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海外ツアーレポート2024/12/18

東京バレエ団〈第36次海外公演 ─ イタリア〉 全日程が大盛況のうちに終了!

東京バレエ団と上演作品への深い理解と期待、熱い反応に包まれたツアー。

 東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、プティパの古典とモーリス・ベジャール、イリ・キリアンそれぞれの傑作を携えて2024年11月12日にカリアリで開幕。11月29日にリミニにおける最終公演を終え、カリアリ、バーリ、ボローニャ、リミニと続いた4都市13公演をすべて終了しました。カリアリ7公演こそ尻上がりの観客動員となったものの(最終日は満席)、続くバーリ4公演、ボローニャとリミニ公演は早々にチケットが売切れとなり、いずれの公演でも最後は熱狂的な拍手と歓声に包まれました。

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(左)カリアリ歌劇場 カーテンコール photo: Marco Ciampelli
(右)バーリ、ペトゥルツェッリ劇場 カーテンコール photo: Clarissa Lapolla


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(左)ボローニャ歌劇場(新劇場) カーテンコール photo: Andrea-Ranzi by kind concession Teatro Comunale di Bologn
(右)リミニ、アミントーレ・ガッリ劇場 カーテンコール photo: Ayano Tomozawa


 最初の公演地、サルデーニャ島のカリアリでは、「春の祭典」の総仕上げのために、初日に先駆けて元モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督のジル・ロマンに合流してもらいリハーサルを実施。万全を期してステージに臨みました。本ツアー中、カリアリ公演のみ、ポール・マーフィー指揮、カリアリ歌劇場管弦楽団による生演奏で上演(他公演は録音音源を使用)。「春の祭典」はこれまでも有名オーケストラと度々共演してきましたが、「小さな死」(モーツァルト ピアノ協奏曲第23番と第21番の緩徐楽章)をオーケストラ演奏で上演したのは初めてのことでした。また、本ツアーを通して何人ものダンサーが初主演を経験。「ラ・バヤデール」より"影の王国"のニキヤ役で金子仁美、ソロル役で生方隆之介が、「春の祭典」の生贄役で大塚卓-榊優美枝/南江祐生-長谷川琴音が主演を果たし、「小さな死」では秋山瑛、南江祐生がデビューを飾りました。

 東京バレエ団は海外ツアーで、ミラノ・スカラ座やローマ、フィレンツェを始めとするイタリア各地を何度も訪れており、現地の劇場関係者、評論家、バレエ/ダンス愛好者の間で一定の認知を得ています。そうした土壌もあり、今回いずれの公演地でも、事前に現地プレスによってバレエ団やプログラムについての詳細な、期待に満ちた紹介がされました。

カリアリ
「名門バレエ団が8年ぶりにカリアリに戻ってくる」(Rai News) 
「カリアリ歌劇場シーズンの待望第2弾は、現代振付の上演について最も優れた伝統を持つ東京バレエ団による、偉大なコンテンポラリー・ダンスの再来」(Cagliari post) 

●バーリ
「 創立60周年を迎えた東京バレエ団が、ボローニャでデビューを飾る。日出ずる国で最も有名なこのバレエ団は、日本人の西洋バレエに対する熱烈な愛の象徴として、60年にわたり世界の主要な劇場に招かれてきた。東京バレエ団のレパートリーは、ロマン派・後期ロマン派バレエの古典から、20世紀を代表する振付家の傑作、現代バレエの巨匠たちによる東洋的な趣向を凝らした作品まで、膨大で質の高いものばかりだ」(Il Resto del Carlino)

●ボローニャ、リミニ
「創立60周年を迎えた歴史あるカンパニーが、明日、コムナーレ・ヌーヴォーで3つのヒット作を上演する」(Il Resto del Carlino)
「ダンサーの技術的水準だけでなく、振付の芸術的な深みでも高い評価を得ている東京バレエ団をイタリアの観客が目の当たりにできる貴重な機会だ。 舞台芸術が近年の困難から立ち直ろうとしている今、東京バレエ団の登場は、イタリアの文化シーンに新鮮な空気と活力を吹き込むものだ。バレエ史上、最も美しく重要な振付の数々を舞台で鑑賞できるこのまたとない機会を、舞踊ファンや文化愛好家は見逃すわけにはいかない」(Normanna news)

各紙の公演評に目を通すと、携えていった5つのレパーリー──「ラ・バヤデール」"影の王国"、キリアン振付「ドリーム・タイム」「小さな死」、ベジャール振付「春の祭典」「ロミオとジュリエット」への深い理解のもとにパフォーマンスへの優れた考察がされており、何より観客がこれら現代作品中心のプログラムを熱狂的に受け入れていたのが印象的でした。

以下に主だった現地の公演評を抜粋で紹介します。

●アンサ(共同通信社) 
創立60年となる東京バレエ団の三部によるプログラムに盛大な拍手

東京バレエ団は創立60周年を祝し、イタリアツアーを行っている。その第一歩がカリアリから始まった。著名な日本のバレエ団はサルデーニャの首都カリアリの次はバーリのペトゥルツェッリ劇場で、その後ボローニャ市立歌劇場とリミニのガッリ劇場で公演する。
カリアリオペラ劇場の舞台初日は1800年代と1900年代のバレエ作品の傑作が三作品上演され、観客からの温かい拍手と歓声に包まれた。
ポール・マーフィー指揮の歌劇場オーケストラの演奏で、著名なる日本のバレエ団は偉大な巨匠によって振付けられた作品を演じ、観客に濃厚な感動の一夜を与えてくれた。

●バーリセーラ ニュース Bari Sera news
ペトゥルツェッリ劇場で陶酔:東京バレエ団の芸術が観客を魅惑する
ジョヴァンニ・レッキア

ペトゥルツェッリ劇場の観客は東京バレエ団の巧妙さと優雅さに文字通り魔法にかけられたようだった。どの動きも、どの仕草も、どの音符もすべてが忘れられない経験を創造することに貢献し、バレエという芸術が人間の魂の最も深い部分に触れる感動を呼び起こすことを実証したのである。バレエ団はこの公演を心底評価した観客からの拍手喝采とスタンディング・オベーションを受けた。この公演は、観ることが出来た幸運な人々の記憶に長い間残ることだろう。


●南イタリア新聞 La Gazzetta del Mezzogiorno
ぺトゥルツェッリ劇場における東京バレエ団による感動のダンス
斎藤友佳理団長率いるバレエ団の公演を堪能した観客が拍手喝采
パスクワーレ・ベッリーニ

日本のダンサーたちのテクニックのレベルの高さは非の打ち所がない。この数日ペトゥルツェッリ劇場で公演中の東京バレエ団の、魅了する明確な振付への忠実さは、どこか形式を尊重する日本製の版画のごとく卓越している。(略)

エロスの「扱い」が全く違うのが、熱望と性を描いた『春の祭典』だ。この類まれな素晴らしい作品が東京バレエ団公演の最後を飾った。ストラヴィンスキーの音楽に振付けられたベジャールの創作は肉体の欲望と官能の極限がダンサーの動きで爆発的に表現され、目が眩むほどのダンサー全員の完璧な融合性と驚くべき体力と魔的な激しさに圧倒された。(略)

