自分の心地よさに身を委ねて生きる命すべてが思うままの姿でいられたらいい」という願いを込めて作られたという。ふたりの動きがシンクロし、重なり合う様は実に心地よく、爽やかで愛らしい作品となっていた。
本プロジェクトの常連振付家であるブラウリオ・アルバレスは今回、ふたつの作品を上演。ひとつめはタイの伝統文化からインスパイアされた『Siamese』で、ダンサーたちはタイの伝統舞踊で着用されるような衣裳を身にまとい、エキゾチックなメイクを施していた。ブラウリオはこの衣裳を作るため、自らタイに生地を買い付けに行ったという。バッハの「平均律クラヴィーア」にのせて踊られるのは、非常にピュアなクラシック・バレエで、動きの美しさが際立つ。小品ながら、幕ものの抜粋を観たような見ごたえがあった。
もうひとつは総勢10名のダンサーによって踊られる『Komorebi』。"木漏れ日"と題された理由として、アルバレスは「葉を通して漏れる太陽の光のように、私たちの社会には何かしら際立った個人がいます」と書いているが、そのきらめく個人は時にはみ出し、飛び出し、もがき、あらがうこととなる。足を踏み鳴らし、ねじ伏せるような動きのなか、一触即発といった雰囲気もあり、集団における個の葛藤が描かれる。偶然だが、この日(7月6日・初日)は上空で雷がとどろき、その轟音が鳴り響くなかでの上演となったのだが、その不穏な音がまるで効果音のように本作品にぴったりであった。
最後に上演されたのは、再び岡崎隼也による振付作品『チェロからはじまる私とあなたの関係』。「あるチェリストの音源を聴いた時に得たイメージを6つのショートストーリーに落とし込んだオムニバス作品」とあり、それぞれ「無我夢中」「二者択一」「一心同体」「共存共栄」「合縁奇縁」「光芒一線」のタイトルがついている。照明の効果が素晴らしく、黄色や青、緑、赤など、鮮やかな色の光を用いた照明がストーリーごとに切り替わり、どこか白昼夢を観ているような不思議な気分になる。明るく、ユーモアを含んだ振付の中にほどよい毒っけもあり、ウィットに富んださまざまな人間関係が踊りで表現された。
残念ながら、上演中の雷雨の影響で空調設備に不都合が生じ、2日目以降の上演を断念せざるを得なかったが、8月22日(木)に日を改めて再演されることが決まったという 。また、来年(2025年)3月にも本プロジェクトの上演を予定しているそうで、会場入り口ではその支援も兼ねたグッズ販売が行われていた。これからの発展にも大いに期待したい。
取材・文=富永明子(編集者・ライター)
photos: Koujiro Yoshikawa