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レポート2022/04/05

〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉公演レポート

去る3月13日に東京文化会館で開催したTHE TOKYO BALLET Choreographic Project〉。このたび、本プロジェクトを初回から取材していただいている加藤智子さん(フリーライター)に本番の様子をレポートしていただきました。ぜひご一読ください!

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カーテンコールより


313日、東京文化会館にて〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉公演が開催された。ダンサーたちが仲間とともに作品を創り、発表する機会を設けるべく、2017年にスタートした本プロジェクト。今年もそのハイライトともいえる作品上演の場で、6人の振付者が作品を発表した。

冒頭、ステージで挨拶した斎藤友佳理芸術監督は、本プロジェクトの趣旨についてあらためて説明、「常に受け身の存在であるダンサーたちが自ら作品を創ることによって、振付者、ダンサー双方の感性、想像力、表現力を刺激し合い、成長していってほしい」と思いを明かした。当初は東京バレエ団の稽古場で〈スタジオ・パフォーマンス〉として開催する計画だったが、今年に入って日時を変更、シュツットガルト・バレエ団日本公演(昨年末に中止が発表された)のために確保していた東京文化会館大ホールで、密を避けて開催することに。このステージでの上演については、「戸惑いもあったけれど、これはまたとないチャンス。いまダンサーたちは、この舞台で踊れることに胸を弾ませている」と斎藤。スタジオに観客を迎え入れての上演と、東京文化会館、それも大ホールでの上演では、スケール感も雰囲気も全く異なる。振付プランを変更した振付者もいた。それぞれに期待や不安を抱えながらのクリエーションとなっただろう。

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ゲネプロ中のブラウリオ・アルバレス photo JPD 

全7作品による本公演。その幕を切ったのは、プロジェクトのスタート時から多くのダンサーたちを巻き込み、数々の作品を発表してきた岡崎隼也の『somewhere but not here.』だ。レディオヘッドが2000年にリリースした楽曲、「キッドA」に想を得て振付けた2組の男女(工桃子、富田翔子、鳥海創、昂師吏功)のための小品は、当初、スタジオでの上演のためのパ・ド・ドゥとして構想を練っていた。終演後のトークで明かしたのは、「小さなスペースに集中してもらえるよう、テレビの中で起こっていることを観るような作品に」という見せ方のアイデア。舞台スタッフの力を借りながら、楽曲のメッセージに寄り添ったユニークな世界を打ち出した。

続く井福俊太郎の『After Show』は、舞台の本番を終えたダンサーの、日常の思い、葛藤を作品に。井福自身と玉川貴博、中沢恵理子のダンスに加え、蝶ネクタイ着用で登場の中嶋智哉が、ピアノの鍵盤を叩き、高笑い。不安や焦りの入り混じった、表現者の複雑な胸の内を形にしたような作品だが、井福は「ダンサーにとって、一つの舞台が終わり、次にまた始まるまでの時間というものが、とても貴重で大切だということを再認識しながら創りました」と創作時を振り返った。

バレエ・スタッフの木村和夫は、バレエ・リュスの名作をもとに創作した『バラの精』を上演。バラの香に導かれて夢に落ちる男性(池本祥真)が、女性たち(加藤くるみ、足立真里亜、平木菜子、中島映理子)に囲まれて楽しく過ごすひとときを描く。ステージで上演するのはこれが3作目という木村。アフタートークでは、「音楽と踊りで見せる純粋に楽しんでいただきたいという思いで創った。もう10歳若ければ僕自身が踊りたいくらい」と笑顔を見せた。

二度目の参加となる安井悠馬の作品は、15人の男性ダンサーによる独特の群舞が目を引く『嚇灼』。パワフルな男性の群舞の中で、妖精を思わせる丈の長いチュチュをまとった秋山瑛のいたいけな姿が際立つ。終演後、安井は「例年のこのプロジェクトでもあまり活躍の場がなかったコール・ド男子たちの魅力を引き出し、まとめ上げたいと思った。当初は"怒り"をテーマにしていたけれど、次第に

"怒り"の感情は消えて、男性ダンサーたちの迫力そのものを打ち出せた」と語った。

休憩を挟んでのプログラム後半のスタートは、岡崎隼也の2作目。どう読ませるのかと不思議に思われた『【   】』はつまり、「タイトル未定」という意味合いを含む。音楽はラヴェルの『ボレロ』に、新たに音を重ねてアレンジした独特のサウンド。吊り下げられた5つのランタンの灯りのもとで、柄本弾、伝田陽美、秋山瑛、池本祥真と岡崎の5人によるダンスが、ソロ、デュエットと形を変えながらクライマックスへと突き進む。「光のエネルギー、自分の身体の力を前面に出せる作品を創れたらと取り組んだ」という岡崎だが、これまで彼が創作を重ねて培ってきた多彩な動きが詰まった力作に。カーテンコールでは、岡崎がおどけた雰囲気で深く、深く頭を下げ、ダンサーたちに感謝の意を伝える様子が微笑ましかった。

続く金子仁美は一昨年に続いて2回目の参加、作曲家・清塚信也がTVドラマのために書いた楽曲に振付けた男女のパ・ド・ドゥ『The sun rises』を発表。産科医療の現場を描いたこのドラマ「コウノドリ」を、登場人物と同じ苦しみを持つ身内がいたことで見るようになったという金子だが、「この音楽を毎日、毎日、繰り返し聴いて、いつの日か頭の中に男女のパ・ド・ドゥができていった」という。音楽の美しさを素直に捉えた振付が爽やか。工桃子、樋口祐輝が踊った幸せそうな若い男女が、それぞれに不安、悩みを抱えながらも、進むべき道を見つけて寄り添っていくというストーリーを、温かみあるパ・ド・ドゥに仕立てた。

