──昨年3月、東京バレエ団ソリストとしての活動が高く評価され、令和元年度香川県文化芸術新人賞を受賞されていますが、東京バレエ団の公演で地元高松で踊るのは今回が初めてだそうですね。
政本絵美 2009年に入団して以来、バレエ団の公演として香川で踊るのはこれが初めてです。とても嬉しく思っています。
──高松公演の会場はレクザムホールです。どんな思い出がありますか。
政本 通っていた教室では、2年に一度全幕バレエを上演していて、その会場がレクザムホールの大ホールでした。出演できるのは選ばれた人だけでしたから、この舞台が夢、でした。初出演は中学1年生の時で、演目は『ジゼル』でした。主演は東京からいらしたプロのダンサーで、ジゼル役は小学生の頃から特別講師としてたびたび指導してくださっていた方。アルブレヒト役の方も同じバレエ団で活躍されていたスターでしたが、リハーサルでマントをふわーっとさせた時、すごくいい香りがしたんです(笑)! 当時は男性のダンサーと接する機会はほとんどなかったうえに、本物の美しい王子さまが来た! プロってやっぱりすごい!と感動。この体験はとても大きなものでした。
──プロになることを意識し始めたのはその頃でしたか。
政本 私はグラン・パ・ド・ドゥを踊らせてもらうようになったのが少し遅く、高校1年生の時に『白鳥の湖』の黒鳥のパ・ド・ドゥに取り組んだのが最初でした。この時、先にジゼルを踊ってくださった特別講師の先生に指導していただいたのですが、「私、初めてですよ?」と不安な私を、まさに手取り足取りで教えてくださって、結果、本番で先生ご自身に「ブラボー」と言ってもらうことができた! これは忘れられません。本当に大切な思い出です。この経験があって、プロになりたいなと思うようになりました。
──地元で見たバレエ公演で印象的だった舞台は?
政本 海外のバレエ団もたびたびツアーで来ていましたが、実は、東京バレエ団の『ジゼル』を観ているんです。主役は友佳理さん(現芸術監督の斎藤友佳理)でした。中学生の私にとって、あの狂乱のシーンは真に迫りすぎて観ていられなかったほど。コール・ド・バレエがすごかったということもはっきり覚えています。
──『くるみ割り人形』の思い出は?
政本 高校2年生の時に参加した全幕の公演が『くるみ割り人形』でした。雪の女王という役と、花のワルツを踊っています。さらに、怪我をしてしまった人の代役で後半の各国の踊りの一つ、アラビアも練習をしていました。結局本番では実現しませんでしたが。
──今回の高松公演で演じるのは?
政本 第1幕ではマーシャの母を演じます。一瞬ですが夫婦で踊る場面があり、サラバンドというしっとりとした踊りのスタイルが特徴的です。ぜひ注目してみてください。
そして第2幕はなんと、高校生の時に実現できなかったアラビアです! パートナーはブラウリオ・アルバレスさんですが、彼はこの踊りの振付者で、単調になりがちなこの踊りを、コール・ド付きの変化に富んだ振付にしています。ソリストの二人がずっと組んで踊っているのも特徴的。アラビアのアラベスク模様のように、二人で1つになって美しい形をつくることをイメージしています。
「くるみ割り人形」より、アラビアを踊る政本。相手役はブラウリオ・アルバレス
──東京バレエ団の舞台は、ロシアで制作した美しい装置も評判です。
政本 このヴァージョンでは、クリスマスツリーの中をマーシャと王子が旅をしていくという独創的なアイデアが活きていて、第2幕の各国の踊りの場面の装置もとてもきれいですよ。
今回のツアーはオーケストラも一緒に行きます。『くるみ割り人形』はチャイコフスキーの音楽が本当に素晴らしく、私も大好き。ぜひこの機会に生演奏での全幕の舞台を楽しんでいただきたいと思っています。せっかくの機会ですから、香川だけでなく、高知、愛媛、徳島の皆さまも、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。
──ところで、政本さんが地元の好きなところってどんなところですか?
政本 地元の方言が、ほんわかしていてすごく好きです。普段はあまり使っていませんが、どうしても地元の言葉でなければニュアンスが伝わらないなと思うことがあるんですよね。特に「むつごい」というのは「味が濃い」や「脂っこい」というニュアンス。他にも、「お茶をこぼした」というのを「お茶をまいた」と言ったり、何かが「転がった」というのを「まるぐ」って言ったり! 地元に帰ったらきっと方言がたくさん出てくると思います。
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