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ロングインタビュー2022/06/07

「ドン・キホーテ」初役でのぞむキトリに向けて ――涌田美紀 ロングインタビュー

今回はまもなく開幕する「ドン・キホーテ」で、本公演が全幕のタイトルロールデビューとなることが決まった涌田美紀(東京バレエ団 ソリスト)が登場。初役に向けた思いやリハーサルの様子などを語りました。ぜひご一読ください!

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涌田美紀(東京バレエ団 ソリスト)


――キトリ役はこれまでにも経験されていますね。
涌田美紀 2020年の秋、子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』の学校公演で初めて踊りました。学校公演のヴァージョンは通常版の『ドン・キホーテの夢』よりさらに簡潔で、上演時間もより短めなのですが、期間中に何度も出番があるので、記録映像で自分の演技を確認しながら、日々工夫していくことができます。これはとても勉強になりました。自分の映像を観るのは本当は恥ずかしくていやなのですが(笑)。

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「ドン・キホーテの夢」キトリ役
Photo:Shoko Matsuhashi


――新たな気付きはありましたか。
涌田 表現すること、物語を伝えることの難しさ、大切さがよくわかりました。動きが小さいと伝わりにくくなるのはもちろんですが、全部が大きすぎても伝わらない。メリハリをつけることが重要だということを実感しました。

――初めての全幕版キトリ。涌田さんにとっては初の全幕主演作品となります。
涌田 全幕の主役を踊ってみたいという気持ちはありましたが、まさか本当にこんなチャンスをもらえるなんて思ってもいませんでした。とても驚きましたし、嬉しくも思います。

――振付家のワシーリエフ氏が、涌田さんの舞台映像を見て「彼女に全幕を踊らせるべき」とおっしゃったそうですね。
涌田 光栄なことですが、同時に、「『5番が入っていない』『音の取り方が違う』と私が怒られたのよ」と友佳理さん(斎藤友佳理芸術監督)に言われてしまいまして......。もちろん、改善します!

――いまは斎藤芸術監督の特訓が続いています。
涌田 細かく丁寧、それでいてとても熱い特訓です。本当にありがたく思います。キトリとして、「客席の2,000人の視線を釘付けにして!」「あなたの中にある熱いものを全部出して!!」「もっと! もっと!!」と日々注意を受けていますが、まだまだ足りません。

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いままでの私の踊りは、その時はその時で必死に取り組んでいたのだけれど、どこか無難におさまってしまうところがあったと思います。テクニックに捉われすぎていたのかもしれません。でも主人公として一番大切なことは表現、物語を伝えること。テクニックのことを考えなくてもしっかりとした表現ができるようにすることが大切だと思うようになりました。


――ご自身で変化を感じていますか?
涌田 友佳理さんのアドバイス通りに踊ると、周りの皆に「踊りが大きくなったね」と言われます。友佳理さんの教えはとてもよくわかるし、すごくよく響きます。プリセツカヤやマクシーモワはこんなふうに踊っていたんだと実演してくれることも。昔の優れたダンサーたちの踊りはよく映像で見ますが、それはもはや振りとかテクニックとかではなく、ありのままの存在感の凄さ。簡単に真似できることではありませんが、とても勉強になります。

――プリンシパルの秋元康臣さんとパートナーを組むのも初めてですね。
涌田 のびのびと踊らせてくれて、私自身大きくなっているような感じさえします。彼のバジルは爽やかで伸びやかで、力みのない踊りが魅力。恋人のキトリ役としては、大人っぽく、そして気の強さを感じさせつつ、バジルが大好きであることを見せていきたいです。身長が低いので、小さくまとまってしまうことのないよう、いろいろと考えながら役作りをしています。

――全幕版で初めて挑戦する場面もたくさんありますね。
涌田 中でも第1幕の広場からジプシーの野営地への場面転換の際に幕の前でバジルと踊る"ロマンス"がとても素敵なんです。これはワシーリエフ版ならではの場面だそうですが、こうした踊りをしっとりと魅力的に見せることができたらと思っています。

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私は小さい頃から『ドン・キホーテ』の音楽が大好きで、ずっと繰り返しCDを聴いていました。「こんな音楽で踊れたら本当に楽しいだろうな」と思っていた曲がいくつもあります。いま、その時の気持ちが蘇ってきて、「夢が叶うんだ」とウルッとしてしまうことも(笑)。本番では、私らしい、私にしかできないキトリを演じることができたらと思っています。さらに、夏には子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』全国ツアーでもキトリを演じますので、こちらもどうぞ楽しんでいただけたらと思っています。


取材・文:加藤智子(フリーライター)



★・・・涌田主演公演日

●東京バレエ団「ドン・キホーテ」
6月23日(木) 19:00 
6月24日(金) 19:00 ★
6月25日(土) 14:00
6月26日(日) 14:00
会場:東京文化会館(上野)


●東京バレエ団 子どものためのバレエ「ドン・キホーテの夢」
8月20日(土) 11:30
8月20日(土) 15:00 ★
8月21日(日) 11:30
8月21日(日) 15:00
会場:めぐろパーシモンホール(目黒)

レポート2022/06/01

東京バレエ団 団長 故飯田宗孝 お別れの会

季節外れの暑さに見舞われた5月29日(日)、東京バレエ団スタジオにて、今月7日に天国へと旅立った東京バレエ団団長、故飯田宗孝のお別れの会を執り行いました。会場となったAスタジオは、飯田が日々、レッスンやリハーサルで多くの時間を過ごした思い出の場所。舞台スタッフの協力により、中央にベジャール振付『くるみ割り人形』マジックキューピー役を演じた時の飯田の写真を据えた大きな祭壇を設え、バレエ界関係者、バレエ団OBOG、スタッフの皆さんをお迎えし、現役の団員たちを含むと200人以上が、生前の飯田を偲ぶ会となりました。

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参列者全員での黙祷ののち、お別れの会実行委員長を務める公益財団法人日本舞台芸術振興会専務理事の髙橋典夫が、「飯田は3月の末までずっとここでクラスを教えていました。ダンサーたちにとっても、飯田の死は大きなショックだったでしょう。スタジオでこうしてたくさんの方にお集まりいただいて、飯田は本当に喜んでいるのではないかと思います」と挨拶。