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ゲネプロ中の金子仁美

最後を飾ったのは、岡崎とともに初回から作品を発表し続け、本プロジェクトの中心人物の一人となっているブラウリオ・アルバレス。マーラーの交響曲第2番「復活」第4楽章と第5楽章の前半に振付けた「Urlicht(原光)」。前半は愛し合う男女のパ・ド・ドゥ(瓜生遥花、岡﨑司)、後半は女性の死から復活へ──。光に満ちた世界と、強烈なオーラを発する未知の存在(伝田陽美)を、ダイナミックな振付で描き出す。この音楽にすっかり魅了されたアルバレス。アフタートークで「今回は『復活』を完成させることができませんでしたが、いずれは全楽章を振付けたい」と意気込むと、会場から大きな拍手が沸き起こった。

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 終演後のアフタートーク

その後のアフタートークでは、緊張気味の金子が司会を担当。その朗らかな声に促され、皆口々に作品に込めた思いや創作への情熱、今後の展望などを語り合った。今回は、創作の仕上げの時期と、金森穣氏による『かぐや姫』第2幕のクリエーションが重なり、金森氏から助言をもらったエピソードも飛び出した。「振付家の心得とか覚悟についてお話しいただいたが、僕にはそういうものが足りないようにも感じた。作品を上演できて嬉しいけれど、手放しには喜べない。もっと一本筋の通ったものを目指さなければ」と話したのは木村和夫。日本を代表する振付家の一人、金森氏からの激励はとても貴重、大きな刺激となったはず。彼らの次回作に、大いに期待したい。なお、観客の投票による「観客賞」に、岡崎隼也の『【   】』が選ばれた。

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観客賞に選ばれた岡崎隼也振付『【   】』

取材・文:加藤智子(フリーライター)


レポート2022/01/01

東京バレエ団ダンサーからの年賀状2022
新年あけましておめでとうございます。

昨年も東京バレエ団にとっては厳しい一年となりましたが、大勢のお客様に支えられ、2021年は65回もの公演を実施することができました。劇場にお越しくださり、熱い拍手を贈ってくださった全ての皆様、ご支援くださった皆様にダンサー、スタッフ一同、心より御礼申し上げます。

2022年の年明けに、ダンサーたちから新年のご挨拶を申し上げます。毎年「クラブ・アッサンブレ」の会員様には、ダンサーの直筆サイン入りの年賀状をお送りしております。下記にて今回のサインを一挙公開いたします。どのダンサーからの年賀状か、楽しみにご覧ください。

本年は4月にクランコ版「ロミオとジュリエット」、そして10月には新制作「眠れる森の美女」と、全幕
の新制作2本を含む挑戦的なラインナップを予定しております。歩みを止めず、進化を続ける東京バレエ団に引き続きあたたかいご声援賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

末筆ではございますが、皆様にとって2022年が良い年となりますよう、一同心よりお祈り申し上げます。

東京バレエ団一同

■団長、芸術監督、バレエミストレス、バレエスタッフ
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■プリンシパル
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■ファーストソリスト
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■ソリスト
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■セカンドソリスト
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ロングインタビュー2021/12/06

「くるみ割り人形」上演に寄せて(その2) ~ 加藤くるみ、故郷で「くるみ」 
本日のブログには幅広い役柄で活躍している加藤くるみ(東京バレエ団セカンドソリスト)が登場! 「縁がある」という作品への想い、そして今回の「くるみ割り人形」全国公演の劇場の中でも、特に思い入れが強いというよこすか芸術劇場について語りました。ぜひご一読ください!

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加藤くるみ(東京バレエ団セカンドソリスト)

──加藤さんは横須賀とご縁があると聞きました。

加藤くるみ 出身は横浜なんです。家の近くのスタジオでバレエを始めましたが、その後スタジオが横須賀に移転、私はその後もずっと横須賀まで通いました。当初の私は小学校低学年。夜遅いときは親に迎えに来てもらっていましたが、行きは家の近くから乗り換えずに行けるバスが出ていたので、それに乗って1時間半、姉と通っていました。1人の時はいつも運転手さんの後ろの高めの席に座りなさいと言われていて、その席で揺られているうちに寝ちゃうんです(笑)。降りる停留所に着くと運転手さんが起こしてくれて、「ハッ!」となって起きる。こんなふうにして、高校を卒業するまで10年間ほど、横須賀のスタジオに通っていました。


──よこすか芸術劇場にはどんな思い出がありますか。

加藤 たくさんあります。スタジオの先生の方針で、発表会では必ずあの大舞台で踊らせてもらっていたので。初舞台もよこすか芸術劇場。『夢見るお人形』という作品で、コッペリアに出てくる人形の一人でした。舞台に向かう時、母に手をひかれて階段を登っていったことをよく覚えています。プロになってから何度かこの劇場で踊ったことがありますが、緊張します。最寄りの汐入駅に着いた段階でもうお腹が痛くなる(笑)。たぶん、発表会での緊張が呼び覚まされるのだと思います。


──プロを目指そうと思うようになったきっかけが、よこすか芸術劇場での体験だったとか。

加藤 11歳の時だったと思いますが、『くるみ割り人形』でクララ(東京バレエ団の舞台ではマーシャ)を踊らせてもらいました。この時、当時東京バレエ団で活躍されていた小出領子さんと後藤晴雄さんが、金平糖の精と王子役で客演してくださいました。舞台での私はもう夢うつつの状態だったのですが、そこで主役二人のグラン・パ・ド・ドゥを見ている時に、「本当のお姫さまと王子さまだ......」と、すっかりクララの気持ちに。この舞台上で、「私、バレリーナになりたい」と思うようになったんです。実は、東京バレエ団に入団後、バレエスタジオの『くるみ割り人形』の公演にゲストとして呼んでもらって、金平糖の精を踊ったことも。よこすか芸術劇場のあの舞台に、憧れの金平糖の精で戻ってくることができて、とても嬉しかったですね。

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11歳のとき。クララを演じる加藤くるみ。王子役が後藤晴雄(元東京バレエ団プリンシパル)

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同じく「くるみ割り人形」の舞台より、後藤晴雄、加藤くるみ、小出領子(元東京バレエ団プリンシパル)


