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レポート2023/11/02

新制作「眠れる森の美女」公開リハーサル&囲み取材レポート
あと1週間ほどで、創立60周年記念シリーズの第二弾、新制作『眠れる森の美女』の幕が開きます。初日目前の10月31日に開催した、記者や評論家を対象とした公開リハーサルおよび囲み取材の様子をレポートします!

公開リハーサルは第1幕、成人したオーロラ姫を囲んだ祝宴の場面。オーロラ姫は沖香菜子、悪の精カラボスは柄本弾、リラの精は政本絵美と、ファースト・キャストがそろいました。

冒頭の花のワルツは、大勢のダンサーたちが花カゴや花輪を手に目まぐるしくフォーメーションを変え、万華鏡のよう!
ローズ・アダージオとヴァリエーションの振付は変わらず、可憐なオーロラ姫に求婚する4人の王子(ブラウリオ・アルバレス、鳥海創、安村圭太、後藤健太朗)は互いにけん制し合いながら姫にアピールし、その関係性も楽しめます。

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カラボスの登場で華やかな祝宴から一転、眠りについたオーロラ姫の運命は? 続きが気になる、見ごたえたっぷりのリハーサルとなりました。

*****

囲み取材には芸術監督の斎藤友佳理が登場。「古典バレエとして守るべき部分と新しくする部分、どのようなバランスで考えていますか?」という記者からの質問に対し、斎藤は「そのバランスほど今回難しいものはなく、今もなお苦しんでいる部分です」と打ち明けました。

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芸術監督 斎藤友佳理

「『眠れる森の美女(以降『眠り』)』には、いつの時代に踊っても決して色あせない、触れてはいけない部分が私の中で明確にあります。いっぽうで、テクニック面やダンサーの体形など、時代とともに変わってきた部分もある。どこまで手を加えればよいか、ずっと悩みながら進めてきました」

斎藤の考えによると「『眠り』はバランスで成り立つもの」。オーロラ姫とデジレ王子のバランス、主役とコール・ド・バレエのバランス、装置と衣裳と踊りのバランス、そして作品全体のバランス......すべてのバランスに気を配りながら、つくり上げていったと言います。

「私のなかで絶対に変えてはいけない部分は、まずストーリーの根本の部分。それから古典バレエとしての薫りを残すこと。そして、プロローグのリラの精のヴァリエーションと、第1幕のオーロラ姫の登場にローズ・アダージョからヴァリエーション、第3幕の青い鳥とフロリナ王女などのディヴェルティスマンとグラン・パ・ド・ドゥ。それらは手を加えてはいけない確固たる部分でしたが、あとは今の時代にあわせて振付を変更しています」

今回、斎藤が大きく変更を加えたのは、リラの精の役割と第2幕です。

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リラの精 政本絵美

「新制作版では、リラの精はオーロラ姫とデジレ王子、ふたりの洗礼の母という役割で、主役と同等のポジションです。リラの精は長い間、眠りについたオーロラ姫にふさわしい相手を探し続けていました。そしてたまたま100年後、彼女にぴったりの相手を見つけ出したのだと思います。ですから、リラの導きによってふたりが出会う場面は、普通に踊らせたくなかった。オーロラ姫は夢の中で王子と出会い、王子は幻影の彼女に出会う――ふたりは異なる次元にいるわけですから、絶対に触れ合わない振付にしたかったのです」

異次元のふたりが出会うには、デジレ王子が水を渡る必要があると考えた斎藤は、パノラマと呼ばれる第2幕の場面で約44メートルにもおよぶ動く背景画を制作。これはプティパによる初演時の技法でしたが、故障などのトラブルのおそれがあるため、現在はボリショイ劇場でさえ使用していないそうです。しかし、斎藤はリスクを承知でその仕掛けを施しています。

さらに今回、カラボスに男女ふたりのダンサーを配した理由についても質問があがりました。

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悪の精カラボス 柄本 弾

「私はいつも、ダンサーにはカメレオンのようであってほしいと思っています。『どれが本当のあなた?』と思われるような役者にならなくてはいけないと。柄本弾は内面が成長し、今の彼には無限大の可能性を感じています。これまで、同じ公演で王子とカラボスの両方を踊ったダンサーは見たことがありませんが、彼ならできるし、やればさらに成長していくと考えました。それはダブルキャストの伝田陽美も同様です。中身の濃いダンサーであるふたりに、悪役も王子も妖精も踊ってほしいと考えました」

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オーロラ姫 沖 香菜子

3人のオーロラ姫についても「それぞれのプラスの面が前に出るよう、補いながら長所を伸ばすのが私の仕事」と、愛情のこもった眼差しで語った斎藤。バレエ団員約70名のほか、子役やエキストラもあわせて総勢100名ものキャストが登場する新制作版の『眠り』の開幕まで、さらにブラッシュアップを重ねていくことでしょう。本番まであと少し! 楽しみにお待ちください。


取材・文 富永明子(サーズデイ)

Photos:Shoko Matsuhashi

レポート2023/10/27

クラブ・アッサンブレ会員限定イベント 「かぐや姫」スペシャル・ダンサーズトーク


2023年10月20日(金)〜22日(日)、ついに世界初演を果たした東京バレエ団×演出振付家・金森穣によるグランド・バレエ『かぐや姫』全3幕。東京公演最終日(22日)の終演後、かぐや姫が月に帰るのを見送った余韻も未だしみじみ残るなか、東京バレエ団友の会クラブ・アッサンブレ会員様限定のダンサーズトークが催されました。

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登場したのは初日と最終日にかぐや姫役を演じた秋山瑛と帝役の大塚卓、司会は中日に影姫を踊った金子仁美。まずは「とくに思い入れのある場面や最も考えて演じたポイントは?」の質問でトークがスタートしました。
「僕はやはり第2幕、帝が初めて舞台に現れ階段から降りてくる登場シーン。帝は幼くして即位したから、きっと大臣や従者たちのほうがずっと年上で実権もある。弱い自分を隠して威厳を保とうとする帝像をどう演じるべきか、ずいぶん悩みました。もうひとつは第3幕、かぐや姫とのパ・ド・ドゥです。あそこで彼は、自分の立場や権力を利用し始める。帝としての風格が少しずつ出てくるさまを表現したかった」(大塚)

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大塚 卓(10/20、10/22 帝)

「すべての場面が大切ですけれど、まずは第1幕、初めて私が舞台の上で、かぐや姫として月を見るシーン。『月の光』のパ・ド・ドゥは、かぐやが道児に『月を見てるとなぜだか涙が出てくるの』と問いかけるような踊りです。道児は『それなら僕が月に近づけてあげる』と、大きなリフトに入っていく。かぐやはその気持ちが嬉しくて、道児に対して特別な気持ちを持ち始めるのだと私は解釈しています。
もうひとつは第3幕最後の悲しみのソロ。周りにはもう誰もいなくて、お客様の視線と照明と音楽、そして自分の心だけがそこにある。ついエモーショナルになる私に、穣さんは『感情をそのまま出してしまうと、観客は逆に感じにくくなる』と。難しかったけれど感じることの多い場面でした」(秋山)

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秋山 瑛(10/20、10/22 かぐや姫)

