レパートリー

「春の祭典」

振付:モーリス・ベジャール
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

 ストラヴィンスキーの最高傑作であり、現代音楽史上もっとも重要な作品のひとつである『春の祭典』は、太陽神への礼賛と生贄として選ばれる乙女を描いたもので、1913年ニジンスキーの振付によりバレエ・リュスによってシャンゼリゼ劇場で初演され、劇場中が騒然とするほどの賛否両論の激しい反響を呼び起こした。

 ベジャールの『春の祭典』は、1959年にブリュッセルで初演されている。彼はストラヴィンスキーの台本を離れ、野性的で官能的な若者たちの肉体と躍動美の"祭典"を創り上げた。この創作にあたっては、発情期の鹿、交尾する鹿を描いた映画からインスピレーションを得たという。その鹿の動きがストラヴィンスキーのリズムにピッタリだったのだ。

 ベジャールは人間の欲望、獣性、生きるための闘いを描くことによって、ストラヴィンスキーの音楽を鮮烈に視覚化することに成功した。この作品は年配の観客の眉をひそめさせ、人々はスキャンダルを話題にしようとしたが、男性舞踊手の活躍、シンプルこのうえないボディタイツのみの衣裳、ホリゾントだけの舞台等、さまざまな革新的な試みは、若い観客を中心に圧倒的な支持を得た。これを契機に20世紀バレエ団が生まれ、バレエは古い殻を破って新しい時代へと突入したのだ。

 「春とは一体何であろうか? それは冬のマントの下で長い間眠っていた巨大で原始的な力にほかならないそう春は突如として湧き起こり、植物、動物、人間それぞれの世界を、燃え立たせるのである。

 人間の愛というものは、その肉体面において、宇宙を創造した神の愛の行為、そして神がそこから得る悦びを象徴している。人間の精神に関する逸話の国境が少しずつ消えてゆき、世界の分化について語り始めることができるときには、普遍性のない民族的情趣はことごとく捨て去り、人間の本質的な力を取り戻すことにしよう。いかなる大陸にあっても、どんな風土であろうと、あらゆる時代に共通の力を。

 どうかこのバレエが、あらゆる絵画的な技巧から解き放たれ、肉体の深淵における男と女の結合、天と地の融合、春のように永遠に続く生と死の讃歌とならんことを!」

(モーリス・ベジャール)