めぐろバレエ祭り2024/09/12
第12回めぐろバレエ祭り 現地レポート
8月後半になっても30℃を超える暑い日が続いていましたが、都立大学駅からめぐろパーシモンホールに向かう人々の足取りは軽やか。なかにはチュールスカートを身につけたお子さんや、浴衣姿の方々もいて、浮き立つような足取りから「バレエ祭りが始まる!」というワクワクした雰囲気が伝わってきました。
今年(2024年)も8月20日~25日までの5日間、「めぐろバレエ祭り」が開催されました。5日間で延べ10,995人以上が集まり、大盛況となった本イベントの最終日の様子をレポートします!
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朝9時半から、大ホールでは東京バレエ団のダンサーによる公開レッスンがおこなわれました。この日の先生は、元シュツットガルト・バレエ団プリンシパルのローラン・フォーゲル氏。さらに通訳として、ブラウリオ・アルバレスが登壇しました。
フォーゲル氏は日本語もお上手で、時折ユーモアも交えながら丁寧に振りを説明していきます。バー・レッスンはじっくりと体を温めるような内容でしたが、センターに移ると大きく、スピーディに動くアンシェヌマンに。一見シンプルながら、ダンサーたちも戸惑うほど複雑かつ予想外の振りも多々ありましたが、フォーゲル氏がアドバイスをするとみるみる踊りが変わっていきます。
印象的だったのが「5番(ポジション)をもっと感じて! このあと踊る『ねむり』には必要ですよ」というフォーゲル氏の言葉。『ねむり』はクラシック・バレエの基礎に忠実に踊ることが大切な演目なので、正確にポジションに収めることへの指摘がたびたび出ました。ほかにも「つま先まで笑顔で!」「Don't worry! Be happy!」など、ダンサーの気持ちを高めるアドバイスもたくさん。わずか1時間でしたが充実した内容で、客席も一緒に踊り終えたような高揚感に包まれました。
photo: Koujiro Yoshikawa
今回の『子どものためのバレエ「ねむれる森の美女」』は、足立真里亜&南江祐生、金子仁美&池本祥真のダブルキャストによる上演。ホワイエには開幕を待ちきれない子供たちの弾むような声が響き、物販コーナーにはバレエ団ダンサーも姿を見せ、にぎやかなお祭り感が満ちています。
このバージョンは初めてバレエを観る子どもたちにもわかりやすいように、作品の見どころをぎゅっと詰め込み、コンパクトにしたもの。カタラビュット役のダンサー(岡崎隼也、山田眞央)が台詞つきで物語や見どころを解説し、ユーモラスな語りは大ウケ! まるでおもちゃ箱をひっくり返したような鮮やかな色合いのキュートな衣裳と舞台装置、きらめくダンサーたちの姿に子どもたちの目はくぎ付けでした。幕が下りると出演ダンサーが客席に降りてきて、ハイタッチなどの交流も。
終演後、会場を出たところで踊り出す子どもたちが多数おり、興奮冷めやらぬ様子。なかにはフィッシュ・ダイブに挑戦する子もいるなど、ほほえましい光景があちこちで見られました。
photos: Koujiro Yoshikawa
イベントの合間には「バレエ縁日」が大にぎわい! 子どもたちが挑戦できるゲームとして「バレエ玉入れ」「ボーリング」「花輪投げ」の3種類が小ホールのロビーに設置されています。各ゲームで3回までチャレンジでき、条件によってタンブラーや缶バッヂが当たるとあって、子どもたちはみんな真剣な顔でゲームに挑戦していました。
サンチョパンサのボーリング(左上)、海賊の花輪投げ(右上)、バレエ玉入れ(右下)
この日は、3つのイベントが開催に。ひとつめは毎年大人気のイベント「スーパーバレエMIX BON踊り」です! 小ホールの真ん中に組まれたやぐらを囲み、始まる前から熱気むんむん。「人前で踊るのは恥ずかしい」という参加者はほとんどおらず、年齢も性別も関係なく、踊る気満々の参加者が集いました。