東京バレエ団のダンサーたちのテクニックと一致性は非の打ち所がない。肉体のマグマ(混合した感情や情熱)、繊維状にも見える裸体、何世代にも渡る生来の体型であろうか、50人もの体が絶え間なく動くのだが、それはまるで渦を巻く物体のように幾何学的形状や大きさを構成したり解体したりするのだ。初日からペトゥルツェッリ劇場の多くの客席を埋めた観客は日本のバレエ団の公演に盛大なる拍手を送った。


●シラノポスト Cirano post
イリ・キリアンとモーリス・ベジャールという天才的な振付家の作品が東京バレエ団の完璧な美しさで表現することによって再現され、ペトゥルツェッリ劇場の観客の胸の鼓動を高ぶらせた。
パスクワーレ・アットリコ

東京バレエ団は伝統的な振付の創作者の中でも、常に世界で最も高名な振付家の作品に注目してきた。その姿勢は1964年の創立時から変わらず、幅広いレパートリーはクラシック・バレエ、ネオ・クラシック、現代作品と少しの隔てもなく広がっている。西洋の振付家や東洋の振付家の作品もレパートリーに含まれている。それはむしろ、この日本のバレエ団の大きな強みになっていると言える。クラシックとモダンの不思議な混交を成立させているがゆえに、現実的にはこれほどまでに遠く、対照的である二つの世界が完全に融合し、我々が共通の人間であることを確信させ、舞台上で何が起こっているのかを完全に理解させてくれる。肉体が空中で描くシンボルや隠されたメッセージ──実際には我々が良く知っていることであるのだが──が何を意味するのかを知らせてくれる。そこにはある種の言語やある種の文明が、そして多分、乏しい我々のとは異なる人間性が存在しているのである。(略)

完璧なまでの日本のバレエ団によって巨匠による振付という芸術が益々意味深長な作品となった。彼(編注:ベジャール)が好んで語っていた言葉、つまり「最小限の解説、最小限の秘話と最大限の気持ち」が素晴らしく表され、強力な感動と抑えられない感情と忘れがたい感動の源となったのである。(略)

東京バレエ団は再び世界に、そして特に、真に心から熱烈な歓迎を拍手で表したペトゥルツェッリ劇場の観客に、人を惹きつける力を存分に表した。すべての芸術の母と考慮される訳を明らかにしたのである。



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(左)「ラ・バヤデール」"影の王国" photo: Andrea-Ranziby kind permission of Teatro Comunale di Bologna
(右)「ロミオとジュリエット」よりパ・ド・ドゥ photo: Clarissa Lapolla


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(左)「ドリーム・タイム」 (右)「春の祭典」 photos: Clarissa Lapolla


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「春の祭典」 photos: Clarissa Lapolla

東京バレエ団 第36次海外公演概要
 実施期間:11月8日(金)バレエ団出発~12月1日(日)帰国
 公演回数:4都市 全13公演
 開催都市:カリアリ、バーリ、ボローニャ、リミニ
 参加人数:約90名(ダンサー、スタッフ含む)





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 東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を実施。このツアー全体が終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国158都市、通算799回の公演を達成しました。

海外ツアーレポート2024/12/10

第36次海外公演 イタリアツアー便り4 ─ボローニャ、リミニ
東京バレエ団のイタリアツアーに通訳、コーディネーターとして同行したオペラ演出家の田口道子さんのツアーレポート第4弾。最終回です。


ツアー最終のボローニャとリミニはいずれも完売。ボローニャは若い観客で熱気があふれ、"リミニの宝石"ガッリ劇場での公演も大歓声のうちに終演。

 バーリのペトゥルツェッリ歌劇場で、連日チケット完売で大成功のうちに4公演を終えた東京バレエ団は11月25日に次の公演地ボローニャへと出発した。約600kmの距離をバスで移動である。90名近いバレエ団一行のそれぞれが20kgのスーツケースを持っての移動となると、大型バスが最良の方法だろう。一行は出発してから8時間後にボローニャのホテルに到着した。

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リミニ、アミントーレ・ガッリ劇場でのカーテンコール。 photo: Ayano Tomozawa


 ボローニャ市立歌劇場は1768年に建てられた伝統的な美しい劇場だが、目下修復中のため旧市街から離れた見本市会場の近くに建てられた仮設の劇場でシーズンが行われている。1年前に工事が始まり来年3月には完了の予定だが、工事が遅れていて、オープニングは多分来年10月になるだろうとのことだ。仮設劇場の舞台は制限が多くて『ラ・バヤデール』の舞台装置は組めないし、『春の祭典』の黒幕の振り落としも断念しなければならなかった。

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ボローニャ歌劇場(仮設の新劇場) photo: Andrea Ranzi by kind permission of Teatro Comunale di Bologna


 27日、ボローニャでの公演は1回だけだったこともありチケットは大分前から完売していた。国営放送RAIのローカルニュースで紹介されるとのことで、クルーが打ち合わせに来た。翌日7時半のトークショーの冒頭と14時のニュースで放送されるとのことだった。
 開場すると1500の客席は老若男女でアッという間に埋まった。若い観客が多いと思ったところ、30歳以下のチケット代は半額(一般70ユーロ、30歳以下35ユーロ)とのことだった。
ボローニャのプログラムは『ラ・バヤデール』(影の王国)、『ロミオとジュリエット』、『春の祭典』で、翌日移動するリミニと同じだ。若い年齢層の観客が多かったせいか、拍手と共に歓声があがり劇場中が熱気にあふれた。カメラを回していたRAIのクルーが「素晴らしい! これは14時のニュースだけでなく、19時30分のニュースでも流すべきです。」と興奮気味に言った。

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ボローニャ公演のカーテンコール photo: Andrea Ranzi by kind permission of Teatro Comunale di Bologna


 28日、いよいよ最後の公演地リミニに移動した。ボローニャからはアドリア海に向かって110km南下したリミニは遠浅の砂浜があるリゾート地だ。しかし、この町の歴史は古く紀元前268年にローマ帝国の植民地として建設された。後に東ローマ帝国の統治下におかれたが、中世にマラテスタ家によって自治権が獲得された。旧市街は城壁で囲まれ、所々に遺跡が残っている。東京バレエ団が公演したガッリ劇場は1857年に建立されたが、1943年第二次世界大戦で爆撃を受けて損壊した。そのまま40年以上経過した1975年に劇場再建が決まったが、実際に工事が始まったのは2010年だった。5年後の2015年に完成して、2018年に再オープンした800席の劇場は「リミニの宝石」となった。
 14時のニュースでは「創立60年を迎えた世界でも著名な東京バレエ団」と紹介され、2分近く映像が流された。

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開演前のリミニのアミントーレ・ガッリ劇場、客席。 photo: Ayano Tomozawa


 21時いよいよイタリアツアー最後の公演が始まった。長かったツアー最後の公演とあってか、ダンサーたちの気迫が伝わって最高に素晴らしい舞台になった。観客は惜しみなく拍手を送り、口々に素晴らしい、観に来てよかったと言いながら笑顔で劇場を後にした。

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(左)「ラ・バヤデール」上演前に。(右)「春の祭典」より。 photos: Ayano Tomozawa


