キリアンの初期の作品『シンフォニー・イン・D』は、見るたびに新しい発見がある不思議な魅力をもったバレエである。この作品はバレエにおける風刺であり、ダンスの世界に衝撃ならぬ"笑撃"を与えた。次から次へとくり出される奇妙な動き、滑稽な踊りは、客席を爆笑の渦に巻き込んでしまう。
東京バレエ団は本品をヨーロッパでも上演して好評を博しているが、公演のたびに客席から笑いが起こるところが違って、興味深い。すなわち、どこで、誰が、どういうふうに見てもおかしいのである。
このバレエのタイトルは第1、第2楽章に振り付けられた当初の「時計」と呼ばれる交響曲ニ長調(シンフォニー・イン・D)から、そのままとられている。あとから追加振付された第3楽章はハイドンの交響曲のうち「狩」と呼ばれるものであり、舞台の上で楽しい狩猟の場面が展開される。さらに最後に付け加えられた最終楽章でもう一度「時計」が現れる。
舞台でくり広げられている、いたずらっぽい動きにばかり目をうばわれていると、ついついこのバレエがあらゆる意味で傑作なのだということを忘れてしまう。しかし、これこそ踊り手が最高の技術を要求される場面なのである。
なお、振付家の希望により、1997年に衣裳を現行のものに一新した。