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新着情報2025/11/04

舞台を支える人気キャラクター座談会ーサンチョ・パンサ【『ドン・キホーテ』公演プログラム番外編】

 陽光降り注ぐスペインの港町を舞台に大騒動が巻き起こる『ドン・キホーテ』。
東京バレエ団が2001年に初演したウラジーミル・ワシーリエフ版は、主役のキトリとバジルを中心に、舞台に登場する一人ひとりが生き生きと描かれています。
そのなかでも個性光るのはドン・キホーテのおともであるサンチョ・パンサ、結婚を大反対するキトリの父親ロレンツォ、キトリに言い寄るお金持ちの貴族ガマーシュ。
このたびのプログラムでは舞台を支える人気キャラクター座談会を実施しました。
ここでは、本誌に書ききれなかった貴重なこぼれ話を一部ご紹介します。



■サンチョ・パンサ座談会:岡崎隼也×海田一成×後藤健太朗

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左から岡崎隼也、海田一成、後藤健太朗。
photo: Shoko Matsuhashi



――みなさんの"サンチョ・パンサ歴"を教えてください。

岡崎 サンチョ・パンサは子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』(以下『子ドンキ』)の初演(2014年)以来だから、もう10年ほど踊ってきています。
海田 僕は確か、6~7年前が初めてですね。
『子ドンキ』のサンチョ・パンサは台詞があるので、ヨーロッパ・ツアーの最中に必死に台詞を練習していた記憶があります。
後藤 僕も『子ドンキ』では何度かやらせていただいているのですが、全幕では初めてです。
今回はサンチョ・パンサもガマーシュも全幕では初挑戦になります。
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海田一成が演じるサンチョ・パンサ。
photo: Shoko Matsuhashi

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子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』でサンチョ・パンサを演じる後藤健太朗。このたびの公演で全幕デビューを飾る。
photo: Koujiro Yoshikawa

――人気者のサンチョ・パンサですが、どんなキャラクターとして演じていますか?

岡崎 ワシーリエフ版のサンチョ・パンサはユーモアにあふれていて、みんなに好かれるキャラクター。
初演キャストだった飯田(宗孝)先生そのままだと思います。
実際、ワシーリエフさんは飯田先生のふとした瞬間を振付に取り入れていたそうなんです。
海田 かなりシャイな方でしたよね。
飯田先生がサンチョを踊っている映像がDVDに残っているんですが、すごくかわいい(笑)。
岡崎 ワシーリエフさんが指導にいらしても「サンチョは彼のキャラクターだから」とおっしゃって、僕たちはほとんど飯田先生から教わりました。
海田 ただ、飯田先生はよく「自由でいいよ」と言うので、
先生が踊った映像以外に、ABTや英国ロイヤル・バレエ団など別のカンパニーの映像も観て研究しました。
「この人はかわいらしいな」とか、「これだとおじさんっぽいな」とか見比べながら、ほどよいところを探っていきましたね。
後藤 僕も『子ドンキ』でサンチョを踊ったときに飯田先生に教えていただきました。
そのときは、お客さまに今なにが起きているのかがわかるように、もっと芝居を大きく、マイムもゆっくり丁寧に、と。サンチョは無邪気に、がむしゃらに、いっぱいいっぱい演じるというイメージですね。

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故飯田宗孝が演じるサンチョ・パンサ。愛らしい飯田のサンチョは彼の当たり役の一つであった。
photo: Kiyonori Hasegawa

――演技のパートが非常に多いですが、どのくらいがアドリブなのでしょうか?

岡崎 演技の部分は9割9分、アドリブですね。
踊る人によって演技が変わるのはもちろん、主役や絡む相手次第でも変わってくるので同じサンチョはいないんです。
あと、僕は『子ドンキ』も含めると、ありがたいことに何十回もやらせていただいているので、新鮮な気分で演じないとお客さまにマンネリ感が伝わってしまう。
だからなるべく毎回、いい意味で違うことをするように心がけています。
後藤 僕は『子ドンキ』での経験ですけど、1幕の広場のシーンについて(斎藤)友佳理先生や(佐野)志織先生が「人生に同じ日は一日もない。それと同じことが舞台上で起こっているようにしたい」とおっしゃっていた通り、毎公演違うことが舞台上で起きている。昨日はあちらにいた人が、今日はこっちで別の人と話していたり......舞台に出ながらビックリすることもありますね。
海田 僕の場合はドン・キホーテ役が変わると、サンチョもけっこう変わるかも。
人によって「呼ぶの早いな!」と思うこともあれば、逆になかなか呼ばれないこともあったり、タイミングが違うと反応が変わってくる。
岡崎 確かに会話が変わるよね。僕はどちらかというと、ガマーシュ次第で変わるかもしれない。
ガマーシュだけは、サンチョがいじっていいらしいんです(笑)。
ガマーシュも毎回違う演技をするから、今日はどうやっていじってやろうかなって悪だくみしてますね。

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愛されキャラのサンチョは街の人々の笑顔の中心に。
photo: Shoko Matsuhashi

――サンチョ・パンサといえば、布の上での大きな跳躍が見せ場ですね!

岡崎 布の上でサンチョが跳ぶシーンは、20人以上のダンサーが一気に布を引っ張ることで浮かび上がるので、
動きとしてはまさにトランポリン。
布をピンと張ってくれていないと、落ちたときに床に背中がついてしまうこともあるから、降りるときは確かに怖い。
でも、布を持ってくれている人たちも必死でつかんでいるから、擦れて手の皮がめくれている人もいる......
地味なつらさのあるシーンです。
後藤 『子ドンキ』の場合は布が小さいから、みんなの力が伝わりやすいので割とイージーなんですけど、全幕版だと布も大きいから......。
海田 大きい布を大勢で持つと楕円形になりやすくて、均等に力がかからないからさらに難しいんだよね。
岡崎 うまく上がれたときは本当に気持ちいいんですけどね。
どんなふうにジタバタしたら面白く見えるかなって考えているんですけど、上がってみないとわからない。
リアルにジタバタせざるを得ない状況になることもあります(笑)。

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上の写真は『ドン・キホーテ』全幕、下の写真は『ドン・キホーテの夢』(サンチョを演じるのは岡崎隼也)のトランポリン。跳んだサンチョの表情や仕草も見どころの一つ。
photos: Kiyonori Hasegawa, Koujiro Yoshikawa

――最後に、ワシーリエフ版のお好きなところを教えてください。

岡崎 僕はロマのシーンかな。ほかのどのバージョンより、このシーンはかっこいいと思います。
男性ダンサーなら踊りたくなると思う。
後藤 僕はやっぱり1幕の広場のシーンですね。
広場のなかでそれぞれが日常を生きているので、公演ごとに違うから見比べる楽しさもあります。
リハーサル中、静かになると「(動きが)止まってるよ!」って注意されるんですよ(笑)。
もちろん、真ん中で踊っているダンサーがいるときはトーンを下げますが。
海田 踊りでいうと、闘牛士たちが登場するシーンが好きです。
自分がセギディーリャを踊ったとき、そのあとに闘牛士たちが一斉にやってくるから「来たー!」って盛り上がる。
剣がちゃんと刺さるかなってハラハラするところも含めて楽しい場面だと思います。

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photo:  Shoko Matsuhashi



取材・文=富永明子(編集・ライター)













めぐろバレエ祭り2025/09/11

第13回〈めぐろバレエ祭り〉 現地レポート
今夏も〈めぐろバレエ祭り〉の時期が到来! この日も30℃後半の猛暑デーでしたが、楽しむ気持ちを胸いっぱい詰め込んだバレエファンが今年もめぐろパーシモンホールに集結しました。
※筆者が参加したのは8月23日(土)の午後と、24日(日)の終日です。

*****

〈公開レッスン(8月24日)〉
最終日の朝9時半から開催されたのは、東京バレエ団のダンサーによる公開レッスンです。この日の講師は元東京バレエ団プリンシパルの高岸直樹氏で、振りはシンプルながら筋肉をじっくりと温め、踊るための体を作る内容のクラスに。ダンサーはコンディションに合わせ、バランスを長めにしたり、軸足をルルヴェにしたりと適宜アレンジしていました。
センターに移動すると、ダイナミックな踊りが増えていきます。ピルエット(回転)のコンビネーションでは、高岸氏が見本として見事な回転を披露し、客席のみならず、ダンサーたちからも大きな拍手が沸き上がりました。午前の部でジークフリート王子を踊る池本祥真が王子の振付の一部を確認していたり、午後の部でオディールを踊る伝田陽美がセンターからトウシューズを履いていたりと、本番に向けて調整している様子がうかがえます。また、男性ダンサー同士で回転のアドバイスをしている姿も。
わずか1時間のクラスながら、ダンサーの体がみるみる引きあがっていき、確認のためのレッスンから"魅せる"踊りへと変わっていくのが印象的でした!

