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レポート2023/10/27

クラブ・アッサンブレ会員限定イベント 「かぐや姫」スペシャル・ダンサーズトーク


2023年10月20日(金)〜22日(日)、ついに世界初演を果たした東京バレエ団×演出振付家・金森穣によるグランド・バレエ『かぐや姫』全3幕。東京公演最終日(22日)の終演後、かぐや姫が月に帰るのを見送った余韻も未だしみじみ残るなか、東京バレエ団友の会クラブ・アッサンブレ会員様限定のダンサーズトークが催されました。

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登場したのは初日と最終日にかぐや姫役を演じた秋山瑛と帝役の大塚卓、司会は中日に影姫を踊った金子仁美。まずは「とくに思い入れのある場面や最も考えて演じたポイントは?」の質問でトークがスタートしました。
「僕はやはり第2幕、帝が初めて舞台に現れ階段から降りてくる登場シーン。帝は幼くして即位したから、きっと大臣や従者たちのほうがずっと年上で実権もある。弱い自分を隠して威厳を保とうとする帝像をどう演じるべきか、ずいぶん悩みました。もうひとつは第3幕、かぐや姫とのパ・ド・ドゥです。あそこで彼は、自分の立場や権力を利用し始める。帝としての風格が少しずつ出てくるさまを表現したかった」(大塚)

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大塚 卓(10/20、10/22 帝)

「すべての場面が大切ですけれど、まずは第1幕、初めて私が舞台の上で、かぐや姫として月を見るシーン。『月の光』のパ・ド・ドゥは、かぐやが道児に『月を見てるとなぜだか涙が出てくるの』と問いかけるような踊りです。道児は『それなら僕が月に近づけてあげる』と、大きなリフトに入っていく。かぐやはその気持ちが嬉しくて、道児に対して特別な気持ちを持ち始めるのだと私は解釈しています。
もうひとつは第3幕最後の悲しみのソロ。周りにはもう誰もいなくて、お客様の視線と照明と音楽、そして自分の心だけがそこにある。ついエモーショナルになる私に、穣さんは『感情をそのまま出してしまうと、観客は逆に感じにくくなる』と。難しかったけれど感じることの多い場面でした」(秋山)

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秋山 瑛(10/20、10/22 かぐや姫)

いっぽう「リハーサルで苦労したところ」については、「当初、金森さんならではの身体の使い方に馴染めなかった」と大塚。「でも2幕の振付が始まってみると、どこかベジャール作品と通じるものを感じて、すんなり身体に入るように。帝のオリジナルキャストを任せてもらえたのだから、僕にしかできない帝を目指そうという気持ちでやりました」。
秋山も「世界初演のファーストキャスト」という初の経験に触れ、「これまでの全幕主演と違ったのは、役作りの助けになるロールモデルがいなかったこと。かぐや姫は私にとっては難しい役で、苦しみました」と明かしました。「でもダブルキャストの足立真里亜ちゃんという素晴らしいダンサーがいてくれた。そしてバレエ団のみんながたくさん相談にのってくれた。それがなかったら、私にこの役はできなかった」。

秋山の言葉を聞き、「自分のかぐや姫を模索し続けて役と向き合っていた瑛は本当にかっこよかった」と声を詰まらせた金子。「私は今回1日しか影姫を踊れなくて、すごく悔しかった。影姫は第2幕の幕開きに、もみじ降るなか独りで歩いて出てきます。彼女もまた孤独な存在で、やはり何かを背負っている。出番を前にひどく緊張していた私に、瑛が『仁美さんらしく踊ってください』って声をかけてくれて。みんなで助け合ってひとつの舞台を作り上げられることが本当に幸せです」。

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金子仁美(10/21 影姫)

秋山と金子のやりとりに客席も思わずもらい泣き......しそうになったその瞬間、「達成感でいっぱいですね、僕は」と元気に語って涙を吹き飛ばしてくれた大塚。「約3年間、常に他の作品のリハーサルと並行しながらのクリエイションで、僕らが『かぐや姫』だけに全力集中できたのはこの2週間だけ。みんなで『やるぞ!』とスイッチを入れて、ここまで走ってきたんだから、僕らは自分たちを褒めなきゃダメですよ!」。帝の他に四大臣役も踊った大塚の言葉に、会場は大きな笑顔と拍手に包まれました。

秋山からは、ラストシーンについて興味深いエピソードが。「かぐや姫は自分で月に帰るのか、それともお迎えが来て連れていかれるのか。それは観る人に委ねられています。でも初日の終演後、穣さんたちからひとつアドバイスをいただいて。それは『かぐやが道児や帝に裏切られたから帰る、という印象にはならないように気をつけてほしい』ということ。そのためには1幕、2幕、そして3幕と、どういうあり方で演じるかをもう一度考えてほしいと。2回演じられたからこそ試せたことがたくさんありました」。

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金子仁美(左)、秋山 瑛(中央)、大塚 卓(右)

かぐや姫が月へと昇っていく、あの美しい階段がじつは「下が透けて見えるし、けっこう揺れる」(秋山・金子)という秘話なども披露されたところで、楽しいトークはそろそろ終わりの時間に。最後は11月11日(土)に開幕が迫る新制作『眠れる森の美女』について、3人それぞれが意気込みを語ってお開きとなりました。

「斎藤友佳理監督のこだわりが細部まで詰まっていて、さりげなく見える踊りにも難しいテクニックがたくさん入っている。しっかり準備しますので、ぜひ観にいらしてください!」(大塚)
「先日バレエ団に衣裳が到着して、『わあ、こんな衣裳なんだ!』『可愛い!』『なんだろうこれは?』って(笑)、私たちもわくわくしたところです。オーロラ姫は純度の高いクラシック。かぐや姫で培ったものも生かしつつ、クラシックにきちんと戻れるようにがんばります」(秋山)
「『眠れる森の美女』は王道のクラシックでごまかしのきかない踊りばかり。日常のレッスンから気をつけて整えていく必要があるなと思っています。新しい舞台装置と衣裳で、早く舞台に立ちたい。みなさん、応援をよろしくお願いします!」(金子)

取材・文/阿部さや子

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