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公益財団法人日本舞台芸術振興会専務理事 髙橋典夫


その後、前方のスクリーンに写し出されたのは、飯田の舞台の映像やオフステージ、スタジオでの写真などをおさめた追悼映像。一昨年秋の東京バレエ団「M」に出演されたピアニスト、菊池洋子さんの生演奏が、皆を、それぞれの胸の中にある飯田の思い出にひたるひとときへといざないました。

上映された追悼映像

その後、お別れの言葉を述べたのは東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理。「人として一番大切な優しさ、愛情を学びました」と、芸術監督、団長として力を尽くした飯田にリスペクトを捧げました。

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東京バレエ団芸術監督 斎藤友佳理

OBOG代表として登場したのは、1983年から2004年まで芸術監督を務めた溝下司朗さん。「寂しがりやのキューピーに一言、言ってあげてください」と、彼の音頭で、全員で「キューピーさん!」と天国の飯田に呼びかける場面も。

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OB・OG代表 溝下司朗さん

また団員代表の柄本弾が声を震わせて語った飯田との思い出話も、多くの人の涙を誘いました。

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団員代表 柄本弾

国内外の関係者たちからも数多くのメッセージが寄せられ、東京バレエ団バレエ・スタッフの木村和夫が、その一部を紹介。シルヴィ・ギエムさん、ウラジーミル・マラーホフさん、シュツットガルト・バレエ団のタマシュ・デートリッヒ芸術監督、ミラノ・スカラ座バレエ団マニュエル・ルグリ芸術監督、指揮者のベンジャミン・ポープさんなどから届いたメッセージを読み上げました。

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バレエ・スタッフ 木村和夫

締めくくりにご挨拶されたのは、喪主を務められた兄の飯田晴久さん。子供の頃の話や、闘病中にダンサーたちに会いたがっていたことを明かし、感謝の言葉とともに「皆さんが活躍することが本人にとって嬉しいこと。皆さんで東京バレエ団を盛り上げていってもらいたい」と述べられました。

時折声を震わせながら司会進行役を務めた東京バレエ団ファーストアーティスト後藤健太朗をはじめ、多くの団員たちに見送られた飯田。閉式後は一般の方々のための献花の時間も設け、東京バレエ団ファンの皆さまにも、飯田の数々の功績を振り返り、偲ぶひとときを過ごしていただくことができました。


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飯田にゆかりのある舞台衣裳を展示
左からベジャールの「くるみ割り人形」マジック・キューピー、「ザ・カブキ」定九郎、「かぐや姫」翁


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在りし日の飯田の舞台人、指導者としての姿をパネルで紹介


Photos:Mizuho Hasegawa


レポート2022/05/18

【現地レポート】上野の森バレエホリデイ2022
4月29日から5月1日、〈上野の森バレエホリデイ〉が三年ぶりにリアルで開催されました。東京バレエ団のダンサーたちは、クランコ版「ロミオとジュリエット」バレエ団初演に取り組むとともにさまざまなイベントに参加、3日間の〈ホリデイ〉を大いに盛り上げました。

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Photo:Mizuho Hasegawa

コロナ禍の中で初めて迎えた行動制限のないゴールデンウィーク、その初日となった4月29日は、あいにくのお天気。寒空のもとでのスタートとなった〈ホリデイ〉でしたが、会場となった東京文化会館には、大ホールホワイエのバレエマルシェや小ホールホワイエの手作りワークショップなどに多くの人たちが集う、おなじみの風景が戻ってきました。

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Photo:Mizuho Hasegawa

多彩なトークやパフォーマンスのプログラムが組まれた小ホールのイベントは、恒例のはじめてのバレエ・レッスンからスタート。正午すぎからは8バレエ団ダンサーズトーク&取材映像上映会が開催されました。井上バレエ団、小林紀子バレエ・シアター、貞松・浜田バレエ団、スターダンサーズ・バレエ団、東京シティ・バレエ団、東京バレエ団、法村友井バレエ団、牧阿佐美バレヱ団のダンサーたち8名が登場し、各バレエ団のスタジオで事前取材された映像とともにトークを展開するというレアな企画です。東京バレエ団からはプリンシパルの上野水香が参加。斎藤友佳理芸術監督、プリンシパルをはじめとするダンサーたちが自分たちのバレエ団の特色についてコメントする取材映像とともにトークを展開、ベジャール作品をはじめとする多彩なレパートリー、国内外での公演回数の多さなど、東京バレエ団の魅力を紹介しました。終盤では、ダンサーからダンサーへの質問も飛び出し、カンパニーの枠を超えた楽しい交流の場に。

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写真左から荒井成也さん(井上バレエ団)、植田穂乃香さん(東京シティ・バレエ団)、塩谷綾菜さん(スターダンサーズ・バレエ団)、上野水香(東京バレエ団)、真野琴絵さん(小林紀子バレエ・シアター)、上山榛名さん(貞松・浜田バレエ団)、法村圭緒さん(法村友井バレエ団)、水井駿介さん(牧阿佐美バレヱ団)。
Photo:バレエチャンネル


屋外特設ステージでもさまざまな催しが登場。初日はOSK日本歌劇団の団員による「ラインダンス」体験レッスン、東京シティ・バレエ団のダンサーたちがモデルを務めるバレリーナを描こうが行われました。OSK団員の皆さんはその後小ホールに登場し華やかな歌と踊りを披露、客席はたくさんの明るい笑顔と手拍子に包まれました。

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バレリーナを描こう
Photo:Mizuho Hasegawa

大ホールで連日開催された東京バレエ団公演「ロミオとジュリエット」も、初日の沖香菜子、柄本弾を皮切りに、2日目の足立真里亜、秋元康臣、3日目の秋山 瑛、池本祥真の3組の主役カップルが、見事にクランコのドラマの世界を踊り切り、喝采を浴びていました。

お天気に恵まれて過ごしやすい日となった2日目。小ホールのイベントは、はじめてクラシック〜バレエ音楽の誘い〜で開始。木管五重奏によるバレエ音楽とダンサーの踊りで、小さな子供たちがバレエ音楽を体感しました。また大ホールでは東京バレエ団恒例の公開レッスンを実施。午後の「ロミオとジュリエット」公演にのぞむダンサーたちのレッスンを、多くのお客さまが客席から見学しました。

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公開レッスン
Photo:Mizuho Hasegawa