──今回のツアー、横須賀公演ではどんな役柄を演じる予定ですか。

加藤 第2幕のディヴェルティスマン──マーシャを歓迎する各国の踊りの中の、ロシアを踊ります。ロシア独特の大きな頭飾りにAラインの衣裳、男性二人を引き連れた勢いある踊りで、登場の場面からもう元気いっぱいです。2年前の、このヴァージョンが初演された時から踊っていますが、ジャンプの多い踊りやキャラクター的な役柄を得意とするダンサーだということを、お客さまに見ていただけた最初の役だと思います。初演の時には、友佳理さん(東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理)が振付をつくる現場にいることができたので、その分、思い入れは強くあります。第1幕の弟のフリッツを踊る日もあるのですが、この役は、姉のマーシャのダンサーの雰囲気に合わせて、可愛い弟を演じたり、もっとやんちゃに演じたりしています。ちなみに今回の公演では、マーシャ役の沖香菜子さんと「しっかり者の姉(沖)、こじらせた弟(加藤)」という姉弟設定で演技してみようと話しています(笑)。ダンサーの組み合わせによって演技が全然違うので、お客様にはその点も注目していただけたら。


──では、バレエ『くるみ割り人形』の魅力は?

加藤 いい思い出があるからなのかもしれませんが、バレエの中で一番好きな作品なんです。音楽も素晴らしい。第1幕のマーシャと王子のパ・ド・ドゥの音楽がとくに好き。クリスマスの楽しい夢の雰囲気であふれています。これに続く雪の場面も、東京バレエ団の舞台は装置が本当に素敵で、映像を見てびっくりしたほど! 第2幕の花のワルツも夢の世界のようで好きです。
全幕を通して、夢の中に「おいでおいで」と誘われている感覚になるのが『くるみ割り人形』の魅力ではないかと思います。横須賀の皆さまにもぜひ楽しんでいただきたいですね。


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前回公演のカーテンコールより。加藤は左から2番目、花のワルツのソリストを演じた




ロングインタビュー2021/12/03

「くるみ割り人形」上演に寄せて(その1) ~ 政本絵美、故郷で踊る 
東京バレエ団では、本年(2021年)12月に「くるみ割り人形」を全国9都市で上演いたします。そのうちの1つ、東京バレエ団が香川県で全幕の公演をするのは実に17年ぶり! そこで、東京バレエ団でソリストとして活躍している政本絵美に故郷での公演にかける想いを聞きました。ぜひご一読ください。


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政本絵美(東京バレエ団ソリスト)

──昨年3月、東京バレエ団ソリストとしての活動が高く評価され、令和元年度香川県文化芸術新人賞を受賞されていますが、東京バレエ団の公演で地元高松で踊るのは今回が初めてだそうですね。

政本絵美 2009年に入団して以来、バレエ団の公演として香川で踊るのはこれが初めてです。とても嬉しく思っています。


──高松公演の会場はレクザムホールです。どんな思い出がありますか。

政本 通っていた教室では、2年に一度全幕バレエを上演していて、その会場がレクザムホールの大ホールでした。出演できるのは選ばれた人だけでしたから、この舞台が夢、でした。初出演は中学1年生の時で、演目は『ジゼル』でした。主演は東京からいらしたプロのダンサーで、ジゼル役は小学生の頃から特別講師としてたびたび指導してくださっていた方。アルブレヒト役の方も同じバレエ団で活躍されていたスターでしたが、リハーサルでマントをふわーっとさせた時、すごくいい香りがしたんです(笑)! 当時は男性のダンサーと接する機会はほとんどなかったうえに、本物の美しい王子さまが来た! プロってやっぱりすごい!と感動。この体験はとても大きなものでした。

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──プロになることを意識し始めたのはその頃でしたか。

政本 私はグラン・パ・ド・ドゥを踊らせてもらうようになったのが少し遅く、高校1年生の時に『白鳥の湖』の黒鳥のパ・ド・ドゥに取り組んだのが最初でした。この時、先にジゼルを踊ってくださった特別講師の先生に指導していただいたのですが、「私、初めてですよ?」と不安な私を、まさに手取り足取りで教えてくださって、結果、本番で先生ご自身に「ブラボー」と言ってもらうことができた! これは忘れられません。本当に大切な思い出です。この経験があって、プロになりたいなと思うようになりました。


──地元で見たバレエ公演で印象的だった舞台は?

政本 海外のバレエ団もたびたびツアーで来ていましたが、実は、東京バレエ団の『ジゼル』を観ているんです。主役は友佳理さん(現芸術監督の斎藤友佳理)でした。中学生の私にとって、あの狂乱のシーンは真に迫りすぎて観ていられなかったほど。コール・ド・バレエがすごかったということもはっきり覚えています。

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──『くるみ割り人形』の思い出は?

政本 高校2年生の時に参加した全幕の公演が『くるみ割り人形』でした。雪の女王という役と、花のワルツを踊っています。さらに、怪我をしてしまった人の代役で後半の各国の踊りの一つ、アラビアも練習をしていました。結局本番では実現しませんでしたが。


──今回の高松公演で演じるのは?

政本 第1幕ではマーシャの母を演じます。一瞬ですが夫婦で踊る場面があり、サラバンドというしっとりとした踊りのスタイルが特徴的です。ぜひ注目してみてください。
そして第2幕はなんと、高校生の時に実現できなかったアラビアです! パートナーはブラウリオ・アルバレスさんですが、彼はこの踊りの振付者で、単調になりがちなこの踊りを、コール・ド付きの変化に富んだ振付にしています。ソリストの二人がずっと組んで踊っているのも特徴的。アラビアのアラベスク模様のように、二人で1つになって美しい形をつくることをイメージしています。

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「くるみ割り人形」より、アラビアを踊る政本。相手役はブラウリオ・アルバレス

──東京バレエ団の舞台は、ロシアで制作した美しい装置も評判です。

政本 このヴァージョンでは、クリスマスツリーの中をマーシャと王子が旅をしていくという独創的なアイデアが活きていて、第2幕の各国の踊りの場面の装置もとてもきれいですよ。
今回のツアーはオーケストラも一緒に行きます。『くるみ割り人形』はチャイコフスキーの音楽が本当に素晴らしく、私も大好き。ぜひこの機会に生演奏での全幕の舞台を楽しんでいただきたいと思っています。せっかくの機会ですから、香川だけでなく、高知、愛媛、徳島の皆さまも、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。


──ところで、政本さんが地元の好きなところってどんなところですか?