いっぽう「リハーサルで苦労したところ」については、「当初、金森さんならではの身体の使い方に馴染めなかった」と大塚。「でも2幕の振付が始まってみると、どこかベジャール作品と通じるものを感じて、すんなり身体に入るように。帝のオリジナルキャストを任せてもらえたのだから、僕にしかできない帝を目指そうという気持ちでやりました」。
秋山も「世界初演のファーストキャスト」という初の経験に触れ、「これまでの全幕主演と違ったのは、役作りの助けになるロールモデルがいなかったこと。かぐや姫は私にとっては難しい役で、苦しみました」と明かしました。「でもダブルキャストの足立真里亜ちゃんという素晴らしいダンサーがいてくれた。そしてバレエ団のみんながたくさん相談にのってくれた。それがなかったら、私にこの役はできなかった」。

秋山の言葉を聞き、「自分のかぐや姫を模索し続けて役と向き合っていた瑛は本当にかっこよかった」と声を詰まらせた金子。「私は今回1日しか影姫を踊れなくて、すごく悔しかった。影姫は第2幕の幕開きに、もみじ降るなか独りで歩いて出てきます。彼女もまた孤独な存在で、やはり何かを背負っている。出番を前にひどく緊張していた私に、瑛が『仁美さんらしく踊ってください』って声をかけてくれて。みんなで助け合ってひとつの舞台を作り上げられることが本当に幸せです」。

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金子仁美(10/21 影姫)

秋山と金子のやりとりに客席も思わずもらい泣き......しそうになったその瞬間、「達成感でいっぱいですね、僕は」と元気に語って涙を吹き飛ばしてくれた大塚。「約3年間、常に他の作品のリハーサルと並行しながらのクリエイションで、僕らが『かぐや姫』だけに全力集中できたのはこの2週間だけ。みんなで『やるぞ!』とスイッチを入れて、ここまで走ってきたんだから、僕らは自分たちを褒めなきゃダメですよ!」。帝の他に四大臣役も踊った大塚の言葉に、会場は大きな笑顔と拍手に包まれました。

秋山からは、ラストシーンについて興味深いエピソードが。「かぐや姫は自分で月に帰るのか、それともお迎えが来て連れていかれるのか。それは観る人に委ねられています。でも初日の終演後、穣さんたちからひとつアドバイスをいただいて。それは『かぐやが道児や帝に裏切られたから帰る、という印象にはならないように気をつけてほしい』ということ。そのためには1幕、2幕、そして3幕と、どういうあり方で演じるかをもう一度考えてほしいと。2回演じられたからこそ試せたことがたくさんありました」。

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金子仁美(左)、秋山 瑛(中央)、大塚 卓(右)

かぐや姫が月へと昇っていく、あの美しい階段がじつは「下が透けて見えるし、けっこう揺れる」(秋山・金子)という秘話なども披露されたところで、楽しいトークはそろそろ終わりの時間に。最後は11月11日(土)に開幕が迫る新制作『眠れる森の美女』について、3人それぞれが意気込みを語ってお開きとなりました。

「斎藤友佳理監督のこだわりが細部まで詰まっていて、さりげなく見える踊りにも難しいテクニックがたくさん入っている。しっかり準備しますので、ぜひ観にいらしてください!」(大塚)
「先日バレエ団に衣裳が到着して、『わあ、こんな衣裳なんだ!』『可愛い!』『なんだろうこれは?』って(笑)、私たちもわくわくしたところです。オーロラ姫は純度の高いクラシック。かぐや姫で培ったものも生かしつつ、クラシックにきちんと戻れるようにがんばります」(秋山)
「『眠れる森の美女』は王道のクラシックでごまかしのきかない踊りばかり。日常のレッスンから気をつけて整えていく必要があるなと思っています。新しい舞台装置と衣裳で、早く舞台に立ちたい。みなさん、応援をよろしくお願いします!」(金子)

取材・文/阿部さや子

レポート2023/10/11

「かぐや姫」第3幕 公開リハーサル レポート
 全幕世界初演までいよいよ2週間を切った「かぐや姫」。10月6日(金)に行われたプレス向けの公開リハーサルで、今回初お目見えとなる第3幕が披露されました。その様子をバレエライターの齊藤希史子さんにレポートしていただきました。


「白」のカタストロフィー

 新月が半月に太り、やがて満月となるように、1幕ごとに披露されてきた「かぐや姫」がこの秋、ついにその全貌を現す。2年7カ月に及んだ制作も大詰めだ。独特の高揚感をたたえる東京バレエ団のスタジオでこのほど、第3幕のリハーサル見学会が開かれた。

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 「OK、いきましょうか」
 演出・振付の金森穣の声がスタジオに響く。ドビュッシー「ビリティスの歌」より第7曲「無名の墓」が流れる中、力なく横たわり虚空を見つめるかぐや姫・秋山瑛。しんしんと降る雪を眺めているのだろうか。姫がうつむき、眠りに落ちると、光の精たちが走り込んでくる。古典作品「ドン・キホーテ」などでおなじみの「夢の場面」だが、ここではどこかまがまがしい。初恋相手の道児・柄本弾や帝・大塚卓、4人の大臣ら、姫を取り巻く男たちが次々に現れては、光の精に絡め取られていく。

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 悪夢から覚めても、かぐや姫の現実は厳しい。養い親の翁に、大臣のいずれかを選んで嫁ぐように命じられる。左手の薬指を指して「結婚」を示すなど、翁役・木村和夫の古式ゆかしいマイムが、かえって新鮮に映った。いちはやく豪華な結納品を手に入れて姫の歓心を買おうと、走り去る大臣たち。

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 帝が登場し、かぐや姫に思いの丈をぶつける。「子供の領分」から第4曲「雪は踊っている」が使われているのは、冬の景にふさわしい。当初は構想になかったが、演者の個性に触発されて加えられたというこのパ・ド・ドゥ。孤独を分かち合いながらも縮まることのない両者の距離感を、秋山と大塚が痛切に描き出していく。帝は断腸の思いで、かぐや姫を手放す。

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 ところが里では、結納品を探す大臣らが竹やぶを荒らし、民の怒りを買っていた。小競り合いはやがて、太刀を振るう都人と鎌を手にした村人の全面戦争に発展する。帝の正室の影姫・沖香菜子をはじめ宮女らも駆け付ける中、なすすべもなく立ち尽くすかぐや姫......。牧歌的な原作からは想像もつかない、怒濤のごときカタストロフィー(破局)だ。

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 「月への帰還というSF的な大団円を、どう演出するのか」。『かぐや姫』、すなわち日本最古の小説『竹取物語』の舞台化が報じられた時から、観客の誰もが想像を巡らしてきたに違いない場面だ。本拠・Noismで数々の「劇的舞踊」を手掛けてきた金森の手腕が、ここで最大限に発揮される。本番を前に詳述は控えるが、極めて幻想的かつ切ない幕切れが用意されている、とだけ予告しておこう。「最後はこの音楽と、初めから決めていた」というピアノ独奏曲「夢想」が、物語を静かに結んでいく。かぐや姫が月へと帰り、全てが終わると、かたずをのんで見守っていたこちらも、ふと長い夢から覚めたような心地になった。