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〈はじめてバレエ『白鳥の湖 母のなみだ』(8月24日/午前の部)〉
今回、新制作された『白鳥の湖 母のなみだ』は、初めてバレエを観る子どもたちにもわかりやすいように、作品の見どころをぎゅっと詰め込んでコンパクトにしたもの。さらに道化役のダンサー(後藤健太朗、山仁尚。本公演では後藤)が語り役となって物語のポイントを解説します。
母と一緒にいたオデットが悪魔ロットバルトにさらわれるシーンを挿入することで、最後に母と再会できるハッピーエンドの展開が際立ち、涙がにじみます。休憩を含めて95分間でしたが、道化の踊りや王子の友人によるパ・ド・トロワ、各国の踊り(スペイン、ナポリ)などの見せ場は押さえられており、見応え十分! 筆者の周囲の席にいた子どもたちは皆、真剣な顔で舞台に見入っていました。

〈「白鳥の湖」の群舞を踊ろう!(8月23日)〉
大人のバレエ雑誌「クロワゼ」プレゼンツの講習会が今年も開催! 今回は『白鳥の湖』第2幕の白鳥たちの群舞にチャレンジする内容で、わずか3時間でアップ(レッスン)から振り移し、リハーサル、本番(撮影あり)までをまとめ上げます。
参加資格はバレエ歴2年以上の方で、バレエ歴も年齢もさまざまな35名の参加者が全国各地から集まりました。講師は矢島まい(元東京バレエ団)で、アシスタントに中島理子(元東京バレエ団)と中川美雪が入り、パートごとに振付を伝え、練習を繰り返します。群舞はお互いの距離感をしっかり守り、隊列を崩さないように踊る必要があるので自然と周囲の人たちと協力し合い、あっという間に和気あいあい。ユーモアあふれる指導により、笑いも起こって終始なごやかな雰囲気です。
1時間半みっちりリハーサルをしたら、オデットの三雲友里加と王子の大塚卓が登場し、撮影ありの本番へ! わずか3時間の練習とは思えないほど見事にそろった群舞を披露してくれました。

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〈スーパーバレエMIX BON踊り(8月24日/2回目の回)〉
大人気のこの企画も13回目。今年も小ホール中央に設置されたやぐらのまわりで、小林十市(モーリス・ベジャール・バレエ団バレエ・マスター)が振付けたオリジナルの盆踊りを踊りまくります!
今年の指導者は東京バレエ団プリンシパルの沖香菜子、さらにスペシャル・ゲストとしてファーストソリストの大塚卓が登場! 沖が「涼むつもりで来たかもしれませんが、大汗をかいて帰りましょう!」と言うと笑い声が上がります。踊り慣れた参加者も多く、彼らにつられる形で初めて(と思しき)参加者たちも積極的に踊ってくれました。子どもはもちろん、保護者の方々、ひとりで参加の方々も笑顔でトライ。ミラーボールの回るなか、150人を超える参加者が大いに踊り、本当に大汗をかいた1時間となりました。
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〈からだであそぼう だれでもダンス☆(8月24日/2回目の回)〉
振付家・ダンサーの田畑真希さんとアシスタントの澁谷智志さんによる、子どものための人気企画です。ふたりは開始前から子どもたちに明るく話しかけ、心がほぐれた子どもたちは会場内を走り回って、すっかり仲よしに。もちろん、シャイな子やひとりでいたい子に無理をさせることはありません。
田畑さんの「うるさく走る」「一本足で止まる」「5本足で歩く」「かっこいいポーズで止まる」などの掛け声を子どもたちは自由に解釈し、思い思いの方法で表現します。「もっとでたらめに動かして!」と言う田畑さんの声にあわせ、個性全開で動きまわる子どもたち。
最後は中央にあるやぐらにひとりずつ乗り、田畑さんと澁谷さんに導かれながら踊りを披露。最初はもじもじしていた子も、ふたりにつられて次第に笑顔に。最後に「まきまっちょは楽しかったけど、みんなはどうだった?」という田畑さんからの問いかけに、「楽しかった~!」と声がそろいました。
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〈ダンサーズ・トーク in めぐろ(8月24日/2回目の回)〉
終わりを飾ったのは、東京バレエ団ダンサーが司会を務めるトークイベント。金子仁美が司会となり、池本祥真、生方隆之介、大塚卓、長谷川琴音が出演しました。以下、項目ごとに語られた内容の一部をご紹介します。

◆はじめてバレエ『白鳥の湖 母のなみだ』を踊って
 長谷川「直前まで振付が変わって大変で、(緊張のあまり)楽屋ではずっと胃が痛いと先輩たちに叫んでいました。でも、本番になって舞台に出たら楽しめた」
 池本「王子役は気品ある立ち居振る舞いを大切にしないといけないけれど、それだけだと心の動きが見えてこないのでバランスが難しい。柄本弾さんに見てもらったら、王子の喜びを見せたほうがいいとアドバイスをもらった」
 金子「当初、3幕ではオディールと王子のヴァリエーションは踊らない予定だったのが、8月に入ってから入れることが決まり、急きょ練習することに。オディールたちで隙間時間にずっと練習していた」
 生方「本番ではすごく気持ちが乗って、自分のなかの王子像を深められた。作品に寄り添った形で踊りたいという気持ちが踊りに乗って、相乗効果で(よいものを)皆さんにお届けできた」

◆夏休みの予定
 大塚「北海道のガラ公演後そのまま滞在して、大塚家の大家族旅行を計画しています」
 池本「最近観た香港映画が面白かったので、香港に行ってその展示会を観たいです。でもパスポートの期限が切れていて......(笑)」
 生方「休みに徹することがなかなかできないので、徹底的に休みたい。情報ツールから刺激を受けることなく、何も考えずにぼーっとしたい」(という生方に対し、金子が「隆ちゃん、気づいたら絶対バーレッスンやってると思いますよ」とツッコミあり)

◆もしダンサーになっていなかったら?
 長谷川「入団前、歯科衛生士になろうと専門学校に合格していた。でも諦められず『これでダメならもうバレエを辞めよう』という気持ちで入団試験を受けた」
 大塚「塾の先生に東大に行けと言われたけれど断った。野球やサッカー、水泳もやっていたけれど、バレエだけが続いた」
 池本「(出身地である広島県の)島では一番足が速かったから、短距離走の選手とかいいな。小学校のとき、ハードルの県大会で4位でした」
 生方「極めていく仕事がよくて、寿司職人になりたいという夢がある。実は『ザ・カブキ』のオープニングシーンで、寿司を握っていました(笑)」

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今年も暑いなか、最後まで盛り上がっためぐろバレエ祭り。来年もきっと、さらに熱いプログラムが待っているはずです。BON踊りを復習しながら、来年の開催を待とうと思います!


取材・文=富永明子(編集者・ライター)
photos: Shoko Matsuhashi





ロングインタビュー2025/08/15

団長の斉藤友佳理が語る、「はじめてのバレエ『白鳥の湖』~母のなみだ~」新制作初演への想い
この夏、東京バレエ団が新制作を行う「はじめてのバレエ『白鳥の湖』~母のなみだ~」の初日まで1週間となりました。初日を前に、本作の陣頭指揮をとる斎藤友佳理(東京バレエ団団長)が作品、そして舞台にかける想いを語りました。ぜひご一読ください。

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斎藤友佳理(東京バレエ団団長)

―はじめてのバレエ『白鳥の湖』を新制作する理由をお聞かせください。

(斎藤)子どものためのバレエ『眠れる森の美女』(2012年初演)、子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』(2015年初演)は、ナレーション付で上演時間も短く親しみやすいので全国公演が続いています。そうした中、各地の劇場の方々からそれ以外の新作もぜひとお願いされていました。また、東京文化会館が2026年5月から大規模改修にともない休館するなど、首都圏のバレエに適した劇場が限られてきます。全国各地で上演できる新たなレパートリーとして求められている一面もあります。

―「子どものためのバレエ」とコンセプトは基本的に同じですか?

バレエをご覧になったことのない方たちに親しんでいただけるオーソドックスな舞台をという方向性は変わりません。休憩時間を含め約90分に収めなければいけないのと、出演者人数が40~45人という制限を基本としています。ただ、『眠れる森の美女』の場合、子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』にふれた先にご覧いただきたい本格的な古典全幕を2023年に私の新演出・振付で制作しましたが、今度の『白鳥の湖』は順番が逆です。

2016年、私が芸術監督になった翌年にブルメイステル版『白鳥の湖』を新制作しましたが、今回は新たな版です。以前のゴールスキー版を短くするわけでもありません。ある意味完成されたクラシック・バレエの代名詞を私自身の手でダイジェストにするのは想像以上に難しい作業でした。頭と心にブルメイステル版が焼き付いて、なかなか脱却することができないのが辛かったですね。

―道化のダンサーが語り役となり、オデット姫と王子の物語を進めるそうですね。

道化は4人登場し、その内のひとりが語りを担い、話の流れを補うようにナレーションが入ります。ちなみに道化の4人には、それぞれの性格に特徴を持たせました。『白鳥の湖』は男性が活躍できる箇所が多くないので、今回は踊る場所をたくさん設けます。ナポリの踊りは女性と同じ男性4名。スペインの踊りは女性2名に対して男性4名となりました。

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稽古場で衣裳をあわせる金子仁美(オデット役 8/23[土]15:30出演)

―そのほか演出・振付でこだわったのはどういった点ですか?

