2025/06/04
ダンサーの素顔をもっと知る! Q&A【『ザ・カブキ』公演プログラム番外編】
東京バレエ団の代名詞でもあるモーリス・ベジャールの傑作『ザ・カブキ』。昨年10月に6年ぶりとなる日本公演で成功を収めた本作が、6月27日(金)から29日(日)、わずか8カ月で再演を迎えます。
舞台は、日本屈指の舞台機構を誇る新国立劇場オペラパレス。東京バレエ団にとっては初登場となるこの劇場で、どのような『ザ・カブキ』を魅せるのか。
その中核を担うダンサーたちの素顔が垣間見えるインタビューを、本公演の公演プログラムにQ&A形式で掲載。ここでは、本誌に書ききれなかった貴重なこぼれ話をQ&A形式で一部ご紹介します。
■上野水香......顔世御前役
Q. 初演時に印象に残っていることはありますか。
A. 初めて『ザ・カブキ』に出演させていただいたのが、入団4年目の2008年のときでした。デビューは日本ではなく、海外ツアー(第23次海外公演)で、イタリアのフィレンツェ歌劇場。そこから、スペイン・パンプローナ、スイス・ローザンヌとまわりました。ベジャールさんはヨーロッパでもとても有名ですし、和を題材とした日本的なバレエ作品でしたので、各会場のお客さまがすごく喜んでくださったことを今でも鮮明に覚えています。

2008年第23次海外公演スイス・ローザンヌ公演より。 @ボーリュー劇場
photo: Philippe Pache
Q. 海外公演でほかに思い出深いことがあれば教えてください。
A. 2012年にパリ・オペラ座で上演したときのことです。フランス人の方々が書き込んでいる掲示板をたまたま見たのですが、公演に対する讃辞のほかに、私の顔世御前が良かったと多くコメントをいただいてびっくりしました。誰でも自由に書き込めるので、辛辣なコメントを書かれてもおかしくないはずなのに。目の肥えたフランスのバレエファンの方々に満足いただけたようで嬉しかったですね。それ以降、つらいことがあっても、このパリ・オペラ座公演のお客さまたちの反応や言葉を思い出し、励みにしています。
2012年第25次海外公演パリ公演より。 @パリ・オペラ座ガルニエ宮
photo: Sébastien Mathé
Q.友だちになれそうな役は?
A.イノシシ。とにかく可愛いので。一緒にいると癒されそうですし、打算なく付き合える気がします(笑)。
Q.最近のハマりもの
A.鳩サブレ。地元・鎌倉の銘品で、長年食べ続けていますが、まったく飽きることなく、いついただいても本当に美味しいです。
■沖香菜子......おかる役
Q. 友だちになれそうな役は?
A. おかるです。2013年に初めておかるを踊らせていただいてから、約12年間、向き合ってきた役なので。ずっとおかるという女性について考えてきましたが、「いい人」であることは間違いないと思っています。悪い人の要素がひとつも見当たらないんですよね。純粋に勘平のことが好きで、彼のために何かできることはないかを考えて、常に一生懸命。彼が亡くなってもなお一途に思い続けて......すごい女性だと思います。
Q.最近のハマりもの
A. 最近ではありませんが、両親の影響で子どもの頃からずっと横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)の大ファンで、ファン歴20年です! 両親がファンクラブに入っていたので、幼いときはよく球場に試合を観に行っていました。今は時間がなくてテレビ観戦にとどまっていますが、時間ができたら観に行きたいですね。
■柄本 弾......由良之助役
2024年公演より。
photo: Shoko Matsuhashi
Q. 初めて由良之助を踊られたときのエピソードをお聞かせください。
A. 高岸直樹さんと数か月スタジオにこもり、マンツーマンで指導いただいたことが印象に強く残っています。他のダンサーたちと合わせたのは、本番直前のリハーサル数回で、ほぼ直樹さんと一緒でした。由良之助という役は、それぐらいみっちり稽古をして向き合わないと踊れないのだと知り、責任の重さを実感。「46人を背中で引っ張っていくように」と言われ、今も自分が引っ張っていけているかどうかはわかりませんが、強い気持ちを持って、毎回舞台に臨みます。
2010年初役時の公演より。
photo: Kiyonori Hasegawa
Q. 初演されてから15年、気持ちや踊りに変化はありましたか。
A. そうですね。この15年の間に世代交代があり、気がつけば自分が年長者になったこと、また一昨年前からバレエ・スタッフとして指導に携わらせていただいているので、立場が変わりました。当時は自分のことで精一杯でしたが、回を重ねるごとに少しずつ解釈が変わってきましたし、昨年10月の公演では宮川新大が八代目由良之助を務めることになり、バレエ・スタッフとしてかかわりながら新大の踊りを通して「こういう表現もあるんだ」と新しい気づきもありました。これからも変化していく可能性はあると思います。
photo: Shoko Matsuhashi
Q. 最近のハマりもの
A. ゴルフ。もともとスポーツをすることが好きで、バスケットボールをはじめ、いろいろなスポーツをしてきたのですが、その中でも海や山など自然の中で行なう競技が好きだったんです。ゴルフは競技自体も面白いですけど、やっぱりなんといっても魅力は自然の中で行うところ。ハードな動きがあるわけではないので、リフレッシュできますしね。最近は時間がなくて行けていないので、休みがあったら行きたいです。
■宮川新大......由良之助役
2024年公演より。
photo: Shoko Matsuhashi
Q. どんな由良之助を演じたいですか。
A. これまで、東京バレエ団の素晴らしい先輩たちがこの由良之助を踊ってこられました。歴代の先輩方をみていると、僕は由良之助が持つ強靭なリーダーシップがあるほうではないタイプだと思っています。現代から急にタイムスリップしてしまい、戸惑っているうちにいろいろな出来事に遭遇し、運命に翻弄されて気がついたらリーダーになっていた、という感じでしょうか。塩冶判官の自死を目の当たりにして、ようやく覚悟を決め、まわりを引っ張っていきます。
何が正解なのか、そもそも正解があるのかすらわかりませんが、ベジャールさんの振付は、それを忠実に踊るだけで役ができあがるようになっていますので、まずは前回の踊りをブラッシュアップし、いい舞台になるよう精一杯頑張りたいと思います。
■池本祥真......勘平/伴内/ヴァリエーション2
2024年公演より。
photo: Shoko Matsuhashi
Q.『ザ・カブキ』のもっとも好きなシーン
A. 好きというより、毎回印象に残るシーンなのですが、討ち入りに行く直前の場面。「これから行くぞ」という覚悟をして、四十七士の気持ちが徐々に高ぶるとともに、音楽もどんどん盛り上がっていきます。死を覚悟して挑むわけですが、四十七士それぞれに人生があり、その命がもうすぐ尽きようとしていることを考えるだけでぐっと込み上げてくるものがあります。
Q. 最近のハマりものは?
A.ドライブ。車とバイク、両方乗ります。海も山も行きますし、首都高をはじめ都内もよく走っています。最近は静岡に行ったのですが、晴れた日の海沿いを走ってとても気分がよかったです。いい気分転換になるのでオススメです。
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公演プログラムでは、プリンシパル、ファーストソリスト、ソリスト30名のコメントをたっぷり収録しています。ぜひ劇場でお求めください。
取材・文=鈴木啓子(編集者・ライター)