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レポート2022/04/05

〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉公演レポート

去る3月13日に東京文化会館で開催したTHE TOKYO BALLET Choreographic Project〉。このたび、本プロジェクトを初回から取材していただいている加藤智子さん(フリーライター)に本番の様子をレポートしていただきました。ぜひご一読ください!

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カーテンコールより


313日、東京文化会館にて〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉公演が開催された。ダンサーたちが仲間とともに作品を創り、発表する機会を設けるべく、2017年にスタートした本プロジェクト。今年もそのハイライトともいえる作品上演の場で、6人の振付者が作品を発表した。

冒頭、ステージで挨拶した斎藤友佳理芸術監督は、本プロジェクトの趣旨についてあらためて説明、「常に受け身の存在であるダンサーたちが自ら作品を創ることによって、振付者、ダンサー双方の感性、想像力、表現力を刺激し合い、成長していってほしい」と思いを明かした。当初は東京バレエ団の稽古場で〈スタジオ・パフォーマンス〉として開催する計画だったが、今年に入って日時を変更、シュツットガルト・バレエ団日本公演(昨年末に中止が発表された)のために確保していた東京文化会館大ホールで、密を避けて開催することに。このステージでの上演については、「戸惑いもあったけれど、これはまたとないチャンス。いまダンサーたちは、この舞台で踊れることに胸を弾ませている」と斎藤。スタジオに観客を迎え入れての上演と、東京文化会館、それも大ホールでの上演では、スケール感も雰囲気も全く異なる。振付プランを変更した振付者もいた。それぞれに期待や不安を抱えながらのクリエーションとなっただろう。

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ゲネプロ中のブラウリオ・アルバレス photo JPD 

全7作品による本公演。その幕を切ったのは、プロジェクトのスタート時から多くのダンサーたちを巻き込み、数々の作品を発表してきた岡崎隼也の『somewhere but not here.』だ。レディオヘッドが2000年にリリースした楽曲、「キッドA」に想を得て振付けた2組の男女(工桃子、富田翔子、鳥海創、昂師吏功)のための小品は、当初、スタジオでの上演のためのパ・ド・ドゥとして構想を練っていた。終演後のトークで明かしたのは、「小さなスペースに集中してもらえるよう、テレビの中で起こっていることを観るような作品に」という見せ方のアイデア。舞台スタッフの力を借りながら、楽曲のメッセージに寄り添ったユニークな世界を打ち出した。

続く井福俊太郎の『After Show』は、舞台の本番を終えたダンサーの、日常の思い、葛藤を作品に。井福自身と玉川貴博、中沢恵理子のダンスに加え、蝶ネクタイ着用で登場の中嶋智哉が、ピアノの鍵盤を叩き、高笑い。不安や焦りの入り混じった、表現者の複雑な胸の内を形にしたような作品だが、井福は「ダンサーにとって、一つの舞台が終わり、次にまた始まるまでの時間というものが、とても貴重で大切だということを再認識しながら創りました」と創作時を振り返った。

バレエ・スタッフの木村和夫は、バレエ・リュスの名作をもとに創作した『バラの精』を上演。バラの香に導かれて夢に落ちる男性(池本祥真)が、女性たち(加藤くるみ、足立真里亜、平木菜子、中島映理子)に囲まれて楽しく過ごすひとときを描く。ステージで上演するのはこれが3作目という木村。アフタートークでは、「音楽と踊りで見せる純粋に楽しんでいただきたいという思いで創った。もう10歳若ければ僕自身が踊りたいくらい」と笑顔を見せた。

二度目の参加となる安井悠馬の作品は、15人の男性ダンサーによる独特の群舞が目を引く『嚇灼』。パワフルな男性の群舞の中で、妖精を思わせる丈の長いチュチュをまとった秋山瑛のいたいけな姿が際立つ。終演後、安井は「例年のこのプロジェクトでもあまり活躍の場がなかったコール・ド男子たちの魅力を引き出し、まとめ上げたいと思った。当初は"怒り"をテーマにしていたけれど、次第に

"怒り"の感情は消えて、男性ダンサーたちの迫力そのものを打ち出せた」と語った。

休憩を挟んでのプログラム後半のスタートは、岡崎隼也の2作目。どう読ませるのかと不思議に思われた『【   】』はつまり、「タイトル未定」という意味合いを含む。音楽はラヴェルの『ボレロ』に、新たに音を重ねてアレンジした独特のサウンド。吊り下げられた5つのランタンの灯りのもとで、柄本弾、伝田陽美、秋山瑛、池本祥真と岡崎の5人によるダンスが、ソロ、デュエットと形を変えながらクライマックスへと突き進む。「光のエネルギー、自分の身体の力を前面に出せる作品を創れたらと取り組んだ」という岡崎だが、これまで彼が創作を重ねて培ってきた多彩な動きが詰まった力作に。カーテンコールでは、岡崎がおどけた雰囲気で深く、深く頭を下げ、ダンサーたちに感謝の意を伝える様子が微笑ましかった。

続く金子仁美は一昨年に続いて2回目の参加、作曲家・清塚信也がTVドラマのために書いた楽曲に振付けた男女のパ・ド・ドゥ『The sun rises』を発表。産科医療の現場を描いたこのドラマ「コウノドリ」を、登場人物と同じ苦しみを持つ身内がいたことで見るようになったという金子だが、「この音楽を毎日、毎日、繰り返し聴いて、いつの日か頭の中に男女のパ・ド・ドゥができていった」という。音楽の美しさを素直に捉えた振付が爽やか。工桃子、樋口祐輝が踊った幸せそうな若い男女が、それぞれに不安、悩みを抱えながらも、進むべき道を見つけて寄り添っていくというストーリーを、温かみあるパ・ド・ドゥに仕立てた。

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ゲネプロ中の金子仁美

最後を飾ったのは、岡崎とともに初回から作品を発表し続け、本プロジェクトの中心人物の一人となっているブラウリオ・アルバレス。マーラーの交響曲第2番「復活」第4楽章と第5楽章の前半に振付けた「Urlicht(原光)」。前半は愛し合う男女のパ・ド・ドゥ(瓜生遥花、岡﨑司)、後半は女性の死から復活へ──。光に満ちた世界と、強烈なオーラを発する未知の存在(伝田陽美)を、ダイナミックな振付で描き出す。この音楽にすっかり魅了されたアルバレス。アフタートークで「今回は『復活』を完成させることができませんでしたが、いずれは全楽章を振付けたい」と意気込むと、会場から大きな拍手が沸き起こった。

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 終演後のアフタートーク

その後のアフタートークでは、緊張気味の金子が司会を担当。その朗らかな声に促され、皆口々に作品に込めた思いや創作への情熱、今後の展望などを語り合った。今回は、創作の仕上げの時期と、金森穣氏による『かぐや姫』第2幕のクリエーションが重なり、金森氏から助言をもらったエピソードも飛び出した。「振付家の心得とか覚悟についてお話しいただいたが、僕にはそういうものが足りないようにも感じた。作品を上演できて嬉しいけれど、手放しには喜べない。もっと一本筋の通ったものを目指さなければ」と話したのは木村和夫。日本を代表する振付家の一人、金森氏からの激励はとても貴重、大きな刺激となったはず。彼らの次回作に、大いに期待したい。なお、観客の投票による「観客賞」に、岡崎隼也の『【   】』が選ばれた。

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観客賞に選ばれた岡崎隼也振付『【   】』

取材・文:加藤智子(フリーライター)


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