政本 地元の方言が、ほんわかしていてすごく好きです。普段はあまり使っていませんが、どうしても地元の言葉でなければニュアンスが伝わらないなと思うことがあるんですよね。特に「むつごい」というのは「味が濃い」や「脂っこい」というニュアンス。他にも、「お茶をこぼした」というのを「お茶をまいた」と言ったり、何かが「転がった」というのを「まるぐ」って言ったり! 地元に帰ったらきっと方言がたくさん出てくると思います。



レポート2021/11/04

「かぐや姫」第1幕 世界初演によせて ー 廣川玉枝氏コメント

「かぐや姫」第1幕 世界初演まであと2日となりました。本日は本作の衣裳デザインを手がけた廣川玉枝さんからのコメントをご紹介します。
ぜひご一読ください。


廣川玉枝氏より、初演によせて
(SOMA DESIGN クリエイティブディレクター/デザイナー)(衣裳 デザイン )

今までも各段階でダンサーの皆さんには衣裳を着用頂き確認はしていましたが、こうして皆さんが揃って衣裳を着て動いている姿をみると、かぐや姫の世界観ができてきたなという手応えを感じました。

今回の衣裳製作にあたって重要視したポイントのひとつが軽さです。ダンサーの皆さんが踊りやすいよう、軽く、動きやすい衣裳にすることは非常に重要なポイントです。今回使っている素材は、身体にあわせてグラデーションプリントを施したり、プリーツ加工をかけるなど、舞台上でより美しくみえるように工夫をしています。

1幕の最後に、かぐや姫が都に行くシーンがありますが、ここでは最初と違って豪華な衣裳に身を包んだ「姫」に変身します。この場面でかぐや姫が着用するのは十二単をイメージした衣裳。日本の伝統色の緑色をベースにし、かさね色目で竹を想起するようなデザインにしています。


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リハーサルより。(写真左から)道児役の柄本弾、かぐや姫役の秋山瑛


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かぐや姫の衣裳を確認する金森穣(写真左)


廣川 玉枝SOMA DESIGN クリエイティブディレクター/デザイナー) 

2006年「SOMA DESIGN」として活動開始。同時にデザインプロジェクト「SOMARTA」を立ち上げる。同年「身体における衣服の可能性」をコンセプトにボディウエアシリーズ"Skin"を発表。2007年S/Sより東京コレクション・ウィークに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞
Canon[NEOREAL]展(2008 Milano)/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展(2008 Tokyo)/ Mercedes-Benz [SOMARTA x smart fortwo "Thunderbird"] (2012 Tokyo)にてインスタレーション作品を発表。
YAMAHA MOTOR DESIGNとのコラボレーションで電動アシスト車いす[ 02Gen-Taurs(タウルス) ](2014)を発表。
京都の友禅染、西陣織老舗との協業により新時代の和装をコンセプトに[Kimono-Couture](2014)を発表。ASIAN COUTURE FEDERATIONのメンバーに正式加入(2014)。
国内外初の単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜 -Creation of SOMARTA-」(2014 Tokyo)を開催。
SOMARTAのシグニチャーアイテム"Skin Series"がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ(2017)。
WIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞(2018)

ロングインタビュー2021/11/01

役の内面を理解し、動きを台詞のように ―池本祥真、「娘」役に初挑戦!

去る8月に上演された〈横浜ベイサイドバレエ〉の野外ステージでは「ギリシャの踊り」のソロを、9月の〈舞踊の情熱〉公演では「M」のソロを踊り、ベジャール作品で高い評価を確立してきた池本祥真(東京バレエ団ファースト・ソリスト)。11/7(日)に上演する「中国の不思議な役人」では、第二の無頼漢―娘、という異色の役柄に挑戦します。本番を前にした池本が作品への想いを語りました。ぜひご一読ください!

 

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リハーサルより。第二の無頼漢ー娘を演じる池本祥真


「娘」という役をどう演じるかが最大の課題

Q 今回初めて挑戦する作品ですが、配役を聞いたときの心境はいかがでしたか。

池本祥真 バレエ団の同僚たちと「また踊りたい作品」を話すときによく名前があがっていたんですが、僕が入団してからは(2018年入団)上演していなかったので、配役を聞いたときは「娘??」という感じでした。まわりからは「池本くんなら似合うよ」とは言われましたが(笑)。

 

Q リハーサルも佳境に入ってきましたが、どのような作品だと感じていますか。

池本 第一印象は、「これまでやってきたベジャール作品とテイストが違う!」。「ギリシャの踊り」「舞楽」「M」そしてまだ踊っていませんが「火の鳥」などは明確な物語がなく、動きによってストーリーが連なっていく、どちらかというとテクニックが重要な作品で衣裳もシンプルです。対して「中国の不思議な役人」は物語があって、衣裳も役のキャラクターを反映させたもの。役をどう演じるかが最大の課題だと感じています。

振付としてはクラシック・バレエにはない形ですが、踊っていてとても気持ちが入りやすいんです。これはベジャールさんの作品ならではだな、と感じます。

 

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2017年の上演より

 

役の内面をきちんと理解し、動きを台詞のように

Q リハーサル中に指摘されたことで、印象に残っていることはありますか。

池本 リハーサルの進め方でいうと、「M」の場合はベジャールさんの型をしっかりやることが第一でした。そのため「指は揃えて」「首の角度は」という動きのニュアンスを注意していただくことが多かったです。今回、十市さんは「この時娘はこういうことを考えているから、次のこの動きにつながっていく」というように、11つの動きに込められた意味を非常に丁寧に教えてくださっています。役の内面をきちんと理解し、動きを台詞のように、自分の中にしっかりと入れたうえで踊りとして表現していかないと意味をなさない作品です。

 

Q 女性を演じる男性、を演じるわけですが、どのようなことを感じていますか。

池本 ヒール靴に大苦戦してます。まだ全てとおして踊っていないですけど、捻挫しそうです(苦笑)ただ、ヒールを履くことで足元が不安定になるので、そこをうまく利用して女性的なラインを表現できたらと思っています。