 無事に全公演が終わった後もスタッフたちは舞台の道具をばらしてコンテナに積み込む作業が残っている。スエズ運河が閉鎖されているために、コンテナが喜望峰を回って横浜の港に到着するのは来年2月半ばだそうだ。スタッフたちが作業を終えてコンテナの鍵を閉めた時は午前1時を回っていた。
 30日、一行は午前6時半にホテルを出発して、ボローニャ空港からローマ空港で乗り換えて帰国の途につく。22日間の長いツアーは移動日以外連日のクラスとリハーサルで強行軍だったけれど、観客の拍手と歓声に励まされたことだろう。久しぶりに実現したヨーロッパでの公演は大成功で幕を閉じた。みなさん、お疲れさまでした!
                            田口道子(オペラ演出家)



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東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、株式会社木下グループの支援のもと、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を実施。このツアーが終わった時点で、東京バレエ団は海外公演33か国158都市、通算799回を達成しました。





海外ツアーレポート2024/11/26

第36次海外公演 イタリアツアー便り3 ──バーリ
東京バレエ団のイタリアツアーに通訳、コーディネーターとして同行している、オペラ演出家の田口道子さんのツアーレポート第3弾をお届けします。


麗しきバーリのペトゥルッツェッリ劇場4公演はソールドアウト。「夢のような舞台」と、訪日経験のある観客。

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開演前。赤と金の内観が豪奢なペトゥルッツェッリ劇場 photo: Clarissa Lapolla


 11月18日、まだ日の出前の午前6時30分にカリアリのホテルから空港に向かったバスの1号車に、2号車から連絡が入ったのは出発して間もなくだった。急な故障で空港まで走れそうもないというのだ。早朝ということもあって急遽新しいバスを手配することはできず、結局1号車が空港で我々を降ろしてからホテルへ戻ることになった。輸送トラックの件でさんざん心配させられた挙句、バスまでが故障するとは! ホテルから空港までは約10㎞、20分足らずの距離であることは幸いだった。フライトの出発時間にはなんとか間に合って、午前11時、東京バレエ団一行は無事に次の公演地バーリに到着した。

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アドリア海を背景に記念撮影 photo: NBS


 アドリア海に面したプーリア地方の中心地バーリにあるペトゥルッツェッリ歌劇場はイタリアの歌劇場の中で4番目の大きさを誇る由緒ある劇場だ。1898年にバーリの商人ペトゥルッツェッリが私財を投入して建立し、1903年に完成した伝統的な馬蹄形の客席を持つ劇場は6階まであり、建立当時は2192席を有していた。絢爛豪華なフレスコ画と純金で飾られたフォワイエは重要文化財として、第二次世界大戦時の爆撃を免れた。1991年に火災で舞台から客席まで火が回ったが、客席上の丸天井が落ちたために奇跡的に火が消え、フォワイエは救われたそうだ。倉庫から出た日は放火であると判明したため、検証や調査に多大な時間がかかり改築、修復された劇場が再オープンしたのは18年後の2009年だった。

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ペトゥルッツェッリ劇場のフォワイエ photo: NBS


 バーリの演目は〈ドリーム・タイム〉〈ロミオとジュリエット〉〈春の祭典〉だ。最初の2作品はカリアリのプログラムにはなかったので、幸いなことに舞台装置は東京から直接バーリに送られてきていたため一部の仕込みは始めることはできたものの、カリアリからのトラックを待たなければ仕上がらない。早ければ午後3時から5時の間にトラックが到着すると言われていたのだが、450㎞の距離を走り12mの大型トラックが到着したのは午後8時近かった。屈強な荷下ろし業者に日本人スタッフも加わって搬入が行われ、午後10時の終業時間ぎりぎりに作業が完了した。

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公演を知らせるポスターサイネージに「TUTTO ESAURITO」(完売)の文字が。


 輸送の問題はすべて解決し、翌朝から本格的な仕込みが始まった。ダンサーたちは稽古場から劇場に移動して舞台上でクラスとリハーサルをして翌日の初日に向けて準備を再開した。イタリアの伝統的な劇場の舞台は3%から5%の傾斜があるため、フラットの舞台に慣れているダンサーにとっては微妙な調整が必要なのだろう(ちなみにこの劇場は3%)。

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舞台上でのクラス photo: NBS


 翌21日、いよいよバーリでの初日が開いた。プラテア(1階の平土間席)はいかにもセレブ風のご夫妻が多かったが、パルコ席(ボックス席)は若い観客も多数入っていた。最近は日本を旅行で訪れるイタリア人が多いが、ここでもこの夏日本に行ったという人が話しかけてきた。「〈ドリーム・タイム〉は本当に夢のような美しさでした。武満徹の音楽に日本を感じて懐かしさがこみ上げてきました」と喜んでいた。終演後、劇場近くのレストランでも「素晴らしい公演でした」と声をかけられた。24日までの4公演はすでにチケットはすべて売り切れている。この先、ボローニャもリミニもチケットの入手は難しい状況だ。

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「ドリーム・タイム」より photo: NBS


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カーテンコール photo: Clarissa Lapolla




田口道子(オペラ演出家)


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東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、株式会社木下グループの支援のもと、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を行います。このツアー全体が終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国158都市、通算799回の公演を達成することになります。




海外ツアーレポート2024/11/22

第36次海外公演 イタリアツアー便り2 ──カリアリからバーリへ

東京バレエ団のイタリアツアーに通訳、コーディネーターとして同行している、オペラ演出家の田口道子さんのツアーレポート第2弾をお届けします。


カリアリ最終公演は満員御礼! いっぽうイタリア本土の天気大荒れにつき、緊急事態が...。

 11月17日東京バレエ団はサルデーニャ島カリアリで無事に7回の公演を終えた。
初日はオペラの通しチケットの観客ということで幾分空席があったものの日を追うごとに観客が増して、日曜日の最終公演は完売の盛況となった。休憩中に客席を回って観客の反応を試してみると、いきなり「ブラーヴォ、ブラーヴォ」と私まで握手を求められて、誇り高い気持ちで楽屋に戻った。

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photo: Marco Ciampelli

 舞台は順調に終えたものの裏では大きな問題が起こっていた。サルデーニャから次の公演地バーリまで舞台道具や衣裳などすべては12mの大型トラックに載せてフェリーでイタリア本土ローマ近港チヴィタヴェッキアに輸送される。港は地中海側なのでアドリア海側のバーリまでイタリア半島の南を横断しなければならないのだ。最終公演日17日の午後には本土から迎えのトラックが到着し、公演後すぐに装置や衣裳などを積み込むことになっていた。ところが、トラックがフェリーに乗る予定の16日夜、本土リヴォルノ港の海は強風で大荒れになり、船が出港できなくなっていた。輸送会社の責任者は急遽ナポリから飛行機でカリアリに説明にきたものの、天候の問題では我々はどうすることもできない。しかもスタッフ全員翌朝の飛行機でバーリに向かわなければならないのでトラックへの積み込みは劇場のスタッフに任せることにせざるをえなくなった。何枚も道具やケースの写真を撮り、間違いのないようにスタッフが写真を共有して全員カリアリを出発することにした。

 カリアリは真っ青な秋空と気温22度、毎日晴天に恵まれていたが、シチリア島では大雨の被害があったり、北イタリアは数年ぶりに濃霧が発生したり、海が大荒れだったりとカリアリでは想像できない天候が続いていたことを思うと、本当に幸運な10日間だった。

