今世紀初頭、ディアギレフのロシア・バレエ団がフォーキン振付によって初演した『火の鳥』は、ロシア民話をもとにしたものであった。ストラヴィンスキーの色彩豊かな音楽によって、豪華な絵本をめくるような幻想的な舞台が創られた。内容は王子が火の鳥の助けを得て魔王を滅ぼし、美しい王女と結ばれるというものである。
以来、バランシン版、ノイマイヤー版も誕生。ベジャールは1970年に独自の発想による『火の鳥』を発表した。
――ストラヴィンスキーが、ロシア人作曲家であるということ。
――ストラヴィンスキーが、革命的な作曲家であるということ。
ベジャールは、音楽の中に存在するこの二つの要素に注目し、これをバレエによって抽象的に表現することを試みた。まずは、ロシアの深遠な感情を、そして伝統的な音楽との訣別を......。
設定はパルチザンの闘争。曲はバレエ用全曲でなく、組曲(1945年版)を用いている。青い作業服に身をかためた革命軍のグループの踊り。その中のひとりが作業服を脱いで赤いタイツ姿になってリーダー、火の鳥になる。闘いの果てにリーダーは倒れるが、不死鳥が現れて彼を蘇らせる。