今回の指導者は東京バレエ団ファーストソリストの伝田陽美。さらに、スペシャル・ゲストとしてプリンシパルの沖香菜子が登場! ふたりとも艶やかな浴衣姿です。小林十市(モーリス・ベジャール・バレエ団バレエ・マスター)が振付けたオリジナルの盆踊りは、途中で「ボレロ」風のポーズがあったり、バレエのアラベスクを簡単にしたポーズがあったり、両手で抱えたスイカが急に大漁のマグロになったり(笑)と、実にユニークなもの。さらに伝田陽美が「ここで『誰でもできるよアラベスク』!」「はい、ここで急にマグロ~!」「このあと間違いやすいところ来ますよ」など、言葉を交えて解説したので、初めての参加者たちもすっかり振付を覚え、最後は全員がやぐらを囲んで円になり、大きな笑顔で踊りに踊った1時間となりました。
photo: Koujiro Yoshikawa
「からだであそぼう だれでもダンス☆」には、30人ほどの子どもたちが参加。体を動かしながら、想像力を使って自由にポーズを生み出すワークショップということで、振付家・ダンサーの田畑真希さんとアシスタントの城俊彦さんは開始前にすべての子どもたちに話しかけ、リラックスできるように気を配っていたのが印象的でした。そのおかげで、初めて会ったはずの子どもたちはすっかり仲良くなり、始まる前から会場を走り回って大はしゃぎ。
音楽を使いながら「かっこいいポーズで」「1本足で立つ」「3本足で立つ」「0から100まで伸びる」など、さまざまなお題を子どもたちに投げかけますが、田畑さんはどのポーズもたっぷりと褒め、より自由に動けるように「もっとでたらめに!」と呼びかけます。そのうち、子どもたちの個性がどんどん出てきて、もっと面白い動きを追求する子、前のポーズをブラッシュアップする子、好きなポーズだけする子など、実にさまざま。でも、どの子も全力で楽しんでおり、休憩時間は水を一口飲んだだけで大急ぎで田畑さんと城さんのもとに走っていくほど。思わず一緒に動き始める保護者の姿もありました。
終わりを飾ったのは「ダンサーズ・トーク in めぐろ」。その日の本番を踊り終えた、金子仁美、足立真里亜、池本祥真、南江祐生が登壇し、司会は伝田陽美が務めました。伝田は初MCとは思えないほどの落ち着きで、まるで楽屋にいるような和気あいあいとした雰囲気のトークショーに。
今回、代役でデジレ王子を務めた南江は、実はアダジオでリプカ(フィッシュ・ダイブ)をするのが初めてで、秋山瑛と池本からアドバイスをもらったという話も。さらに、直後に開幕となった東京バレエ団60周年祝祭ガラ「ダイヤモンド・セレブレーション」で、クランコ版『ロミオとジュリエット』バルコニーのシーンを踊る足立と池本は、公開レッスンに登場したフォーゲル氏から指導を受けたそう。シュツットガルト・バレエ団時代、ロミオ役を経験しているフォーゲル氏から、音の取り方、場所や空間の使い方などを教わり、よりドラマティックで躍動感のある踊りに変わったそうです。
さらに会場を笑いで包んだのは、Q&Aコーナーで出た「緊張するときは?」の問いに対する、池本のアンサー。彼にとって『ボレロ』のエキストラはもっとも緊張するそうで「いつ立てばいいんだ!」とハラハラした経験があったとか(笑)。また、「得意料理は?」への答えは各自の個性が出る結果に。南江の「具だくさん味噌汁と玄米」、金子の「茄子の揚げびたしが好評」、池本の「牛肉、豚肉、鶏肉を全部入れたカレー」、伝田の「最新式レンジを使った時短料理」という答えに対し、足立の「偏食で、今日もメレンゲクッキーを1ダースくらい食べてしまった」という意外すぎる答えには、驚きの声と笑いが起きたのでした。
photo: Koujiro Yoshikawa
今回も大盛り上がりのうちに幕を閉じた、めぐろバレエ祭り。会場を後にする参加者からは「来年も楽しみ!」という声も聞こえ、次回への期待を胸に帰路についた方も多いようです。筆者も来年までにBON踊りの振付をマスターし、挑みたいと思います!
富永明子(編集者・ライター)