本質的にこの役は男です。なのであまり美しく演じてもいけない。お客様には美しさを期待される方もいらっしゃると思うので、難しいところですね。

まだ完全につかめてはいないですけど、彼は自分の中に葛藤をかかえていて、女を演じる振りの中に時折、自分に嫌気がさしているような部分があるんです。彼の内面が振りのはしばしににじみ出ることで作品に深み、面白さが出る。目指すところは結構明確になってきました。

 

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リハーサルを指導する小林十市


振付どおりにやると音にピッタリとはまっていく

Q バルトークの音楽についてはどうですか。

池本 確かに音をとるのが難しい作品なんですけど、ベジャールさんの振付ってそのとおりにやると、音にピッタリはまっていくんですよ! 曲が盛り上がるところは振りも激しく、穏やかな曲調では振りも静かになる。セリフが音にのっているような感覚で、役の気持ちもものすごくのせやすい。音楽に助けられていると感じます。

 

Q 最後に、お客様にこの公演の見どころを改めてご紹介ください

池本 「かぐや姫」は世界初演だし、僕もすごく楽しみです。こんなすごいプログラム、東京バレエ団でしか上演できないですね。

「中国の不思議な役人」はこれまで全く接点のなかった作品だけど、ダークな雰囲気のあるとてもかっこいい作品です。僕の役はだいぶ変わってますけど(笑)ただ、改めて思うと、バレエで男性が女装して踊る役って基本はコミカルな役じゃないですか? 女装するシリアスな役は他に思いつかないです。その意味でも独特の世界観のある作品ですから、お客様にしっかりとその雰囲気を感じていただけるように、そして僕の新しい一面をみていただけるように頑張りたいと思います!


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ロングインタビュー2021/10/28

今の自分にあった表現をー 「中国の不思議な役人」&「ドリーム・タイム」、2作品に出演する宮川新大

古典から現代作品まで幅広いレパートリーで活躍する宮川新大(東京バレエ団プリンシパル)。きたる11/6(土)、11/7(日)の公演では「中国の不思議な役人」、そして「ドリーム・タイム」と2作品に主要な役で出演する宮川に今回の舞台にかける想いを聞きました。ぜひご一読ください。


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Q 「中国の不思議な役人」の「第二の無頼漢―娘」というのは、ズバリどういう役でしょうか。

宮川新大 男性が女装し、男たちを誘惑しているという設定の役ですね。歌舞伎の女形のように美しい女性を演じるというものではなく、男性である面はしっかり表現しないといけない。舞台も売春宿というか、闇につつまれたアンダーグラウンドな世界ですから、ちょっとグロテスクな雰囲気を出していくことも重要な役です。他のベジャールさんの作品と比べても、かなり異質な存在なんじゃないかなと思います。

 

Q 娘役は衣裳も独特ですよね。

宮川 最初みたときはびっくりしましたけど、踊りやすいんですよ(笑)。ストッキングにつけまつげ、女性の要素を外側からどんどん足していけるので、その意味では役に入り込みやすい。女性の気持ちにも近づけたんじゃないかな? ただ、ヒールを履いて踊るのはかなり大変でした(苦笑)

女性の衣裳を着ていても、あくまでも男性の役なので、美しいだけではダメ。男らしさやちょっと泥臭い感じも出していかないといけない。


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2017年の公演より、第二の無頼漢ー娘を演じる宮川

 

今の僕にあった表現を追求していきたい

Q 普段は女性をサポートされる側ですが、今回はサポートされる役です。

宮川 もちろん、リフトのタイミンなど技術的な課題は色々あるんですけど、クラシックではないので、この作品では演技や表現の方が重要ですね。例えばソロを踊るにしても中国の役人とシェフ(無頼漢の首領)に対して表情を変えていかなければならないので......。

 

Q 4年ぶりの再演にあたり、今回はどのような点を意識してリハーサルしていますか。

宮川 4年前に出来たところは残しつつ、今の僕にあった表現を十市さんと創っていきたいです。年齢を重ねて、積み上げてきたものがあるので。

前回は「女」を表現することに注力していましたが、今回はもう少し男性的な面を押し出し、「男性が演じる女性」という役の側面をクリアにしていけたら。前回の自分が踊った映像も見直していますが、「もう少し崩してもいいかな...」と考えています。

それから、僕が踊る11/7(日)の回は若い男を演じる伝田陽美さん以外は初役のダンサーばかりなので、きっと雰囲気も変わってくるだろうし、僕もしっかりみんなを引っ張っていかないといけない。

 

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「中国の不思議な役人」リハーサルより


Q 今回は「ドリーム・タイム」にも出演します。

宮川 実は今回「ドリーム・タイム」を国内で初めて踊るんですよ。初めて踊ったのはなんとミラノ・スカラ座、いきなり斜舞台(笑)。2019年の海外ツアーの時だったので、あまりリハーサルの時間もなく、大変だった思い出があります。

初めて客席から観たときにその美しさに感動した作品だし、ずっと日本でも踊れたらと願っていたので、今回実現して嬉しいです。

 

キリアン作品は自分で突き詰めていける

Q 同じくキリアンの「小さな死」も経験していますが、キリアンの作品の特徴はどんなところにあると感じますか。

宮川 ダンサーにとってキリアンは「ハマる」振付家なんじゃないかな。クラシックだと見せ場を意識せざるを得ないけれど、キリアンは自分で突き詰めていける要素が強いので、より踊りに集中できる気がします。それからキリアンの振付は全てが流れるように見えることも重要ですね。友佳理さん(斎藤友佳理/東京バレエ団芸術監督)に「力を入れるところと抜くところ、そのコントラストをしっかりお客様にみせてほしい」とリハーサル中に言われたことが強く印象に残っています。

質問から少しそれますけど、キリアン作品から得た、これまで自分が知らなかった身体表現を、今後は別の作品を踊る際にも活かしていけたらと思っています。

 

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2019年のミラノ・スカラ座公演より。この時の相手役は岸本夏未。今回は三雲友里加が同役をつとめる。