「振付に絶対に手を付けてはいけない」場面と、「ここは今の時代の視点から見ておかしくないように変えてもいい」という線引きは難しかったですね。大学(ロシア国立舞踊大学院バレエマスターおよび教師科を首席で卒業)で学んだ歴史舞踊、キャラクターダンス、音楽理論、伝承学、劇場史などが判断の拠り所になりました。
1幕ではパ・ド・トロワに代わってワルツの中でジークフート王子の友人たちを踊らせるなど工夫しました。王子のソロを入れたことで、彼の感情や背負う苦しみが伝わると思います。2幕はイワーノフの原振付に手を付けてはいけないので、どうやって物語を壊さずにカットして全体の時間制限内におさめるか? 大きなチャレンジでした。3幕は幕が開いてすぐにナポリの踊りで、道化も出ます。スペインの踊り、オディールと王子のグラン・パ・ド・ドゥもお見せし、休憩を入れず4幕に進むことで物語に集中したまま最後まで観ることができます。

―副題に「母のなみだ」とあります。「悲しみにくれたオデットの母の涙でできたといわれる湖」のエピソードに関わるのですよね?

「母のなみだ」というコンセプトから自分の想いをつなぐと形になるのではないかと考えました。幕開けにオデットの母が出てきて、彼女の回想録のように舞台が始まります。オデットはロットバルトに捕まり、白鳥の姿に変えられてしまう。それを母親が嘆き悲しみ、その涙で湖ができるという言い伝えにまつわり物語がはじまるのです。結末はぜひ舞台をご覧になってお確かめいただければ幸いです。これは母娘の物語でもあるのです。

―ブルメイステル版『白鳥の湖』では踊っていない大役を初めて踊る方も多いですね。

若手を主要な役でご覧いただけるのも、このシリーズの特徴と言えるのかもしれません。長谷川琴音をオディールに抜擢しましたが成長を期待しています。中島映理子はオデット。大怪我から1年少し、今回本格復帰します。また、金子仁美はオデット、伝田陽美はオディールを踊ります。
そして、秋山瑛が初めてオデット/オディールに挑みます。今回は初演ということでプリンシパルの秋山のみ、両役を踊ってもらいます。
ジークフリート王子は3人。プリンシパルの池本祥真が秋山とともに初日を飾ります。生方隆之介は役柄を広げていく時期。南江祐生もいい資質を持っています。

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写真左より、オディールの衣裳をあわせる長谷川琴音(8/23[土]15:30出演)、秋山瑛(8/22[金]15:00, 8/24[日]11:30出演)

――公演に向けて意気込みをお願いします。

ツアーで全国各地を回る度に、バレエを初めてご覧になる方にとって、台詞があったり、コンパクトに作品をまとめたりすることが鑑賞される際の第一歩につながると身をもって感じています。原点を崩さず、皆様に愛される作品になればと願っています。

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稽古場で衣裳を確認する斎藤友佳理(写真左端)

取材・文:高橋森彦(舞台評論家)

>>>公演の詳細&チケットの購入はコチラ

ロングインタビュー2025/08/04

ベジャール振付『M』の上演にむけて -芸術監督 佐野志織スペシャル・インタビュー
三島由紀夫生誕100年という記念すべき節目の年である本年、東京バレエ団が5年ぶりに『M』を上演します。
『M』は偉大な振付家モーリス・ベジャールが東京バレエ団のために創作したオリジナルの全幕バレエ作品。抽象的で壮大なこの作品のクリエーションからダンサーとして携わり、1993年の初演舞台にも立った佐野志織(現 東京バレエ団芸術監督)が、作品を紐解き、その魅力を語ります。


―まず『M』が果たしてどのような作品なのかを監督から紐解いていただけますか?
三島由紀夫という人物を核にして、モーリス・ベジャールさんがバレエとして作り上げたのが『M』です。東京バレエ団のためにベジャールさんが『ザ・カブキ』に続き、1993年に振り付けてくださいました。「M」は三島の頭文字でもありますが、ベジャールさんは、Mer(海)、変容(Métamorphose)、死(Mort)、神秘(Mystère)、神話(Mythologie)など、「M」から想像されるさまざまなイメージに展開し、三島の生涯をバレエ作品に昇華させました。
具体的には、三島自身の複雑なキャラクターを4人のダンサーで表現。そこに彼の生い立ちや死生観、思想、聖セバスチャンに象徴される理想像、『禁色』や『金閣寺』などの作品が、コラージュのようなダンスシーンとして展開されます。三島由紀夫の象徴的なイメージが、ベジャールさんにより視覚化され、ダンスとして具現化した作品といえます。
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photo: Kiyonori Hasegawa


東京バレエ団にはベジャール作品が数多くあります。なかでも『M』、先日公演された『ザ・カブキ』は、完全オリジナル作品です。東京バレエ団にとって『M』は、どのような位置づけになるのでしょうか?
東京バレエ団オリジナルのベジャール作品としては『ザ・カブキ』が先にありました。『ザ・カブキ』は物語性のある展開でしたので、ストーリーを通じてダンサーたちはベジャールさんの「踊りの語彙」を身に着けることができました。次なる作品『M』に取り組む背景として、バレエ団のダンサーたちの身体能力や技術の向上とともに、『ザ・カブキ』に続き、『火の鳥』『春の祭典』といったベジャール作品を踊っていたことも重要だったと思います。作品を通じて、ベジャールさんが東京バレエ団のダンサーのことをよくわかってくださり、ダンサーたちもベジャール作品を深く理解する段階に達していたのです。『M』という抽象的なプログラムに取り組めたのも、そんなタイミングだったからこそ。この作品で、ダンサーとしてもバレエ団としても、さらに次の段階に進むことができたのではないかと思います。『M』はわかりやすい物語ではないので、それぞれが「感じて」「考えて」取り組まないと舞台として成立しない。そういう意味で『M』はダンサーの成長を促す作品といえます。

―初演時、鹿鳴館の円舞曲を踊られました。その時の思い出を聞かせてください。
とにかく現場は熱気に包まれていましたね。小林十市君(現モーリス・ベジャール・バレエ団バレエ・マスター、初演時には「シ(死)」役で特別参加)や高岸直樹君など、主役ともいえる「イチ」「ニ」「サン」「シ(死)」を踊る4人は互いを刺激し合い、さらにベジャールさんがダンサーたちに触発されて作品を作り上げていく様子は忘れられません。「海上の月」という母性が投影されたような役がベジャールさんの中から生まれてくる瞬間をみることもできましたし、初演で少年を演じた増田豪君の大人顔負けの演技に、私たちも頑張らなくちゃと、奮い立ったこともありました。当時は、バレエ団のスタジオが狭かったので、近くの小学校の体育館を借りて練習したこともよい思い出です。

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photo: Kiyonori Hasegawa


―いまは出演される側から指導者の立場に変わられました。
自分が踊ったものだけでなく、ベジャールさんの創作の現場で見て感じてきたものを伝えたいと思っています。ベジャールさんの振付はもとより、目に見えるだけではない各シーンの背景にあるものを、ダンサーと一緒に掘り下げていきたいと思います。振付をなぞるだけでなく、一人ひとりが深く思考しながら、共に舞台を作り上げていきたいですね。

―今年は三島生誕100年にあたります。
初演のときは、三島由紀夫の書籍や映画がまだあり、三島の世界観が漂っていました。でも、いまのダンサーたちのなかには1冊も読んだことがない者も。『M』に反映されているものだけでもいいので、三島の作品を読んでから取り組んでもらいたいと思っています。読んで、思考して、掘り下げることで、より説得力が生まれてくると思いますので。そういう意味でも『M』は、ダンサー自身の演技、表現性がより要求される作品だと思います。

―今公演のダンサーについて教えて下さい。
今回は、大塚卓が初役「聖セバスチャン」を踊ります。三島が憧れたというグイド・レーニの絵画『聖セバスチャンの殉教』のように、官能的な部分が必要な役です。とても真面目に取り組む人なので、今回もいろいろ研究してくるのではと思っています。今までみたことのないような一面を見せてくれたら、と期待しています。
また、長谷川琴音が初めて「海上の月」を踊ります。彼女の持っているおおらかさ、たおやかさを活かして、これまでとちょっと違う「月」が生まれるとよいと思っています。
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photos: Shoko Matsuhashi


主要なキャストに関しては、「イチ」を柄本弾が踊ります。私自身、彼を信頼していますし、テクニックはもちろんのこと、表現者として積み重ねてきた厚みがあるので、ぜひ注目していただきたいですね。
「ニ」は宮川新大ですが、彼は身体表現でみせていくタイプ。このところ『ザ・カブキ』の由良助や『ジゼル』のアルブレヒトなど演劇的な作品で、重みのある役を経験し、一番脂がのっている状態だと思います。
「サン」の生方隆之介は、若手でとても貪欲、しかも抜群のテクニックを持っています。同時に繊細な内面もあるので、本番ではそのエネルギーを爆発させて、カンフル剤のように、舞台に刺激を与えてくれるでしょう。
「シ(死)」の池本祥真は、容姿としても踊りの質としても、この役によく合っていると思っています。彼は普段、内面をあまり出さないタイプですが、ぐっと秘めたものを持っているダンサーです。前回公演から5年の歳月を経て成長した部分を、複雑なキャラクターの表現に活かしてくれたら、と思っています。
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photos: Kiyonori Hasegawa, Shoko Matsuhashi


