レパートリー

「中国の不思議な役人」

振付:モーリス・ベジャール 音楽:ベラ・バルトーク
衣裳:アンナ・デ・ジョルジ(フリッツ・ラングの映画による)
装置:クリスティアン・フラバン
照明:クレマン・ケロル

 バルトーク作曲のパントマイム劇を、敬愛するフリッツ・ラングの映画のイメージを借りてバレエ化した、ベジャールの1992年作品。無頼漢の首領と"娘"、仲間たちが次々と人を襲い、身ぐるみ剥がしていく。だが、3番目に現れた"中国の役人"だけは、何をしても息の根を止めることができず、無頼漢たちに恐怖が走る。ついに娘がとったある行動によって、役人は自らの熱い思いを遂げることができ、ようやく瞑目する。

 ベジャールは"娘"役を男性舞踊手に、娘が襲う"若い男"役を女性舞踊手に演じさせることで、作品に倒錯感を加え、濃厚な世界を創り出すことに成功した。

 「『中国の不思議な役人』を振付けながら、ベラ・バルトークの作品の譜面、歴史、そしてドラマティックな断面といったものを厳密に辿ってみた。1933年以前、"中欧"の奥底に埋もれた世界が、密かに師の一人と仰いでいるフリッツ・ラング監督の映画のおかげで明らかになっていった。とりわけ役立ったのは、時代的背景がバルトークのバレエ作品と同じ映画(あの忌まわしい"M")である。(略)悪党たちが利用する(偽りの)娘の魅力にひれ伏す三人の犠牲者の中にあって、フリッツ・ラングのもうひとりの登場人物は、私には"ジークフリート"――英雄であると同時に犠牲者であり、また象徴であるとともに理想の破綻でもある――そのもののように思われた。人工的な娘は、あたかも『メトロポリス』のロボットのごとく、性的な曖昧さを増幅してゆく。この性的曖昧さこそが、二つの世界大戦の間に挟まれた魅惑的な時期を貫くものといってもいいだろう。"M", le Mandarin.」 

(モーリス・ベジャール)