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 命が萌え出る春の景色から始まった「かぐや姫」。第1幕では、大海原や竹やぶの緑が輝いていた。秋を迎えた第2幕は、紅葉のように赤い装置が、道児と引き離されて宮中に送り込まれたかぐや姫の血の涙を連想させた。では第3幕は? 金森によると「白」だ。古典全幕作品に必須のバレエ・ブラン(白の場面)が、雪に託されて展開されるのである。純白は浄化の象徴だが、かぐや姫は彼女を愛する人々によって傷つけられ、とことん嘆き悲しんでいる。彼女をこの世につなぎ留めていた道児との恋さえも、淡雪のように消えてしまうのだ。21世紀のバレエ・ブランはほろ苦く、凄絶な美しさに満ちている。

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 白の世界で暗躍する黒衣(くろご)たちも、第3幕の白眉と言えるだろう。慟哭するかぐや姫をいざなう一方、翁のさもしい煩悩を操っているようでもある彼ら。確かにそこにいて、重要な役割を負っていながら、「いないことになっている」存在。黒衣たちこそが、影の主役なのかもしれない。登場人物の痛みを降りしきる白雪が覆い、黒衣たちの暗躍を月光が照らす......。実に日本的な様式美が、終幕を飾っている。

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 「かぐや姫は地球に何を残したのか」。制作中の振付家に対し、繰り返し発されてきた問いである。その度に「答えを見せるというよりは、ご覧くださる方々の中に、問い自体を残したい」と語ってきた金森。全幕初演の幕が開き、舞台上で四季が巡って物語が閉じた時、そこにはどんな問いが残るのだろうか。(敬称略)



取材・文 齊藤希史子(バレエライター)
photos: Shoko Matsuhashi


めぐろバレエ祭り2023/08/31

第11回めぐろバレエ祭り 現地レポート


バレエ好きにとっての夏の風物詩。今年も8月21日(月)〜27日(日)に、めぐろパーシモンホールにて「めぐろバレエ祭り」が開催されました。
子どもから大人まで、延べ8,000人以上が集った7日間の模様をご紹介します。

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21日から23日の3日間繰り広げられたのが、東京バレエ団附属東京バレエ学校のスクールパフォーマンス。未来のダンサーを目指す生徒たちの元気いっぱいのステージはフレッシュな魅力にあふれ、客席からは大きな拍手が湧き起こっていました。

東京バレエ団のダンサーたちと身近に触れ合うことができるのも、「めぐろバレエ祭り」ならではの大きな魅力です。上野水香による「ジゼル」レッスンや、沖香菜子と秋元康臣による「セギディリヤを踊ろう」では、憧れのプリンシパルによる直々の指導に、はじめは緊張気味だった参加者の皆さんもアドバイスに熱心に耳を傾け、どんどん練習に熱が入っていきます。プロによるレッスンを受けたことはそれぞれの今後のバレエ人生にとって大切な宝物となることでしょう。

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上野水香のジゼル・レッスン! より

「東京バレエ団公開レッスン」では、大ホールの舞台上がレッスンスタジオに早替わり。この後「ドン・キホーテの夢」に登場するダンサーを中心に、まずはストレッチとバーレッスン。準備運動とはいえプロのダンサーたちの動きはしなやかで美しく、普段は目にすることのできない舞台裏での姿に子どもたちも目を輝かせて見入っていました。続いては、バレエ・スタッフ木村和夫の指導のもと、ピアノの旋律に乗せて基本の型を組み合わせたステップの練習。みっちり1時間のレッスンで体がほぐれ、より美しく仕上がっていく様子を目にすることで、舞台に立つダンサーたちの日々の鍛錬を感じることができる貴重な機会でした。

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公開レッスンより photo: Koujiro Yoshikawa

「めぐろバレエ祭り」恒例の「スーパーバレエMIX BON踊り」も大賑わい。小ホール中央に設けられたやぐらに、振付指導担当の宮川新大とともに艶やかな浴衣姿の上野水香がサプライズで登場すると、ファンの方々から歓声が上がりました。会場には浴衣姿の参加者もいっぱい。小林十市(モーリス・ベジャール・バレエ団 バレエマスター)が手掛けた振付は「ボレロ」のようなステップや「ジゼル」のウィリを思わせるポーズもあり、涼しい室内でのちょっとエレガントなBON踊りを、誰もが笑顔で楽しんでいました。

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スーパーバレエMIX BON踊りより photo: Koujiro Yoshikawa

大ホールでは26日、27日の2日間にわたって、子どものためのバレエ「ドン・キホーテの夢」が全4回上演されました。人気演目「ドン・キホーテ」をわかりやすくアレンジした作品は、まず舞台にサンチョ・パンサと馬のロシナンテがあらわれ、登場人物をわかりやすく紹介。客席の子どもたちに語りかける場面もあり、バレエ鑑賞は初めてという方にもわかりやすく、見応えたっぷりの舞台でした。

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8/27(日)11:30「ドン・キホーテの夢」より photo: Koujiro Yoshikawa

主役のキトリ&バジルを演じたのは、秋山瑛&大塚卓、涌田美紀&池本祥真、中島映理子&生方隆之介。さらに27日の最終公演では、フィナーレに柄本弾、秋元康臣、池本祥真がバジルの衣裳をつけて飛び入り参加。さらに先ほどまで「スーパーバレエMIX BON踊り」の会場にいた浴衣姿の宮川新大や金子仁美なども登場し、「いつもありがとう これからもよろしく」と書かれた大きなメッセージボードとともに華やかな幕切れとなりました。

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8/27(日)15:00 フィナーレよりphoto: Koujiro Yoshikawa

毎年、楽しみにしている方が多い体験型のワークショップも連日大盛況でした。「ミニトウシューズにデコレーションしよう!」「ティアラをつくろう」などは、たくさんの子どもたちや保護者の方で満員御礼。個性が光る作品は、夏休みの素敵な思い出の品となったことでしょう。

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ミニトゥシューズにデコレーションしよう! より

最終日には小ホールのロビーで「バレエ縁日」も開催されました。「海賊の花輪投げ」や「サンチョ・パンサのボーリング」には子どもたちだけでなく大人も挑戦して熱くなる光景も。「光るバルーンを作ろう!」「バレエバックチャームを作ろう!」のワークショップでは、出来上がった完成品を嬉しそうに見せ合う子どもたちの姿も印象的でした。

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バレエ縁日 ワークショップより

そして「めぐろバレエ祭り」のフィナーレを飾ったのは「ダンサーズ・トーク in めぐろ」。司会をつとめるのは、金子仁美。事前にアナウンスされていた沖香菜子、秋元康臣、池本祥真、中島映理子に加えて、「ドン・キホーテの夢」の舞台を終えたばかりの秋山瑛と大塚卓も登壇。 "「ドン・キホーテの夢」は全幕ヴァージョンよりも休憩時間が短いので主役は大変"といった裏話や、7月にメルボルンで行われたオーストラリア公演で地元の方々に暖かく迎えられたことの感激、この秋にいよいよ第三幕までの全幕上演される金森穣「かぐや姫」の初演ならではの役づくりの秘話、そして11月の新制作「眠れる森の美女」についてなど、話は尽きません。コロナ禍を経てふたたび、ファンの方々の前で舞台以外の形で再会できたことの喜びと感謝、そして今後も東京バレエ団の公演を応援してください! といったそれぞれのメッセージとともに、7日間にわたった「めぐろバレエ祭り」は無事に幕を閉じました。