Q 改めて、「ドリーム・タイム」の魅力はどんなところにありますか。

宮川 幕があいて、セットが次第に上にあがっていく、それだけで異空間にいるような錯覚にとらわれます。名前のとおり"ドリーム"ですね。「小さな死」がセクシャルな人間的な要素をテーマにしていることに対して、幻想的な美しさに溢れた作品と言えるんじゃないでしょうか。踊る側にとっては1つ失敗するとあとが続かなくなる怖い作品でもありますけど(笑)

短い作品の中で、あえて注目ポイントをあげるとすれば、僕と三雲友里加さんのパ・ド・ドゥです。彼女が踊るパートは3名の女性の中で1番強い女性で、僕たちがフラフープと呼んでいる男性が低い位置で女性をぐるぐる回すような難易度の高い大技がたくさんでてきます。

音楽的にも武満さんの旋律にはどことなく和を感じますし、日本人の感性にはあっているように感じています。

本番までもう少し時間があるので、もっと良い表現ができるように2作品ともしっかり踊りこんでいきたいと思います。


>>>公演の詳細&チケットのご購入はコチラ

ロングインタビュー2021/10/27

自身の中に言葉をもってないと動きに現れない ー小林十市の語る「中国の不思議な役人」の世界

11/6(土)、11/7(日)に上演する「中国の不思議な役人」には、東京バレエ団初演から小林十市さん(元モーリス・ベジャール・バレエ団)が来団し、指導にあたっています。本作の初演キャストの1人でもある小林さんに改めて作品の魅力を伺いました。今回の上演にまつわる貴重なエピソードが満載のロングインタビューです。ぜひご一読ください。

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──『中国の不思議な役人』はベジャール1992年の作品ですが、小林さんもモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)のダンサーの一人として創作の場に立ち合われていますね。

小林十市 ベジャールさんが「より密度の高い創作活動をしたい」とカンパニーを縮小し、最初に創ったバレエがこの『中国の不思議な役人』です。当初僕は、アンサンブルの一人として参加していました。60人以上いたダンサーが25人になり、カンパニー内の風通しが良くなった分、誰も群舞の中にまぎれることなく、「一人ひとりがソリストと思ってやってほしい」とベジャールさんに言われた記憶があります。

東京バレエ団では2004年の初演からこの作品を指導させてもらっていますが、実はその際、アンサンブルの人数を増やしました。とはいっても限度がある。増やしすぎると音の長さが足りなくなり、うまくはまらなくなる。4人増が最大限でした。


──今回、併演する作品のリハーサルとの兼ね合いで、役の割り振りに工夫をされたと聞きました。終盤で役人に対して送り込まれるランジェリー姿の女性たちは、通常、前半では男性の衣裳を着てアンサンブルに参加し、その後衣裳を変えて登場していましたが、今回は独立した役としてキャスティングされたそうですね。

小林 リハーサルの進行の関係で、彼女たちには終盤のランジェリーの場面だけに出てもらいます。実は彼女たちには「幽閉された女たち」という役名があるんです。ベジャールさんは、「青ひげ」に出てくる女性たちだと言っていました。無頼漢の首領(シェフ)が、青ひげに幽閉された女性を連れてきて仕事をさせているんだと。

*ペローの童話に収録された、「青ひげ」は、先妻たちをあやめた残忍な男の物語。これに想を得てベラ・バラージュが台本を書いた『青髭公の城』は、1918年に発表されたバルトーク唯一のオペラ。

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キャラクターとして生き、その場に存在してくれないと作品として成り立たない

──数あるベジャール作品の中で、これはどのような位置づけにある作品といえるでしょうか。

小林 芝居の要素が強い作品です。僕が皆に求めるのも、バレエのマイムではなく、"道端のリアクション"──普段、何かを見たり観察したりした時に身体がどう反応するのか、どう思考するのか、が重要で、作品の中の出来事を今、そこで起こっていることとして捉えてくださいと、ダンサーたちに言っています。

まだまだ皆には戸惑いがあるようです。この作品に関しては動きができていればいいというわけではなく、キャラクターとして生き、その場に存在してくれないと作品として成り立たない。あの無頼漢の一味は、ストリートギャングで、飢えていて貪欲で、人を出し抜いても利益を得たいという連中の集まり。そうした感覚に基づく一体感があれば、この作品独特のダークな世界観が見えてくるのではないかと思います。


──タイトルロールとともに重要な役割を担うのが、「娘」です。どのような役作りを求められますか。

小林 どこか人間臭く、グロテスクなものが混じり合ったようなところが出るといい。綺麗に演じようとしてはいけないと思います

「若い男」を簡単に騙し、お金を奪って得意気になっていたら、今度は全然違うタイプの「役人」が来て、これにどう対処していいかわからない。不安に襲われ、緊張し、身体をこわばらせる。そんな娘を言いくるめようとするシェフの狡猾さも見えると、面白い。どんなふうに言って娘を安心させ、仕事をさせることができるのか。それをセリフなしでどう表現するか。それは、自身の中に言葉を持っていないと動きには現れません。リハーサルでは、ダンサーが身体で表現するそのセリフは合っているのか、辻褄は合っているのか、ということに注意して見ています。ベジャールさんの動きは音にぴったりとはまっているのですから、あとは、音楽通りに動けば客席に伝わると思います。
BBL
では相当の時間をかけてこれを初演し、その後何シーズンにもわたって、ツアーで上演してはローザンヌに戻ってまた一からリハーサル、ということを繰り返していました。それを東京バレエ団では3週間で上演する──。僕の責任はとても重いです(笑)! 初めて観た人に、「なんだ、これがベジャール?」ではなく、「なんかよくわかんないけどよかった」って言われたいし、お客さまにあの世界観を受け取っていただけるようにしたい。

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リハーサルより。中央は 第二の無頼漢ー娘 を演じる宮川新大


バルトークの音楽の凄みがベジャールさんの振付で立体化される

──あらためて、この作品の魅力はどんなところにあると思いますか。

小林 九十何年のことだったか、フランス・ツアー中になぜか客席で『中国の不思議な役人』を観たことがあります。役人を演じていたのはジル・ロマン(現モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督)。言葉がないのに、まるで、音がセリフのように感じられ、会話が見えるように思えて、鳥肌が立ちました。バルトークの音楽の凄みが、ベジャールさんの振付で立体化されたように思えて、凄いなと感じたのを覚えています。