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 斎藤友佳理団長は「8年前にカリアリに来たときは、〈スプリング・アンド・フォール〉〈ドリーム・タイム〉〈春の祭典〉という演目でしたけれど、私は芸術監督になったばかりの時で緊張していたこともあって、あまり観客の興奮が伝わってこなかった印象を持ちました。でも今回は劇場のスタッフの皆さん、オーケストラの皆さん、観客の皆さんとダンサーたちが一つに結び付いた公演になったことが強く感じられました。日本のスタッフの皆さんとこちらの劇場の皆さんが心を繋げてより良い公演にしようとしている様子を見て、(バレエ団創設者の)佐々木忠次さんが素晴らしい宝物を残してくださったのだと改めて思いました。そして佐々木さんの意思を次の世代に伝えていかなければと思いました。団員が世代交代して新しくなっても東京バレエ団は受け継がれながら成長していかなければなりません。」と新たな決意を語った。

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photo: Marco Ciampelli

 翌朝は午前6時半にホテルを出て空港へと向かう予定だった。バスの1号車は時間通りに出発したのだが、2号車はホテル前に止まったまま動かないという緊急事態が発生した。 (続く)

田口道子(オペラ演出家)
                                  

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 東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、株式会社木下グループの支援のもと、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を行います。このツアー全体が終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国158都市、通算799回の公演を達成することになります。


海外ツアーレポート2024/11/15

東京バレエ団〈第36次海外公演 ─ イタリア〉 初日公演がカリアリで開幕!

「名門バレエ団が8年ぶりにカリアリに戻る」「60周年を迎えた東京バレエ団の3演目に喝采」

 今月初旬に〈第36次海外公演─イタリア〉に出発した東京バレエ団は、11月12日、ツアー初日の幕を最初の公演地サルデーニャ島のカリアリ歌劇場において、マカロワ版「ラ・バヤデール」"影の王国"、キリアン振付「小さな死」、ベジャール振付「春の祭典」の3演目で開けました。

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 東京バレエ団のカリアリ歌劇場への出演は、1986年と2016年の2度のツアーで併せて9公演の実績があり、公演前には現地のプレスが「名門バレエ団が8年ぶりにカリアリに戻ってくる」(Rai News)「カリアリ歌劇場シーズンの待望第2弾は、現代振付の上演について最も優れた伝統を持つ東京バレエ団による、偉大なコンテンポラリー・ダンスの再来」(Caligari post)などと紹介。また11月14日にAnsa通信に掲載された初日評では「60周年を迎えた東京バレエ団の3演目に拍手喝采」「ポール・マーフィー指揮のオーケストラの音色にのせて、日本の有名なバレエ団が偉大な巨匠たちの作品とともに感動に満ちた一夜を演出した」と称賛されました。

 カリアリ公演で特筆すべきは、マゼール、クライバー、ムーティ、ロストロポーヴィチ等、錚々たる指揮者や歌手たちと共演を重ねた歴史を持つ、歌劇場専属オーケストラによる生演奏であること。今回指揮をしたポール・マーフィーは、東京バレエ団とは2019年のミラノ・スカラ座公演(第34次海外公演)以来の共演です。東京バレエ団は「春の祭典」を有名オーケストラと共演した経験がたびたびありますが、「小さな死」をオーケストラ演奏で踊ったのはこのたびが初めてです。
 「ラ・バヤデール」"影の王国"のバレエ曲だけでなく、ストラヴィンスキーの変拍子と不協和音が荒れ狂う「春の祭典」の迫力や、「小さな死」で使われるモーツァルトのピアノ協奏曲第23番と第21番の緩徐楽章の美しさが舞踊と一体化した舞台に、客席は大いに沸きました。
 初日に先駆けて元モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督のジル・ロマンが「春の祭典」の総仕上げのため、10月東京でのリハーサルにつづいてカリアリで合流。
 また、このカリアリ公演中に、「ラ・バヤデール」のソロル役として生方隆之介が、2日目のニキヤ役として金子仁美が、そして「春の祭典」の生贄役で榊優美枝と大塚卓がデビュー。その他、多くのダンサーたちが初めての役を務める機会となりました。

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東京バレエ団イタリア・ツアー便り ──カリアリ初日編
田口道子(オペラ演出家)

 2019年以来5年ぶりになる東京バレエ団のイタリア・ツアーが始まった。
11月9日に最初の公演地サルデーニャ島のカリアリに無事到着したバレエ団は8年ぶりとなるカリアリの歌劇場での公演に向けて到着翌日から準備を始めた。8年前の公演を覚えている観客も多く、12日の初日から17日の最終公演までの6日間に7公演が行われる。
 地中海に浮かぶサルデーニャ島は温暖な気候だ。青空に太陽が輝き気温も22度を超えていて心地良い。10日は稽古場でのリハーサル、11日からは舞台上でのリハーサルが始まった。
 12日は本番初日の前に公開ゲネプロが行われ、現地の高校生とバレエ学校の生徒が劇場から招待されて見学した。ゲネプロとはいえ、本番と同じ緊張感みなぎる舞台を見た生徒たちは最初の演目『影の王国』の始まりの場面の美しさに魅了され、その後も場面ごとに盛大な拍手を送っていた。
 カリアリ歌劇場のニコラ・コラビアンキ総裁は「この劇場に戻って来てもらって本当に良かったです。東京バレエ団をお招きできたことを誇りに思います。今夜の本番も必ず見に来ます。」と大喜びだった。
バレエ学校の校長先生は「〈素晴らしい〉の一言です。古典も現代も高いレベルで感心しました。若いダンサーが多いように見えましたが、全員があまりにも完璧に揃っていて目を見張りました」と興奮を抑えきれずに話してくれた。
 初日は20時30分開演だったが、ここイタリアでも最近は夜の公演よりも午後の公演の方が観客の数が多いとのことだ。特にオペラの観客は高齢化しているとのことで、この問題は日本もイタリアも共通していると思った。

 カリアリ公演で特筆すべきことはポール・マーフィー指揮のオーケストラが生演奏していることだ。カリアリ歌劇場専属のオーケストラはコンサートのシーズンを持っていて、オペラばかりでなく交響曲でのコンサートも高い評価を得ている。佐野志織芸術監督は「始まるまではオーケストラと息が合うか心配でした。特に『小さな死』は録音で踊ることに慣れているので不安でしたが、指揮者もピアニストもバレエのことをよく理解していて、素晴らしい演奏でした」と満足げだった。
 今回のイタリア・ツアーをオーガナイズしたレトロパルコ社のパオロ・マンデッリ社長もミラノから公演を観に来て「東京バレエ団のレベルの高さに感服しました。ダンサー一人一人の技量の素晴らしさ、全員で一つの作品を作り上げる団結の精神に魅了されました」と惜しみなく賞賛していた。
 初日の公演は観客の暖かい拍手で大成功を収めた。余談だが、公演後に行ったレストランに観客の数人がいて「何と素晴らしい公演だったことか。神がかりの舞台でした。」とお褒めの言葉をいただいた。
翌日の新聞には〈世界的に著名な東京バレエ団の公演は素晴らしかった〉との批評が掲載され、好評のうちにツアー公演初日がスタートした。
※田口道子氏は通訳・コーディネーターとしてツアーに同行しています。

