東京バレエ団では本年9月にローラン・プティ振付「アルルの女」を初演します。これを上演するにあたり、ルイジ・ボニーノ、ジリアン・ウィッティンガムを振付指導に迎え、5/15(月)~5/31(水)にかけて最初のリハーサルを行っています。
本作のバレエ団初演キャストに選ばれたのは、これまでにも数々のプティ作品を経験している上野水香、昨年のプリンシパル昇進以降、舞台ごとに大きな成長をとげている川島麻実子、そして近年男性ソリスト陣の大黒柱としてますます存在感を増している柄本弾の3名。
また、本番で上野はロベルト・ボッレと組んで踊りますが、今回のリハーサルでは秋元康臣がその代わりをつとめています。
本ブログでは5/23(火)に実施した公開リハーサルとプレス向けの記者懇親会の様子をご紹介します。
写真左より 柄本弾、川島麻実子、上野水香、ルイジ・ボニーノ、斎藤友佳理、ジリアン・ウィッティンガム
まずはボニーノ氏から『アルルの女』の作品について説明。
「普通、プティ作品は、とても劇的でありながらどこかユーモアものぞくのですが、『アルルの女』にはそれがありません。内面を深くえぐる、受け入れがたいほどの苦しみを描く作品とも言えます。なぜなら、人間のとても辛い瞬間を描いているからです。人生そのものであり、愛であり、そして目の前の人を愛せないでいるという苦しみ。感情がまさにリアルに描かれているのです」
続いてジリアン氏からも挨拶があり、プティ作品との出会い、これまでのボニーノ氏との仕事をふりかえりながら、東京バレエ団の印象について尋ねられると、
「東京バレエ団は皆が私の言うことをよく受け入れてくれるので、とても仕事がしやすいカンパニーです。一番驚いたことはスタジオが静かなこと(笑)。他のカンパニーはもっとうるさいですよ(笑)」
会場内が和やかな笑いにつつまれたところでボニーノ氏からもウィッティンガム氏に同意するコメントが飛び出しました。どうやら東京バレエ団はとても"控えめな"カンパニーのようです。
そして、芸術監督の斎藤友佳理より、『アルルの女』の上演が決まったいきさつを話しました。斎藤とプティ作品の出会い、そしてダンサーたちへの熱い想い。
「私は常々、ダンサーたちには"女優"になってほしいと思っています。この作品をとおしていつかではなく"今"変わってほしいと願っています。
ルイジさんはダンサーたちのことをとても愛してくれます。ルイジさんが作品の内面、心理、そして求めるものを語ってくださっているのを聞いて、私をはじめダンサーたちは全員泣きました。
そして、主役の男性を生かすも殺すも女性次第。表面的な演技だけではダメなのです」
と、すかさずボニーノ氏からは
「ぜひ僕と友佳理で第3キャストとして踊ろう!」という提案が!
会場がひとしきり笑いにつつまれたのち、主演ダンサー3名から一言ずつ挨拶しました。
上野水香はプティとの思い出のエピソードを披露。
「レッスンでグランジャンプをしているとき、プティさんに、スタジオから端から端までジャンプをするように言われました。そのときに<それ、その瞬間があってはならない。パとパの間に隙間があってはならない>と言われたことは特に印象に残っています。
今回、ルイジさんとは久しぶりに大きなお仕事になると思っています。私は今、心の表現ができるダンサーに変わっていかなければならない時期です。舞台を観ているお客様の胸がいっぱいになるよう、新たな気持ちで作品に取り組んでいきたいと思っています」
川島麻実子は
「新しいことに挑戦させていただけるのは大きな喜びです。9月の本番までにもっと作品のことを知りたい、踊りこみたいと思っています。自分自身に問いかけて、どこまで相手役に向き合えるのか? 毎日違う表現になってもいいと思うので、これから自分がどう変わっていけるかがこれからの課題です。先生方、作品に心から感謝しています。この作品を経験することは、きっと他の作品にも活きてくると思っています」
初役への意気込みを静かに、そして強く語りました。
柄本弾は
「目に見えない相手を想定して踊るというのはこれまでにも「ザ・カブキ」(由良之助)や「ジゼル」(アルブレヒト)でも経験してはいますが、「アルルの女」でフレデリが求める女性は舞台に全く登場しない。いない相手を求めつつ、いる相手(ヴィヴェット)を拒絶する、というその距離感がとても難しい作品です」
と、『アルルの女』ならではの表現の難しさについてコメント。
するとボニーノ氏が
「以前、別の仕事で弾と初めて会ったとき、私は<『アルルの女』が合うよ>と言ったんですよ」
と嬉しそうに語りました。そして
「今日じゃなくてもいいから、弾、麻実子に<嫌い>って言ってごらん」というアドバイスが!
ところが柄本からは
「実はちょうど昨日言ったばかりです(笑)。麻実子(川島)さんから、"嫌いって言ってみて"と言われて・・・」
すかさず斎藤とボニーノ氏が
斎藤「リアルじゃなきゃダメ! 今日のリハーサルのようにもっと心から!」
ボニーノ氏「愛される人に拒絶される辛さというのをしっかりと表現して」
と、まるでリハーサルの続きのようなかけあいになり、息のあったチームワークを印象付けました。
ボニーノ氏は5/24に名残惜しそうにバレエ団を去っていきましたが、ウィッティンガム氏による熱血指導は5/31まで続きます。ウィッティンガム氏はふたたび本番直前に来日し、作品を仕上げることになっています。
本公演では『アルルの女』に加え、イリ・キリアン振付の『小さな死』、そして今年没後10年をむかえるモーリス・ベジャールの代表作『春の祭典』を一挙上演いたします。リハーサルの様子は引き続き本ブログにてご紹介していきます。どうぞお楽しみに!
(C)Kiyonori Hasegawa
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