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レポート2025/04/21

〈Choreographic Project 2025〉上演レポート

「振付家・ダンサー双方の創造力・表現力を刺激し、アーティストとしてのモチベーションを高めてもらいたい」という、団長・斎藤友佳理の強い想いから、2017年にスタートした〈Choreographic Project〉。今回もダンサーが振付のみならず、衣裳や照明などもすべてプロデュースし、クラウドファンディングにも挑戦した手作りの公演が実現。多くのご支援によって実現した〈Choreographic Project 2025〉初日(3月29日)の様子をレポートします!



東京バレエ団のスタジオ内に暗幕が張られ、芝居小屋を思わせる雰囲気は健在だが、今回は正面と両サイドの3方向から舞台を囲むように客席の配置を変更。今までよりも舞台が近く感じられる。客席には〈Choreographic Project〉オリジナルグッズを手にした観客も多く、このプロジェクトが熱いファンたちに支えられている様子が伝わってくる。
開演するとマイクを手にした富田翔子が登場。恒例となった、ダンサー数名が開演前の注意事項(スマホはOFFに、飲食は禁止など)を演技で伝えるパフォーマンスに、客席から温かい笑い声が上がった。

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最初に上演されたのは、宮村啓斗振付の『行方』。宮村本人と陶山湘によるデュオで、黒いシンプルな衣裳を身につけたふたりがジャンプや跳躍を繰り広げ、高い身体能力をこれでもかと見せつけた。赤い照明の下、高低差のある激しいムーブメントが連続し、戸惑いや葛藤、焦燥感などが表現される。カーテンコールでは、晴れやかな笑顔を見せたのが印象的だった。

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『行方』より


2番目の作品は、山下寿理による『teenage dream』。振付家からのメッセージには「大人じゃない、子どもでもない 今の私です」という言葉が添えられている。ダンサーとして山下自身が登場。身体を大きくひねったり、回したりと伸びやかな動きには、成長期の子どものような素朴な魅力がある。ラストは両手を広げて飛行機のように旋回し、今の自分を肯定するような解放感に満ちていた。

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『teenage dream』より


涌田美紀が振付けた『Sweet and Sour』は、文字どおり「甘酸っぱい」作品である。"友だち以上恋人未満"のカップル(中沢恵理子、山下湧吾)が、キスしようとしてうまくいかなかったり、ちょっかいを出してカマをかけてみたりと、甘酸っぱい関係を好演。軽やかなリフトやカノンの動きが多く、ふたりの心情がダイレクトに伝わってくる。カップルのもとに突如現れた、女性の母親役の伝田陽美はコミカルな動きで笑いを誘った。

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『Sweet and Sour』より


続く山田眞央振付の『Juice』は、ふたりの男性(山仁尚、青木恵吾)の関係を表した作品。片方が相手を導くこともあれば、寄り添ったり、抱え合ったりと協力し合うこともあり、シンプルな振付のなかに温かな友情が感じられる。椅子2脚に昇降したり、背もたれに足をかけて傾けたりと、心の機微を表すのに椅子が効果的に用いられた。ふたりの関係含め、想像の余地が多分にあるところもユニークだ。
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『Juice』より


木村和夫による『「カプースチン組曲」よりトッカティーナ』は、超絶技巧を得意とした作曲家、ニコライ・カプースチンの音楽に振付けた作品。足立真里亜は白のチュチュ、橋谷美香は黒のチュチュを身につけ、力強いポワントワークを披露する。だが、踊り自体はまるで即興のジャズのようで、客席を挑戦的な眼差しで見つめ、あえてターンアウトせずにア・テールの動きもあり、どこか"普通じゃない"雰囲気が面白い。振付家からのコメントに「彼(カプースチン)のテクニックの裏に隠された凶器が舞台に挑むダンサーたちへ憑依する」とあり、納得した。

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『「カプースチン組曲」よりトッカティーナ』より


6番目の作品は、平木菜子が振付けた『Existence』。オレンジ色の照明の下、伝田陽美と陶山湘が大きな身体を豊かに使い、客席を圧倒した。『ドン・キホーテ』のエスパーダのような動きが、ふたりのキリッとした個性によく合う。大きなジャンプが多く、ふたりの長い手足が目の前でダイナミックに跳ね、見ごたえ十分。至近距離で見られる本プロジェクトならではの贅沢な時間だった。

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『Existence』


金子仁美自身が振付け、出演した『Dear...』は、ともに踊った髙浦由美子との関係を表した作品。振付家からの言葉を読むと、出会ったころは気持ちがすれ違うことが多く、理解されない苦しみを抱えていたふたりは、次第にかけがえのない仲間になっていったという。白い服を着た金子と髙浦は、互いの動きを柔らかくなぞりながら、友情と愛情を表現。爽やかな春を感じさせる作品となった。
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『Dear...』より


本プロジェクトの常連振付ダンサーであるブラウリオ・アルバレスは、ふたつの作品を上演。ひとつめの『おじいちゃんとおばあちゃんの夢の世界』は、縁側でお茶をすすっていた老夫婦(福田天音、小泉陽大)が眠りに落ちると、夢の中でいきいきと踊り出す。ただ、ふたりは肉体的に若返るのではない。肉体は老夫婦のまま、何歳になっても心の中にある若い魂が踊り出すのだ。福田と小泉は老夫婦の心にある"若さ"をみずみずしく表現し、誰もが笑顔になる愛らしいパ・ド・ドゥが生まれた。

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『おじいちゃんとおばあちゃんの夢の世界』より


アルバレスによるもうひとつの作品『In the Memory of...』は、振付家のコメントによると夢の中で出会った喪失による痛みに苦しむ女性を助けるために作られたという。ブルーの照明の中、5人のダンサー(中川美雪、榊優美枝、瓜生遥花、大坪優花、前川琴音)は水中の魚のようにたゆたう。繋がっていたはずの5人はいつしかほどけ、流れ、絡まり、もがき、また集まることを繰り返しながら運命に抗っていく。静けさの中に痛みを癒す力も秘めた、祈りのような作品だった。

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『In the Memory of...』より


最後に上演された『Waltz』は、井福俊太郎からの依頼によって、岡崎隼也が振付けたソロ作品。オリヴァー・デイヴィスによる楽曲も井福からの希望で、岡崎はその音楽および井福自身と対話するように、また身体に訴えかけるように作り上げたという。瞬発力の必要な動きが多いが、井福は時に力を抜きながら、キレ味鋭く踊る。呼吸、身体、音楽が溶け合い、身体から音が鳴っているかのよう。井福の新たな一面に出会える作品となった。

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『Waltz』より


今回は新たに振付にチャレンジしたダンサーが4名と、年を追うごとにプロジェクトに参加するメンバーが増えていき、ダンサーたちの可能性が引き出されている。また来年(2026年)も上演を予定しているそうなので、これからも新しい才能との出会いに期待したい。



取材・文=富永明子(編集者・ライター)
photos: Koujiro Yoshikawa


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