バレエ『ドン・キホーテ』は、スペインの港町で繰り広げられる恋と冒険譚に多彩なダンスが散りばめられた人気作。19世紀にマリウス・プティパ振付で初演されたこの作品は、1900年にボリショイ・バレエ団の振付家アレクサンドル・ゴールスキーによって大幅に改訂され、現在は世界中のバレエ団がこの版を基本にしている。
東京バレエ団では初演にあたって、ボリショイ・バレエ団が生んだ20世紀最高の男性ダンサー、ウラジーミル・ワシーリエフの全面的な協力を取りつけることに成功。ワシーリエフの演出・振付は、この正統なプティパ/ゴールスキー版を、さらに現代的な感覚で見直している。音楽的・舞踊的に冗長な部分や不必要な部分を容赦なく切り捨て、全体を2幕構成に変更。街の群衆たちは一丸となってパワフルな群舞を披露するいっぽうで、一人一人が個性的な存在感をもって、表情豊かな演技をこなし、その結果、めくるめくスピードにのった祝祭的なエネルギーが舞台に充溢することになった。舞台装置と衣裳は、ボリショイ劇場のオペラやバレエのほか、世界中のオペラハウスの舞台を手がけるロシア人デザイナーのヴォリスキー兄弟によってデザインされ、どちらもモスクワの舞台芸術専門の工房で製作。スペインの鮮やかな光や爽やかな風を感じさせる町並みや自然、柔らかな光に包まれた幻想の場が舞台にたち現れ、作品の奥行きを感じさせる。