ロシアの縁日や見世物小屋へのノスタルジーをかき立てる人形の恋物語『ペトルーシュカ』は、1911年、パリのシャトレ座でバレエ・リュスにより初演され、『火の鳥』に優るとも劣らない成功を収めた。
ベジャールは1977年にこの『ペトルーシュカ』を取り上げ、この作品から、心の迷路の中に入り込んだ現代人の、心理分析的あるいは神話的真理を引き出して表現した。
「ペトルーシュカ、バレリーナ、ムーア人、あらゆる国のコメディの永遠のトリオ。彼らはコメディア・デラルテでいえば、ピエロ、コロンビーヌ、アルルカンである。ブルジョア的ドラマで夫、妻、愛人である。
ストラヴィンスキーの音楽はあまりにもペトルーシュカの物語に密着しているので、魔法にかけられた人形でもあり、同時に人間でもあるが、常に不幸な愛の結末で終始する繰り人形の神話から切り離すことは出来ない。しかしながら、この作品から心の迷路の中へもっと深く入り込み、心理分析的あるいは神話的真理を引き出し、その真理をわれわれの日常に入り込ませ(踊っているわれわれはツァーリの時代に生きているのではない。われわれは生活しているのだから)、その真理をわれわれの夢の秘密の奥深くに取り混ぜることが必要なのである」
(モーリス・ベジャール)