ロングインタビュー2023/08/23
子どものためのバレエ「ドン・キホーテの夢」3年目を迎えて -涌田美紀×池本祥真
見どころが凝縮され、子どもたちが楽しめるバレエ作品として人気を博している「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」。2021年、2022年、そして今年と、3年連続で本作の主演を務めるソリストの涌田美紀とファースト・ソリストの池本祥真が、公演への意気込みや作品の見どころを語ります。
――「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」でペアを組まれて3年目になります。
涌田 毎年全国ツアーがあり、公演数も多いので、3年よりも長く感じます。私は心配性なので、今でもリハーサル前から「ここ確認してもいいですか?」「この部分、一緒にお願いします」と言って付き合っていただいています。祥真さんはそこまで確認しなくても大丈夫だよ、って毎回言うんですけど(笑)。
池本 涌田さんは心配性なので、僕が完璧だと思っても本人は満足していないようです(笑)。その心配性で緻密なところが踊りの安定感につながっていると思うので、実はすごく尊敬しているんですよ。僕は自分の感覚に頼っているところがあるので、見習いたいなと。とはいえ、涌田さんはもうベテランですし(笑)、そこまでしなくても大丈夫なんじゃないかな......。
涌田 ベテランではないです(笑)。難しいテクニックが多く詰まっている作品なので、苦手なところが要所要所あります。ただ、今年は苦手な部分を克服するというよりも、いい部分をもっと増やしていこうという話をしていまして、今は一つひとつの動きをイチから見直しています。
池本 今回はトリプルキャストなのですが、中には初めて主演を踊るダンサーもいて、そちらのリハーサルがメインで行われているので、僕たちはリハーサルがほとんどないんです。ある程度自分たちに任されているぶん、責任も重大。これまで「ここは注意されていないし、特におかしくはないからこのままでもいいか」となんとなく曖昧にしてきた部分は、互いにイメージを伝え合いながら、一つひとつ丁寧に確認するようにしています。
涌田 3年目にしてようやく細部までクリアになってきた手ごたえはありますね。
―― 息がぴったり合ったお二人ですが、パートナリングは最初から上手くいっていたのでしょうか。
涌田 最初にこの「ドン・キホーテの夢」を踊ったときは、生方隆之介くんと初役同士で、お互いに手探り状態でした。その過程を経ていたことと、祥真さんはもうベテランなので(笑)、"息が合う"というよりは合わせてもらっていた感じです。今は何十回という公演を経てきて、"息が合っている"のではないかと。
池本 ちょっといいですか? 涌田さん、結構せっかちなんですよ。
涌田 それは否定しません(笑)。
池本 僕はどちらかというとのんびり屋なので、たまに僕がまだ演技をしている間に涌田さんが先に行ってしまったり、お辞儀をするときも、涌田さんのほうを見たら、僕がまだ手を差し出す前にすでにお辞儀をし始めていて......。
涌田 確かに、私が先に動き始めていることがある(笑)。
池本 もうお辞儀し出していない⁉ ちょっと待って! っていうことが今でもたまにあるので、合っていると言いきれませんが(笑)、踊りにおいてはよく合っていると思います。
涌田 これでも直せるように努力しているのですが、根本はなかなか変えられないんです。祥真さんが優しいので、合わせてくれて助かります。
池本 いえ、合わせているのではなく、最近はむしろ僕が美紀さんについていきます! と思いながら踊っています(笑)。
――「ドン・キホーテの夢」の見どころは?
涌田 まず、踊りの見せ場が縮小されていて、スピード感があるところでしょうか。幕間に20分間の休憩はありますが、それ以外はほとんど休む間もなく、踊っていきますから。
池本 体力的にはしんどいよね(笑)。
涌田 しんどい! しかも、バジルはヴァリエーションが2つですが、キトリは3つもあるので(笑)。
池本 しんどいなんて言ってすみません......。
涌田 あとは、サンチョ・パンサの語りも見どころのひとつですね。物語を知らない人でもストーリーを理解しやすい。
池本 子どもたちはもちろん、バレエを観たことがない人も楽しめるのがいいですよね。演技中は声を出してはいけないとか、知識がないと内容がわからないということはなく、気を張らないで観られますし。僕も何度か客席で観たことがあるのですが、思わず「おもろ!」と言いたくなったぐらい面白かったです。また、子ども向けではあるけれど、踊りの見せ場がたくさんあり、グラン・パ・ド・ドゥは全幕同様しっかりやるので、バレエをよく観られる方にも楽しんでいただけると思います。
「ドン・キホーテの夢」より photo: Hidemi Seto
――最後に、お互いにリクエストしたいことがあれば教えてください。
涌田 私は何回も確認をお願いしますって言っても、これからも嫌がらないで稽古に付き合ってください(笑)。
池本 わかりました。僕からは全然ないですよ。お辞儀はゆっくり、とか?(笑) 基本的に、もう美紀さんにはついてきます。
取材・文/鈴木啓子(ライター)
東京バレエ団子どものためのバレエ
「ドン・キホーテの夢」
8月26日(土) 11:30開演
めぐろパーシモンホール・大ホール
キトリ:涌田美紀
バジル:池本祥真