―最後に今回の『M』の見どころ、バレエ団の意気込みについて教えてください。
初演から30年あまり経っていますが、とても魅力的な作品です。抽象的な作品でもありますが、「海」や「楯の会」のシーン、男性の群舞など、感情を揺さぶるシーンが散りばめられています。ダンサーたちの息遣いやエネルギーを感じ取っていただけたらと思います。
いま、東京バレエ団はダンサー一人ひとりがとても充実してきています。バレエ団としてもエネルギーに満ちていますので、『M』という繊細であり、表現力を問われる作品に向かって一致団結し、さらに深みのある舞台にすることができればと願っています。


取材・文/富川匡子(emu)



2025/06/04

ダンサーの素顔をもっと知る! Q&A【『ザ・カブキ』公演プログラム番外編】

 東京バレエ団の代名詞でもあるモーリス・ベジャールの傑作『ザ・カブキ』。昨年10月に6年ぶりとなる日本公演で成功を収めた本作が、6月27日(金)から29日(日)、わずか8カ月で再演を迎えます。
 舞台は、日本屈指の舞台機構を誇る新国立劇場オペラパレス。東京バレエ団にとっては初登場となるこの劇場で、どのような『ザ・カブキ』を魅せるのか。
 その中核を担うダンサーたちの素顔が垣間見えるインタビューを、本公演の公演プログラムにQ&A形式で掲載。ここでは、本誌に書ききれなかった貴重なこぼれ話をQ&A形式で一部ご紹介します。




■上野水香......顔世御前役

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photo: Arnold Groeschel


Q. 初演時に印象に残っていることはありますか。
A. 初めて『ザ・カブキ』に出演させていただいたのが、入団4年目の2008年のときでした。デビューは日本ではなく、海外ツアー(第23次海外公演)で、イタリアのフィレンツェ歌劇場。そこから、スペイン・パンプローナ、スイス・ローザンヌとまわりました。ベジャールさんはヨーロッパでもとても有名ですし、和を題材とした日本的なバレエ作品でしたので、各会場のお客さまがすごく喜んでくださったことを今でも鮮明に覚えています。

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2008年第23次海外公演スイス・ローザンヌ公演より。 @ボーリュー劇場
photo: Philippe Pache

Q. 海外公演でほかに思い出深いことがあれば教えてください。
A. 2012年にパリ・オペラ座で上演したときのことです。フランス人の方々が書き込んでいる掲示板をたまたま見たのですが、公演に対する讃辞のほかに、私の顔世御前が良かったと多くコメントをいただいてびっくりしました。誰でも自由に書き込めるので、辛辣なコメントを書かれてもおかしくないはずなのに。目の肥えたフランスのバレエファンの方々に満足いただけたようで嬉しかったですね。それ以降、つらいことがあっても、このパリ・オペラ座公演のお客さまたちの反応や言葉を思い出し、励みにしています。

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2012年第25次海外公演パリ公演より。 @パリ・オペラ座ガルニエ宮
photo: Sébastien Mathé 

Q.友だちになれそうな役は?
A.イノシシ。とにかく可愛いので。一緒にいると癒されそうですし、打算なく付き合える気がします(笑)。

Q.最近のハマりもの
A.鳩サブレ。地元・鎌倉の銘品で、長年食べ続けていますが、まったく飽きることなく、いついただいても本当に美味しいです。





■沖香菜子......おかる役

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photo: Kiyonori Hasegawa


Q. 友だちになれそうな役は?
A. おかるです。2013年に初めておかるを踊らせていただいてから、約12年間、向き合ってきた役なので。ずっとおかるという女性について考えてきましたが、「いい人」であることは間違いないと思っています。悪い人の要素がひとつも見当たらないんですよね。純粋に勘平のことが好きで、彼のために何かできることはないかを考えて、常に一生懸命。彼が亡くなってもなお一途に思い続けて......すごい女性だと思います。

Q.最近のハマりもの
A. 最近ではありませんが、両親の影響で子どもの頃からずっと横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)の大ファンで、ファン歴20年です! 両親がファンクラブに入っていたので、幼いときはよく球場に試合を観に行っていました。今は時間がなくてテレビ観戦にとどまっていますが、時間ができたら観に行きたいですね。

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photo: Shoko Matsuhashi







■柄本 弾......由良之助役

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2024年公演より。
photo: Shoko Matsuhashi


Q. 初めて由良之助を踊られたときのエピソードをお聞かせください。
A. 高岸直樹さんと数か月スタジオにこもり、マンツーマンで指導いただいたことが印象に強く残っています。他のダンサーたちと合わせたのは、本番直前のリハーサル数回で、ほぼ直樹さんと一緒でした。由良之助という役は、それぐらいみっちり稽古をして向き合わないと踊れないのだと知り、責任の重さを実感。「46人を背中で引っ張っていくように」と言われ、今も自分が引っ張っていけているかどうかはわかりませんが、強い気持ちを持って、毎回舞台に臨みます。


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2010年初役時の公演より。
photo: Kiyonori Hasegawa


Q. 初演されてから15年、気持ちや踊りに変化はありましたか。
A. そうですね。この15年の間に世代交代があり、気がつけば自分が年長者になったこと、また一昨年前からバレエ・スタッフとして指導に携わらせていただいているので、立場が変わりました。当時は自分のことで精一杯でしたが、回を重ねるごとに少しずつ解釈が変わってきましたし、昨年10月の公演では宮川新大が八代目由良之助を務めることになり、バレエ・スタッフとしてかかわりながら新大の踊りを通して「こういう表現もあるんだ」と新しい気づきもありました。これからも変化していく可能性はあると思います。

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photo: Shoko Matsuhashi

Q. 最近のハマりもの
A. ゴルフ。もともとスポーツをすることが好きで、バスケットボールをはじめ、いろいろなスポーツをしてきたのですが、その中でも海や山など自然の中で行なう競技が好きだったんです。ゴルフは競技自体も面白いですけど、やっぱりなんといっても魅力は自然の中で行うところ。ハードな動きがあるわけではないので、リフレッシュできますしね。最近は時間がなくて行けていないので、休みがあったら行きたいです。





■宮川新大......由良之助役

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2024年公演より。
photo: Shoko Matsuhashi


Q. どんな由良之助を演じたいですか。
A. これまで、東京バレエ団の素晴らしい先輩たちがこの由良之助を踊ってこられました。歴代の先輩方をみていると、僕は由良之助が持つ強靭なリーダーシップがあるほうではないタイプだと思っています。現代から急にタイムスリップしてしまい、戸惑っているうちにいろいろな出来事に遭遇し、運命に翻弄されて気がついたらリーダーになっていた、という感じでしょうか。塩冶判官の自死を目の当たりにして、ようやく覚悟を決め、まわりを引っ張っていきます。
何が正解なのか、そもそも正解があるのかすらわかりませんが、ベジャールさんの振付は、それを忠実に踊るだけで役ができあがるようになっていますので、まずは前回の踊りをブラッシュアップし、いい舞台になるよう精一杯頑張りたいと思います。

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photo: Shoko Matsuhashi





■池本祥真......勘平/伴内/ヴァリエーション2

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2024年公演より。
photo: Shoko Matsuhashi


Q.『ザ・カブキ』のもっとも好きなシーン
A. 好きというより、毎回印象に残るシーンなのですが、討ち入りに行く直前の場面。「これから行くぞ」という覚悟をして、四十七士の気持ちが徐々に高ぶるとともに、音楽もどんどん盛り上がっていきます。死を覚悟して挑むわけですが、四十七士それぞれに人生があり、その命がもうすぐ尽きようとしていることを考えるだけでぐっと込み上げてくるものがあります。

Q. 最近のハマりものは?
A.ドライブ。車とバイク、両方乗ります。海も山も行きますし、首都高をはじめ都内もよく走っています。最近は静岡に行ったのですが、晴れた日の海沿いを走ってとても気分がよかったです。いい気分転換になるのでオススメです。

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公演プログラムでは、プリンシパル、ファーストソリスト、ソリスト30名のコメントをたっぷり収録しています。ぜひ劇場でお求めください。



取材・文=鈴木啓子(編集者・ライター)



レポート2025/04/21

〈Choreographic Project 2025〉上演レポート

「振付家・ダンサー双方の創造力・表現力を刺激し、アーティストとしてのモチベーションを高めてもらいたい」という、団長・斎藤友佳理の強い想いから、2017年にスタートした〈Choreographic Project〉。今回もダンサーが振付のみならず、衣裳や照明などもすべてプロデュースし、クラウドファンディングにも挑戦した手作りの公演が実現。多くのご支援によって実現した〈Choreographic Project 2025〉初日(3月29日)の様子をレポートします!



