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ロングインタビュー2021/06/21

吉岡美佳(東京バレエ団特別団員)インタビュー ベジャール振付「ギリシャの踊り」を語る

7/3(土)に開幕する〈HOPE JAPAN 2021〉東京バレエ団全国ツアーでは、7年ぶりにモーリス・ベジャール振付「ギリシャの踊り」を上演します。

本作の上演にあたり、長年プリンシパルをつとめた吉岡美佳(現・東京バレエ団特別団員)が来団し、指導にあたっています。ベジャール作品を熟知する彼女に初演時の思い出や作品の魅力、リハーサルの手応えを語ってもらいました。ぜひご一読ください。


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政本絵美(写真左・ハサピコ パ・ド・ドゥ)を指導する吉岡美佳(写真右)


──吉岡さんは2003年の東京バレエ団初演から『ギリシャの踊り』に出演されていましたね。当初、この作品にどんな印象を抱いていらっしゃいましたか。

吉岡美佳 『ギリシャの踊り』に初めて触れたのは、20世紀バレエ団のミシェル・ガスカールさんがソロを踊っている映像でした。とても手の長い素敵なダンサーですが、その踊りに引き込まれ、なんて素敵な作品なんだろうと心を奪われたものです。この作品は、ミキス・テオドラキスの音楽に"一目惚れ"したというベジャールさんが、ガスカールさんを中心に据えて振付けたバレエですが、ガスカールさんに最初にこの音楽を聴かせた時、二人で顔を合わせて無言でうなずき合ったと聞いています。


──吉岡さんが踊られていたパートは?

吉岡 『ギリシャの踊り』には男女のパ・ド・ドゥの場面が二つありますが、私は当初、6番目に登場するハサピコ──私たちはヴァルナと呼んでいる場面のパ・ド・ドゥに配役されていました。その後リハーサルにいらしたガスカールさんが、「ミカは"裸足のパ・ド・ドゥ"(ヴァルナの一つ前に出てくるパ・ド・ドゥ)が似合うのではないか」とおっしゃって、電話でベジャールさんの了承を得られたのです。それで急遽、初日は"裸足"、2日目にヴァルナを踊ることになりました。"裸足"は音楽も振付もとても可愛らしくて素敵で、キャスティングされる前からいいなと思っていたので、とても嬉しかった! それからずっと、『ギリシャの踊り』を上演するたびに、私は2つのパ・ド・ドゥを日替わりで踊っていました。


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裸足のパ・ド・ドゥのリハーサルより、写真左から沖香菜子、秋山瑛、大塚卓


──対照的な雰囲気の二つのパ・ド・ドゥは、どちらも独特の魅力があります。

吉岡 "裸足"のパ・ド・ドゥは、可愛らしい、若い男女が戯れているような踊りです。対するヴァルナのパ・ド・ドゥの女性は、こう、つんとすましてタバコを燻らしているような大人の雰囲気。昨年上演した『M』でも、『ギリシャの踊り』とは性格が異なるけれど、白い衣裳の"海上の月"と黒い衣裳の"女"という対照的な二人の女性が登場します。ベジャールさんの作品にはこうして正反対のキャラクターの女性が出てくることが多いですね。


──幕が開いたその瞬間から、まるでギリシャの砂浜がそこに広がっているかのような感覚になります。

吉岡 例えば群舞のシーン──。地面に手をついて、ふっと離す場面があります。太陽の下の熱い砂浜に手をついたときのイメージです。それから、手を広げて天を仰ぐのは、太陽の光を全身で受け止めるような感じを想像して、と指導していただきました。ただしベジャールさんは、"ギリシャの踊り"だからといってギリシャ特有のパを羅列するようなことは決してしない。それに、その土地その土地の踊りといえば伝統的な衣裳を着るのが常だけれど、そういったものは一切なし、レオタードにタイツと、衣裳は極めてシンプルです。こうした簡素化によって、より音楽、踊りが際立つというわけなんです。男性たちの筋肉の美しさ、若々しさもぐんと際立ちます。男性同士のパ・ド・ドゥなんて、力強いだけでなく、粋というかお洒落というか、なんとも言えない雰囲気です!


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ソロを踊る樋口祐輝(写真左)、柄本弾(写真右)


──あらためて、この作品の魅力はどんなところにあると思いますか。

吉岡 全員の群舞があって、娘たちの踊りがあって、男性同士のパ・ド・ドゥ、男性のソロ、2つの男女のパ・ド・ドゥ──と、いろんな踊りが登場し、それぞれに違った色を見せてくれる。東京バレエ団のダンサーたちの魅力を見ていただくのにぴったりの作品ではないでしょうか。ダンサーの配置やフォーメーションも本当に素晴らしく、そんなところにもベジャールさんの凄さを感じるのです。
ベジャールさんのバレエはどの作品もとても音楽的ですが、とりわけこの作品は、ベジャールさんがテオドラキスの音楽に惚れ込んで創作したものですから、ダンサーたちも音楽に身を委ね、パを正確に踊ることで、自然に作品の中に入り込んで、作品の一部になれると思うんです。


──全国ツアーに向けて、リハーサルは順調に進んでいるようですね。

吉岡 世代交代が進み、ベジャール作品の経験が少ないダンサーが大多数に。彼らにベジャール作品を伝える難しさを感じることもありますが、ガスカールさんに指導していただいたことをなるべく多く、皆に伝えたいと思って取り組んでいます。
先に予定されていたBBL(モーリス・ベジャール・バレエ団)の日本公演がコロナ禍で延期になり、今回のツアーは、全国の皆さんにベジャール作品を観ていただく貴重な機会となります。ベジャールさんが亡くなってもう14年。『ギリシャの踊り』は38年前の作品ながら、決して古めかしくなく、まるでつい最近に創られたかのような新しさがある。数あるベジャール作品の中でもとくに、爽やかで清々しい作品です。暗い話題の多い時期だけに、一人でも多くの方々にご覧いただいて、皆さんに明るい気持ちになっていただけたらと思っています。


取材・文:加藤智子(フリーライター)


>>>公演の詳細はコチラ

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