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ダンサーズ・トーク in めぐろより photo: Koujiro Yoshikawa
左から池本祥真、金子仁美、沖香菜子、秋山瑛、秋元康臣、大塚卓、中島映理子

バレエファンはもちろん、会場の近隣にお住まいの目黒区民の皆さまなど多くの方々に親しまれてきた「めぐろバレエ祭り」。この夏もたくさんのプログラムで、めぐろは熱く盛り上がりました。50年以上にわたって目黒を拠点に活動を続けてきた東京バレエ団のこの先の公演にも、どうぞご期待ください。

文/清水井朋子

ロングインタビュー2023/08/23

子どものためのバレエ「ドン・キホーテの夢」3年目を迎えて -涌田美紀×池本祥真
見どころが凝縮され、子どもたちが楽しめるバレエ作品として人気を博している「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」。2021年、2022年、そして今年と、3年連続で本作の主演を務めるソリストの涌田美紀とファースト・ソリストの池本祥真が、公演への意気込みや作品の見どころを語ります。


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――「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」でペアを組まれて3年目になります。

涌田 毎年全国ツアーがあり、公演数も多いので、3年よりも長く感じます。私は心配性なので、今でもリハーサル前から「ここ確認してもいいですか?」「この部分、一緒にお願いします」と言って付き合っていただいています。祥真さんはそこまで確認しなくても大丈夫だよ、って毎回言うんですけど(笑)。 

池本 涌田さんは心配性なので、僕が完璧だと思っても本人は満足していないようです(笑)。その心配性で緻密なところが踊りの安定感につながっていると思うので、実はすごく尊敬しているんですよ。僕は自分の感覚に頼っているところがあるので、見習いたいなと。とはいえ、涌田さんはもうベテランですし(笑)、そこまでしなくても大丈夫なんじゃないかな......。

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涌田 ベテランではないです(笑)。難しいテクニックが多く詰まっている作品なので、苦手なところが要所要所あります。ただ、今年は苦手な部分を克服するというよりも、いい部分をもっと増やしていこうという話をしていまして、今は一つひとつの動きをイチから見直しています。

池本 今回はトリプルキャストなのですが、中には初めて主演を踊るダンサーもいて、そちらのリハーサルがメインで行われているので、僕たちはリハーサルがほとんどないんです。ある程度自分たちに任されているぶん、責任も重大。これまで「ここは注意されていないし、特におかしくはないからこのままでもいいか」となんとなく曖昧にしてきた部分は、互いにイメージを伝え合いながら、一つひとつ丁寧に確認するようにしています。

涌田 3年目にしてようやく細部までクリアになってきた手ごたえはありますね。

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―― 息がぴったり合ったお二人ですが、パートナリングは最初から上手くいっていたのでしょうか。

涌田 最初にこの「ドン・キホーテの夢」を踊ったときは、生方隆之介くんと初役同士で、お互いに手探り状態でした。その過程を経ていたことと、祥真さんはもうベテランなので(笑)、"息が合う"というよりは合わせてもらっていた感じです。今は何十回という公演を経てきて、"息が合っている"のではないかと。

池本 ちょっといいですか? 涌田さん、結構せっかちなんですよ。

涌田 それは否定しません(笑)。

池本 僕はどちらかというとのんびり屋なので、たまに僕がまだ演技をしている間に涌田さんが先に行ってしまったり、お辞儀をするときも、涌田さんのほうを見たら、僕がまだ手を差し出す前にすでにお辞儀をし始めていて......。

涌田 確かに、私が先に動き始めていることがある(笑)。

池本 もうお辞儀し出していない⁉ ちょっと待って! っていうことが今でもたまにあるので、合っていると言いきれませんが(笑)、踊りにおいてはよく合っていると思います。

涌田 これでも直せるように努力しているのですが、根本はなかなか変えられないんです。祥真さんが優しいので、合わせてくれて助かります。

池本 いえ、合わせているのではなく、最近はむしろ僕が美紀さんについていきます! と思いながら踊っています(笑)。

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――「ドン・キホーテの夢」の見どころは?

涌田 まず、踊りの見せ場が縮小されていて、スピード感があるところでしょうか。幕間に20分間の休憩はありますが、それ以外はほとんど休む間もなく、踊っていきますから。

池本 体力的にはしんどいよね(笑)。

涌田 しんどい! しかも、バジルはヴァリエーションが2つですが、キトリは3つもあるので(笑)。

池本 しんどいなんて言ってすみません......。

涌田 あとは、サンチョ・パンサの語りも見どころのひとつですね。物語を知らない人でもストーリーを理解しやすい。

池本 子どもたちはもちろん、バレエを観たことがない人も楽しめるのがいいですよね。演技中は声を出してはいけないとか、知識がないと内容がわからないということはなく、気を張らないで観られますし。僕も何度か客席で観たことがあるのですが、思わず「おもろ!」と言いたくなったぐらい面白かったです。また、子ども向けではあるけれど、踊りの見せ場がたくさんあり、グラン・パ・ド・ドゥは全幕同様しっかりやるので、バレエをよく観られる方にも楽しんでいただけると思います。

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「ドン・キホーテの夢」より photo: Hidemi Seto


――最後に、お互いにリクエストしたいことがあれば教えてください。

涌田 私は何回も確認をお願いしますって言っても、これからも嫌がらないで稽古に付き合ってください(笑)。

池本 わかりました。僕からは全然ないですよ。お辞儀はゆっくり、とか?(笑) 基本的に、もう美紀さんにはついてきます。


取材・文/鈴木啓子(ライター)


東京バレエ団子どものためのバレエ
「ドン・キホーテの夢」

8月26日(土) 11:30開演
めぐろパーシモンホール・大ホール

キトリ:涌田美紀
バジル:池本祥真

ロングインタビュー2023/08/14

ハンブルク・バレエ団 第48回〈ニジンスキー・ガラ〉に出演して ―伝田陽美&柄本弾
7月9日、ハンブルク・バレエ団による、第48回〈ニジンスキー・ガラ〉がハンブルク国立歌劇場で上演されました。同公演は、バレエ団が毎シーズン最後に開催している"ハンブルク・バレエ週間" (Ballet Tage)のダンス・フェスティバルのフィナーレを飾るイベント。今年は東京バレエ団が招待され、プリンシパルの柄本弾とファースト・ソリストの伝田陽美がモーリス・ベジャール振付の『バクチⅢ』を披露。大舞台に臨んだ二人が公演の様子を振り返ります。

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――ジョン・ノイマイヤーさんから柄本さんに出演のオファーがあったそうですね。
柄本弾 今年3月にノイマイヤーさんが公演で来日したときに、バレエ団に「出演してもらいたい」と言ってくださったそうです。みんな最初は社交辞令だと思っていたようですが(笑)、話は立ち消えることなく、4月末に出演が決まりました。伝田さんが聞いたのはその1カ月あとぐらい?