午後の小ホールは「ロミオとジュリエット」名版ダンサー・クロストークでスタート。マクミラン「ロミオとジュリエット」主演ダンサーである元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパルの佐久間奈緒さん、厚地康雄さんが登場し、前日にクランコ版「ロミオとジュリエット」バレエ団初演でロミオ役を踊ったばかりの東京バレエ団プリンシパル、柄本弾とともに、「ロミジュリ」の各ヴァージョンの魅力や特色、感動する場面などを、舞台映像を交えながら語り合いました。イベント終了直後には多くの来場者が大ホールへと直行。3人のトークでより深く、より感動的な「ロミオとジュリエット」を体感されたのではないでしょうか。

その頃小ホールで開催された【スペシャル・コラボイベント】TVアニメ「ダンス・ダンス・ダンスール」声優トーク×ダンス&クリエーション2022では、「ダンス・ダンス・ダンスール」村尾潤平役の山下大輝さん、同じく森流鶯役の内山昂輝さんが登場。オープニングのトークの後、ダンス&クリエーションへ突入、山下さん、内山さんとともにダンサーたちのオリジナル作品を鑑賞、その後のアフタートークでは、バレエの魅力について二人か感じたことを語り合っていました。さらに後半では村尾潤平のモーションアクターをつとめた井福俊太郎も登場、ダブル潤平でのトークが実現し、会場を湧かせました。

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写真左から村尾潤平役の山下大輝さん、井福俊太郎、森流鶯役の内山昂輝さん
Photo:Shoko Matsuhashi

再び雨が降り出した5月1日。〈上野の森バレエホリデイ 2022〉最終日も、多彩なイベントが目白押し。小ホールでは午前中からバレエウェア・コレクションで盛り上がりを見せました。大ホールでは2日目と同様東京バレエ団による公開レッスンを実施、「ロミオとジュリエット」3日目の公演への期待を胸に、多くのお客さまがダンサーたちのレッスンに見入っていました。
そして午後、さらに盛り上がりを見せたのが、小ホールでの【ダンスマガジンプレゼンツ】クロストーク 上野水香×町田樹。フィギュアスケート日本代表として活躍した町田さんと上野のトークは、2020年、2021年と二年続けてオンラインで実施されましたが、ここでついにリアルで実現! 客席は開演前からワクワク感と熱気に包まれていました。登場するやいなや、上野に大きな花束を差し出し、芸術選奨文部科学大臣賞受賞のお祝いの言葉を述べた町田さん。会場はパッと明るいムードに包まれ、その後も町田さんのリードで、表現のこと、伝えること、作品理解について、さらには未来のことについてなど、さまざまな話題が飛び出しました。自分の身体ではなく、他者に振付けて表現することに取り組んでいる町田さんですが、いまもバレエのレッスンに真剣に向き合っているという彼に、上野が「今度はバレエの舞台に挑戦を」とすすめて会場を湧かせる場面も!

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写真左から町田樹さん、上野水香
Photo:Mizuho Hasegawa

この日も多くのお客さまが東京バレエ団のクランコ版「ロミオとジュリエット」を楽しまれていましたが、バレエ公演終了後は、多くの方が舞台の感動の余韻そのままに、小ホールでのダンス&クリエーション2022に向かいました。
ダンサーたちが創作したオリジナル作品を上演するこの企画は、2017年の〈バレエホリデイ〉スタート時から実施されてきましたが、小ホールの舞台での単独公演は初めての試み。どんな作品との出会いがあるか、期待が高まる中での開演となりました。
トップバッターは、東京シティ・バレエ団 草間華奈さん振付の「蓮華─renge─」。ヨハン・セバスティアン・バッハの無伴奏チェロ組曲の調べとともに繰り広げられる、男女6人による、しっとりとした、音楽性あふれる作品でした。

続く2作品目からは、東京バレエ団のダンサーたちの作品が続きます。
ブラウリオ・アルバレスは、アグスティン・ララの曲で前川琴音と山仁尚に振付けた初々しいデュエット「Farolito」を披露。バレエ・スタッフの木村和夫は、2017年の〈バレエホリデイ〉で発表した「Humming Bird」を上演。当初から若いダンサーたちが踊り継いできたデュエットですが、今回も研究生の池内絢音と岸本花がみずみずしい踊りで魅せました。

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「Humming Bird」
Photo:Shoko Matsuhashi

金子仁美はモーツァルトのトルコ行進曲に振付けた、女性3人のコミカルで可愛らしい作品「Daydream」を上演。ショーウインドウから飛び出した美しいマネキンに扮する加藤くるみ、髙浦由美子、上田実歩の3人によるキャッチーな人形振りが魅力的。
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「Daydream」
Photo:Shoko Matsuhashi

岡崎隼也は3月の〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉で発表した、レディオヘッドの音楽による「somewhere but not here.」を、新たに映像付きで上演。舞台上で踊られるのは工桃子と富田翔子のデュエットですが、やがて映像の中の二人の男性ダンサーたちのダンスと交わり、えもいわれぬ独特の世界観を打ち出します。
ブラウリオ・アルバレスはもう1作、「風薫る」を上演。長谷川琴音、鈴木香厘、居川愛梨がヨハン・セバスティアン・バッハのフルートと通奏低音のためのソナタにのせて展開する小品は、ヒマワリ、ツバキ、ブーゲンビリアの花をイメージして振付けたというチャーミングな踊り。

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「風薫る」
Photo:Shoko Matsuhashi

最後の作品は、岡崎隼也の「Connect」。2017年の〈バレエホリデイ〉屋外特設ステージで上演された作品「Scramble」の続編として、振付を大幅に改訂して上演、自身の振付の強みをより明確に打ち出して、会場全体を楽しませました。

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「Scramble」
Photo:Shoko Matsuhashi


こうして〈上野の森バレエホリデイ 2022〉はフィナーレへ! 多くのお客さまが、東京バレエ団をはじめとするダンサーたち、他ジャンルのアーティストたちによる多彩なイベントを存分に楽しんだ3日間となりました!


取材・文:加藤智子(フリーライター)

レポート2022/04/05

〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉公演レポート

去る3月13日に東京文化会館で開催したTHE TOKYO BALLET Choreographic Project〉。このたび、本プロジェクトを初回から取材していただいている加藤智子さん(フリーライター)に本番の様子をレポートしていただきました。ぜひご一読ください!