──創作現場に立ち合われたことはとても大きな体験だったのではないでしょうか。

小林 ベジャールさんの言葉や動きで強く印象に残っているものがあります。たとえば、「ワシのように」とか、「虎の爪のように」とか──部分的に鮮明に覚えているものがあります。東京バレエ団で指導するたびに見ているのが、1994年のBBL日本公演を収録した、NHKで放映された映像なのですが、今見ると皆、教えられた振付をちゃんとやっていないんですよ(笑)。それでも作品として成立しているというのは、皆が役として舞台上にいるからです。

僕は当初、役人と娘の両役のセカンドキャストでした。スタジオに張り出された配役表には、役人が上からジル・ロマン、ジュウイチ・コバヤシ、ドメニコ・ルヴレと書いてあり、娘のほうにはクーン・オンズィア、ジュウイチ・コバヤシ、ファブリス・セラフィノと書いてあったんです。でも両方はできませんと、迷わず役人のほうに専念(笑)。実際、その後僕は役人を踊り、娘役はファブリスが踊っていましたが、実は僕も、1995年に1回だけ、娘役を踊りました。これもフランス・ツアー中。役人はドメニコで、僕は和のルックスを活かした狐のお化けみたいなメイク(笑)。その舞台、すごく楽しかったです!

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モーリス・ベジャール・バレエ団の公演より。中国の役人を演じる小林十市

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無頼漢の首領役、鳥海創を指導する小林十市


メンバーの関係性が創作に活かされた初演

──リハーサルでは、シェフと娘の関係性、その表現をとても重視されているそうですね。

小林 そうなんです。ダンサーたちにも言いましたが、1日の仕事が終わって、今日どれくらい稼いだかとお金を数えるのは、絶対あのシェフと娘の二人でしょう。他の下っ端たちはそこには入っていけない。とくに役人の登場シーンは、二人の親密さを垣間見ることができる面白い場面です。

ベジャールさんは、初演メンバーたちの関係性を創作に利用しています。初演の娘役のクーンはベルギー人ですが、イングリッシュ・ナショナル・バレエで活躍していた。シェフのマーティン・フレミングは、オーストラリア・バレエ団出身で、つまり、二人とも英国の文化圏で活躍したベースがあり、近しいものがあった。たまらなく絶妙なコンビなんですよ。笑ってしまうほどに!

1994年の映像も本当にすごくて、クーンがいて、さらにジルがいる。ジルは本気で怒っているのではないかと思えるほど、リアル。本当にそこで起きている生の感情が、この舞台の上にある。まさに"神回"(笑)! これは僕にとってのバイブルで、今回も改めて見直し、そこに近づけていくためのサポートをしたいと思って取り組んでいます。

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毎回、新たに気がつくことがある

──東京バレエ団で指導することで、新たな発見はありましたか。

小林 毎回ベストを尽くしてきたはずなのだけれど、なぜかまた新たに気付くことがある! たとえば今日リハーサルした場面──。役人に手こずった娘は、シェフのもとに戻る。でもシェフはアコーディオンを弾いて自分の世界に入っているので、娘は苛つき、彼を小突くという場面です。あれはただ単に間を取っているのではなく、役人から一時的に逃げて、シェフに助けを求めに行くんだなということが、今回初めてわかった(笑)。音楽も実はとてもゆるやかで、シェフは娘を穏やかに説得する。今まではわりと激しくやっていたのだけれど、そこは少し変えています。あとは、ダンサーたちがしっかり彼らの親密さを出してくれたらと思うのですが、こんなふうに毎回、新たに気になってくることがあるのです。


──今回の公演は、ベジャール作品、キリアン作品、金森穣さんによる世界初演作品のトリプル・ビルとなりますが、このプログラムについてはいかがですか。

小林 これはもう、穣くんヒストリーです。1992年にバレエ団が縮小された時、同時に設立されたのが学校=ルードラです。穣くんはこの年、ルードラの第一期生として入ってきて、『中国』の創作時には同じ場所にいたわけです。そしてその後彼が活躍したのはキリアンのカンパニーでした。深い縁を感じます。


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レポート2021/10/25

「かぐや姫」第1幕(世界初演)制作現場より ― 衣裳パレード

金森穣振付「かぐや姫」第1幕 世界初演に向け、リハーサルと並行して装置や衣裳の準備が進められています。1021日には、1幕に出演するダンサー全員の本番の衣裳をチェックする通称"衣裳パレード"が東京バレエ団のスタジオで行われました。


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スタジオにはラックにかけられた衣裳が次々と運び込まれていきます。

この日は金森穣氏をはじめ、アシスタントをつとめる井関佐和子氏、衣裳デザインを手がけた廣川玉枝氏、衣裳製作の武田園子氏に加え、東京バレエ団の舞台を長年手掛ける立川好治氏(舞台監督)ら、本作にかかわるスタッフが見守る中、ダンサーたちが本番で着用する衣裳を身にまとい、その感触を確かめていました。


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作品冒頭に登場する緑の精の衣裳。金森氏自ら素材やフィット感、見え方を細かくチェックしていきます。


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主役のかぐや姫の衣裳を身にまとった足立真里亜1幕のかぐや姫はまだ若くて幼い少女という設定です。


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道児(かぐや姫の幼なじみ)の衣裳を着た柄本弾。まわりのダンサーやスタッフから「似合っている!」という感嘆の声がこぼれていました。

道児のヘアバンドは別のいくつかの素材も試されていました。さて、本番で登場するのは......?