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 東京バレエ団〈第36次海外公演─イタリア〉は、「文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流))|独立行政法人日本芸術文化振興会」の助成を受け、株式会社木下グループの支援のもと、イタリアの4都市を約1か月の旅程で巡り、合計13回の公演を行います。このツアー全体が終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国158都市、通算799回の公演を達成することになります。



公益財団法人日本舞台芸術振興会/東京バレエ団



レポート2024/09/30

「ザ・カブキ」リハーサルレポート〈花柳流による所作指導〉
来月のモーリス・ベジャール振付「ザ・カブキ」上演に向けて、この9月24日、日本舞踊の花柳流家元の花柳壽輔氏と助手の花柳源九郎氏が所作指導のため東京バレエ団スタジオを訪れました。

『仮名手本忠臣蔵』を題材とした「ザ・カブキ」は、バレエでありながら、日本の伝統芸能である歌舞伎の演出から多くの要素が使われ、これを演じるダンサーは日本舞踊の所作の修得が欠かせません。初演の際に故 二代目花柳壽應氏(当時、芳次郎)がベジャールの傍らでクリエーションに携わり、ダンサーたちの所作指導も行ったご縁から、東京バレエ団では上演のたび、花柳流の方々から所作の指導を受けています。

この日はまず基本の"摺り足"などの歩き方のおさらいに始まり、全編を通しながら場面ごとの動きや演技に沿った指導を受けていきました。


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第七場 "一力茶屋" 由良之助と遊女の場面より。



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第七場 "一力茶屋" 遊女たちに扇の使い方を指導。



最終場である第九場"討ち入り"の後半は、黛敏郎の「涅槃交響曲」にのせた、由良之助と、塩冶家の元家臣である四十七士の切腹の場面です。その冒頭では、討ち入りの始めと同様に、47人が左右の舞台袖から中央に走り込んできて、由良之助を筆頭に三角形に整列します。

「動きが形式的にならないように、自分の心の中に設定をつくってください。登場のところから、おのおのが想いを持って。最後のポーズだけ気持ちがこもっていても動きに繋がりません」と花柳壽輔氏。

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第九場 討ち入りの後半、「涅槃交響曲」にのせた場面。



由良之助の抜刀の"振り"を合図に四十七士が動き出し、再び三角形に整列して切腹に臨むシーンでは、
「動きが"無"になってしまってはだめ、日本舞踊でいう"息"が必要です。振りにメッセージを込めてください」
「切腹してお腹を刺したとき、客席に目線がいかないと群(ぐん)になりません。日本舞踊では、個がたたないと群にならないと言います。全体が立体的に見えるように、目力を残して、ここでもメッセージ性を意識してください。四十七士が気迫を出すと由良之助が立ってくる。刀をおさめて座るときも、"よし!"などのメッセージを込めた目線をお客様に残してください」(花柳壽輔氏)。

形をなぞるだけではけっして成しえない"和"の所作と演技は、このような専門的な指導を受けることの積み重ねで達成されるのです。


めぐろバレエ祭り2024/09/12

第12回めぐろバレエ祭り 現地レポート
8月後半になっても30℃を超える暑い日が続いていましたが、都立大学駅からめぐろパーシモンホールに向かう人々の足取りは軽やか。なかにはチュールスカートを身につけたお子さんや、浴衣姿の方々もいて、浮き立つような足取りから「バレエ祭りが始まる!」というワクワクした雰囲気が伝わってきました。

今年(2024年)も8月20日~25日までの5日間、「めぐろバレエ祭り」が開催されました。5日間で延べ10,995人以上が集まり、大盛況となった本イベントの最終日の様子をレポートします!

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*****

朝9時半から、大ホールでは東京バレエ団のダンサーによる公開レッスンがおこなわれました。この日の先生は、元シュツットガルト・バレエ団プリンシパルのローラン・フォーゲル氏。さらに通訳として、ブラウリオ・アルバレスが登壇しました。
フォーゲル氏は日本語もお上手で、時折ユーモアも交えながら丁寧に振りを説明していきます。バー・レッスンはじっくりと体を温めるような内容でしたが、センターに移ると大きく、スピーディに動くアンシェヌマンに。一見シンプルながら、ダンサーたちも戸惑うほど複雑かつ予想外の振りも多々ありましたが、フォーゲル氏がアドバイスをするとみるみる踊りが変わっていきます。
印象的だったのが「5番(ポジション)をもっと感じて! このあと踊る『ねむり』には必要ですよ」というフォーゲル氏の言葉。『ねむり』はクラシック・バレエの基礎に忠実に踊ることが大切な演目なので、正確にポジションに収めることへの指摘がたびたび出ました。ほかにも「つま先まで笑顔で!」「Don't worry! Be happy!」など、ダンサーの気持ちを高めるアドバイスもたくさん。わずか1時間でしたが充実した内容で、客席も一緒に踊り終えたような高揚感に包まれました。


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photo: Koujiro Yoshikawa


今回の『子どものためのバレエ「ねむれる森の美女」』は、足立真里亜&南江祐生、金子仁美&池本祥真のダブルキャストによる上演。ホワイエには開幕を待ちきれない子供たちの弾むような声が響き、物販コーナーにはバレエ団ダンサーも姿を見せ、にぎやかなお祭り感が満ちています。
このバージョンは初めてバレエを観る子どもたちにもわかりやすいように、作品の見どころをぎゅっと詰め込み、コンパクトにしたもの。カタラビュット役のダンサー(岡崎隼也、山田眞央)が台詞つきで物語や見どころを解説し、ユーモラスな語りは大ウケ! まるでおもちゃ箱をひっくり返したような鮮やかな色合いのキュートな衣裳と舞台装置、きらめくダンサーたちの姿に子どもたちの目はくぎ付けでした。幕が下りると出演ダンサーが客席に降りてきて、ハイタッチなどの交流も。
終演後、会場を出たところで踊り出す子どもたちが多数おり、興奮冷めやらぬ様子。なかにはフィッシュ・ダイブに挑戦する子もいるなど、ほほえましい光景があちこちで見られました。

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photos: Koujiro Yoshikawa


イベントの合間には「バレエ縁日」が大にぎわい! 子どもたちが挑戦できるゲームとして「バレエ玉入れ」「ボーリング」「花輪投げ」の3種類が小ホールのロビーに設置されています。各ゲームで3回までチャレンジでき、条件によってタンブラーや缶バッヂが当たるとあって、子どもたちはみんな真剣な顔でゲームに挑戦していました。

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サンチョパンサのボーリング(左上)、海賊の花輪投げ(右上)、バレエ玉入れ(右下)


この日は、3つのイベントが開催に。ひとつめは毎年大人気のイベント「スーパーバレエMIX BON踊り」です! 小ホールの真ん中に組まれたやぐらを囲み、始まる前から熱気むんむん。「人前で踊るのは恥ずかしい」という参加者はほとんどおらず、年齢も性別も関係なく、踊る気満々の参加者が集いました。
今回の指導者は東京バレエ団ファーストソリストの伝田陽美。さらに、スペシャル・ゲストとしてプリンシパルの沖香菜子が登場! ふたりとも艶やかな浴衣姿です。小林十市(モーリス・ベジャール・バレエ団バレエ・マスター)が振付けたオリジナルの盆踊りは、途中で「ボレロ」風のポーズがあったり、バレエのアラベスクを簡単にしたポーズがあったり、両手で抱えたスイカが急に大漁のマグロになったり(笑)と、実にユニークなもの。さらに伝田陽美が「ここで『誰でもできるよアラベスク』!」「はい、ここで急にマグロ~!」「このあと間違いやすいところ来ますよ」など、言葉を交えて解説したので、初めての参加者たちもすっかり振付を覚え、最後は全員がやぐらを囲んで円になり、大きな笑顔で踊りに踊った1時間となりました。