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カーテンコールより


313日、東京文化会館にて〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉公演が開催された。ダンサーたちが仲間とともに作品を創り、発表する機会を設けるべく、2017年にスタートした本プロジェクト。今年もそのハイライトともいえる作品上演の場で、6人の振付者が作品を発表した。

冒頭、ステージで挨拶した斎藤友佳理芸術監督は、本プロジェクトの趣旨についてあらためて説明、「常に受け身の存在であるダンサーたちが自ら作品を創ることによって、振付者、ダンサー双方の感性、想像力、表現力を刺激し合い、成長していってほしい」と思いを明かした。当初は東京バレエ団の稽古場で〈スタジオ・パフォーマンス〉として開催する計画だったが、今年に入って日時を変更、シュツットガルト・バレエ団日本公演(昨年末に中止が発表された)のために確保していた東京文化会館大ホールで、密を避けて開催することに。このステージでの上演については、「戸惑いもあったけれど、これはまたとないチャンス。いまダンサーたちは、この舞台で踊れることに胸を弾ませている」と斎藤。スタジオに観客を迎え入れての上演と、東京文化会館、それも大ホールでの上演では、スケール感も雰囲気も全く異なる。振付プランを変更した振付者もいた。それぞれに期待や不安を抱えながらのクリエーションとなっただろう。

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ゲネプロ中のブラウリオ・アルバレス photo JPD 

全7作品による本公演。その幕を切ったのは、プロジェクトのスタート時から多くのダンサーたちを巻き込み、数々の作品を発表してきた岡崎隼也の『somewhere but not here.』だ。レディオヘッドが2000年にリリースした楽曲、「キッドA」に想を得て振付けた2組の男女(工桃子、富田翔子、鳥海創、昂師吏功)のための小品は、当初、スタジオでの上演のためのパ・ド・ドゥとして構想を練っていた。終演後のトークで明かしたのは、「小さなスペースに集中してもらえるよう、テレビの中で起こっていることを観るような作品に」という見せ方のアイデア。舞台スタッフの力を借りながら、楽曲のメッセージに寄り添ったユニークな世界を打ち出した。

続く井福俊太郎の『After Show』は、舞台の本番を終えたダンサーの、日常の思い、葛藤を作品に。井福自身と玉川貴博、中沢恵理子のダンスに加え、蝶ネクタイ着用で登場の中嶋智哉が、ピアノの鍵盤を叩き、高笑い。不安や焦りの入り混じった、表現者の複雑な胸の内を形にしたような作品だが、井福は「ダンサーにとって、一つの舞台が終わり、次にまた始まるまでの時間というものが、とても貴重で大切だということを再認識しながら創りました」と創作時を振り返った。

バレエ・スタッフの木村和夫は、バレエ・リュスの名作をもとに創作した『バラの精』を上演。バラの香に導かれて夢に落ちる男性(池本祥真)が、女性たち(加藤くるみ、足立真里亜、平木菜子、中島映理子)に囲まれて楽しく過ごすひとときを描く。ステージで上演するのはこれが3作目という木村。アフタートークでは、「音楽と踊りで見せる純粋に楽しんでいただきたいという思いで創った。もう10歳若ければ僕自身が踊りたいくらい」と笑顔を見せた。

二度目の参加となる安井悠馬の作品は、15人の男性ダンサーによる独特の群舞が目を引く『嚇灼』。パワフルな男性の群舞の中で、妖精を思わせる丈の長いチュチュをまとった秋山瑛のいたいけな姿が際立つ。終演後、安井は「例年のこのプロジェクトでもあまり活躍の場がなかったコール・ド男子たちの魅力を引き出し、まとめ上げたいと思った。当初は"怒り"をテーマにしていたけれど、次第に

"怒り"の感情は消えて、男性ダンサーたちの迫力そのものを打ち出せた」と語った。

休憩を挟んでのプログラム後半のスタートは、岡崎隼也の2作目。どう読ませるのかと不思議に思われた『【   】』はつまり、「タイトル未定」という意味合いを含む。音楽はラヴェルの『ボレロ』に、新たに音を重ねてアレンジした独特のサウンド。吊り下げられた5つのランタンの灯りのもとで、柄本弾、伝田陽美、秋山瑛、池本祥真と岡崎の5人によるダンスが、ソロ、デュエットと形を変えながらクライマックスへと突き進む。「光のエネルギー、自分の身体の力を前面に出せる作品を創れたらと取り組んだ」という岡崎だが、これまで彼が創作を重ねて培ってきた多彩な動きが詰まった力作に。カーテンコールでは、岡崎がおどけた雰囲気で深く、深く頭を下げ、ダンサーたちに感謝の意を伝える様子が微笑ましかった。

続く金子仁美は一昨年に続いて2回目の参加、作曲家・清塚信也がTVドラマのために書いた楽曲に振付けた男女のパ・ド・ドゥ『The sun rises』を発表。産科医療の現場を描いたこのドラマ「コウノドリ」を、登場人物と同じ苦しみを持つ身内がいたことで見るようになったという金子だが、「この音楽を毎日、毎日、繰り返し聴いて、いつの日か頭の中に男女のパ・ド・ドゥができていった」という。音楽の美しさを素直に捉えた振付が爽やか。工桃子、樋口祐輝が踊った幸せそうな若い男女が、それぞれに不安、悩みを抱えながらも、進むべき道を見つけて寄り添っていくというストーリーを、温かみあるパ・ド・ドゥに仕立てた。

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ゲネプロ中の金子仁美

最後を飾ったのは、岡崎とともに初回から作品を発表し続け、本プロジェクトの中心人物の一人となっているブラウリオ・アルバレス。マーラーの交響曲第2番「復活」第4楽章と第5楽章の前半に振付けた「Urlicht(原光)」。前半は愛し合う男女のパ・ド・ドゥ(瓜生遥花、岡﨑司)、後半は女性の死から復活へ──。光に満ちた世界と、強烈なオーラを発する未知の存在(伝田陽美)を、ダイナミックな振付で描き出す。この音楽にすっかり魅了されたアルバレス。アフタートークで「今回は『復活』を完成させることができませんでしたが、いずれは全楽章を振付けたい」と意気込むと、会場から大きな拍手が沸き起こった。

