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ロングインタビュー2020/10/09

小林十市(ベジャール振付『M』振付指導) インタビュー

三島由紀夫の没後50周年を記念し、東京バレエ団が10年ぶりに上演するベジャールの傑作『M』。本作の再演にあたり、東京バレエ団では初演時に「Ⅳ―シ(死)」の役をつとめ、さらにベジャールの振付アシスタントをつとめた小林十市さん(元モーリス・ベジャール・バレエ団)に作品の指導をお願いしました。

現在南仏に活動拠点をおく小林さんは、7月末に帰国後2週間の自宅待機期間をへて来団。その後2週間にわたり、ダンサーたちにベジャールならではの振付のニュアンスや表現を細かく伝承していきました。そのリハーサルも終盤にさしかかった8月の下旬、帰国間際の小林さんに現在の手応えをうかがいました。ぜひご一読ください。

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──1993年の『M』初演の際には、ベジャールさんの振付アシスタントを務められました。

小林 「鹿鳴館」のワルツの場面の振り写しと、ダンサーの配置を任せてもらいました。が、実際のところアシスタントって何なのかわかっていなくて、リハーサル初日は最後まで残らずに帰ってしまった(笑)。翌日ベジャールさんから、「自分は動いて見せることができないから、十市は動いて、ダンサーたちにそのニュアンスを伝えてほしい」と言われ、ああ、そういうことかと!
現場では、当時の芸術監督の溝下司朗さんが最初から最後までリハーサルを見ておられて、初演の公演プログラムには、リハーサル後のベジャールさんの指示を司朗先生がノートに取り、僕が横で聞いている写真が載っています。

──『M』創作の過程をずっと見ておられたわけですね。

小林 だから皆さんは僕を『M』のエキスパートと思われているかもしれないけれど、全然、違うんです(笑)。『M』(1993)は『ザ・カブキ』(1984)と同様、ベジャールさんが東京バレエ団にプレゼントしたものですし、飯田宗孝先生も、佐野志織さんも、高岸直樹さんも木村和夫さんも、東京での初演の後、ヨーロッパツアーに出て、その間に20回以上も『M』を踊っている(その後パリ・オペラ座公演で合流)。本当は皆さんのほうがずっと詳しい!

僕ができるのは、ベジャールさんのボキャブラリー、動きのニュアンスについて「こうではないか」とアドバイスすること。それは、長くベジャールさんの作品を踊ってきた自分だから伝えられることかなと思っています。

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聖セバスチャン役の樋口祐輝を指導する小林さん

──もっとも印象的な要素の一つは、三島の分身であるイチ、ニ、サン、シの存在です。彼らは2つのパ・ド・カトルを中心に、様々な場面に登場します。

小林 振付の段階では、「お互いの距離をはかりながら」「ここでお互いを見て」といった動きのアイデアをポンと渡されて、そこから4人がアドリブで動いていました。細かいところまでは決められていないのです。今回指導するにあたって『M』の記録映像を4本見たのだけれど、全部違っている! つまり、動きのアイデアから外れてさえいなければ、どう動いてもいいということだったのです。

今回初めて、4役とも新キャストが配されましたが、指導の場では、この時はどこを通過していくか、別にここじゃなくでもいいとか、この二人の目線がどこかですれ違ればいいとか──そんな細かな作業を重ねていました。

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写真左より、池本祥真(Ⅳーシ)、宮川新大(Ⅱーニ)、秋元康臣(Ⅲーサン)、柄本弾(Ⅰーイチ)

──ご自身が初演したシ(死)はどんな役柄と捉えられますか。

小林 冒頭の海の場面では少年とともにお婆さんとして登場し、その後、狂言回し的な存在としてマジックを見せる。それはある種、ディアボリックな、悪魔的な感じです。そこからまた、生と死の「死」であることの怖さも押し出していく──。最初のパ・ド・カトルに至るまでに、既に3つの異なる色を出しています。そこには、ストーリーの中にいるときと、客観視しているときの使い分けがあって、それでいて一貫しているのは、全部を引っ張っていく存在です。

自分に振付けられたこの役をあらためて客観的に見ると、たとえば、正座して、少年のランドセルからお習字の道具を取り出す場面がありますが、僕は噺家の家に生まれたというバックグラウンドがあって、畳の部屋で正座したり、剣道をやっていて神棚にお辞儀をしたりといったことが身体に染みついている。それをベジャールさんが僕の中に見出していた──。ベジャールさんはこのダンサーにはこういったオプションがあるから、と有効に使う方だったのです。

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池本祥真は6代目の「Ⅳーシ(死)」の役を引き継ぐ

──あらためて、『M』とはどんな作品で、その魅力はどんなところにあると思いますか。

小林 ベジャールさんの頭の中にある美学が作品化されたもの、と言えると思います。『M』がヨーロッパで高い評価を受けているのは、日本のシンプルな美、美しい所作や、様式的なものがふんだんに散りばめられているからでしょう。禅僧が書く、「円相」というものがありますね。しゅっと一筆で書かれた円ですが、悟りの象徴、真実や宇宙、また輪廻転生を表しているともいわれるし、見る人によってどのようにも解釈できるという。海に始まって海に還る、『M』はまるであの円相のようだと思います。

宇宙規模でいえば、人の人生なんて一瞬だけれど、いまの若いダンサーたちが見せる、ほのかな一瞬の炎のような、その瞬間を、共有していただけたらと思っています。

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取材・文:加藤智子(フリーライター)

リハーサル写真:松橋晶子

>>>東京バレエ団『M』公演情報はコチラから

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