伝田陽美 そうですね。私は『ジゼル』が終わった頃に言われました。7月のオーストラリア公演に向けて海外に荷物を発送した後で、必要なものをすべて送ってしまったかもしれない! と焦ったのでよく覚えています(笑)。

柄本 (斎藤)友佳理さんと作品を選んだあと、伝田さんとペアを組むことが決まったんですよね。誰が何を踊るのか、そもそも誰がゲストなのかもわからない状態で、作品選びが難航しまして......。素晴らしい舞台で踊らせていただくからには、個性を出せて、なおかつ長めの作品がいいのではないかという話になり、友佳理さんが伝田さんの『バクチⅢ』を高く評価されていたこともあって、『バクチⅢ』に決まりました。

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――『バクチⅢ』では初共演ですね。
伝田 昨年7月に宮川(新大)さんと一度踊らせていただき、弾さんと踊るのは今回が初めてで。合わせ始めた頃は若干違うところもあったんですけど、とても上手にサポートしてくださったのですぐに慣れました。

柄本 僕も『バクチⅢ』は昨年初めて踊りました。パートナーの(上野)水香さんが過去に何回も踊られていたので、僕が水香さんの世界に入っていく感じで作っていったのですが、伝田さんと新大は互いに初めてで、イチから作るという過程を経ていた。同じ振付であっても、作り込んでいく工程が異なったり、ニュアンスが微妙に違ったりしたので、そのあたりを踏まえてすり合わせていきました。

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ハンブルク・バレエ団第48回〈ニジンスキーガラ〉 「バクチⅢ」より
photo: Kiran West


――ハンブルクの舞台で踊られていかがでしたか。
伝田 実はゲネプロが終わったあと不安しか残らなくて......。日本では、場当たりをして、位置を確認して、照明チェックして、という工程があるのに対し、向こうはほぼ確認なしでいきなり「はい、どうぞ!」って。『バクチⅢ』の冒頭、舞台中央でペアで踊ったあと互いに左右に移動し、再び中央に戻ってくるという部分があるんですけど、東京バレエ団とはリノリウムの引き方が違ったり目印となるライトがなかったので、戻りながら「真ん中ってどこだっけ?」と位置がわからなくなって......(笑)。

柄本 そうそう(笑)。ほかにも戸惑うところがあり、ゲネプロはボロボロでした。本番当日も舞台上で確認する時間もなく、「とりあえずやるしかないよね」ってふたりで腹をくくって。でも、ゲネプロで失敗したぶん修正できたので、本番はそこまで悪い出来ではなかったと思います。もっといい踊りをお見せしたかったという思いはありますけど、お客さまが盛り上がってくださったのでよかったです。海外はノリがいいと言いますか、とにかく騒いでくれる(笑)。

伝田 「フォ~ッ!」っていう叫び声が飛び交う感じで、もはやブラボーなどの言葉ではなかったです(笑)。

柄本 以前、先輩方から「海外は観る文化が育っているからこそ、盛り上がるときはいいけど、ダメなときは拍手すらもらえないほどシビアに評価される」と聞いていたので、不安もあったのですが、喜びもひとしおでしたね。

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ハンブルク・バレエ団第48回〈ニジンスキーガラ〉 「バクチⅢ」カーテンコールより
photo: Kiran West


――滞在中、特に印象深かったことは?
柄本 ゲネプロのあとにノイマイヤーさんが僕たちを『ゴースト・ライト』の公演と、コレクションハウスに招待してくださったことは忘れられない思い出です。膨大な数のコレクションを見せていただいたのですが、その中に佐々木(忠次)さんとのツーショットの写真が飾ってあって、とても感慨深いものがありました。

伝田 壁一面に日本関連の書籍などの資料や写真などが置かれていて、日本のことを本当によく研究されていらっしゃると思いました。

柄本 東京バレエ団の年史や桜沢エリカさんが描かれた佐々木さんの漫画など、東京バレエ団関連のものがたくさん置かれていて、それだけノイマイヤーさんと東京バレエ団の関係が深いということ、昔からの繋がりを大切にしてくださっていることを改めて実感することができました。

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伝田 もうひとつ印象深かったことといえば、現地の人たちがとにかく親切だったことですね。私たち、英語を話せないので(笑)、いろいろ助けていただいて。ハンブルクの劇場内がものすごく広いうえにややこしいと聞いてはいたんですけど、想像以上にややこしくて。毎回近くにいる人にジェスチャーで「スタジオはどこですか?」と尋ねると、「カモン!」と言ってその場所まで連れて行ってくださったんです。しかも尋ねた人、全員が」。

柄本 ハンブルク・バレエ団の菅井円加さんや(加藤)あゆみちゃんも施設内を案内してくれたり、休み時間に観光案内までしてくれたりして、お世話になりっぱなしでした。バレエ関係者はもちろん、街の人も親切にしてくださり、みなさんの助けがなかったら僕らは何もすることができなかったですし、いいパフォーマンスにもつながらなかったので、ハンブルクのみなさんに心から感謝したいです。

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ハンブルク・バレエ団第48回〈ニジンスキーガラ〉 カーテンコールより
photo: Kiran West



取材・文:鈴木啓子(ライター)

海外ツアーレポート2023/07/25

東京バレエ団第35次海外公演(オーストラリア、メルボルン)「ジゼル」公演評

7月22日最終公演のカーテンコール

オーストラリア、メルボルンのアーツ・センター州立劇場における東京バレエ団「ジゼル」全11回公演(7月14日~22日)は、既報の通り、初日から会場での喝采と現地メディアの絶賛評が続き、連日多くの観客が詰めかけましたが、最終日の7月22日昼・夜公演は完売の盛況。最後の夜公演では団員、スタッフ全員が舞台にあがってメルボルンのお客様に別れを告げ、大歓声のスタンディングオベーションを受けて幕を降ろしました。

そのオーストラリアのメディア評の抜粋をここにご紹介いたします。

マン・イン・チェア Man in Chair シモン・パリス 2023年7月15日

「精度と洗練はプレミアム級であった。東京バレエ団は、愛され続けるロマンティックの古典『ジゼル』で大歓迎のオーストラリア・デビューを飾った。

愛おしいほどに優しく、繊細なジゼルを演じた秋山瑛は、観る者をほれぼれさせる。愛されるキャラクターを巧みに表現しながら、超絶技巧の踊りを見せつけた。第1幕のヴァリエーションでの秋山のまばゆいばかりの演技は圧巻だ。表情豊かに踊る、非の打ちどころのない秋山の狂気のシーンは、可憐な乙女の悲劇の真に迫り、いっそう胸を引き裂かれる。(略)秋元はアルブレヒトのソロを最大限に活用し、彼の能力の深さをスリリングに披露する。キレのあるエレガントなアントルシャとパーカッシブなカブリオールが特徴的だ。秋山と秋元は、天にも昇るようなウィリに囲まれながら、繊細に調整された最後のパ・ド・ドゥで、愛の切なさと悲しみを引き出す。ソロも素晴らしいが、2人の共演は誠に素晴らしい。

東京バレエ団の初のオーストラリア公演は、地元のダンス愛好家にとって画期的な出来事だ。『ジゼル』のその豊かさに感嘆した後は、東京バレエ団が(そう遠くない将来に)再びオーストラリアを訪れることを願うばかりだ。」

https://simonparrismaninchair.com/2023/07/15/the-tokyo-ballet-giselle-review-melbourne/

 