東京バレエ団のスタジオ内に暗幕が張られ、芝居小屋を思わせる雰囲気は健在だが、今回は正面と両サイドの3方向から舞台を囲むように客席の配置を変更。今までよりも舞台が近く感じられる。客席には〈Choreographic Project〉オリジナルグッズを手にした観客も多く、このプロジェクトが熱いファンたちに支えられている様子が伝わってくる。
開演するとマイクを手にした富田翔子が登場。恒例となった、ダンサー数名が開演前の注意事項(スマホはOFFに、飲食は禁止など)を演技で伝えるパフォーマンスに、客席から温かい笑い声が上がった。

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最初に上演されたのは、宮村啓斗振付の『行方』。宮村本人と陶山湘によるデュオで、黒いシンプルな衣裳を身につけたふたりがジャンプや跳躍を繰り広げ、高い身体能力をこれでもかと見せつけた。赤い照明の下、高低差のある激しいムーブメントが連続し、戸惑いや葛藤、焦燥感などが表現される。カーテンコールでは、晴れやかな笑顔を見せたのが印象的だった。

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『行方』より


2番目の作品は、山下寿理による『teenage dream』。振付家からのメッセージには「大人じゃない、子どもでもない 今の私です」という言葉が添えられている。ダンサーとして山下自身が登場。身体を大きくひねったり、回したりと伸びやかな動きには、成長期の子どものような素朴な魅力がある。ラストは両手を広げて飛行機のように旋回し、今の自分を肯定するような解放感に満ちていた。

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『teenage dream』より


涌田美紀が振付けた『Sweet and Sour』は、文字どおり「甘酸っぱい」作品である。"友だち以上恋人未満"のカップル(中沢恵理子、山下湧吾)が、キスしようとしてうまくいかなかったり、ちょっかいを出してカマをかけてみたりと、甘酸っぱい関係を好演。軽やかなリフトやカノンの動きが多く、ふたりの心情がダイレクトに伝わってくる。カップルのもとに突如現れた、女性の母親役の伝田陽美はコミカルな動きで笑いを誘った。

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『Sweet and Sour』より


続く山田眞央振付の『Juice』は、ふたりの男性(山仁尚、青木恵吾)の関係を表した作品。片方が相手を導くこともあれば、寄り添ったり、抱え合ったりと協力し合うこともあり、シンプルな振付のなかに温かな友情が感じられる。椅子2脚に昇降したり、背もたれに足をかけて傾けたりと、心の機微を表すのに椅子が効果的に用いられた。ふたりの関係含め、想像の余地が多分にあるところもユニークだ。
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『Juice』より


木村和夫による『「カプースチン組曲」よりトッカティーナ』は、超絶技巧を得意とした作曲家、ニコライ・カプースチンの音楽に振付けた作品。足立真里亜は白のチュチュ、橋谷美香は黒のチュチュを身につけ、力強いポワントワークを披露する。だが、踊り自体はまるで即興のジャズのようで、客席を挑戦的な眼差しで見つめ、あえてターンアウトせずにア・テールの動きもあり、どこか"普通じゃない"雰囲気が面白い。振付家からのコメントに「彼(カプースチン)のテクニックの裏に隠された凶器が舞台に挑むダンサーたちへ憑依する」とあり、納得した。

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『「カプースチン組曲」よりトッカティーナ』より


6番目の作品は、平木菜子が振付けた『Existence』。オレンジ色の照明の下、伝田陽美と陶山湘が大きな身体を豊かに使い、客席を圧倒した。『ドン・キホーテ』のエスパーダのような動きが、ふたりのキリッとした個性によく合う。大きなジャンプが多く、ふたりの長い手足が目の前でダイナミックに跳ね、見ごたえ十分。至近距離で見られる本プロジェクトならではの贅沢な時間だった。

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『Existence』


金子仁美自身が振付け、出演した『Dear...』は、ともに踊った髙浦由美子との関係を表した作品。振付家からの言葉を読むと、出会ったころは気持ちがすれ違うことが多く、理解されない苦しみを抱えていたふたりは、次第にかけがえのない仲間になっていったという。白い服を着た金子と髙浦は、互いの動きを柔らかくなぞりながら、友情と愛情を表現。爽やかな春を感じさせる作品となった。
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『Dear...』より


本プロジェクトの常連振付ダンサーであるブラウリオ・アルバレスは、ふたつの作品を上演。ひとつめの『おじいちゃんとおばあちゃんの夢の世界』は、縁側でお茶をすすっていた老夫婦(福田天音、小泉陽大)が眠りに落ちると、夢の中でいきいきと踊り出す。ただ、ふたりは肉体的に若返るのではない。肉体は老夫婦のまま、何歳になっても心の中にある若い魂が踊り出すのだ。福田と小泉は老夫婦の心にある"若さ"をみずみずしく表現し、誰もが笑顔になる愛らしいパ・ド・ドゥが生まれた。

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『おじいちゃんとおばあちゃんの夢の世界』より


アルバレスによるもうひとつの作品『In the Memory of...』は、振付家のコメントによると夢の中で出会った喪失による痛みに苦しむ女性を助けるために作られたという。ブルーの照明の中、5人のダンサー(中川美雪、榊優美枝、瓜生遥花、大坪優花、前川琴音)は水中の魚のようにたゆたう。繋がっていたはずの5人はいつしかほどけ、流れ、絡まり、もがき、また集まることを繰り返しながら運命に抗っていく。静けさの中に痛みを癒す力も秘めた、祈りのような作品だった。

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『In the Memory of...』より


最後に上演された『Waltz』は、井福俊太郎からの依頼によって、岡崎隼也が振付けたソロ作品。オリヴァー・デイヴィスによる楽曲も井福からの希望で、岡崎はその音楽および井福自身と対話するように、また身体に訴えかけるように作り上げたという。瞬発力の必要な動きが多いが、井福は時に力を抜きながら、キレ味鋭く踊る。呼吸、身体、音楽が溶け合い、身体から音が鳴っているかのよう。井福の新たな一面に出会える作品となった。

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『Waltz』より


今回は新たに振付にチャレンジしたダンサーが4名と、年を追うごとにプロジェクトに参加するメンバーが増えていき、ダンサーたちの可能性が引き出されている。また来年(2026年)も上演を予定しているそうなので、これからも新しい才能との出会いに期待したい。



取材・文=富永明子(編集者・ライター)
photos: Koujiro Yoshikawa


レポート2025/02/06

【レポート】小林十市が語る、ベジャールの魅力と『くるみ割り人形』の世界

いよいよ27()に開幕するベジャールの『くるみ割り人形』。上演に先立ち昨年12月、モーリス・ベジャール・バレエ団バレエマスターの小林十市さんによるトークショーが開催されました。ベジャール・バレエ団での日常や初演の際のエピソードなど、貴重な話が繰り広げられた当日の模様をレポートします。

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モーリス・ベジャール・バレエ団での新しい日々

司会:小林十市さんがモーリス・ベジャール・バレエ団[以下BBL]のバレエマスターに就任して3シーズンが経ちました。再びバレエ団に戻ってみて、特に印象深かった出来事はありますか?

小林:バレエ団に戻ってから、僕がレッスンを受け持つことになった一番最初のツアーですね。二十数年ぶりにイタリアのトリノを訪れたのですが、昔の思い出が頭の中に甦って、"本当にベジャール・バレエ団に戻ってきたんだろうか"と、自分がバレエマスターとしてここにいることが不思議な感覚でした。ジル(・ロマン 元芸術監督)がオーケストラにテンポを指摘する時などに隣にいても、その光景を客観視している別の自分がいるんです。ベジャール・バレエ団の一員としてその場にいるのが、すごく不思議でした。

司会:芸術監督がカンパニーを16年間率いてきたジル・ロマン氏からジュリアン・ファヴロー氏に替わって、バレエ団の中にどんな変化がありますか?