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 終演後のアフタートーク

その後のアフタートークでは、緊張気味の金子が司会を担当。その朗らかな声に促され、皆口々に作品に込めた思いや創作への情熱、今後の展望などを語り合った。今回は、創作の仕上げの時期と、金森穣氏による『かぐや姫』第2幕のクリエーションが重なり、金森氏から助言をもらったエピソードも飛び出した。「振付家の心得とか覚悟についてお話しいただいたが、僕にはそういうものが足りないようにも感じた。作品を上演できて嬉しいけれど、手放しには喜べない。もっと一本筋の通ったものを目指さなければ」と話したのは木村和夫。日本を代表する振付家の一人、金森氏からの激励はとても貴重、大きな刺激となったはず。彼らの次回作に、大いに期待したい。なお、観客の投票による「観客賞」に、岡崎隼也の『【   】』が選ばれた。

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観客賞に選ばれた岡崎隼也振付『【   】』

取材・文:加藤智子(フリーライター)


レポート2022/01/01

東京バレエ団ダンサーからの年賀状2022
新年あけましておめでとうございます。

昨年も東京バレエ団にとっては厳しい一年となりましたが、大勢のお客様に支えられ、2021年は65回もの公演を実施することができました。劇場にお越しくださり、熱い拍手を贈ってくださった全ての皆様、ご支援くださった皆様にダンサー、スタッフ一同、心より御礼申し上げます。

2022年の年明けに、ダンサーたちから新年のご挨拶を申し上げます。毎年「クラブ・アッサンブレ」の会員様には、ダンサーの直筆サイン入りの年賀状をお送りしております。下記にて今回のサインを一挙公開いたします。どのダンサーからの年賀状か、楽しみにご覧ください。

本年は4月にクランコ版「ロミオとジュリエット」、そして10月には新制作「眠れる森の美女」と、全幕
の新制作2本を含む挑戦的なラインナップを予定しております。歩みを止めず、進化を続ける東京バレエ団に引き続きあたたかいご声援賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

末筆ではございますが、皆様にとって2022年が良い年となりますよう、一同心よりお祈り申し上げます。

東京バレエ団一同

■団長、芸術監督、バレエミストレス、バレエスタッフ
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■プリンシパル
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■ファーストソリスト
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■ソリスト
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■セカンドソリスト
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ロングインタビュー2021/12/06

「くるみ割り人形」上演に寄せて(その2) ~ 加藤くるみ、故郷で「くるみ」 
本日のブログには幅広い役柄で活躍している加藤くるみ(東京バレエ団セカンドソリスト)が登場! 「縁がある」という作品への想い、そして今回の「くるみ割り人形」全国公演の劇場の中でも、特に思い入れが強いというよこすか芸術劇場について語りました。ぜひご一読ください!

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加藤くるみ(東京バレエ団セカンドソリスト)

──加藤さんは横須賀とご縁があると聞きました。

加藤くるみ 出身は横浜なんです。家の近くのスタジオでバレエを始めましたが、その後スタジオが横須賀に移転、私はその後もずっと横須賀まで通いました。当初の私は小学校低学年。夜遅いときは親に迎えに来てもらっていましたが、行きは家の近くから乗り換えずに行けるバスが出ていたので、それに乗って1時間半、姉と通っていました。1人の時はいつも運転手さんの後ろの高めの席に座りなさいと言われていて、その席で揺られているうちに寝ちゃうんです(笑)。降りる停留所に着くと運転手さんが起こしてくれて、「ハッ!」となって起きる。こんなふうにして、高校を卒業するまで10年間ほど、横須賀のスタジオに通っていました。


──よこすか芸術劇場にはどんな思い出がありますか。

加藤 たくさんあります。スタジオの先生の方針で、発表会では必ずあの大舞台で踊らせてもらっていたので。初舞台もよこすか芸術劇場。『夢見るお人形』という作品で、コッペリアに出てくる人形の一人でした。舞台に向かう時、母に手をひかれて階段を登っていったことをよく覚えています。プロになってから何度かこの劇場で踊ったことがありますが、緊張します。最寄りの汐入駅に着いた段階でもうお腹が痛くなる(笑)。たぶん、発表会での緊張が呼び覚まされるのだと思います。


──プロを目指そうと思うようになったきっかけが、よこすか芸術劇場での体験だったとか。

加藤 11歳の時だったと思いますが、『くるみ割り人形』でクララ(東京バレエ団の舞台ではマーシャ)を踊らせてもらいました。この時、当時東京バレエ団で活躍されていた小出領子さんと後藤晴雄さんが、金平糖の精と王子役で客演してくださいました。舞台での私はもう夢うつつの状態だったのですが、そこで主役二人のグラン・パ・ド・ドゥを見ている時に、「本当のお姫さまと王子さまだ......」と、すっかりクララの気持ちに。この舞台上で、「私、バレリーナになりたい」と思うようになったんです。実は、東京バレエ団に入団後、バレエスタジオの『くるみ割り人形』の公演にゲストとして呼んでもらって、金平糖の精を踊ったことも。よこすか芸術劇場のあの舞台に、憧れの金平糖の精で戻ってくることができて、とても嬉しかったですね。

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11歳のとき。クララを演じる加藤くるみ。王子役が後藤晴雄(元東京バレエ団プリンシパル)

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同じく「くるみ割り人形」の舞台より、後藤晴雄、加藤くるみ、小出領子(元東京バレエ団プリンシパル)


──今回のツアー、横須賀公演ではどんな役柄を演じる予定ですか。

加藤 第2幕のディヴェルティスマン──マーシャを歓迎する各国の踊りの中の、ロシアを踊ります。ロシア独特の大きな頭飾りにAラインの衣裳、男性二人を引き連れた勢いある踊りで、登場の場面からもう元気いっぱいです。2年前の、このヴァージョンが初演された時から踊っていますが、ジャンプの多い踊りやキャラクター的な役柄を得意とするダンサーだということを、お客さまに見ていただけた最初の役だと思います。初演の時には、友佳理さん(東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理)が振付をつくる現場にいることができたので、その分、思い入れは強くあります。第1幕の弟のフリッツを踊る日もあるのですが、この役は、姉のマーシャのダンサーの雰囲気に合わせて、可愛い弟を演じたり、もっとやんちゃに演じたりしています。ちなみに今回の公演では、マーシャ役の沖香菜子さんと「しっかり者の姉(沖)、こじらせた弟(加藤)」という姉弟設定で演技してみようと話しています(笑)。ダンサーの組み合わせによって演技が全然違うので、お客様にはその点も注目していただけたら。


──では、バレエ『くるみ割り人形』の魅力は?