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photo: Koujiro Yoshikawa


「からだであそぼう だれでもダンス☆」には、30人ほどの子どもたちが参加。体を動かしながら、想像力を使って自由にポーズを生み出すワークショップということで、振付家・ダンサーの田畑真希さんとアシスタントの城俊彦さんは開始前にすべての子どもたちに話しかけ、リラックスできるように気を配っていたのが印象的でした。そのおかげで、初めて会ったはずの子どもたちはすっかり仲良くなり、始まる前から会場を走り回って大はしゃぎ。
音楽を使いながら「かっこいいポーズで」「1本足で立つ」「3本足で立つ」「0から100まで伸びる」など、さまざまなお題を子どもたちに投げかけますが、田畑さんはどのポーズもたっぷりと褒め、より自由に動けるように「もっとでたらめに!」と呼びかけます。そのうち、子どもたちの個性がどんどん出てきて、もっと面白い動きを追求する子、前のポーズをブラッシュアップする子、好きなポーズだけする子など、実にさまざま。でも、どの子も全力で楽しんでおり、休憩時間は水を一口飲んだだけで大急ぎで田畑さんと城さんのもとに走っていくほど。思わず一緒に動き始める保護者の姿もありました。

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終わりを飾ったのは「ダンサーズ・トーク in めぐろ」。その日の本番を踊り終えた、金子仁美、足立真里亜、池本祥真、南江祐生が登壇し、司会は伝田陽美が務めました。伝田は初MCとは思えないほどの落ち着きで、まるで楽屋にいるような和気あいあいとした雰囲気のトークショーに。
今回、代役でデジレ王子を務めた南江は、実はアダジオでリプカ(フィッシュ・ダイブ)をするのが初めてで、秋山瑛と池本からアドバイスをもらったという話も。さらに、直後に開幕となった東京バレエ団60周年祝祭ガラ「ダイヤモンド・セレブレーション」で、クランコ版『ロミオとジュリエット』バルコニーのシーンを踊る足立と池本は、公開レッスンに登場したフォーゲル氏から指導を受けたそう。シュツットガルト・バレエ団時代、ロミオ役を経験しているフォーゲル氏から、音の取り方、場所や空間の使い方などを教わり、よりドラマティックで躍動感のある踊りに変わったそうです。

さらに会場を笑いで包んだのは、Q&Aコーナーで出た「緊張するときは?」の問いに対する、池本のアンサー。彼にとって『ボレロ』のエキストラはもっとも緊張するそうで「いつ立てばいいんだ!」とハラハラした経験があったとか(笑)。また、「得意料理は?」への答えは各自の個性が出る結果に。南江の「具だくさん味噌汁と玄米」、金子の「茄子の揚げびたしが好評」、池本の「牛肉、豚肉、鶏肉を全部入れたカレー」、伝田の「最新式レンジを使った時短料理」という答えに対し、足立の「偏食で、今日もメレンゲクッキーを1ダースくらい食べてしまった」という意外すぎる答えには、驚きの声と笑いが起きたのでした。

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photo: Koujiro Yoshikawa


今回も大盛り上がりのうちに幕を閉じた、めぐろバレエ祭り。会場を後にする参加者からは「来年も楽しみ!」という声も聞こえ、次回への期待を胸に帰路についた方も多いようです。筆者も来年までにBON踊りの振付をマスターし、挑みたいと思います!

富永明子(編集者・ライター)



2024/08/25

斎藤友佳理が語る、〈ダイヤモンド・セレブレーション〉上演によせて
東京バレエ団創立60周年記念公演〈ダイヤモンド・セレブレーション〉まであと1週間となりました。この週末も〈めぐろバレエ祭り〉の公演・イベントと並行し、スタジオでは連日熱いリハーサルが行われています。公演を目前に、斎藤友佳理(東京バレエ団芸術監督)が公演にかける想いを語ったスペシャル・インタビューをお贈りします。ぜひご一読ください。

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斎藤友佳理

東京バレエ団 60周年祝祭ガラ〈ダイヤモンド・セレブレーション〉で上演される7作品は、世界的なバレエ団の輝かしい軌跡が詰まった豪華ラインアップであると同時に、芸術監督・斎藤友佳理のバレエ人生における「コアな部分」を併せ持つ作品群である。

斎藤は2015年、芸術監督に就くとレパートリーの幅を広げ、公演数も増加させるなど東京バレエ団をより一層発展させている。そうした中でも「できる限り海外ゲストを呼ばず、東京バレエ団のダンサーだけで公演が成り立つようにするのが一番の目標でした。それがあったからコロナ禍を乗り越えられました」と自負する。そして、そこを踏まえ「私にとっての(ダイヤモンド・セレブレーション〉は、創立50周年からの約10年間をともにしてきたダンサーたちで成り立たせたいという思いが強かった」と明かす。

3部構成の第1部は、ハラルド・ランダー振付『エチュード』(東京バレエ団初演:1977年)で、バレエのレッスンを主題に華麗な見せ場が続く。前回2016年の上演を含め近年は海外からのゲストを招いていただけに「東京バレエ団のダンサーだけでレベルの高いものを」という願いが実現する。「今だと思えたのは、秋山瑛、宮川新大、池本祥真、秋元康臣たちがいるから。それから個性豊かなソリスト、コール・ド・バレエも力強い」と手ごたえを感じている。

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3部はモーリス・ベジャール振付『ボレロ』(東京バレエ団初演:1982年)。主演のメロディは紫綬褒章を受章するなど円熟の境地にある上野水香(ゲスト・プリンシパル)だ。「上野の10年前と今の『ボレロ』では質が違うのを感じます。ここで彼女が『ボレロ』を踊るのは自然な流れ。上野の『ボレロ』で締めたい」と全幅の信頼を置く。

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『エチュード』と『ボレロ』の間の第2部では、小品や全幕作品からの抜粋を披露する。ベジャール振付『バクチ』(東京バレエ団初演:2000年)※9/1()上演は、インドのシヴァ神とその妻シャクティが神秘的に舞う。自身がカンパニー初演時に世界初演者メイナ・ギールグッドの指導を受けた。今回は伝田陽美の存在ありきで選んだと明言する。「私の身体能力では表現しきれなかった、自分がここまで行きたかったという理想をやってくれる。伝田の良さを一番魅せられる作品。柄本と一緒にハンブルク・バレエ団の〈ニジンスキー・ガラ〉に出るという誇らしい経験をへて、自信もついたと思います。旬の輝きをぜひ観ていただきたい」と飛躍を喜ぶ。