小林:ベジャール・バレエ団のリハーサルは作品にもよりますが、ジル・ロマンが退任するまでは、僕ドミニコ・ルブレ、エリザベット・ロスが個々に指導したものをジルが総まとめする、というスタイルでした。今はジュリアン・ファヴロー(現芸術監督)が最終的に見るわけですが、シーズン始まった当初は、親をなくした子どもたちだけになっちゃったな、僕らでやっていかなきゃいけないんだな......と思いましたね。今は4人の指導者が情報を共有し、別々なことを言わないように気をつけながらリハーサルをまとめるようにしています。

司会:バレエマスターとしての十市さんの一日の仕事の流れを教えていただけますか。

小林: バレエ団に戻ってきてまず、デスクとパソコンをもらったんですよ。"いらないと思います"と言ったのですが、フランスのコンセルヴァトワールからの研修依頼などには、僕が返信をしないといけないんです。オーディションのメールを捌くのも僕の仕事。ですので、毎朝デスクワークから始まります。まずパソコンに向かってメールチェックをして、それからレッスンを指導する時は1時間くらい前からスタジオに入って準備します。レッスンが終わって日によって違いますが受け持つリハーサルがあればリハーサルへ。そして舞台がなければ夕方には終わります。舞台がある時は朝、レッスンして、劇場に行って当日のキャストの確認、場当たり、リハーサルを見て本番。本番は客席から見て、ジュリアンが踊る日は僕一人ですが、ジュリアンが踊らない日は一緒に見ます。

 

モーリス・ベジャールと創り上げた『くるみ割り人形』

司会:ここからは2月に東京バレエ団が上演するベジャールの『くるみ割り人形』について伺います。十市さんは初演の際にはメインキャストのネコのフェリックスを演じられました。

小林:1998年に最初に『くるみ割り人形』を創作した時、ベジャールさんがバレエ団の食堂にいた僕のところに来て、「十市、またネコなんだけど」と(笑)。思わず「またですか?」と言ってしまったんですよね。ベジャールさんは「うーん、他の動物では......」と考えながら行ってしまって。後日「犬とか色々考えたんだけど、やっぱりネコ」と言われ、「わかりました」となったのを覚えています。僕は『エレジー』と『Mr.C...チャップリン』という作品でネコの役を踊ってきて3目だったのですが、ベジャールさんは「今回はちょっと雰囲気を変えて『ニーベルングの指輪』でジルがやったローゲ役の鬘をつけるんだよ」と。でもジルが僕が鬘を使うことを嫌がったらしく、結局地毛でやることになりました。地毛を固めて、その上からさらに赤いスプレーをかけるので髪が大変なことに。終わった後はシャンプー3回しないと落ちなくて(苦笑)

司会:パリのシャトレ座の公演で、急遽グラン・パ・ド・ドゥのヴァリエーションを踊ることになったと聞いています。

小林:パリでロングラン公演があったのですが、その初日か二日目にドメニコ・ルヴレがふくらはぎを痛め、ベジャールさんに「自分の好きなソロでいいから踊ってくれ」と言われました。どの振付で踊ろうかとかなり悩みました。クラシックのソロなのでごまかしがきかない。そのうえ、シャトレ座の舞台には微妙な傾斜があるんです。その時、指導にきていたメイナ・ギールグットさんが「もう一回やるんだったら余計なこと入れないでシンプルにやりなさい」と。最後のマネージュしている時に「これはしくじったかな」と思ったのですが、蓋を開けてみたらベジャールさんが映像に残す際に選んだのはこのバージョンでした。

 

工夫を加えて膨らませたフェリックスの役

司会:初演当時で印象に残っていることはおありですか?

小林:創り上げていく過程でベジャールさんから細かく演出された記憶は全くないですね。自分で状況を把握して創っていかないといけない。待機している時もそこにある椅子だったりスピーカーに登ったり、ネコとして割と自由に動いていましたが、それでOKでした。メイクも自分で考えてやっていました。今でも東京バレエ団に受け継がれています。ほかには後ろ足を尻尾に見立てるとか、目を見開いて一点を見続けるとかも工夫しました。ネコを観察して付け足した部分もありますね。M...役とフェリックスの掛け合いも決まり事はなく、毎公演ほぼアドリブでやっていました。

司会:初演から歳月を重ねて振り付けが変わった部分はありますか?

小林:ないですね。東京バレエ団ヴァージョンはキューピーさん(飯田宗孝)がいたのでアコーディオニストの部分が少し違いますが。ベジャール・バレエ団も2018年に再演した時はアコーディオニストの人を呼んで初演のまま上演したはずです。今回の東京バレエ団の公演ではキューピーさんの部分をオマージュとしてジルが踊ると聞いています。ジルはそのままはやらないかもしれないので楽しみな部分ではないでしょうか。あと、鐘が12回鳴る場面でフェリックスが横切る時に、一回ごとに客席の方を向いて舌を出しているんですが、あればベジャールさんが一回ごとに舌を出してくれと言ってそうなっていたのですが、ジルは知らなくて「えっ!そうなの?」と驚いていました。

司会: 他の役や装置にも色々なエピソードがありそうですね。

小林:ベジャールの『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥはプティパとイワーノフの原点に近いバージョンで、女性にはとてもハード。2000年の世界バレエフェスティバルでクリスティーヌ・ブランと東京バレエ団の木村和夫くんが踊った時にシルヴィ・ギエムが「私は絶対これは踊りたくない」と言ってました(笑)。あと、ベジャール・バレエ団のヴィーナス像、実はちょっとヒビが入っているところがあります(笑)。

 

今のダンサーに伝えていきたいこと

――――ここでトークイベントの来場者からの質問にも答えていただきました。

Q光の天使は初演の際にどんなイメージで創作された役ですか?

小林:男性二人の拵えは、ベジャールさんが確かドイツだったかな?どこかのキャバレーの写真を持ってきて、こういう雰囲気でやりたいんだ、と、言っていたのを覚えています。

Q録音のテープで練習、本番がオーケストラだと大変、とおっしゃっていましたが、どのように大変なのですか?

小林:そもそもベジャール・バレエ団はオーケストラで踊る機会がそう多くないので慣れていないんです。ずっとテープで踊ってきた音の流れで本番がオーケストラだと感覚が違ってしまうので、本番では音をよく聴くしかないですね。リハーサルではベジャールさんが客席から指揮者に、そこはもう少し速く......などとテンポを指示することもありました。

Q大きな怪我をされたことがあるかと思いますが、どのようにメンテナンスされていますか?

小林:脚の小指を骨折したことがあります。あと、椎間板がないです(笑)。これまで体を酷使してきましたが、メンテナンスはほとんどしていません(笑)。ローザンヌではバレエ団にマッサージ師がいた時期があるのですが、リハーサルが終わる頃には帰ってしまい受けられない。置き鍼のテープが効くのは感じていて、今回の来日で鍼治療に行ってみたいと思っています。もう少し自分の体を労らないといけないのですが、好きな踊りの世界なのでそんなに苦ではないですね。

Q ベジャールさんの指導はそんなに細かくなく、ある程度ダンサーに任されているとのお話でしたが、任されている部分は日々変えていくのでしょうか?

小林:変えます。ジルとの掛け合いもありましたし、今日は椅子の横、今日は椅子の上...と、踊っている合間の待っているポジションや場所も変えていましたし、何でも冒険させてくれて、役柄でいてくれさえすればOKでした。もちろんベジャールさんの解釈と違えば言われることもあります。指摘されたことはほとんどないですが。でもそれはベジャールさんがいたからこそできたんです。今のダンサーたちは変えられない。僕は今、ダンサーたちに"もし、そこのジャンプを変えたければ変えてもいいんだよ"と言っています。ダンサーの個性は各自違うので、作品の流れの中であれば、変えてもいい、と。でも変えるのはなかなか度胸がいりますしやる人はいませんね。初演の時はベジャールさんがいても、ジュリアン、エリザベット、ドメニコの4人とも解釈が違う時だってあったわけで、僕は今、そこを話し合いで埋めてダンサーたちが混乱しないようにベストを尽くしています。自分が踊ったものに関しては自分のこだわりがあるので、こうしてみたらどうだろう、ベースからこういうこともできる、ああいうこともできる、と自由度を増やすように教えていますが、難しいところですね。でも初演の映像を見返した時にベジャールさんがやろうとしていたこと、アイディアだったりが見えてくることがあるので、そこはジュリアンもそうですし僕も、今のダンサーたちを通して作品の中で生かせるように努力しています。

 

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そんな多忙な毎日を過ごす小林十市さんは休日もバレエ団のことを考えることが多く、つかの間の楽しみはオフの日のツーリング。特にモントルーに行く湖沿いの道がお気に入りとのこと。

最後に「健康であれば舞台も観にいくことができるし、踊れるし、こうしてトークショーもできたりするので、皆さん体にはお気をつけて」と締め括った小林十市さん。新作が生まれ受け継がれていく過程に立ち会ってきた立場ならではの貴重なお話に、公演への期待がますます高まりました。


文:清水井朋子(ライター)

海外ツアーレポート2024/12/18

東京バレエ団〈第36次海外公演 ─ イタリア〉 全日程が大盛況のうちに終了!