加藤 いい思い出があるからなのかもしれませんが、バレエの中で一番好きな作品なんです。音楽も素晴らしい。第1幕のマーシャと王子のパ・ド・ドゥの音楽がとくに好き。クリスマスの楽しい夢の雰囲気であふれています。これに続く雪の場面も、東京バレエ団の舞台は装置が本当に素敵で、映像を見てびっくりしたほど! 第2幕の花のワルツも夢の世界のようで好きです。
全幕を通して、夢の中に「おいでおいで」と誘われている感覚になるのが『くるみ割り人形』の魅力ではないかと思います。横須賀の皆さまにもぜひ楽しんでいただきたいですね。


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前回公演のカーテンコールより。加藤は左から2番目、花のワルツのソリストを演じた




ロングインタビュー2021/12/03

「くるみ割り人形」上演に寄せて(その1) ~ 政本絵美、故郷で踊る 
東京バレエ団では、本年(2021年)12月に「くるみ割り人形」を全国9都市で上演いたします。そのうちの1つ、東京バレエ団が香川県で全幕の公演をするのは実に17年ぶり! そこで、東京バレエ団でソリストとして活躍している政本絵美に故郷での公演にかける想いを聞きました。ぜひご一読ください。


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政本絵美(東京バレエ団ソリスト)

──昨年3月、東京バレエ団ソリストとしての活動が高く評価され、令和元年度香川県文化芸術新人賞を受賞されていますが、東京バレエ団の公演で地元高松で踊るのは今回が初めてだそうですね。

政本絵美 2009年に入団して以来、バレエ団の公演として香川で踊るのはこれが初めてです。とても嬉しく思っています。


──高松公演の会場はレクザムホールです。どんな思い出がありますか。

政本 通っていた教室では、2年に一度全幕バレエを上演していて、その会場がレクザムホールの大ホールでした。出演できるのは選ばれた人だけでしたから、この舞台が夢、でした。初出演は中学1年生の時で、演目は『ジゼル』でした。主演は東京からいらしたプロのダンサーで、ジゼル役は小学生の頃から特別講師としてたびたび指導してくださっていた方。アルブレヒト役の方も同じバレエ団で活躍されていたスターでしたが、リハーサルでマントをふわーっとさせた時、すごくいい香りがしたんです(笑)! 当時は男性のダンサーと接する機会はほとんどなかったうえに、本物の美しい王子さまが来た! プロってやっぱりすごい!と感動。この体験はとても大きなものでした。

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──プロになることを意識し始めたのはその頃でしたか。

政本 私はグラン・パ・ド・ドゥを踊らせてもらうようになったのが少し遅く、高校1年生の時に『白鳥の湖』の黒鳥のパ・ド・ドゥに取り組んだのが最初でした。この時、先にジゼルを踊ってくださった特別講師の先生に指導していただいたのですが、「私、初めてですよ?」と不安な私を、まさに手取り足取りで教えてくださって、結果、本番で先生ご自身に「ブラボー」と言ってもらうことができた! これは忘れられません。本当に大切な思い出です。この経験があって、プロになりたいなと思うようになりました。


──地元で見たバレエ公演で印象的だった舞台は?

政本 海外のバレエ団もたびたびツアーで来ていましたが、実は、東京バレエ団の『ジゼル』を観ているんです。主役は友佳理さん(現芸術監督の斎藤友佳理)でした。中学生の私にとって、あの狂乱のシーンは真に迫りすぎて観ていられなかったほど。コール・ド・バレエがすごかったということもはっきり覚えています。

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──『くるみ割り人形』の思い出は?

政本 高校2年生の時に参加した全幕の公演が『くるみ割り人形』でした。雪の女王という役と、花のワルツを踊っています。さらに、怪我をしてしまった人の代役で後半の各国の踊りの一つ、アラビアも練習をしていました。結局本番では実現しませんでしたが。


──今回の高松公演で演じるのは?

政本 第1幕ではマーシャの母を演じます。一瞬ですが夫婦で踊る場面があり、サラバンドというしっとりとした踊りのスタイルが特徴的です。ぜひ注目してみてください。
そして第2幕はなんと、高校生の時に実現できなかったアラビアです! パートナーはブラウリオ・アルバレスさんですが、彼はこの踊りの振付者で、単調になりがちなこの踊りを、コール・ド付きの変化に富んだ振付にしています。ソリストの二人がずっと組んで踊っているのも特徴的。アラビアのアラベスク模様のように、二人で1つになって美しい形をつくることをイメージしています。

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「くるみ割り人形」より、アラビアを踊る政本。相手役はブラウリオ・アルバレス

──東京バレエ団の舞台は、ロシアで制作した美しい装置も評判です。

政本 このヴァージョンでは、クリスマスツリーの中をマーシャと王子が旅をしていくという独創的なアイデアが活きていて、第2幕の各国の踊りの場面の装置もとてもきれいですよ。
今回のツアーはオーケストラも一緒に行きます。『くるみ割り人形』はチャイコフスキーの音楽が本当に素晴らしく、私も大好き。ぜひこの機会に生演奏での全幕の舞台を楽しんでいただきたいと思っています。せっかくの機会ですから、香川だけでなく、高知、愛媛、徳島の皆さまも、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。


──ところで、政本さんが地元の好きなところってどんなところですか?

