歌舞伎の最もポピュラーな演目「仮名手本忠臣蔵」を題材に、モーリス・ベジャールがバレエ化した東京バレエ団オリジナル作品。とはいっても、西洋人にありがちな日本に対する誤った認識や、日本の伝統的な所作事に彩られた作品ではない。あくまでも、世界共通言語であるバレエの手法によって、すでに現代の人間が見失っているかもしれない、しかし全世界に普遍的な"忠誠心"を描いた、不朽の大作である。
魂を震撼させるような"討ち入り"から"涅槃"にいたるまでの劇的な展開は、息つく暇も与えない。また、西欧風に昇華された日本情緒漂う演劇的場面は、現代の日本人にとって新鮮な驚きの連続である。 すでに衝撃的な初演以来、日本全国はもとより、冷戦時代の東西ヨーロッパや激動時期のロシアでも上演。各地で絶大な支持を獲得している。
幕が開くと現代の東京。ひとりの青年が古いひと振りの刀を手にすると、「忠臣蔵」の世界にタイムスリップする。鶴ケ岡八幡宮での〈兜改め〉、お軽と勘平のつかの間の逢瀬、〈殿中松の間〉での刃傷事件ヘと進むうち、青年は自分がタイムスリップしたことに気づき始める。そして、〈判官切腹〉の瞬間、タイムスリップした青年の人格は「忠臣蔵」の主人公"由良之助"、すなわち四十七士のリーダーへと重なり合う。そして男性群舞の見せ場、仇討ちを誓う〈血の連判状〉の場面や、〈山崎街道〉でのお軽と勘平の悲劇、歌舞伎でお馴染みの〈祇園一力茶屋〉の華やかな場面、劇的緊張をはらんだ顔世御前と由良之助の〈雪の別れ〉を経て、一気に仇討本懐を遂げる壮大な終幕へとドラマティックに高揚していく。