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イリ・キリアン振付『ドリームタイム』(東京バレエ団初演:2000年)は、武満徹の音楽にのせて繰り広げられる夢幻的な美の宇宙。斎藤が初めて踊ったキリアン作品ということもあり、思い入れひとしおだ。「装置と照明と空間が大好き。まさにダイヤモンドのような作品なのに、長い間上演されなくなっていました。芸術監督になってまず最初に取り組んだキリアン作品で、イタリア公演でも一番評判になりました」とうれしそうにほほ笑む。

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ジョン・ノイマイヤー振付『スプリング・アンド・フォール』よりパ・ド・ドゥ(東京バレエ団初演:2000年)※9/1()上演は、詩情豊かな名品で、斎藤がカンパニー初演を果たした。芸術監督就任前のラコット版『ラ・シルフィード』の振付指導以来の師弟関係で「なくてはならない存在」である沖香菜子と、今春退団したが「一緒に汗水を流して苦楽をともにしてきた仲間」である秋元(ゲスト)が踊る。「沖と秋元が最初に踊ったのがこの作品なので、今回二人に踊ってもらいたいという気持ちが強くありました」と語る。

18-1201matinee_Spring and Fall_Kanako Oki_Yasuomi Akimoto_2C8A2133_photo_Kiyonori Hasegawa.jpg金森穣の『かぐや姫』よりパ・ド・ドゥ(東京バレエ団初演:2023年)※8/31(土)上演も注目される。全3幕の大作の創作を「大きなチャレンジでした。日本人の振付家で作品を創ることも目標でした」と振り返る。今回は秋山と柄本が本年6月、モスクワにおけるブノワ舞踊賞2024 ガラ・コンサートの際、ボリショイ劇場で踊った版を披露。「一つの完成させたパ・ド・ドゥとして残すことも考えていたので穣さんに相談し、60周年祝祭ガラや秋にイタリアで上演することも理解してくださいました。全幕とは違うコンサート用のパ・ド・ドゥです」と紹介した。

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怪我による出演者・演目変更に伴い、ジョン・クランコ振付『ロミオとジュリエット』よりパ・ド・ドゥ(東京バレエ団初演:2022年)8/31(土)上演が加わった。斎藤が主演したクランコの『オネーギン』は歴史に残る名舞台だったのは記憶に新しい。「ダンサーたちにはドラマのある作品を踊り、役者になってほしい。私にとってのコアな部分であるクランコを入れることにしました。足立真里亜と池本は全幕の舞台が評価され、すぐにクランコ財団から上演の許可がおりました」と期待を寄せる。

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時点での「一つの集大成」と位置付ける。「常日頃からダンサーたちの成長を願っています。無限大の可能性を持つことを忘れないでほしい。〈ダイヤモンド・セレブレーション〉を経て、さらにどう大きくなっていくのかが一番大切。今までやってきたことを存分に発揮して、将来につなげてほしい」と願う。終始ダンサーたちを慈しむ姿が印象的だった。


写真:長谷川清徳、松橋晶子

取材・文:高橋森彦(舞台評論家)





レポート2024/08/16

〈Choreographic Project 2024〉上演レポート
「振付家・ダンサー双方の創造力・表現力を刺激し、アーティストとしてのモチベーションを高めてもらいたい」という、芸術監督 斎藤友佳理の強い想いから、2017年にスタートした〈Choreographic Project〉。
定期的な公演継続のため、また、より多様な挑戦ができる場として発展させていくために、ダンサー主体でのクラウドファンディングにも挑戦。多くのご支援によって実現した〈Choreographic Project 2024〉初日の様子をレポートします!

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東京バレエ団のスタジオ内に暗幕が張られ、平台を積み重ねてつくった客席は小劇場の芝居小屋を思わせる。入場するとブラウリオ・アルバレスが立っていて、チケットを確認し、座席の場所を案内してくれる。しばらくすると加藤くるみが司会として登場し、開演前の注意事項(スマホはOFFに、飲食は禁止など)の際はダンサー数名が身振り手振りを使ってユーモラスに表現。この〈Choreographic Project〉ならではの"手作り感"ある演出で、ダンサーが普段よりもぐっと身近に感じられ、会場全体が温かい雰囲気に包まれる。

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最初に上演されたのは、木村和夫振付の『チャイコフスキー・ピアノ・コンチェルト第1番より第3楽章』。3組のカップル(足立真里亜、富田紗永、福田天音、生方隆之介、樋口祐輝、陶山湘)と、男性ダンサー8名による群舞が混ざり合う。男女カップルによるパ・ド・ドゥは、互いのピュアな感情が交差して心が弾む。一方で、男性ダンサーだけのアンサンブルではアレグロの動きも多く、迫力満点。クラシック・バレエをベースにしながら、ダイナミックさと繊細さをあわせ持つ作品世界に魅了された。

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続いて、岡崎隼也が振付けた、秋山瑛のソロ作品『ふたつのかげ』。ガブリエル・フォーレの切ない調べにのせて、白いシャツと赤い靴下姿の秋山が時折顔を隠しながら踊る。配役表には、振付家からのメッセージとして「影と陰 見えているものと見えていないもの ふたつはひとつ」という言葉が添えられており、秋山の動きからは内側に抱えた悲しみや切なさのような、どろりとした感情と向き合い、もがく様が感じられる。ぞくっとするような妖しい美しさも垣間見え、心をとらえて離さない作品だった。

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次の作品は  、井福俊太郎の『la Mano』。ムルコフによる打ち込み系のサウンドをベースに、ダンサーたちは重心を低く落として踊る。井福からのメッセージは「空間と振動」。時に転がり、時に地を這いながら、リズミカルにアップダウンの動きを繰り返す。その力強いムーブメントは音楽と一体化し、身体でもって空間を切り裂いていく。ダンサーたちもそれぞれの力量を存分に発揮し、客席も含めて劇場全体が一体となるような、そんなパワフルな作品だった。

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今回、富田翔子は大活躍だった。クラウドファンディングでは富田がデザインしたオリジナルグッズ(Tシャツとトートバッグ)が人気で、ダンサーとしても出演。さらに初振付作品『ma vie』を上演した。長谷川琴音と生方隆之介による、思わず笑みがこぼれるようなパ・ド・ドゥ。富田によると、この作品は大人と子どもを描いた物語で、「自分の心地よさに身を委ねて生きる命すべてが思うままの姿でいられたらいい」という願いを込めて作られたという。ふたりの動きがシンクロし、重なり合う様は実に心地よく、爽やかで愛らしい作品となっていた。  

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本プロジェクトの常連振付家であるブラウリオ・アルバレスは今回、ふたつの作品を上演。ひとつめはタイの伝統文化からインスパイアされた『Siamese』で、ダンサーたちはタイの伝統舞踊で着用されるような衣裳を身にまとい、エキゾチックなメイクを施していた。ブラウリオはこの衣裳を作るため、自らタイに生地を買い付けに行ったという。バッハの「平均律クラヴィーア」にのせて踊られるのは、非常にピュアなクラシック・バレエで、動きの美しさが際立つ。小品ながら、幕ものの抜粋を観たような見ごたえがあった。

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もうひとつは総勢10名のダンサーによって踊られる『Komorebi』。"木漏れ日"と題された理由として、アルバレスは「葉を通して漏れる太陽の光のように、私たちの社会には何かしら際立った個人がいます」と書いているが、そのきらめく個人は時にはみ出し、飛び出し、もがき、あらがうこととなる。足を踏み鳴らし、ねじ伏せるような動きのなか、一触即発といった雰囲気もあり、集団における個の葛藤が描かれる。偶然だが、この日(7月6日・初日)は上空で雷がとどろき、その轟音が鳴り響くなかでの上演となったのだが、その不穏な音がまるで効果音のように本作品にぴったりであった。