政本 地元の方言が、ほんわかしていてすごく好きです。普段はあまり使っていませんが、どうしても地元の言葉でなければニュアンスが伝わらないなと思うことがあるんですよね。特に「むつごい」というのは「味が濃い」や「脂っこい」というニュアンス。他にも、「お茶をこぼした」というのを「お茶をまいた」と言ったり、何かが「転がった」というのを「まるぐ」って言ったり! 地元に帰ったらきっと方言がたくさん出てくると思います。



レポート2021/11/04

「かぐや姫」第1幕 世界初演によせて ー 廣川玉枝氏コメント

「かぐや姫」第1幕 世界初演まであと2日となりました。本日は本作の衣裳デザインを手がけた廣川玉枝さんからのコメントをご紹介します。
ぜひご一読ください。


廣川玉枝氏より、初演によせて
(SOMA DESIGN クリエイティブディレクター/デザイナー)(衣裳 デザイン )

今までも各段階でダンサーの皆さんには衣裳を着用頂き確認はしていましたが、こうして皆さんが揃って衣裳を着て動いている姿をみると、かぐや姫の世界観ができてきたなという手応えを感じました。

今回の衣裳製作にあたって重要視したポイントのひとつが軽さです。ダンサーの皆さんが踊りやすいよう、軽く、動きやすい衣裳にすることは非常に重要なポイントです。今回使っている素材は、身体にあわせてグラデーションプリントを施したり、プリーツ加工をかけるなど、舞台上でより美しくみえるように工夫をしています。

1幕の最後に、かぐや姫が都に行くシーンがありますが、ここでは最初と違って豪華な衣裳に身を包んだ「姫」に変身します。この場面でかぐや姫が着用するのは十二単をイメージした衣裳。日本の伝統色の緑色をベースにし、かさね色目で竹を想起するようなデザインにしています。


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リハーサルより。(写真左から)道児役の柄本弾、かぐや姫役の秋山瑛


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かぐや姫の衣裳を確認する金森穣(写真左)


廣川 玉枝SOMA DESIGN クリエイティブディレクター/デザイナー) 

2006年「SOMA DESIGN」として活動開始。同時にデザインプロジェクト「SOMARTA」を立ち上げる。同年「身体における衣服の可能性」をコンセプトにボディウエアシリーズ"Skin"を発表。2007年S/Sより東京コレクション・ウィークに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞
Canon[NEOREAL]展(2008 Milano)/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展(2008 Tokyo)/ Mercedes-Benz [SOMARTA x smart fortwo "Thunderbird"] (2012 Tokyo)にてインスタレーション作品を発表。
YAMAHA MOTOR DESIGNとのコラボレーションで電動アシスト車いす[ 02Gen-Taurs(タウルス) ](2014)を発表。
京都の友禅染、西陣織老舗との協業により新時代の和装をコンセプトに[Kimono-Couture](2014)を発表。ASIAN COUTURE FEDERATIONのメンバーに正式加入(2014)。
国内外初の単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜 -Creation of SOMARTA-」(2014 Tokyo)を開催。
SOMARTAのシグニチャーアイテム"Skin Series"がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ(2017)。
WIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞(2018)

ロングインタビュー2021/11/01

役の内面を理解し、動きを台詞のように ―池本祥真、「娘」役に初挑戦!

去る8月に上演された〈横浜ベイサイドバレエ〉の野外ステージでは「ギリシャの踊り」のソロを、9月の〈舞踊の情熱〉公演では「M」のソロを踊り、ベジャール作品で高い評価を確立してきた池本祥真(東京バレエ団ファースト・ソリスト)。11/7(日)に上演する「中国の不思議な役人」では、第二の無頼漢―娘、という異色の役柄に挑戦します。本番を前にした池本が作品への想いを語りました。ぜひご一読ください!

 

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リハーサルより。第二の無頼漢ー娘を演じる池本祥真


「娘」という役をどう演じるかが最大の課題

Q 今回初めて挑戦する作品ですが、配役を聞いたときの心境はいかがでしたか。

池本祥真 バレエ団の同僚たちと「また踊りたい作品」を話すときによく名前があがっていたんですが、僕が入団してからは(2018年入団)上演していなかったので、配役を聞いたときは「娘??」という感じでした。まわりからは「池本くんなら似合うよ」とは言われましたが(笑)。

 

Q リハーサルも佳境に入ってきましたが、どのような作品だと感じていますか。

池本 第一印象は、「これまでやってきたベジャール作品とテイストが違う!」。「ギリシャの踊り」「舞楽」「M」そしてまだ踊っていませんが「火の鳥」などは明確な物語がなく、動きによってストーリーが連なっていく、どちらかというとテクニックが重要な作品で衣裳もシンプルです。対して「中国の不思議な役人」は物語があって、衣裳も役のキャラクターを反映させたもの。役をどう演じるかが最大の課題だと感じています。

振付としてはクラシック・バレエにはない形ですが、踊っていてとても気持ちが入りやすいんです。これはベジャールさんの作品ならではだな、と感じます。

 

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2017年の上演より

 

役の内面をきちんと理解し、動きを台詞のように

Q リハーサル中に指摘されたことで、印象に残っていることはありますか。

池本 リハーサルの進め方でいうと、「M」の場合はベジャールさんの型をしっかりやることが第一でした。そのため「指は揃えて」「首の角度は」という動きのニュアンスを注意していただくことが多かったです。今回、十市さんは「この時娘はこういうことを考えているから、次のこの動きにつながっていく」というように、11つの動きに込められた意味を非常に丁寧に教えてくださっています。役の内面をきちんと理解し、動きを台詞のように、自分の中にしっかりと入れたうえで踊りとして表現していかないと意味をなさない作品です。

 

Q 女性を演じる男性、を演じるわけですが、どのようなことを感じていますか。

池本 ヒール靴に大苦戦してます。まだ全てとおして踊っていないですけど、捻挫しそうです(苦笑)ただ、ヒールを履くことで足元が不安定になるので、そこをうまく利用して女性的なラインを表現できたらと思っています。

本質的にこの役は男です。なのであまり美しく演じてもいけない。お客様には美しさを期待される方もいらっしゃると思うので、難しいところですね。

まだ完全につかめてはいないですけど、彼は自分の中に葛藤をかかえていて、女を演じる振りの中に時折、自分に嫌気がさしているような部分があるんです。彼の内面が振りのはしばしににじみ出ることで作品に深み、面白さが出る。目指すところは結構明確になってきました。

 

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リハーサルを指導する小林十市


振付どおりにやると音にピッタリとはまっていく

Q バルトークの音楽についてはどうですか。

池本 確かに音をとるのが難しい作品なんですけど、ベジャールさんの振付ってそのとおりにやると、音にピッタリはまっていくんですよ! 曲が盛り上がるところは振りも激しく、穏やかな曲調では振りも静かになる。セリフが音にのっているような感覚で、役の気持ちもものすごくのせやすい。音楽に助けられていると感じます。

 

Q 最後に、お客様にこの公演の見どころを改めてご紹介ください

池本 「かぐや姫」は世界初演だし、僕もすごく楽しみです。こんなすごいプログラム、東京バレエ団でしか上演できないですね。

「中国の不思議な役人」はこれまで全く接点のなかった作品だけど、ダークな雰囲気のあるとてもかっこいい作品です。僕の役はだいぶ変わってますけど(笑)ただ、改めて思うと、バレエで男性が女装して踊る役って基本はコミカルな役じゃないですか? 女装するシリアスな役は他に思いつかないです。その意味でも独特の世界観のある作品ですから、お客様にしっかりとその雰囲気を感じていただけるように、そして僕の新しい一面をみていただけるように頑張りたいと思います!