 

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衣裳を着用したあとは、試しに実際の振付をいくつか踊り、動きやすさを確認していきます。また、舞台では衣裳が並んだ際の色味も重要になるので、同じ場面に登場するダンサー同士、衣裳を着て並んでチェックをすることも衣裳パレードの際の重要なポイントです。


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こちらは第1幕最後の衣裳を着用したかぐや姫役の秋山瑛。今回上演する第1幕では、かぐや姫が都に行くまでが描かれています。彼女が粗末な着物から宮廷風の衣裳に着替え、変身する場面もぜひご注目ください。

1幕にはこの他にも大勢の人物が登場します。彼らはどのような衣裳をまとっているのか......続きはぜひ劇場でお楽しみください。

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ロングインタビュー2021/10/24

沖香菜子の語る、「ドリーム・タイム」の魅力

11月6日、7日に世界初演をむかえる金森穣振付「かぐや姫」第1幕では、ベジャール振付「中国の不思議な役人」、キリアン振付「ドリーム・タイム」の2作品を併演するという非常に充実したプログラムが組まれています。

上演作品のうち、「ドリーム・タイム」に出演する沖香菜子のインタビューをお贈りします。ぜひご一読ください!



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ポイントは呼吸と流れるような動き

Q 「ドリーム・タイム」は2015年に初めて挑戦しています。

 私にとって初めてのキリアン作品でした。そのとき私は第3キャストだったので振付指導の方にみていただける機会が少なく、実際に舞台で踊れるのか確証がないままリハーサルに参加していました。ただ、その数少ない機会にちゃんとできていたら、舞台で踊らせてもらえるかもしれない! と思い、当時のメンバー5名(岸本夏未、金子仁美、岡崎隼也、吉田蓮)、一致団結してリハーサルをしていました。結果は無事に舞台を踏むことができましたし、2019年のスカラ座の公演でも、5名中4名は同じメンバーで踊ることができました。

 

Q この作品の特徴はどのようなところにあるのでしょうか。

 踊る側としては、呼吸と流れるような動き、と言えるでしょうか。特に出だしは本当に大切です。作品の冒頭、女性3人で呼吸をあわせ、無音の中で踊る場面からはじまります。この無音の時間は結構長いし、広い劇場で、3名の呼吸だけを聞き分けて踊るというのはなかなか他の作品ではないですね(笑)。動きの強弱がはっきりしている作品なので、身体のコアの部分は強く、上半身はやわらかく、という点を意識しながら、流れるように動いていかなければなりません。男性と組む場面も多いので、息をあわせてお互いの力を頼りながら、流れに身を任せることも重要です。


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 2019年 ミラノ・スカラ座公演より

誰か1人でも欠けたら成立しない作品

Q キリアン作品では「小さな死」も踊っていますが、同じ振付家の作品で違いはありますか。

 大きな違いは「小さな死」は裸足で、「ドリーム・タイム」はバレエシューズを履いて踊ることです。床の感じ方も違いますし、「小さな死」の方が踏み込める動きが多い気がします。また、「小さな死」では剣やトルソーといった小道具が出てきます。私の踊ったパートは、男性と剣と3人で踊っているような感覚でした。

「ドリーム・タイム」は友佳理さん(斎藤友佳理/東京バレエ団芸術監督)やエルケ・シェパーズさんに指導していただいていますが(シェパーズ氏は映像で指導)、以前友佳理さんに言われた言葉で「5人のうち、誰か1人でも怪我や体調不良で欠けてしまったら作品が成立しなくなる」と言われたことが強く印象に残っています。代役をたてることが難しく、その意味でも特別な作品です。

 

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 キリアン振付「小さな死」 2018年の公演より


Q 音楽は武満徹さんですね。2019年に勅使川原三郎さんの「雲のなごり」でも同じく武満さんの音楽で踊っていますが、音楽についてはどのように感じていますか。

 武満さん独特の和音、アクセント、強弱、はどちらの曲にも共通していると思います。「ドリーム・タイム」については、「雲のなごり」よりもメロディのラインがくっきりしている曲なのですが、もしかしたらそれは何度もこのバレエを踊り込み、曲を繰り返し聴いてきたからこそ、メロディを感じ取れるようになったという私自身の経験値にもよるものかもしれません。特に男性2人と踊るパ・ド・トロワの場面では3名で呼吸をあわせることが非常に重要で、リハーサルを重ねる中で振付と音楽が共有できたとき、やっと形になったような手応えを感じました。

 

Q 初挑戦から6年たちましたが、今回のリハーサルを通して新たに気がついたことはありますか。

 言葉で語るのはとても難しいのですが......この作品はどのような解釈もできるんです。例えば女性の想像の世界とも、見方によっては男女の関係とも、人生の流れの移り変わりとも、お客様の数だけ解釈が成立する作品。踊っている私たちにとっても毎回感じるものが違います。明確な言葉にできない、感覚を共有しているとでも言えばよいのでしょうか。みんなで動きを揃えて踊る場面でも、他の作品のように「今日は揃っていた」というものではなく、その時々に感じるリズム、空気感をお互いに感じているように思いますし、毎回新鮮な発見をもたらしてくれる作品です。

 

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「ドリーム・タイム」から学んだことは

Q そんな"新鮮"な作品ですが、沖さんのキャリアにとってはどのような作品だと感じていますか。

 2015年に初めて踊ったとき、私はまだ入団5年めで、クラシックとベジャール作品以外はあまり踊ったことがありませんでした。キリアンの作品を2つしか経験していない私が言うのもなんですが、「ドリーム・タイム」をとおしてこれまで知らなかった身体の動きを学べたことはとても大きな財産です。例えば「この動きのときは力を抜こう!」と意識していると、力を抜くという行為に力が入ってしまって、結果かたい動きから脱することができなくなってしまいます。「ドリーム・タイム」を踊ることで素直に力を抜く感覚がつかめたことは他の作品を踊るときにも大いに役立っています。

 

Q そんな思い入れのある「ドリーム・タイム」。改めて来場を予定されているお客様に作品の魅力を伝えると?

 どのバレエでもそうなのですが、劇場でセット、照明、衣裳がそろったとき、初めて作品が完成します。ですが、「ドリーム・タイム」の放つ雰囲気は決っして他にはないもので、独特の美しさを秘め、まるで劇場全体が異空間にかわってしまうような感覚すら受けます。作品の空気感というのは映像ではけして味わえないものですから、皆さまにはぜひ劇場で「かぐや姫」、「中国の不思議な役人」、そして「ドリーム・タイム」、それぞれの世界観を体験していただけたらと思っています。


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