東京バレエ団と上演作品への深い理解と期待、熱い反応に包まれたツアー。

 東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、プティパの古典とモーリス・ベジャール、イリ・キリアンそれぞれの傑作を携えて2024年11月12日にカリアリで開幕。11月29日にリミニにおける最終公演を終え、カリアリ、バーリ、ボローニャ、リミニと続いた4都市13公演をすべて終了しました。カリアリ7公演こそ尻上がりの観客動員となったものの(最終日は満席)、続くバーリ4公演、ボローニャとリミニ公演は早々にチケットが売切れとなり、いずれの公演でも最後は熱狂的な拍手と歓声に包まれました。

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(左)カリアリ歌劇場 カーテンコール photo: Marco Ciampelli
(右)バーリ、ペトゥルツェッリ劇場 カーテンコール photo: Clarissa Lapolla


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(左)ボローニャ歌劇場(新劇場) カーテンコール photo: Andrea-Ranzi by kind concession Teatro Comunale di Bologn
(右)リミニ、アミントーレ・ガッリ劇場 カーテンコール photo: Ayano Tomozawa


 最初の公演地、サルデーニャ島のカリアリでは、「春の祭典」の総仕上げのために、初日に先駆けて元モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督のジル・ロマンに合流してもらいリハーサルを実施。万全を期してステージに臨みました。本ツアー中、カリアリ公演のみ、ポール・マーフィー指揮、カリアリ歌劇場管弦楽団による生演奏で上演(他公演は録音音源を使用)。「春の祭典」はこれまでも有名オーケストラと度々共演してきましたが、「小さな死」(モーツァルト ピアノ協奏曲第23番と第21番の緩徐楽章)をオーケストラ演奏で上演したのは初めてのことでした。また、本ツアーを通して何人ものダンサーが初主演を経験。「ラ・バヤデール」より"影の王国"のニキヤ役で金子仁美、ソロル役で生方隆之介が、「春の祭典」の生贄役で大塚卓-榊優美枝/南江祐生-長谷川琴音が主演を果たし、「小さな死」では秋山瑛、南江祐生がデビューを飾りました。

 東京バレエ団は海外ツアーで、ミラノ・スカラ座やローマ、フィレンツェを始めとするイタリア各地を何度も訪れており、現地の劇場関係者、評論家、バレエ/ダンス愛好者の間で一定の認知を得ています。そうした土壌もあり、今回いずれの公演地でも、事前に現地プレスによってバレエ団やプログラムについての詳細な、期待に満ちた紹介がされました。

カリアリ
「名門バレエ団が8年ぶりにカリアリに戻ってくる」(Rai News) 
「カリアリ歌劇場シーズンの待望第2弾は、現代振付の上演について最も優れた伝統を持つ東京バレエ団による、偉大なコンテンポラリー・ダンスの再来」(Cagliari post) 

●バーリ
「 創立60周年を迎えた東京バレエ団が、ボローニャでデビューを飾る。日出ずる国で最も有名なこのバレエ団は、日本人の西洋バレエに対する熱烈な愛の象徴として、60年にわたり世界の主要な劇場に招かれてきた。東京バレエ団のレパートリーは、ロマン派・後期ロマン派バレエの古典から、20世紀を代表する振付家の傑作、現代バレエの巨匠たちによる東洋的な趣向を凝らした作品まで、膨大で質の高いものばかりだ」(Il Resto del Carlino)

●ボローニャ、リミニ
「創立60周年を迎えた歴史あるカンパニーが、明日、コムナーレ・ヌーヴォーで3つのヒット作を上演する」(Il Resto del Carlino)
「ダンサーの技術的水準だけでなく、振付の芸術的な深みでも高い評価を得ている東京バレエ団をイタリアの観客が目の当たりにできる貴重な機会だ。 舞台芸術が近年の困難から立ち直ろうとしている今、東京バレエ団の登場は、イタリアの文化シーンに新鮮な空気と活力を吹き込むものだ。バレエ史上、最も美しく重要な振付の数々を舞台で鑑賞できるこのまたとない機会を、舞踊ファンや文化愛好家は見逃すわけにはいかない」(Normanna news)

各紙の公演評に目を通すと、携えていった5つのレパーリー──「ラ・バヤデール」"影の王国"、キリアン振付「ドリーム・タイム」「小さな死」、ベジャール振付「春の祭典」「ロミオとジュリエット」への深い理解のもとにパフォーマンスへの優れた考察がされており、何より観客がこれら現代作品中心のプログラムを熱狂的に受け入れていたのが印象的でした。

以下に主だった現地の公演評を抜粋で紹介します。

●アンサ(共同通信社) 
創立60年となる東京バレエ団の三部によるプログラムに盛大な拍手

東京バレエ団は創立60周年を祝し、イタリアツアーを行っている。その第一歩がカリアリから始まった。著名な日本のバレエ団はサルデーニャの首都カリアリの次はバーリのペトゥルツェッリ劇場で、その後ボローニャ市立歌劇場とリミニのガッリ劇場で公演する。
カリアリオペラ劇場の舞台初日は1800年代と1900年代のバレエ作品の傑作が三作品上演され、観客からの温かい拍手と歓声に包まれた。
ポール・マーフィー指揮の歌劇場オーケストラの演奏で、著名なる日本のバレエ団は偉大な巨匠によって振付けられた作品を演じ、観客に濃厚な感動の一夜を与えてくれた。

●バーリセーラ ニュース Bari Sera news
ペトゥルツェッリ劇場で陶酔:東京バレエ団の芸術が観客を魅惑する
ジョヴァンニ・レッキア

ペトゥルツェッリ劇場の観客は東京バレエ団の巧妙さと優雅さに文字通り魔法にかけられたようだった。どの動きも、どの仕草も、どの音符もすべてが忘れられない経験を創造することに貢献し、バレエという芸術が人間の魂の最も深い部分に触れる感動を呼び起こすことを実証したのである。バレエ団はこの公演を心底評価した観客からの拍手喝采とスタンディング・オベーションを受けた。この公演は、観ることが出来た幸運な人々の記憶に長い間残ることだろう。


●南イタリア新聞 La Gazzetta del Mezzogiorno
ぺトゥルツェッリ劇場における東京バレエ団による感動のダンス
斎藤友佳理団長率いるバレエ団の公演を堪能した観客が拍手喝采
パスクワーレ・ベッリーニ

日本のダンサーたちのテクニックのレベルの高さは非の打ち所がない。この数日ペトゥルツェッリ劇場で公演中の東京バレエ団の、魅了する明確な振付への忠実さは、どこか形式を尊重する日本製の版画のごとく卓越している。(略)

エロスの「扱い」が全く違うのが、熱望と性を描いた『春の祭典』だ。この類まれな素晴らしい作品が東京バレエ団公演の最後を飾った。ストラヴィンスキーの音楽に振付けられたベジャールの創作は肉体の欲望と官能の極限がダンサーの動きで爆発的に表現され、目が眩むほどのダンサー全員の完璧な融合性と驚くべき体力と魔的な激しさに圧倒された。(略)

東京バレエ団のダンサーたちのテクニックと一致性は非の打ち所がない。肉体のマグマ(混合した感情や情熱)、繊維状にも見える裸体、何世代にも渡る生来の体型であろうか、50人もの体が絶え間なく動くのだが、それはまるで渦を巻く物体のように幾何学的形状や大きさを構成したり解体したりするのだ。初日からペトゥルツェッリ劇場の多くの客席を埋めた観客は日本のバレエ団の公演に盛大なる拍手を送った。


●シラノポスト Cirano post
イリ・キリアンとモーリス・ベジャールという天才的な振付家の作品が東京バレエ団の完璧な美しさで表現することによって再現され、ペトゥルツェッリ劇場の観客の胸の鼓動を高ぶらせた。
パスクワーレ・アットリコ

東京バレエ団は伝統的な振付の創作者の中でも、常に世界で最も高名な振付家の作品に注目してきた。その姿勢は1964年の創立時から変わらず、幅広いレパートリーはクラシック・バレエ、ネオ・クラシック、現代作品と少しの隔てもなく広がっている。西洋の振付家や東洋の振付家の作品もレパートリーに含まれている。それはむしろ、この日本のバレエ団の大きな強みになっていると言える。クラシックとモダンの不思議な混交を成立させているがゆえに、現実的にはこれほどまでに遠く、対照的である二つの世界が完全に融合し、我々が共通の人間であることを確信させ、舞台上で何が起こっているのかを完全に理解させてくれる。肉体が空中で描くシンボルや隠されたメッセージ──実際には我々が良く知っていることであるのだが──が何を意味するのかを知らせてくれる。そこにはある種の言語やある種の文明が、そして多分、乏しい我々のとは異なる人間性が存在しているのである。(略)

完璧なまでの日本のバレエ団によって巨匠による振付という芸術が益々意味深長な作品となった。彼(編注:ベジャール)が好んで語っていた言葉、つまり「最小限の解説、最小限の秘話と最大限の気持ち」が素晴らしく表され、強力な感動と抑えられない感情と忘れがたい感動の源となったのである。(略)

東京バレエ団は再び世界に、そして特に、真に心から熱烈な歓迎を拍手で表したペトゥルツェッリ劇場の観客に、人を惹きつける力を存分に表した。すべての芸術の母と考慮される訳を明らかにしたのである。



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(左)「ラ・バヤデール」"影の王国" photo: Andrea-Ranziby kind permission of Teatro Comunale di Bologna
(右)「ロミオとジュリエット」よりパ・ド・ドゥ photo: Clarissa Lapolla


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(左)「ドリーム・タイム」 (右)「春の祭典」 photos: Clarissa Lapolla


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「春の祭典」 photos: Clarissa Lapolla

東京バレエ団 第36次海外公演概要
 実施期間:11月8日(金)バレエ団出発~12月1日(日)帰国
 公演回数:4都市 全13公演
 開催都市:カリアリ、バーリ、ボローニャ、リミニ
 参加人数:約90名(ダンサー、スタッフ含む)





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 東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を実施。このツアー全体が終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国158都市、通算799回の公演を達成しました。

海外ツアーレポート2024/12/10

第36次海外公演 イタリアツアー便り4 ─ボローニャ、リミニ
東京バレエ団のイタリアツアーに通訳、コーディネーターとして同行したオペラ演出家の田口道子さんのツアーレポート第4弾。最終回です。


