日本の生んだ特異な作家、三島由紀夫の作品、精神、生涯に想を得て創作された、モーリス・ベジャールによる東京バレエ団オリジナル作品。
1993年7月に初演され、舞踊・演劇界のみならず、美術界、文芸界、思想界など、さまざまなジャンルの人々からセンセーショナルな反響を呼ぶ。同年秋のヨーロッパ公演でも、西欧諸国を代表するオペラハウスでメイン・プログラムとして上演され、各地で絶大な興奮を呼び、称賛を浴びた。
幕開きは波の音、潮騒で始まる。ベジャールはギリシャの海で3週間、たったひとりの時間をもったが、それがこの「M」の構想の核になったという。
Mとは生の象徴である la Mer(海)、さらに la Mythologie(神話)、la Metamorphose(変容)、la Mort(死)をも意味する。そしてこの生から死への間に横たわっているのが、三島由紀夫の人生である。海への憧れは、三島の終生を貫く志向であり、主題であった。
ベジャールの『M』は、古典と現代、東洋と西洋を結ぶ架け橋として希有な才能を発揮した三島由紀夫の魂をいきいきと蘇らせたとともに、ベジャールの宇宙観をも鮮烈に語っているのである。