クラシック・メルボルン CLASSIC MELBOURNE パリス・ウェイジズ 2023年7月15日

「オーストラリア初上陸の東京バレエ団が『ジゼル』を完璧に演じた。

傑出した主役たちもさることながら、『ジゼル』の真の主役は、第2幕の白い、長いチュチュに身を包んだ24人のダンサーで構成されるコール・ド・バレエだ。コール・ド・バレエはまるでアメーバのように動き、ダンサーたちは淀みない精確な演技でひとつの生命体として流れていく。 伝田陽美が完璧に踊るウィリの女王ミルタに導かれながら、コール・ド・バレエは一丸となり、生き、呼吸をする。彼女は巣を統率する女王蜂のように、完璧な統率力と精確さで動く。(略)その他、第1幕の農民のパ・ド・ユイットは圧巻。 特に男性ダンサーたちは、美しい技巧的な動きだけでなく、めったに観られないほどの素晴らしいユニゾンを披露する。 彼らとパートナーを組む4人の女性ダンサーも同様に絶妙で、息がぴたり合い、古典の型の絵画的な美しさというものを見せてくれた。

大げさなジェスチャーはさておき、『ジゼル』は、主役たちが完璧なダンスで描くロマンティックな愛を観るだけでも価値がある。 特に秋山のジゼルの表現は、バレエ団の揺るぎない緻密さと同様、並外れている。 このような水準の高い国際的なカンパニーを自国の劇場で鑑賞できる時代に感謝したい。国際的な芸術の交流は実に感動的だ。」

https://classicmelbourne.com.au/the-tokyo-ballet-giselle/


ディ・エイジ THE AGE アンドリュー・フルーマン 2023年7月15日

「悲嘆に暮れるジゼルの恋人を取り囲む、見事なユニゾンと軽やかな揺らぎを実現して、東京バレエ団の徹底した鍛錬の成果を発揮する。」

https://jaunbaba.com/romeo-and-juliet-by-bell-shakespeare-giselle-by-the-tokyo-ballet-away-at-theatre-works/?feed_id=25207&_unique_id=64b21a4da2e19


ザ・ブラーブ The Blurb アレックス・ファースト 2023年7月16日

「『ジゼル』の見どころは、何といってもコール・ド・バレエの精確さと技術だ。それを目撃できたことは、誠に幸運なことだ。東京バレエ団の細部へのこだわりは息をのむほどで、感情を揺さぶられる。」

https://theblurb.com.au/wp/giselle-the-tokyo-ballet-ballet-review/


ダンス・オーストラリア Dance Australia カレン・ヴァン・ウルゼン 2023年7月16日

「この夜、ジゼル役の秋山瑛は見事だった。表情豊かな顔立ち、軽やかなジャンプ、重力をものともしないハイ・エクステンション、安定した美しいパンシェ、亡霊のような腕。彼女は、第1幕では子供のように疑うことを知らず、第2幕では温かく寛容だった。

ボリショイで訓練された秋元康臣は、あらゆる点で彼女にふさわしかった。ダブル・カブリオール、アントルシャ・シスなど、技術的な要求を鮮やかに軽々とこなした。秋元のジャンプはとても軽くて柔らかく、時にはパートナーよりも宙に浮いているようにさえ見えた。パ・ド・ドゥのトレードマークである長いリフトのタイミングは完璧で、秋山はまさに上空に浮いているかのようだった。秋山が持ち上げられ、揺さぶられ、地上に降ろされるまでの間、彼女の重力も、お互いのストレスも一切感じられないのだ。二人の創り出す静寂に、観客全員が息をのんだ。

冷酷なウィリの女王役の伝田陽美は、百合の花を槍のように振り回しながら、まるで氷上を滑っているかように板を駆け抜け、その脚は、余りの速さにかすんで見えるほどだ。彼女の冷たさは、ジゼルの穏やかな性格と効果的なコントラストをなした。コール・ド・バレエは ― バレエの成功には絶対に欠かせない ― 完璧だった。無表情で容赦なく、ときに微動だにせぬ精確なラインを作り、ときに風に吹かれる霧のように渦を巻いてうねりながら、冷徹にヒラリオン(岡崎隼也)を死に追いやった。しかもその間ずっと、彼女たちのポワントは全く無音のままに。そしてこのバレエ特有の、肩と首の垂れたラインを完璧にとらえ、悲しみを背負ったようにわずかに前傾している。冷たい照明に逆光で照らされると、透けるような衣装の彼女たちは、透明に見えるほどだ。この物語が生まれた霧に包まれた世界は、夜の光は月だけで、鐘の音でしか時間を知ることができず、森の暗がりには恐ろしいものが隠れている、そんな世界が容易に想像できた。」

https://www.danceaustralia.com.au/reviews/review-tokyo-ballet-s-giselle


アーツ・ハブ ARTS hub サバンナ・インディゴ 2023年7月17日

https://www.artshub.com.au/news/reviews/ballet-review-giselle-arts-centre-melbourne-2648999/


オーストラリアン・ステージ AUSTRALIAN STAGE ステファニー・グリックマン 2023年7月19日

https://www.australianstage.com.au/2023/07/19/reviews/melbourne/giselle-%7C-the-tokyo-ballet.html


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7月22日最終公演のカーテンコール   photo: Ayano Tomozawa

海外ツアーレポート2023/07/19

速報!「ジゼル」開幕。各メディアで絶賛! 東京バレエ団〈第35次海外公演 ─ オーストラリア メルボルン〉


東京バレエ団はオーストラリア・バレエ団の招聘、文化庁文化芸術振興費補助金(国際芸術交流支援事業)の助成を受けて、ただいま〈第35次海外公演─オーストラリア〉のためメルボルンに滞在中です。この7月14日(金)にメルボルン・アーツ・センター州立劇場で今回の演目「ジゼル」が開幕し、観客およびメディアから絶賛を博する成功を収めました。公演初日までのツアーの様子をご報告します。

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7/15夜公演のカーテンコールより photo: Ayano Tomozawa

7月9日(日)、団員70名に芸術スタッフ、舞台スタッフを加えた総勢100名が日本を出発し、翌日にメルボルン入り。南半球のオーストラリアはこれから冬に差し掛かる季節ですが、晴天が続いて過ごしやすく、ダンサーたちは体調を崩すこともなく調整にかかることができました。

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到着直後のメルボルンでの練習は、オーストラリア・バレエ・センターのスタジオを使用。翌日には二つのカンパニーによる合同クラスと交流会が行われ、オーストラリア・バレエ団芸術監督のデヴィッド・ホールバーグから「私がよく知る東京バレエ団が、オーストラリアの観客から温かく受け入れられることを確信している。言葉を介さないバレエという芸術をもって美しい瞬間を共有できることを嬉しく思う」というスピーチがありました。
 
今回の東京バレエ団による「ジゼル」11公演は、オーストラリア・バレエ団創立60周年記念シーズンの一翼を担うプログラムです。公演会場である州立劇場は1878席を擁し、バレエ公演の平均販売率は75パーセントほどで、その半数以上を劇場の年間定期会員が占めるとのこと。オーストラリア・バレエ団の世界的な実力は過去6回の来日公演(最後は2010年)でも知られるところですが、彼らの舞台を見続けている観客にとって州立劇場はバレエ鑑賞の「ホーム」にして、世界的なバレエ団がたびたび招聘されていることから「世界クラスの舞台芸術を体験できる場」であり、また古典の名作「ジゼル」も彼らにとって馴染み深い演目だということです。

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7/14公演 第1幕より photo: Kate Longley


