レポート2024/09/30
「ザ・カブキ」リハーサルレポート〈花柳流による所作指導〉
来月のモーリス・ベジャール振付「ザ・カブキ」上演に向けて、この9月24日、日本舞踊の花柳流家元の花柳壽輔氏と助手の花柳源九郎氏が所作指導のため東京バレエ団スタジオを訪れました。
『仮名手本忠臣蔵』を題材とした「ザ・カブキ」は、バレエでありながら、日本の伝統芸能である歌舞伎の演出から多くの要素が使われ、これを演じるダンサーは日本舞踊の所作の修得が欠かせません。初演の際に故 二代目花柳壽應氏(当時、芳次郎)がベジャールの傍らでクリエーションに携わり、ダンサーたちの所作指導も行ったご縁から、東京バレエ団では上演のたび、花柳流の方々から所作の指導を受けています。
この日はまず基本の"摺り足"などの歩き方のおさらいに始まり、全編を通しながら場面ごとの動きや演技に沿った指導を受けていきました。
第七場 "一力茶屋" 由良之助と遊女の場面より。
第七場 "一力茶屋" 遊女たちに扇の使い方を指導。
最終場である第九場"討ち入り"の後半は、黛敏郎の「涅槃交響曲」にのせた、由良之助と、塩冶家の元家臣である四十七士の切腹の場面です。その冒頭では、討ち入りの始めと同様に、47人が左右の舞台袖から中央に走り込んできて、由良之助を筆頭に三角形に整列します。
「動きが形式的にならないように、自分の心の中に設定をつくってください。登場のところから、おのおのが想いを持って。最後のポーズだけ気持ちがこもっていても動きに繋がりません」と花柳壽輔氏。
第九場 討ち入りの後半、「涅槃交響曲」にのせた場面。
由良之助の抜刀の"振り"を合図に四十七士が動き出し、再び三角形に整列して切腹に臨むシーンでは、
「動きが"無"になってしまってはだめ、日本舞踊でいう"息"が必要です。振りにメッセージを込めてください」
「切腹してお腹を刺したとき、客席に目線がいかないと群(ぐん)になりません。日本舞踊では、個がたたないと群にならないと言います。全体が立体的に見えるように、目力を残して、ここでもメッセージ性を意識してください。四十七士が気迫を出すと由良之助が立ってくる。刀をおさめて座るときも、"よし!"などのメッセージを込めた目線をお客様に残してください」(花柳壽輔氏)。
形をなぞるだけではけっして成しえない"和"の所作と演技は、このような専門的な指導を受けることの積み重ねで達成されるのです。