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最後に上演されたのは、再び岡崎隼也による振付作品『チェロからはじまる私とあなたの関係』。「あるチェリストの音源を聴いた時に得たイメージを6つのショートストーリーに落とし込んだオムニバス作品」とあり、それぞれ「無我夢中」「二者択一」「一心同体」「共存共栄」「合縁奇縁」「光芒一線」のタイトルがついている。照明の効果が素晴らしく、黄色や青、緑、赤など、鮮やかな色の光を用いた照明がストーリーごとに切り替わり、どこか白昼夢を観ているような不思議な気分になる。明るく、ユーモアを含んだ振付の中にほどよい毒っけもあり、ウィットに富んださまざまな人間関係が踊りで表現された。

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残念ながら、上演中の雷雨の影響で空調設備に不都合が生じ、2日目以降の上演を断念せざるを得なかったが、8月22日(木)に日を改めて再演されることが決まったという  。また、来年(2025年)3月にも本プロジェクトの上演を予定しているそうで、会場入り口ではその支援も兼ねたグッズ販売が行われていた。これからの発展にも大いに期待したい。


取材・文=富永明子(編集者・ライター)
photos: Koujiro Yoshikawa




2024/07/17

ブノワ舞踊賞2024 ガラ・コンサートに秋山瑛、柄本弾、宮川新大が出演

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ボリショイ劇場の前で。柄本弾、秋山瑛、宮川新大



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審査員を務めた、芸術監督の斎藤友佳理と。


バレエ界で世界的に権威ある賞のひとつ、ブノワ舞踊賞Prix Benois de la Danse2024に、既報の通り、振付家部門で「かぐや姫」の振付家、金森穣氏が、また女性ダンサー部門でプリンシパルの秋山瑛がノミネートされ、その発表が6月25日モスクワのボリショイ劇場で行われました。

秋山瑛は、受賞は逃したものの、同日授賞式に続いて開催されたガラ・コンサートでノミネートの対象となった「かぐや姫」のパ・ド・ドゥを柄本弾とともに審査員や観客の前で披露し、満場の喝采を浴びました。またガラ・コンサートは翌日にも開催され、この日は秋山と宮川新大が「タリスマン」パ・ド・ドゥを踊りました。

授賞式と公演に参加した3人の感想をお伝えします。



秋山瑛

ボリショイ劇場の舞台で踊れる日がくるとは思っていなかったので、すべてが夢のような出来事でした。舞台の広さ、そこで働く方々の人数、すべての規模が大きい。たとえば本番中に舞台の奥に走っていくとき、奥行きがあっておまけに斜舞台なので、坂を登っていくようなしんどさがあったり。ただ、本番のことは正直あまり記憶になくて......(笑)。モスクワに到着した翌日がもうゲネプロで、続けて本番が2回だったので、無我夢中でした。

踊ったあとの客席の反応は素晴らしかった。踊り終わって一度舞台袖に引っ込んだあとも、手拍子で呼び戻してくださって。楽屋口で待っていた方々も、「『かぐや姫』、よかった」「『タリスマン』、よかったよ」と声をかけてくださった。みなさんとても温かかったですね。

また、今回ノミネートされた方々、受賞者、出演者の方々の、踊りやレッスン、楽屋での様子を拝見したり、お話しできたことがとても嬉しかったです。みなさんとても親切で、ダンサー同士でリスペクトし合っている。その中には、私が7歳のときに初めて観た「白鳥の湖」でオデットを踊っていた、ミハイロフスキー・バレエのイリーナ・ペレンさんもいらっしゃったんです。私がバレエを始めるきっかけになった方です。そのことを彼女に伝えることができたのが、とても嬉しくて。それから「タリスマン」のオーケストラ演奏の指揮者が、4月の東京バレエ団の「白鳥の湖」で指揮をされたアントン・グリシャニンさんで、「久しぶり」と声をかけてくださった。場所が変わっても互いに繋がっていると感じられて、芸術っていいなと心から思いました。



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イリーナ・ペレンと。



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柄本弾

僕自身がブノワ賞にノミネートされたわけではありませんが、この賞を通して世界のバレエ界で「かぐや姫」が注目されて、その作品で(秋山)瑛が女性ダンサー部門でノミネートされた、その二つのことに関われたことが、まずとても光栄なことだと感じています。それから、いままでヨーロッパの大きな劇場──パリ・オペラ座やミラノ・スカラ座で踊りましたが、まさかロシアのボリショイ劇場でも踊れる日が来るとは思ってもいなかったので、印象深いですね。僕が入団してから東京バレエ団がロシアに行くことはなかったので、とてもいい経験になりました。瑛も僕も(宮川)新大も、ボリショイはみんな初めてだった。

舞台で踊っていたので他の出演者との比較はできないけれど、踊った後の客席の反応は悪くはなかったと感じました。本番後のレセプションでも大使館の方とか外国の方からも「『かぐや姫』がとてもよかった、ぜひ全編を観たい」とけっこう多く声をかけられたので、評価されているなと思いました。

ボリショイ劇場はとにかく舞台が広くて奥行きが深いので、(斎藤)友佳理さんから事前に空間の使い方、ポジショニングのことを言われていました。それと何か表現するにも大きく、オーバーなくらいでと。『かぐや姫』はクラシックと違って細かい動作が多いのですが、それも少しずつ大きくやるようにと。そこは瑛と話し合ってどういうふうにやるかは何回も話しました。



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宮川新大

今回ブノワ賞のガラ・コンサートに出演して、あのボリショイ劇場に立てたことが、個人的にはもっとも嬉しく感無量でした。また、舞台に関わっている方々がダンサーのことをすごくサポートしてくれて、バレエや僕たちダンサーへのリスペクトが強く感じられ、ロシアにいることを改めて強く感じました。以前にモスクワ音楽劇場バレエで踊っていたときも感じていましたが、ここはダンサー・ファーストの国なんです。一般の人たちがバレエに親しみ、バレエを愛していて、映画を見るようにバレエを観るというお国柄だからこそですよね。

初日の(柄本)弾さんと(秋山)瑛の「かぐや姫」のパ・ド・ドゥを客席で観ていましたが、観客の興奮ぶり、熱量はすごいものがありました。「かぐや姫」はとても受け入れられていて、客席で観ていた僕は、2人が踊っているのを観て感動で泣いてしまったほどです。僕自身は二日目のガラで、「タリスマン」のパ・ド・ドゥを瑛と踊りました。ふだんはボリショイ・バレエを観ている観客の前で、ロシアの演目を踊るのは少しだけ不安もありましたが、僕らもとても大きな拍手と歓声をいただいた。誰よりもロシアバレエを知っている友佳理さんにこの作品を選んでいただいて、心から良かったと思います。ロシアの国営テレビで流れたブノワ賞のニュースでも、僕たちの「タリスマン」が抜粋されて放送されたんですよ。すごく光栄なことです。



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●ブノワ舞踊賞2024の受賞者、審査員、ガラ・コンサートの演目等につきましては下記をご覧ください。

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