東京バレエ団「春の祭典」ダンサーインタビュー、第二弾は岸本秀雄をおとどけします。
2011年の入団以降、二度の海外公演で生贄を演じてきた岸本。インタビューでは、ベジャール作品を愛するひとりのダンサーとしても、作品の思い出を語ってくれました。ぜひご一読ください。
*2014年のローマ・カラカラ公演が生贄の男の初舞台になりましたね。デビュー公演、それも海外での舞台はいかがでしたか?
舞台に立ったときは怖かったです。緊張して、身体も震えていました。緊張からほどよく解放されたのは、生贄に差し出されることが決定する瞬間。足が引っかかって倒れ込み、集団から一人放り出される場面です。そこから先は取り憑かれたように踊っていましたね。最後まで踊りきったときには、手と足の両方の拍手で受け入れてもらえたのですが、怖かったからか、ものすごい達成感がありました。
この時期、同じカラカラ公演で踊る「ギリシャの踊り」の裸足のパ・ド・ドゥのほかに、「舞楽」、「スプリング・アンド・フォール」、「タムタム」の3作品のリハーサルも同時に進んでいたんです。まだ経験も浅かった当時の自分には頭を整理する余裕もなく、かなり混乱していました。焦って、疲れて、身体も思うように動かない。そんな日々が2ヶ月くらい続いて、最後に迎えた舞台が「春の祭典」でした。
*男性の生贄は集団のなかの一番弱い存在ですが、「弱者というものをどう演じるか」で悩んだそうですね。どのようにして道を切り開いていったのですか?
「もうどうにもならない。自分は生贄になってしまった」という現実を考えました。自分が成長できないがゆえに生贄になってしまったので、その残酷な運命からは逃れられないのだと思って演じました。自分のイメージですが、女性の生贄は生物として進化していく過程で一番成長した強い生き物で、仲間を守るために生贄になります。それに対して、男性の生贄は生物としては成長できなかった生き物。普通に歩くこともできない、人の形をした別の生き物なのだと考えています。周りからもいじめられるわけですが、当の本人はそのことよりも、自分が生贄に決定してしまったことへの絶望感でいっぱいなのだと思います。
*今年7月末には、モーリス・ベジャール・バレエ団の芸術監督ジル・ロマンさんによるリハーサル指導がありましたね。
ジルさんの指導は2014年にも同じ「春の祭典」で受けたのですが、そのときはまさにゼロからのスタートだったので、振付を覚えるだけで精一杯でした。真剣に取り組もうとするあまり、力も入り過ぎてしまって。それに比べると、今年のリハーサルはものすごい充実感がありましたね。初役ではありませんが、新しい作品に取り組んでいるような感覚でした。作品は常に進化していくものなので、前と同じことの繰り返しではなく、新しいものをどんどん吸収していく楽しさがあります。もちろん緊張感もありましたが、ダンサーとしての喜びを感じられたリハーサルでした。
「春の祭典」2014年6月 ローマ・カラカラ野外劇場
*振付家のなかでもモーリス・ベジャールが特に好きだとか。ベジャール作品のどんなところが好きですか?
とにかく格好良いところです。東京バレエ学校の生徒時代、エキストラとして出演した「ザ・カブキ」が最初のベジャール作品でした。そのときに観た由良之助がもう本当に格好良くて。憧れましたね。
ベジャールさんの作品を踊るときは、いつも役に取り憑かれたような感覚があって、踊っている間はそれ以外のことすべてを忘れてしまいます。そして、踊りきった後には「ああ、生きているんだな」と心の底から実感できてしまう。ベジャールさんの作品にはそういう不思議な力があるんですよね。
「春の祭典」の生贄もずっと踊ってみたかった役のひとつなので、決まったときは鳥肌が立ちました。いざ選ばれると喜びよりも不安でいっぱいだったのですが、好きだからこそ、そう思えたのかもしれませんね。
*最後に、公演を楽しみにしているお客様へメッセージをお願いします!
「春の祭典」は、自分のなかで爆発的なイメージのある作品です。全力を尽くして、観て下さる方が、気味の悪さや恐ろしさに思わずぞわっとしてしまうような生贄を演じたいです。生贄の男は一番弱いとは言っても主役ですから、周りを引きこめるような舞台にしたいと思います!
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