東京バレエ団「M」の10年ぶりの再演まであと9日! 今回の上演にあたり、初演時の「女」役誕生に貢献し、ベジャールとともに作品を創り上げてきた吉岡美佳(元プリンシパル・現東京バレエ団特別団員)が来団し、指導にあたっています。
後輩たちを厳しくもあたたく見守る吉岡に、現在のリハーサルの状況について話を聞きました。ぜひご一読ください。
──『M』では、初演時から「女」役を務められていました。
吉岡 ダンサーにとって、そのキャリアの転機になるような作品というものがありますよね。
東京バレエ団に入団後、数年の間に、ベジャールさんの作品では『ザ・カブキ』の顔世御前、『ドン・ジョヴァンニ』のヴァリエーションを踊っていましたが、その時点ではベジャールさんに直に指導していただくことがなくて、1993年の『M』がベジャールさんと直接一緒にお仕事をさせていただく初めての機会となりました。この時、ベジャールさんと一対一でリハーサルをさせてもらったことで、自分の中でちょっと何かが変わるものがあったと思います。たとえば、イリ・キリアンさんとのお仕事(『パーフェクト・コンセプション』世界初演)が実現したのはその翌年のことでした。
──ベジャールさんとのリハーサルでは、最初はとても緊張されたそうですね。
吉岡 そう、怖かったのです(笑)。あのブルーの眼で見つめられると、考えていることをすべて見透かされているような感じがして。でも実はすごく優しくて、会うといつも手にキスをしてくれて! 当時はまだ60代でしたから、ご自分で実際に動いて見せてくださることも。それを見て感じた通りに動いて見せると、「そうだね」「いや、もっとこういう感じで」と指示をいただく──。そうして稽古を進めていきました。それはダンサーとして本当に大きな経験でしたね。
──「女」という役づくりについては?
吉岡 ベジャールさんから「こういう役だからこう踊って」という説明は特にありませんでした。プログラムか何かの解説を見て知ったのですが、正式には「生命と再生の源を象徴する女」という役名です。
『M』には三島由紀夫のさまざまな作品のイメージが登場しますが、配役表には「禁色」とか「鹿鳴館」とか、場面のタイトルが書いてあって、私が演じた「女」の登場する場面は「鏡子の家」と記されていました。それで初めて三島の本を読んでみたのです。だからといって、あの「女」が「鏡子の家」のあの女性なのかというと、それはちょっと違うような気もします。でも、読んでいるのと読んでいないのとでは、舞台に立ったときに自分が発するもの、存在感、深みといったものが変わってくるはずです。
──強くて美しい女性、という印象です。
吉岡 ベジャールさんの作品ではよく、色でいえば白と黒という対照的な女性が登場します。『バレエ・フォー・ライフ』や『ブレルとバルバラ』もそうですね。白い衣裳の女性は、母親のような穏やかな愛。もういっぽうの黒い衣裳の女性は、もっと強くて激しい愛で、緊張感がある。『M』もまさにそう。白い衣裳の「海上の月」は母を思わせる慈愛に満ちた女性ですが、黒い衣裳の「女」は正反対。登場の場面では三島の分身の一人、IV
- シ(死)にからまれて、どこか死に対する予感とか怯えが見え隠れする。そこから男性(I - イチ)とのパ・ド・ドゥが始まりますが、決して穏やかな雰囲気ではなく、男性のお腹にぶつかっていく瞬間もある。私の中では闘牛のイメージでした。リハーサルの時にはつい躊躇してしまったけれど(笑)。
2005年の公演より。女役を演じる吉岡美佳
──今、リハーサルではどんなことに配慮して指導されていますか。
吉岡 ベジャールさんの振付は実にシンプル。言われた通りの振付をきちんとその通りに踊ることで、その振付が生きて、作品の中のその場が生きてくるものだと思います。ダンサーたちには、ベジャール作品を大事に踊ってほしいなと思います。そうでなければ、いまこうして取り組む必要などないわけですから。
──10年ぶりの上演となる今回は、ほぼすべての役柄が新キャストに。フレッシュな『M』となりますね。
吉岡 演じるダンサーが変われば、作品は全く違うものになるもの。でも少なくとも、私も、(初演ダンサーで、今回ともに指導にあたっている)小林十市さんも、高岸直樹さんも、当時ベジャールさんに言われたこと、教えていただいたことを、最大限、ダンサーたちに伝えようと努めています。それは私たちの使命だと思うし、やりがいがあります。ベジャール作品は、映像を見て振付を覚えるだけで上演できるものではないし、東京バレエ団のオリジナル作品を途絶えさせるわけにはいかない。こうやって作品を継承していくことはとても大切なことと考えています。初演後のヨーロッパ・ツアーで高い評価を受けた作品ですが、いまあらためて、日本のお客さまに観ていただきたいと思っています。
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