バレエの代名詞ともいうべき『白鳥の湖』はその初演以来、世界中で様々な演出で上演されている。なかでも東京バレエ団の演出は旧ボリショイ劇場版である定評あるゴールスキー版に基づいている。その演出はすっきりしていて、息もつかせないほどスピーディに展開する。詩情豊かなチャイコフスキーの音楽がメルヘンの国の扉を開けると、踊りに次ぐ踊りの連続。誰もが時のたつのを忘れて夢と詩の世界に身をまかせてしまうことだろう。
装置は、ミラノ・スカラ座の美術監督を長年つとめた故ニコラ・ベノワが担当。氏は伝説的な舞踊手ニジンスキーによって有名な、ディアギレフの主宰したロシア・バレエ団において、舞台装置を数多く手掛けて歴史的に有名な装置家、アレクサンドル・ベノワの子息である。ニコラ・ベノワはこの有名なバレエ作品をすみずみまで熟知しており、その豊かな見識から生まれた装置は、舞台の大きな見どころになっている。詩情豊かな第1幕、幻想的な第2幕と第4幕、そして、色彩あふれる第3幕。いずれも夢幻の世界にいざなうものだ。舞台装置はミラノ・スカラ座の製作工場に特注したもので、そのスケールの大きさ、イタリアならではの鮮やかな配色の魔術は、まさに夢のような美しさである。