ツアー最終のボローニャとリミニはいずれも完売。ボローニャは若い観客で熱気があふれ、"リミニの宝石"ガッリ劇場での公演も大歓声のうちに終演。

 バーリのペトゥルツェッリ歌劇場で、連日チケット完売で大成功のうちに4公演を終えた東京バレエ団は11月25日に次の公演地ボローニャへと出発した。約600kmの距離をバスで移動である。90名近いバレエ団一行のそれぞれが20kgのスーツケースを持っての移動となると、大型バスが最良の方法だろう。一行は出発してから8時間後にボローニャのホテルに到着した。

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リミニ、アミントーレ・ガッリ劇場でのカーテンコール。 photo: Ayano Tomozawa


 ボローニャ市立歌劇場は1768年に建てられた伝統的な美しい劇場だが、目下修復中のため旧市街から離れた見本市会場の近くに建てられた仮設の劇場でシーズンが行われている。1年前に工事が始まり来年3月には完了の予定だが、工事が遅れていて、オープニングは多分来年10月になるだろうとのことだ。仮設劇場の舞台は制限が多くて『ラ・バヤデール』の舞台装置は組めないし、『春の祭典』の黒幕の振り落としも断念しなければならなかった。

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ボローニャ歌劇場(仮設の新劇場) photo: Andrea Ranzi by kind permission of Teatro Comunale di Bologna


 27日、ボローニャでの公演は1回だけだったこともありチケットは大分前から完売していた。国営放送RAIのローカルニュースで紹介されるとのことで、クルーが打ち合わせに来た。翌日7時半のトークショーの冒頭と14時のニュースで放送されるとのことだった。
 開場すると1500の客席は老若男女でアッという間に埋まった。若い観客が多いと思ったところ、30歳以下のチケット代は半額(一般70ユーロ、30歳以下35ユーロ)とのことだった。
ボローニャのプログラムは『ラ・バヤデール』(影の王国)、『ロミオとジュリエット』、『春の祭典』で、翌日移動するリミニと同じだ。若い年齢層の観客が多かったせいか、拍手と共に歓声があがり劇場中が熱気にあふれた。カメラを回していたRAIのクルーが「素晴らしい! これは14時のニュースだけでなく、19時30分のニュースでも流すべきです。」と興奮気味に言った。

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ボローニャ公演のカーテンコール photo: Andrea Ranzi by kind permission of Teatro Comunale di Bologna


 28日、いよいよ最後の公演地リミニに移動した。ボローニャからはアドリア海に向かって110km南下したリミニは遠浅の砂浜があるリゾート地だ。しかし、この町の歴史は古く紀元前268年にローマ帝国の植民地として建設された。後に東ローマ帝国の統治下におかれたが、中世にマラテスタ家によって自治権が獲得された。旧市街は城壁で囲まれ、所々に遺跡が残っている。東京バレエ団が公演したガッリ劇場は1857年に建立されたが、1943年第二次世界大戦で爆撃を受けて損壊した。そのまま40年以上経過した1975年に劇場再建が決まったが、実際に工事が始まったのは2010年だった。5年後の2015年に完成して、2018年に再オープンした800席の劇場は「リミニの宝石」となった。
 14時のニュースでは「創立60年を迎えた世界でも著名な東京バレエ団」と紹介され、2分近く映像が流された。

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開演前のリミニのアミントーレ・ガッリ劇場、客席。 photo: Ayano Tomozawa


 21時いよいよイタリアツアー最後の公演が始まった。長かったツアー最後の公演とあってか、ダンサーたちの気迫が伝わって最高に素晴らしい舞台になった。観客は惜しみなく拍手を送り、口々に素晴らしい、観に来てよかったと言いながら笑顔で劇場を後にした。

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(左)「ラ・バヤデール」上演前に。(右)「春の祭典」より。 photos: Ayano Tomozawa


 無事に全公演が終わった後もスタッフたちは舞台の道具をばらしてコンテナに積み込む作業が残っている。スエズ運河が閉鎖されているために、コンテナが喜望峰を回って横浜の港に到着するのは来年2月半ばだそうだ。スタッフたちが作業を終えてコンテナの鍵を閉めた時は午前1時を回っていた。
 30日、一行は午前6時半にホテルを出発して、ボローニャ空港からローマ空港で乗り換えて帰国の途につく。22日間の長いツアーは移動日以外連日のクラスとリハーサルで強行軍だったけれど、観客の拍手と歓声に励まされたことだろう。久しぶりに実現したヨーロッパでの公演は大成功で幕を閉じた。みなさん、お疲れさまでした!
                            田口道子(オペラ演出家)



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東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、株式会社木下グループの支援のもと、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を実施。このツアーが終わった時点で、東京バレエ団は海外公演33か国158都市、通算799回を達成しました。





海外ツアーレポート2024/11/26

第36次海外公演 イタリアツアー便り3 ──バーリ
東京バレエ団のイタリアツアーに通訳、コーディネーターとして同行している、オペラ演出家の田口道子さんのツアーレポート第3弾をお届けします。


麗しきバーリのペトゥルッツェッリ劇場4公演はソールドアウト。「夢のような舞台」と、訪日経験のある観客。

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開演前。赤と金の内観が豪奢なペトゥルッツェッリ劇場 photo: Clarissa Lapolla


 11月18日、まだ日の出前の午前6時30分にカリアリのホテルから空港に向かったバスの1号車に、2号車から連絡が入ったのは出発して間もなくだった。急な故障で空港まで走れそうもないというのだ。早朝ということもあって急遽新しいバスを手配することはできず、結局1号車が空港で我々を降ろしてからホテルへ戻ることになった。輸送トラックの件でさんざん心配させられた挙句、バスまでが故障するとは! ホテルから空港までは約10㎞、20分足らずの距離であることは幸いだった。フライトの出発時間にはなんとか間に合って、午前11時、東京バレエ団一行は無事に次の公演地バーリに到着した。

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アドリア海を背景に記念撮影 photo: NBS


 アドリア海に面したプーリア地方の中心地バーリにあるペトゥルッツェッリ歌劇場はイタリアの歌劇場の中で4番目の大きさを誇る由緒ある劇場だ。1898年にバーリの商人ペトゥルッツェッリが私財を投入して建立し、1903年に完成した伝統的な馬蹄形の客席を持つ劇場は6階まであり、建立当時は2192席を有していた。絢爛豪華なフレスコ画と純金で飾られたフォワイエは重要文化財として、第二次世界大戦時の爆撃を免れた。1991年に火災で舞台から客席まで火が回ったが、客席上の丸天井が落ちたために奇跡的に火が消え、フォワイエは救われたそうだ。倉庫から出た日は放火であると判明したため、検証や調査に多大な時間がかかり改築、修復された劇場が再オープンしたのは18年後の2009年だった。

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ペトゥルッツェッリ劇場のフォワイエ photo: NBS


 バーリの演目は〈ドリーム・タイム〉〈ロミオとジュリエット〉〈春の祭典〉だ。最初の2作品はカリアリのプログラムにはなかったので、幸いなことに舞台装置は東京から直接バーリに送られてきていたため一部の仕込みは始めることはできたものの、カリアリからのトラックを待たなければ仕上がらない。早ければ午後3時から5時の間にトラックが到着すると言われていたのだが、450㎞の距離を走り12mの大型トラックが到着したのは午後8時近かった。屈強な荷下ろし業者に日本人スタッフも加わって搬入が行われ、午後10時の終業時間ぎりぎりに作業が完了した。

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公演を知らせるポスターサイネージに「TUTTO ESAURITO」(完売)の文字が。


 輸送の問題はすべて解決し、翌朝から本格的な仕込みが始まった。ダンサーたちは稽古場から劇場に移動して舞台上でクラスとリハーサルをして翌日の初日に向けて準備を再開した。イタリアの伝統的な劇場の舞台は3%から5%の傾斜があるため、フラットの舞台に慣れているダンサーにとっては微妙な調整が必要なのだろう(ちなみにこの劇場は3%)。

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舞台上でのクラス photo: NBS


 翌21日、いよいよバーリでの初日が開いた。プラテア(1階の平土間席)はいかにもセレブ風のご夫妻が多かったが、パルコ席(ボックス席)は若い観客も多数入っていた。最近は日本を旅行で訪れるイタリア人が多いが、ここでもこの夏日本に行ったという人が話しかけてきた。「〈ドリーム・タイム〉は本当に夢のような美しさでした。武満徹の音楽に日本を感じて懐かしさがこみ上げてきました」と喜んでいた。終演後、劇場近くのレストランでも「素晴らしい公演でした」と声をかけられた。24日までの4公演はすでにチケットはすべて売り切れている。この先、ボローニャもリミニもチケットの入手は難しい状況だ。

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「ドリーム・タイム」より photo: NBS


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カーテンコール photo: Clarissa Lapolla




田口道子(オペラ演出家)


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東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、株式会社木下グループの支援のもと、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を行います。このツアー全体が終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国158都市、通算799回の公演を達成することになります。




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