去る1月25、26日に開催された東京バレエ団〈スタジオ・パフォーマンス〉。スタジオ内に舞台と客席を設ける、座席数が限られた公演のため、今回もチケットをご購入いただけなかった方が多いのではないでしょうか?
そこで、本番の様子を長く東京バレエ団の公演を取材していただいている加藤智子さん(フリーライター)のレポートでご紹介します。ぜひご一読ください! また、このたびはレポートの掲載が予定よりも大幅に遅れましたこと、お客様には心よりお詫び申し上げます。
〈Choreographic Project(コレオグラフィック・プロジェクト)2020〉スタジオ・パフォーマンスが、1月25日、26日の2回公演で開催された。
東京バレエ団のスタジオに一般の観客を迎え、団員たちの作品を上演するスタジオ・パフォーマンスは今年で3回目の開催。団員たちが会場設営の作業に参加したり、当日の案内係を務めたりと、手作り感にあふれた、温かみある公演が実現した。
今回、振付作品を出品したのは5人の団員たち。年末年始を挟んでリハーサルを重ね、本番の約2週間前には指導者、スタッフたちを前にしての試演会にのぞんだ。その後、斎藤友佳理芸術監督が出品者全員との面談を実施、ブラッシュアップのためのさまざまな助言を与えたという。振付を手掛けたダンサーたちは、残された短い期間の中で、構成に変更を加えたり、ニュアンスを変えたりと工夫を重ね、本番を迎えた。
当日、開演前に挨拶をした斎藤芸術監督は、これまでの〈Choreographic Project〉でさまざまな作品が生まれてきたことに触れながら、今回も「それぞれがその持ち味を生かした、素晴らしい作品を披露してくれると信じています」と皆を激励した。
今回、上演された5人の振付者による6作品。そのうち3作品は、初エントリーの団員によるものだ。
トップバッターで登場した作品、『Jump UP』を振付けた山下湧吾も初エントリーの一人。中沢恵理子、工桃子、後藤健太朗とともに、若さ弾ける、みずみずしい感性で、踊る楽しさをぎゅっと凝縮させた。上演後のトークで、「ジャズダンスを習っていたときの楽しさ、その気持ちを大事にして創った作品です」と話した山下。次回も挑戦したいと目を輝かせた。
山下湧吾振付 『Jump UP』
次の作品はブラウリオ・アルバレスの『いい湯だな』。2年前に発表した『ドアが閉まります』に続くシリーズ第2弾、外国人が見た日本の日常の光景の面白さをダンスに創り上げた。柄本弾(外国人)、秋元康臣(酔っ払い)、池本祥真(オタク)、山田眞央(おじいちゃん)、岡﨑司(女子高生)がそれぞれのキャラクターの可笑しさを最大限にアピール、客席を大いに沸かせた。
ブラウリオ・アルバレス振付 『いい湯だな』
3番目に登場の安井悠馬は、ソロ作品『朱赫〜Shukaku〜』を自身で踊った。黒い衣裳に、赤く塗られた木刀と左腕。赤色は、自身を象徴する色という安井。「いま、悩んでいる僕自身がテーマ。僕は周りに埋もれてしまうようなダンサーだけれど、自分自身の持って生まれた個性や力、自分の色で、未来を切り拓いていきたい。そんな思いを込めて踊りました」と話した。入団して9カ月。バレエ団の活動に、意欲的に取り組む姿勢が透けて見えるような、力強いパフォーマンスとなった。
安井悠馬振付 『朱赫〜Shukaku〜』
紅一点の金子仁美の作品は、『Anleitung〜道しるべ〜』。彼女自身が、ダンサーとして思い悩み、葛藤する姿を描いた作品だ。バッハの音楽を用いて、ヒロイン役の長谷川琴音の表現力をしっかりと引き出しながら、彼女の内面に渦巻く"白"と"黒"のせめぎ合いを描き出した。共演は上田実歩、髙浦由美子、山田眞央、後藤健太朗。初の挑戦だけに「口から心臓が出そうなくらい緊張しました」と話す金子だが、「皆がこれほどまでに、作品に魂を吹き込もうと踊ってくれる姿に、涙が出てきました」とダンサーたちに感謝の気持ちを述べた。この短い期間にも、創り手としてのプレッシャー、感動を存分に味わったようだ。
金子仁美振付 『Anleitung〜道しるべ〜』
岡崎隼也は、20分ほどの大作『運命』抜粋版を発表。伝田陽美、柄本弾、政本絵美、秋山瑛、秋元康臣、池本祥真らを核に、沖香菜子、金子仁美、加藤くるみ、樋口祐輝、鳥海創と11人ものダンサーを配し、ドラマティックに「カルメン」の世界を浮かび上がらせた。今回、制限時間の縛りをゆるめ、大作に挑戦してみたいという振付者の意志をできるだけ生かそうという方向性が打ち出され、岡崎は「いつか取り組みたいと思っていた」という『カルメン』に挑戦。若者たちが運命に翻弄されていく様子を迫力あるダンスで描き出し、今年の観客賞を受賞した。
岡崎隼也振付 『運命』抜粋版
最後は、ブラウリオ・アルバレスによる2作目、『I remember』。これも15分ほどの大作で、言葉を介さず、手と手を触れることで思いを伝える人々のドラマを紡ぐ。仮面をつけ、表情を見せずに踊るダンサーたちが、登場人物たちの思いを十二分に伝え、力作と評判に。アルバレスは、「手を繋いで写っている曽祖母の写真を見て、この作品のアイデアが生まれました。もしかしたら近い未来、人は、表情ではなく、手と手を触れることで理解し合うようになるかもしれない」と話す。
ブラウリオ・アルバレス振付 『I remember』
終演後は、観客とダンサーたちが直接交流できる懇親会の場も設けられ、ダンサーたちにとっては、パフォーマンスの感想を直接聞く貴重な機会に。今回は、2日間にわたる上演が初めて実現したが、1日目の終演後、振付に修正を加え、2日目の公演にのぞんだ振付者も。常に作品に手を加えながら、より完成度の高い上演を目指すチャンスがあるというわけだ。
大ホールでの公演ではなかなか観ることのできない、彼らの未知の一面に触れることができる貴重な機会との声もあり、ダンサーたちの学びの場として、今後の開催にも期待が寄せられている。
取材・文:加藤智子(フリーライター)
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