東京バレエ団が上演する「ジゼル」は、創立まもない1966年にボリショイ・バレエ団から指導者を招聘して伝えてもらったレオニード・ラヴロフスキー版で、現在の美術はニコラ・ブノワによるもの。現芸術監督斎藤友佳理の現役時代の十八番でもあり、主役からコール・ド・バレエに至るまでこだわり抜いたその指導の成果は、本ツアーに先立つ5月の東京公演でも高い評価を得ています。

その「ジゼル」全2幕が、前日の公開舞台稽古を経た7月14日(金)、客席をほぼ埋め尽くした観客の前で幕を開けました。初日の主演は秋山瑛(ジゼル)、秋元康臣(アルブレヒト)、伝田陽美(ミルタ)。演奏はベンジャミン・ポープ指揮によるヴィクトリア管弦楽団。この公演のため、首都キャンベラより鈴木量博日本国大使、在メルボルン日本国総領事の島田順二氏ご夫妻が来臨され、また芸術監督のホールバーグ氏、エグゼクティブ・ディレクターのリサ・トゥーミー氏を始めとするオーストラリア・バレエ団の人々、そして多くのメディア関係者、評論家が注目するなかで舞台が始まりました。

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7/14公演 第2幕より photo: Kate Longley


第1幕のジゼルとアルブレヒトの"花占い"の場面で笑いが起こるなど、観客の反応は日本に比べて素直で大らかながら、進行するにつれ強い集中力をもって物語への共感が深まっていくのを感じさせました。ことに第2幕に入ると、ウィリたちの群舞に、そして主役やソリストが踊り終えるたびに拍手が起こるほど会場の空気は熱を帯び、最後は大歓声のカーテンコールで終了。終演後のロビーでは、舞台装置や照明の美しさに加えて、ダンサーたちの訓練の行き届いた質の高さを絶賛する声に溢れました。

初日が明けると早速メディアの公演評が掲載され、「東京バレエ団はオーストラリア・デビュー公演で、その卓越した技術力と芸術性、細部へのこだわりを見せつけて観客を大いに魅了した」(Australian Arts Review)、「東京バレエ団の細部へのこだわりは息をのむほどで、感情を揺さぶられる」(The Blurb )、「26人のダンサーによる群舞は、見事なユニゾンと軽やかな揺らぎを実現して、東京バレエ団の徹底した稽古
の成果を発揮する」(Jaun Baba News) 、「東京バレエ団の初のオーストラリア・シーズンは、地元のダンス愛好家にとって画期的な出来事。東京バレエ団がそう遠くない将来に再びオーストラリアを訪れることを願う」(Man in Chair)、「このようなレベルの高い国際的なカンパニーを自国の劇場で鑑賞できる時代に感謝したい 。国際的な芸術の交流は実に感動的だ」(Classic Melbourne) といった絶賛の評が次々と並びました。

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7/14公演カーテンコールより photo: Ayano Tomozawa


初日を終えて、東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理は「オーストラリア・バレエ団、メルボルン州立劇場の皆さまに、とても温かくお迎えいただいています。バレエを通じてお互いがわかりあえ、何一つ不安がない状態で初日を迎えられるというのは、なかなかないことです。素晴らしいおもてなしを受けていると肌で感じていますし、これにお返しできるのは良い舞台をお見せすることだけ。そういう気持ちで臨んでほしいとダンサーたちにも伝えました。初日を終え、観客の皆様の反応が本当にストレートで、主役、ソリスト、コール・ド・バレエの分け隔てなく、すべてのダンサーに惜しみない拍手をいただきました。舞台を通じ、心と心の触れ合いがあったと確かに感じています。コロナ禍以降はじめての海外公演で、お客様からの大きな声援、マスクなしの晴れやかな表情を見ることができ、本当に晴れやかな気持ちです。まるで今までの長い苦しみが終わった象徴のような公演となり、私も感動しました」と話しています。またデヴィッド・ホールバーグは「東京バレエ団『ジゼル』のオーストラリア・デビュー公演は、メルボルンで大成功を収めました。東京バレエ団の非の打ちどころのない正確さと完璧なストーリーテリングに観客が魅了されたのは明らかです。東京バレエ団をオーストラリアにお迎えできたことを光栄に思いますし、彼らの芸術性で観客を感動させてくれたことに感謝しています」と語りました。

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初日公演後のレセプションより スピーチをするホールバーグ氏
 
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(左)デヴィッド・ホールバーグと斎藤友佳理 (右)鈴木量博大使と斎藤友佳理
photos: Ayano Tomozawa


東京バレエ団の「ジゼル」メルボルン公演は、秋山瑛-秋元康臣に加えて、二つの別キャスト(足立真里亜-宮川新大、中島映理子-柄本弾)を含めた全3キャストで7月22 日(土)まで続きます。

このツアーが終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は33か国156都市、通算786回の記録を達成することになります。



〇関連情報

2023/04/11

追悼ピエール・ラコット

 ロマンティック・バレエの名作「ラ・シルフィード」の蘇演などで著名なフランスの振付家、ピエール・ラコット氏が4月10日に逝去しました。享年91歳。

 東京バレエ団は「ラ・シルフィード」や「ドナウの娘」の上演を通してラコット氏と長年親交があり、とくに前者はバレエ団の欠くべからぬレパートリーとなっています。一同、ラコット氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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photo: Arnold Groeschel

 ピエール・ラコット氏は1932年生まれ。パリ・オペラ座バレエ学校を経て同バレエ団に在籍し、のちにモンテカルロ・バレエ団、ナンシー・バレエ団他の芸術監督を務めました。彼の名前をことに高めたのは、舞踊史に名高い19世紀のフィリッポ・タリオーニ振付「ラ・シルフィード」の蘇演でした。ラコット氏はこれを膨大な資料を掘り起こして研究し、1972年テレビ映画として発表したのちパリ・オペラ座バレエ団で上演。同作はパリ・オペラ座にレパートリー入りしました。フランスの古典バレエに通暁していたラコット氏は、その後も「ドナウの娘」「マルコ・スパーダ」、プティパの「ファラオの娘」「パキータ」など19世紀の多くのバレエの蘇演を手掛けました。2021年、パリ・オペラ座バレエ団で初演した文豪スタンダール原作の「赤と黒」が最後の作品となりました。

 東京バレエ団がラコット氏を招いて「ラ・シルフィード」をバレエ団初演したのは1984年のことで、蘇演に主演したギレーヌ・テスマーとミカエル・ドナールが客演しました。その後、1989年の第11次海外公演(ベルリン・ドイツ・オペラ、ウィーン国立歌劇場他)、1992年の第13次海外公演(ロシアのボリショイ劇場、マリインスキー劇場、現ウクライナのシェフチェンコ劇場)など海外ツアーでも披露し、現芸術監督の斎藤友佳理が「日本のマリー・タリオーニ」と絶賛を浴びる成功を収めて、本作は東京バレエ団にとって重要なレパートリーとなっていきました。東京バレエ団は2006年には、同じくタリオーニが娘マリーのために創作しラコット氏が蘇らせた「ドナウの娘」も上演しています。

