レパートリー

「ラ・シルフィード」

演出・振付:ピエール・ラコット(フィリッポ・タリオーニの版による/第1幕のパ・ド・トロワはモーレの「オンブル」より抜粋)
音楽:ジャン=マドレーヌ・シュナイツホーファー
装置:マリ=クレール・ミュッソン
衣裳:ミッシェル・フレスネ

 『ラ・シルフィード』は19世紀ロマンティック・バレエの幕開けを飾る傑作。その詩情あふれる舞台はほかの古典バレエの名作に勝るとも劣らないバレエの醍醐味にあふれている。19世紀の伝説的なバレリーナ、マリー・タリオーニのためにその父フィリッポ・タリオーニが振付けたこの作品は、1832年に初演されるとたちまちのうちに大評判をとった。その頃はまだ珍しかったトウで立つ技法を駆使し、妖精の軽やかさを表現することに成功。これ以後のバレリーナたちは競ってトウで踊るようになった。いわば現在のバレエのありようを決めた。バレエ史上重大な転機を作った作品である。 やがて時の流れとともに、タリオーニ版の『ラ・シルフィード』は失われてしまったが、フランスの振付家ピエール・ラコットが古い資料を掘り起こし、それをもとに1971年に蘇演、ふたたび大成功をおさめた。いまではパリ・オペラ座をはじめ、いくつかのバレエ団がレパートリーに加えている。

 舞台はスコットランドのある農村。シルフィードとは空気の精のことで、このバレエはシルフィードとそれに恋した青年の物語である。第1幕は農家の広間。いたずらな妖精シルフィードは、椅子でまどろむ青年ジェイムズにキスする。シルフィードはジェイムズに恋してしまったのだ。驚いて後を追おうとするジェイムズを残して、シルフィードは暖炉から飛び去ってしまう。今日はジェイムズとエフィーの結婚式。祝宴がはじまり、格子柄のキルト姿の青年たちが、素朴で魅力的な踊りをみせる。ジェイムズがエフィーに渡す婚約指輪をシルフィードがかすめ取って姿を消すと、ジェイムズは悲嘆にくれる婚約者たちを尻目に、シルフィードの後を追って森の中に入っていく。

 第2幕は深い森の中。のどかさを感じさせる詩情豊かな音楽にのせて、戯れ踊るシルフィードたちが幽玄の世界へやさしくいざなう。シルフィードは自由自在に姿を現したり消えたり宙を飛んだり......。そのため、宙吊りをはじめとして舞台に仕掛けがふんだんにあり、観る者を飽きさせない工夫がいたるところにほどこされている。

 東京バレエ団は1989年にベルリン・ドイツ・オペラ、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座などで上演。また1992年のロシア公演ではモスクワのボリショイ劇場、ペテルプルグのマリインスキー劇場、キエフのシェフチェンコ劇場で上演し、各地で最大級の称賛を受けている。