11月6日、7日に世界初演をむかえる金森穣振付「かぐや姫」第1幕では、ベジャール振付「中国の不思議な役人」、キリアン振付「ドリーム・タイム」の2作品を併演するという非常に充実したプログラムが組まれています。
上演作品のうち、「ドリーム・タイム」に出演する沖香菜子のインタビューをお贈りします。ぜひご一読ください!
ポイントは呼吸と流れるような動き
Q 「ドリーム・タイム」は2015年に初めて挑戦しています。
沖 私にとって初めてのキリアン作品でした。そのとき私は第3キャストだったので振付指導の方にみていただける機会が少なく、実際に舞台で踊れるのか確証がないままリハーサルに参加していました。ただ、その数少ない機会にちゃんとできていたら、舞台で踊らせてもらえるかもしれない! と思い、当時のメンバー5名(岸本夏未、金子仁美、岡崎隼也、吉田蓮)、一致団結してリハーサルをしていました。結果は無事に舞台を踏むことができましたし、2019年のスカラ座の公演でも、5名中4名は同じメンバーで踊ることができました。
Q この作品の特徴はどのようなところにあるのでしょうか。
沖 踊る側としては、呼吸と流れるような動き、と言えるでしょうか。特に出だしは本当に大切です。作品の冒頭、女性3人で呼吸をあわせ、無音の中で踊る場面からはじまります。この無音の時間は結構長いし、広い劇場で、3名の呼吸だけを聞き分けて踊るというのはなかなか他の作品ではないですね(笑)。動きの強弱がはっきりしている作品なので、身体のコアの部分は強く、上半身はやわらかく、という点を意識しながら、流れるように動いていかなければなりません。男性と組む場面も多いので、息をあわせてお互いの力を頼りながら、流れに身を任せることも重要です。
2019年 ミラノ・スカラ座公演より
誰か1人でも欠けたら成立しない作品
Q キリアン作品では「小さな死」も踊っていますが、同じ振付家の作品で違いはありますか。
沖 大きな違いは「小さな死」は裸足で、「ドリーム・タイム」はバレエシューズを履いて踊ることです。床の感じ方も違いますし、「小さな死」の方が踏み込める動きが多い気がします。また、「小さな死」では剣やトルソーといった小道具が出てきます。私の踊ったパートは、男性と剣と3人で踊っているような感覚でした。
「ドリーム・タイム」は友佳理さん(斎藤友佳理/東京バレエ団芸術監督)やエルケ・シェパーズさんに指導していただいていますが(シェパーズ氏は映像で指導)、以前友佳理さんに言われた言葉で「5人のうち、誰か1人でも怪我や体調不良で欠けてしまったら作品が成立しなくなる」と言われたことが強く印象に残っています。代役をたてることが難しく、その意味でも特別な作品です。
キリアン振付「小さな死」 2018年の公演より
Q 音楽は武満徹さんですね。2019年に勅使川原三郎さんの「雲のなごり」でも同じく武満さんの音楽で踊っていますが、音楽についてはどのように感じていますか。
沖 武満さん独特の和音、アクセント、強弱、はどちらの曲にも共通していると思います。「ドリーム・タイム」については、「雲のなごり」よりもメロディのラインがくっきりしている曲なのですが、もしかしたらそれは何度もこのバレエを踊り込み、曲を繰り返し聴いてきたからこそ、メロディを感じ取れるようになったという私自身の経験値にもよるものかもしれません。特に男性2人と踊るパ・ド・トロワの場面では3名で呼吸をあわせることが非常に重要で、リハーサルを重ねる中で振付と音楽が共有できたとき、やっと形になったような手応えを感じました。
Q 初挑戦から6年たちましたが、今回のリハーサルを通して新たに気がついたことはありますか。
沖 言葉で語るのはとても難しいのですが......この作品はどのような解釈もできるんです。例えば女性の想像の世界とも、見方によっては男女の関係とも、人生の流れの移り変わりとも、お客様の数だけ解釈が成立する作品。踊っている私たちにとっても毎回感じるものが違います。明確な言葉にできない、感覚を共有しているとでも言えばよいのでしょうか。みんなで動きを揃えて踊る場面でも、他の作品のように「今日は揃っていた」というものではなく、その時々に感じるリズム、空気感をお互いに感じているように思いますし、毎回新鮮な発見をもたらしてくれる作品です。
「ドリーム・タイム」から学んだことは
Q そんな"新鮮"な作品ですが、沖さんのキャリアにとってはどのような作品だと感じていますか。
沖 2015年に初めて踊ったとき、私はまだ入団5年めで、クラシックとベジャール作品以外はあまり踊ったことがありませんでした。キリアンの作品を2つしか経験していない私が言うのもなんですが、「ドリーム・タイム」をとおしてこれまで知らなかった身体の動きを学べたことはとても大きな財産です。例えば「この動きのときは力を抜こう!」と意識していると、力を抜くという行為に力が入ってしまって、結果かたい動きから脱することができなくなってしまいます。「ドリーム・タイム」を踊ることで素直に力を抜く感覚がつかめたことは他の作品を踊るときにも大いに役立っています。
Q そんな思い入れのある「ドリーム・タイム」。改めて来場を予定されているお客様に作品の魅力を伝えると?
沖 どのバレエでもそうなのですが、劇場でセット、照明、衣裳がそろったとき、初めて作品が完成します。ですが、「ドリーム・タイム」の放つ雰囲気は決っして他にはないもので、独特の美しさを秘め、まるで劇場全体が異空間にかわってしまうような感覚すら受けます。作品の空気感というのは映像ではけして味わえないものですから、皆さまにはぜひ劇場で「かぐや姫」、「中国の不思議な役人」、そして「ドリーム・タイム」、それぞれの世界観を体験していただけたらと思っています。
ボリショイ劇場の前で。柄本弾、秋山瑛、宮川新大審査委員を務...
今週金曜日から後半の公演が始まる「ロミオとジュリエット」は、...
新緑がまぶしい連休明け、東京バレエ団では5月24日から開演す...
あと1週間ほどで、創立60周年記念シリーズの第二弾、新制作『...
2023年10月20日(金)〜22日(日)、ついに世界初演を...
全幕世界初演までいよいよ2週間を切った「かぐや姫」。10月...
バレエ好きにとっての夏の風物詩。今年も8月21日(月)〜27...
見どころが凝縮され、子どもたちが楽しめるバレエ作品として人気...
7月9日、ハンブルク・バレエ団による、第48回〈ニジンスキー...
7月22日最終公演のカーテンコール オ...