 また2011年、ラコット氏がモスクワ音楽劇場バレエで「ラ・シルフィード」を上演する際には、斎藤友佳理がアシスタントを務めてバレエ指導者としてのキャリアをスタートさせました。ラコット氏のそばでその指導に触れた斎藤は、そのときの経験をもとに自作の舞踊譜を作成して今も東京バレエ団での上演に活かしています。氏の遺してくれた伝統は東京バレエ団に受け継がれているのです。

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「ラ・シルフィード」リハーサル 1984

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「ドナウの娘」リハーサル 2005 photo: Kiyonori Hasegawa

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「ドナウの娘」衣裳合わせ 2006

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ピエール・ラコット氏と斎藤友佳理

レポート2023/03/29

〈Choreographic Project 2023〉上演レポート

東京バレエ団が、コロナ禍で中断していた〈Choreographic Project〉のスタジオ・パフォーマンスを復活させた。「ダンサーたちが自ら創作に取り組むことで、振付者・出演者双方の創造力・表現力を刺激し、アーティストとしてのモチベーションを高めてもらいたい」と斎藤友佳理芸術監督が発案、2017年にスタートした本プロジェクトは、東京バレエ団スタジオでのパフォーマンスから始まり、手作り感あふれる公演が名物に。3年ぶりに実現するスタジオ・パフォーマンスに立ち会いたいと、東京バレエ団友の会クラブ・アッサンブレの会員を中心とした多くの観客が集った。

スタジオに入っていくと、観客を席へと案内するダンサーたちの姿。お馴染みの光景だけれど、さらに今年は開演前のアナウンスの場面でもダンサーたちが登場、携帯電話の電源オフや飲食禁止などの注意事項をユーモアにあふれた動きで伝え、客席は一気に和やかなムードに。これは司会を務めた岡崎隼也の提案だそう。初年度から本プロジェクトに積極的に取り組んできた彼ならではのアイデアだ。

その後最初に上演されたのは、岡崎による『運命より』。岡崎は2020年のスタジオ・パフォーマンスでメリメの「カルメン」を原作とした『運命』抜粋版を発表、いずれ1時間ほどの大きな作品に仕上げたいと考えているが、今回は限られた上演時間でできることを、と前回取り上げなかった場面をコラージュし、ダンサーたちの身体表現、その生き生きとした姿を前面に打ち出すことに注力した。カルメン役の伝田陽美と、ホセ役の柄本弾(3月19日のみ)、また秋山瑛、政本絵美、平木菜子、中沢恵理子、安西くるみ、樋口祐輝、井福俊太郎、岡﨑司、また学者役の鳥海創らダンサーたちが、岡崎の複雑な振付に全力で取り組み、迫力あるパフォーマンスに。全編上演をどのように構想しているのか、興味をそそる。

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「運命より」振付: 岡崎 隼也(photo: Koujiro Yoshikawa)


2番目の作品は、やはり常連として本プロジェクトをリードするブラウリオ・アルバレスの『アツモリ』。平家物語の、若くして戦で命を落とした平敦盛の物語に着想したデュエットだ。アツモリ役の南江祐生、彼が愛用していたという笛・小枝を演じる長谷川琴音が、石井眞木による和の旋律に真摯に向き合い、死後の世界を表現。上演後のトークでアルバレスは、「彼は戦争に関わり、地獄に落ちなければならなかった。それがすごく悲しかった。死についての、これは僕なりの一つの答え」と思い入れたっぷりに語っていた。

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「アツモリ」振付: ブラウリオ・アルバレス (photo: Koujiro Yoshikawa)


3番目の作品は、振付初挑戦の加藤くるみによる『What a Wonderful World』。ルイ・アームストロングの名曲のカヴァー曲に出会い、「この音楽で振付けたい」と出品を決意。振付の過程で、この曲のハッピーな歌詞に込められた意味をしっかりと肌で感じ、「この歌詞のように、毎日幸せと感じられない時もあり、日々悩んだり、考えたりして生きているということをテーマにした」という。加藤のテーマと、生方隆之介、岡﨑 司、加古貴也、前川琴音、鈴木香厘ら若手を中心とした5人のメンバーたちの、ダンサーとして過ごす日々が重なり合って見えたことも魅力に。アフタートークでは「今後も作品を作ってみたい」と、意欲的だ。

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「What a Wonderful World」振付: 加藤 くるみ(photo: Koujiro Yoshikawa)


バレエ・スタッフの木村和夫も毎回作品を出品しているが、今回は男性二人のデュエット作品で挑戦。タイトルは『fruits of wisdom』。「人同士の好きと嫌いの感情は、実は近いものがあったり、憧れの裏返しだったりするけれど、それがパン!と反転したとき、磁石のように結びつく。そんな瞬間を稽古場の中に表現したかった」という言葉通り、品行方正なバレエ・ダンサー役の大塚卓と、やんちゃな雰囲気の樋口祐輝が警戒しながらも、徐々に近づき、ついには響き合う様子を、リアルな演技で表現。通常の公演では見ることのできない、二人の隠れた個性が活きたパフォーマンスに。

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「fruits of wisdom」振付: 木村 和夫(photo: Koujiro Yoshikawa)


続いては、岡崎隼也のもう1つの作品、『cube』。岡崎が好きだというアーティストの新譜と、その楽曲が挿入曲として使われた映画「ノマドランド」にインスパイアされて創作した女性3人の作品。筋書きのない小品ではあるけれど、加藤くるみ、富田翔子、相澤圭の各々のダンスが、力強く、かつ繊細に立ち上がり、演者3人が岡崎の振付を介して自分を表現しようする姿勢が、清々しい印象を残す。

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「cube」振付: 岡崎 隼也(photo: Koujiro Yoshikawa)


最後の作品は、今回も2作品を出品したブラウリオ・アルバレスによる『OMIAI』。日本の文学に興味を持ち、さまざまな作家の小説を読んできたというアルバレスが、谷崎潤一郎「細雪」のお見合いのエピソードをコメディ・タッチにバレエ化した。その根底には、古めかしいお見合いのシステムに対する驚きや、そこに生きる家族のドラマを生き生きと描き出そうとする意欲が透けて見える。秋山瑛演じる次女、彼女のお見合いを取り仕切る"知己の美容師"役の伝田陽美、お見合い相手の裕福な家の息子・大塚卓らのやりとりに、奔放な三女・瓜生遥花が絡む様子が何とも可笑しい。これも全幕としてしっかり作り込んだ舞台で観てみたい作品の一つに。出演はほかに政本絵美、平木菜子、生方隆之介、安村圭太、玉川貴博、鳥海創、山下湧吾。

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「OMIAI」振付: ブラウリオ・アルバレス(photo: Koujiro Yoshikawa)


全6作品の上演のあとは4人の振付者によるアフタートークも実施。それぞれが作品にこめた思いを語るだけなく、観客からの質問にも応じ、ファンにとってはダンサーとの貴重な交流の場に。創作期間中にはハンブルク・バレエ団日本公演で来日していたジョン・ノイマイヤーのアドバイスを受けたというが、2月に上演したキリアン振付『小さな死』で指導を務めた中村恩恵からも貴重な意見をもらい、参加者それぞれにとって意義深い時間となったはず。来年度はダンサー主体のクラウドファンディングも予定されているというが、ますますの発展が期待される本プロジェクトに、これからも注目してきたい。


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3/18(土)終演後 アフタートークの様子(photo: Koujiro Yoshikawa)

(取材・文)加藤智子

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