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ロングインタビュー2021/10/28

今の自分にあった表現をー 「中国の不思議な役人」&「ドリーム・タイム」、2作品に出演する宮川新大

古典から現代作品まで幅広いレパートリーで活躍する宮川新大(東京バレエ団プリンシパル)。きたる11/6(土)、11/7(日)の公演では「中国の不思議な役人」、そして「ドリーム・タイム」と2作品に主要な役で出演する宮川に今回の舞台にかける想いを聞きました。ぜひご一読ください。


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Q 「中国の不思議な役人」の「第二の無頼漢―娘」というのは、ズバリどういう役でしょうか。

宮川新大 男性が女装し、男たちを誘惑しているという設定の役ですね。歌舞伎の女形のように美しい女性を演じるというものではなく、男性である面はしっかり表現しないといけない。舞台も売春宿というか、闇につつまれたアンダーグラウンドな世界ですから、ちょっとグロテスクな雰囲気を出していくことも重要な役です。他のベジャールさんの作品と比べても、かなり異質な存在なんじゃないかなと思います。

 

Q 娘役は衣裳も独特ですよね。

宮川 最初みたときはびっくりしましたけど、踊りやすいんですよ(笑)。ストッキングにつけまつげ、女性の要素を外側からどんどん足していけるので、その意味では役に入り込みやすい。女性の気持ちにも近づけたんじゃないかな? ただ、ヒールを履いて踊るのはかなり大変でした(苦笑)

女性の衣裳を着ていても、あくまでも男性の役なので、美しいだけではダメ。男らしさやちょっと泥臭い感じも出していかないといけない。


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2017年の公演より、第二の無頼漢ー娘を演じる宮川

 

今の僕にあった表現を追求していきたい

Q 普段は女性をサポートされる側ですが、今回はサポートされる役です。

宮川 もちろん、リフトのタイミンなど技術的な課題は色々あるんですけど、クラシックではないので、この作品では演技や表現の方が重要ですね。例えばソロを踊るにしても中国の役人とシェフ(無頼漢の首領)に対して表情を変えていかなければならないので......。

 

Q 4年ぶりの再演にあたり、今回はどのような点を意識してリハーサルしていますか。

宮川 4年前に出来たところは残しつつ、今の僕にあった表現を十市さんと創っていきたいです。年齢を重ねて、積み上げてきたものがあるので。

前回は「女」を表現することに注力していましたが、今回はもう少し男性的な面を押し出し、「男性が演じる女性」という役の側面をクリアにしていけたら。前回の自分が踊った映像も見直していますが、「もう少し崩してもいいかな...」と考えています。

それから、僕が踊る11/7(日)の回は若い男を演じる伝田陽美さん以外は初役のダンサーばかりなので、きっと雰囲気も変わってくるだろうし、僕もしっかりみんなを引っ張っていかないといけない。

 

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「中国の不思議な役人」リハーサルより


Q 今回は「ドリーム・タイム」にも出演します。

宮川 実は今回「ドリーム・タイム」を国内で初めて踊るんですよ。初めて踊ったのはなんとミラノ・スカラ座、いきなり斜舞台(笑)。2019年の海外ツアーの時だったので、あまりリハーサルの時間もなく、大変だった思い出があります。

初めて客席から観たときにその美しさに感動した作品だし、ずっと日本でも踊れたらと願っていたので、今回実現して嬉しいです。

 

キリアン作品は自分で突き詰めていける

Q 同じくキリアンの「小さな死」も経験していますが、キリアンの作品の特徴はどんなところにあると感じますか。

宮川 ダンサーにとってキリアンは「ハマる」振付家なんじゃないかな。クラシックだと見せ場を意識せざるを得ないけれど、キリアンは自分で突き詰めていける要素が強いので、より踊りに集中できる気がします。それからキリアンの振付は全てが流れるように見えることも重要ですね。友佳理さん(斎藤友佳理/東京バレエ団芸術監督)に「力を入れるところと抜くところ、そのコントラストをしっかりお客様にみせてほしい」とリハーサル中に言われたことが強く印象に残っています。

質問から少しそれますけど、キリアン作品から得た、これまで自分が知らなかった身体表現を、今後は別の作品を踊る際にも活かしていけたらと思っています。

 

K65A7934_Photo Marco Brescia and Rudy Amisano - Teatro alla Scala.JPG

2019年のミラノ・スカラ座公演より。この時の相手役は岸本夏未。今回は三雲友里加が同役をつとめる。


Q 改めて、「ドリーム・タイム」の魅力はどんなところにありますか。

宮川 幕があいて、セットが次第に上にあがっていく、それだけで異空間にいるような錯覚にとらわれます。名前のとおり"ドリーム"ですね。「小さな死」がセクシャルな人間的な要素をテーマにしていることに対して、幻想的な美しさに溢れた作品と言えるんじゃないでしょうか。踊る側にとっては1つ失敗するとあとが続かなくなる怖い作品でもありますけど(笑)

短い作品の中で、あえて注目ポイントをあげるとすれば、僕と三雲友里加さんのパ・ド・ドゥです。彼女が踊るパートは3名の女性の中で1番強い女性で、僕たちがフラフープと呼んでいる男性が低い位置で女性をぐるぐる回すような難易度の高い大技がたくさんでてきます。

音楽的にも武満さんの旋律にはどことなく和を感じますし、日本人の感性にはあっているように感じています。

本番までもう少し時間があるので、もっと良い表現ができるように2作品ともしっかり踊りこんでいきたいと思います。


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