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レポート2020/10/01

東京バレエ団〈Choreographic Project 2020〉公演レポート

東京バレエ団ではコロナ禍で延期になった3公演を9月に続けて上演。先週の「ドン・キホーテ」全幕公演を無事に終え、ダンサーたちもようやくエンジンが全開になってきたようです。
ここで、ダンサーたちの舞台への復帰の足がかりとなった〈Choreographic Project 2020〉を改めて振り返りたいと思います。東京バレエ団を長く取材してくださっている加藤智子さん(フリーライター)のレポートをご紹介。ぜひご一読ください!


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ソーシャルディスタンスを保ったカーテンコール


さる9月5日(土)、東京バレエ団は、めぐろパーシモンホールにて〈Choreographic Project(コレオグラフィック・プロジェクト)2020〉を開催した。8月に行われる予定であった〈めぐろバレエ祭り〉連動企画として、劇場の舞台で、団員による振付作品のみの公演を行うという試みが実現した。


上演されたのは、これまでに同プロジェクトで誕生した既存の作品に、今年1月に行われたスタジオパフォーマンスで観客賞に選ばれた1作品に、本公演の2週間前に実施された試演会で選出された2つの新作も加わった全7作品。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、観客は定員の50%以下と寂しい光景ではあったが、バレエ団にとっては半年ぶりの舞台とあって、会場は静かな熱気にあふれていた。


最初に上演された作品は、岡崎隼也振付『Scramble(スクランブル)』。2017年のスタジオパフォーマンスにて観客賞を受賞、その後〈上野の森バレエホリデイ〉の屋外特設ステージで上演された作品だ。若手中心の新キャスト、劇場での本格的な照明によって、岡崎ならではの鋭角的な動きが、より立体的に浮かび上がった。

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岡崎隼也振付『Scramble』


指導陣からの出品となる木村和夫の『RISE(ライズ)』は、映画「シンドラーのリスト」の音楽、ケルティック・ウーマンの楽曲で構成された新作だ。一輪の花を慈しむように舞う柄本弾と、丈の長いチュチュをまとった沖香菜子以下14人の女性ダンサーたちは、ともすると『ジゼル』のアルブレヒトとウィリたちのようにも見えるが、闇の中に光を見つけたかのように彼方を見据えるその姿はずっと清々しく、明るい。リハーサル期間中、木村は「後付けになってしまうけれど」としながら、「今は皆、闇の中で手探りをしている状況かもしれないが、いつかこれを克服して、目の前がぱっと開けた時、また皆で手を繋いでいけたら──」と作品にこめた思いを明かした。ダンサーの成長を促す機会を大切にしたいとも話す木村。出演ダンサーの中には、この公演が東京バレエ団での初舞台という4人の研究生がいたが、彼女たちにとっても忘れがたい貴重な体験となったのでは。

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木村和夫振付『RISE』


岡崎隼也の2作目は、『Calling(コーリング)......』。緊急事態宣言発出後に創作した新作は、サン=サーンスの「白鳥」に振付けたソロで、コロナ禍にあって、舞台に立つ機会を求め続けていた上野水香と、彼女の舞台を待ち望む観客の人たちを思い、「既に知られている上野水香のイメージを壊すのではなく、何か新しい見せ方を目指したい」と取り組んだ。名作「瀕死の白鳥」で知られる音楽は、「儚さ、寂しさの中にも、どこか明るく、強い意思を感じる」という岡崎。「最後に、明るい未来への希望を見せたい」と、上野の力強さを印象付けた。

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岡崎隼也振付『Calling......』


次の『理由』は、2018年スタジオパフォーマンスにて観客賞を受賞した岡崎の作品。スツールを用いた内省的な作品は、秋山瑛、涌田美紀、足立真里亜、中沢恵理子というフレッシュなキャストで、より深みある、印象深いパフォーマンスに。

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岡崎隼也振付『理由』


ブラウリオ・アルバレスの『Adagietto(アダージエット)』も2018年の初演で観客賞を受賞、第1位に輝いた作品だ。奈良春夏と秋元康臣、岸本夏未と樋口祐輝ほか全5組のカップルが、マーラー交響曲第5番第4楽章アダージェットで踊る。広く知られたこの音楽をしっかりと活かす振付の工夫や、布を用いるユニークな演出は、上演を重ねることでより説得力あるものに。

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ブラウリオ・アルバレス振付『Adagietto』


続いて上演されたアルバレスの『夜叉』も、2019年に観客賞を獲得している。鬼婆伝説に想を得て、アルバレスの故郷メキシコで国民的人気を得ている楽曲、アルトゥロ・マルケスのダンソン第2番に振付けた、日本とメキシコの文化の融合を目指した意欲作。女性のメインロールは初演から引き続き中川美雪、男性は宮川新大が初めて取り組み、それぞれの持ち味を存分に活かした演技でストーリーを伝えた。ラテン特有のリズムを活かしたダイナミックな振付は大きな見どころ。アルバレスは「日本人が「赤トンボ」を聴いて懐かしさを感じるのは、日本人だからこそ。メキシコ人にとってこの楽曲は、それと同じまさに特別な音楽。日本のダンサーには馴染みにくいところがあったかもしれない」と当初の思いを明かしていたが、上演を重ね、ダンサーが音楽をどんどん自分のものにしていく様子を実感したという。

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ブラウリオ・アルバレス振付『夜叉』


ラストは、今年1月のスタジオパフォーマンスにて観客賞を受賞した岡崎隼也の『運命』抜粋版。「カルメン」の音楽で、運命に翻弄され、愛し、傷つく若者たちの姿をドラマティックに描き出す大作で、沖香菜子、伝田陽美、秋山瑛、政本絵美、加藤くるみ、柄本弾、秋元康臣、池本祥真、樋口祐輝、鳥海創らが、岡崎独特の複雑な振付をしっかりと消化し、熱演を繰り広げた。

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岡崎隼也振付『運命』ー抜粋版ー


5人のプリンシパルから研究生まで、多くのダンサーが参加した今回の公演は、彼らに舞台で踊る喜びをあらためて実感させることになった。振付者にとっても、コロナ禍の不安を作品に反映させたり、あらためて作品を見つめ直したりと、これからの創作につながる貴重な経験に。今後、新たに振付に挑戦したいと手を挙げるダンサーが続けば、このプロジェクトはさらに有意義なものになるだろう

取材・文:加藤智子(フリーライター)

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