東京バレエ団〈20世紀の傑作バレエ〉が迫ってまいりました!
本日より「春の祭典」の主役、生贄の男と女を演じるダンサー5名によるインタビューをおとどけしていきます。
第一弾は渡辺理恵です。「ラ・シルフィード」や「ジゼル」など、持ち前の清楚な美しさで活躍してきた渡辺にとって、自身のイメージからは遠い「春の祭典」の生贄役は大きな挑戦だったそう。ぜひご一読ください。
*生贄の女に決まったときは、どのような心境でしたか?
楽しみであると同時に怖かったです。私自身意外でしたし、周りからそういう反応もあったからです。それまでは自身に近いキャラクターが多かったので役に馴染みやすかったのですが、生贄の女はこれまでに踊ってきた役のイメージからは遠いように感じていました。実際に、今回の公演で同じ生贄の女を踊る奈良春夏さんと伝田陽美さんとは、演じてきた役のキャラクターが違いますし、最初は戸惑いの方が大きかったと思います。
*では、役作りには相当苦労したのでは?
役作りに対しては、これまでのやり方では通用しないのかもしれないと思ったので、違ったアプローチの仕方を考えました。振付を覚えるときは、どうしても今までに観てきた舞台や映像のイメージが頭の中に焼き付いていたので、自分にないものになろうとしてしまいます。ですので、それにとらわれすぎず、一番本質的なところは変えずに、柔軟に自分に合うかたちにつくっていこう、という気持ちで取り組みました。最終的には、自分のイメージとは遠いと感じていた役に挑戦しても、上手く消化しながら私なりのものに作り上げていく方法もあるのだと思えたので、私にとって「春の祭典」は、自信につながった作品でもあります。
*昨年のカリアリ公演が生贄の女の初舞台になりましたね。
私は全7公演中4回に出演したのですが、回を重ねるうちにいろいろなことが見えてきて、とても充実した公演でした。
オーケストラの生演奏で踊ったのですが、ストラヴィンスキーの複雑な音楽にとても苦労しました。というのは、演奏のスピードや音量が毎回少しずつ変わるので、聞けば聞くほどいろいろな音が聞こえてくる。一瞬、別の音楽に感じられたこともありました。もともと自分で歌いながらとっていたメロディよりもその裏の音の方が聞こえてくることもあったので、慣れるまでは音のなかで迷ってしまうことも。すごい緊張感でしたが、良い経験になりました。
*生贄の女とは、集団の中でどのような存在なのでしょうか?
男性は集団のなかで一番弱い者が生贄になりますが、女性はそうではありません。彼女は集団のリーダー的な存在。だから、女性に関してはどうして生贄と呼ぶのか、団員の間でも話題にあがりました。私なりの解釈ではありますが、生贄の女は自分の身を捧げるという意味で、自ら「生贄」になったのではないかと思っています。男性から女性たちを守るために先頭で盾になって、何かあれば自分がすべてを請け負うくらいの覚悟はある。男性に対しても決して攻撃的ではなく、彼らを一旦、鎮めようとする。そのすべてを受け入れるような女性像は、ある意味「母親」という存在に近いのかもしれません。
「春の祭典」2016年5月 イタリア・カリアリ歌劇場
*生贄の女を演じるとき、渡辺さんの内面からはどのような感情が湧いてくるのでしょうか?
「私が周りの女性を守らなければ」という責任感から自分が逞しく思えるときもあれば、身に迫る危険に不安を感じて苦しくなるときもあります。実際に、リハーサルでコール・ド・バレエのなかに入っているときは、はじめは自分の意志で踊っているのですが、徐々に感情の選択肢を奪われていくような感覚があります。ですので、ベジャールさんのスタイルはキープしつつ、あとは感情に身を任せて踊っています。
*最後に、公演を楽しみにしているお客様へメッセージをお願いします!
3日間とも違うキャストで上演するので、どんな「春の祭典」を感じられるのか楽しみにしていてくださいね。同じ作品であっても、演じるダンサーによっては別の作品のように感じられることもあります。「こうあるべき」とか「こんなふうに観なくてはいけない」という概念を超えて、観てくださる方に新しい発見があれば嬉しいです。私自身どんな生贄の女になれるのか、とても楽しみです。
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