レポート2022/05/18
【現地レポート】上野の森バレエホリデイ2022
4月29日から5月1日、〈上野の森バレエホリデイ〉が三年ぶりにリアルで開催されました。東京バレエ団のダンサーたちは、クランコ版「ロミオとジュリエット」バレエ団初演に取り組むとともにさまざまなイベントに参加、3日間の〈ホリデイ〉を大いに盛り上げました。
Photo:Mizuho Hasegawa
コロナ禍の中で初めて迎えた行動制限のないゴールデンウィーク、その初日となった4月29日は、あいにくのお天気。寒空のもとでのスタートとなった〈ホリデイ〉でしたが、会場となった東京文化会館には、大ホールホワイエのバレエマルシェや小ホールホワイエの手作りワークショップなどに多くの人たちが集う、おなじみの風景が戻ってきました。
Photo:Mizuho Hasegawa
多彩なトークやパフォーマンスのプログラムが組まれた小ホールのイベントは、恒例のはじめてのバレエ・レッスンからスタート。正午すぎからは8バレエ団ダンサーズトーク&取材映像上映会が開催されました。井上バレエ団、小林紀子バレエ・シアター、貞松・浜田バレエ団、スターダンサーズ・バレエ団、東京シティ・バレエ団、東京バレエ団、法村友井バレエ団、牧阿佐美バレヱ団のダンサーたち8名が登場し、各バレエ団のスタジオで事前取材された映像とともにトークを展開するというレアな企画です。東京バレエ団からはプリンシパルの上野水香が参加。斎藤友佳理芸術監督、プリンシパルをはじめとするダンサーたちが自分たちのバレエ団の特色についてコメントする取材映像とともにトークを展開、ベジャール作品をはじめとする多彩なレパートリー、国内外での公演回数の多さなど、東京バレエ団の魅力を紹介しました。終盤では、ダンサーからダンサーへの質問も飛び出し、カンパニーの枠を超えた楽しい交流の場に。
写真左から荒井成也さん(井上バレエ団)、植田穂乃香さん(東京シティ・バレエ団)、塩谷綾菜さん(スターダンサーズ・バレエ団)、上野水香(東京バレエ団)、真野琴絵さん(小林紀子バレエ・シアター)、上山榛名さん(貞松・浜田バレエ団)、法村圭緒さん(法村友井バレエ団)、水井駿介さん(牧阿佐美バレヱ団)。
Photo:バレエチャンネル
屋外特設ステージでもさまざまな催しが登場。初日はOSK日本歌劇団の団員による「ラインダンス」体験レッスン、東京シティ・バレエ団のダンサーたちがモデルを務めるバレリーナを描こうが行われました。OSK団員の皆さんはその後小ホールに登場し華やかな歌と踊りを披露、客席はたくさんの明るい笑顔と手拍子に包まれました。
バレリーナを描こう
Photo:Mizuho Hasegawa
大ホールで連日開催された東京バレエ団公演「ロミオとジュリエット」も、初日の沖香菜子、柄本弾を皮切りに、2日目の足立真里亜、秋元康臣、3日目の秋山 瑛、池本祥真の3組の主役カップルが、見事にクランコのドラマの世界を踊り切り、喝采を浴びていました。
お天気に恵まれて過ごしやすい日となった2日目。小ホールのイベントは、はじめてクラシック〜バレエ音楽の誘い〜で開始。木管五重奏によるバレエ音楽とダンサーの踊りで、小さな子供たちがバレエ音楽を体感しました。また大ホールでは東京バレエ団恒例の公開レッスンを実施。午後の「ロミオとジュリエット」公演にのぞむダンサーたちのレッスンを、多くのお客さまが客席から見学しました。
公開レッスン
Photo:Mizuho Hasegawa
午後の小ホールは「ロミオとジュリエット」名版ダンサー・クロストークでスタート。マクミラン「ロミオとジュリエット」主演ダンサーである元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパルの佐久間奈緒さん、厚地康雄さんが登場し、前日にクランコ版「ロミオとジュリエット」バレエ団初演でロミオ役を踊ったばかりの東京バレエ団プリンシパル、柄本弾とともに、「ロミジュリ」の各ヴァージョンの魅力や特色、感動する場面などを、舞台映像を交えながら語り合いました。イベント終了直後には多くの来場者が大ホールへと直行。3人のトークでより深く、より感動的な「ロミオとジュリエット」を体感されたのではないでしょうか。
その頃小ホールで開催された【スペシャル・コラボイベント】TVアニメ「ダンス・ダンス・ダンスール」声優トーク×ダンス&クリエーション2022では、「ダンス・ダンス・ダンスール」村尾潤平役の山下大輝さん、同じく森流鶯役の内山昂輝さんが登場。オープニングのトークの後、ダンス&クリエーションへ突入、山下さん、内山さんとともにダンサーたちのオリジナル作品を鑑賞、その後のアフタートークでは、バレエの魅力について二人か感じたことを語り合っていました。さらに後半では村尾潤平のモーションアクターをつとめた井福俊太郎も登場、ダブル潤平でのトークが実現し、会場を湧かせました。
写真左から村尾潤平役の山下大輝さん、井福俊太郎、森流鶯役の内山昂輝さん
Photo:Shoko Matsuhashi
再び雨が降り出した5月1日。〈上野の森バレエホリデイ 2022〉最終日も、多彩なイベントが目白押し。小ホールでは午前中からバレエウェア・コレクションで盛り上がりを見せました。大ホールでは2日目と同様東京バレエ団による公開レッスンを実施、「ロミオとジュリエット」3日目の公演への期待を胸に、多くのお客さまがダンサーたちのレッスンに見入っていました。
そして午後、さらに盛り上がりを見せたのが、小ホールでの【ダンスマガジンプレゼンツ】クロストーク 上野水香×町田樹。フィギュアスケート日本代表として活躍した町田さんと上野のトークは、2020年、2021年と二年続けてオンラインで実施されましたが、ここでついにリアルで実現! 客席は開演前からワクワク感と熱気に包まれていました。登場するやいなや、上野に大きな花束を差し出し、芸術選奨文部科学大臣賞受賞のお祝いの言葉を述べた町田さん。会場はパッと明るいムードに包まれ、その後も町田さんのリードで、表現のこと、伝えること、作品理解について、さらには未来のことについてなど、さまざまな話題が飛び出しました。自分の身体ではなく、他者に振付けて表現することに取り組んでいる町田さんですが、いまもバレエのレッスンに真剣に向き合っているという彼に、上野が「今度はバレエの舞台に挑戦を」とすすめて会場を湧かせる場面も!
写真左から町田樹さん、上野水香
Photo:Mizuho Hasegawa
この日も多くのお客さまが東京バレエ団のクランコ版「ロミオとジュリエット」を楽しまれていましたが、バレエ公演終了後は、多くの方が舞台の感動の余韻そのままに、小ホールでのダンス&クリエーション2022に向かいました。
ダンサーたちが創作したオリジナル作品を上演するこの企画は、2017年の〈バレエホリデイ〉スタート時から実施されてきましたが、小ホールの舞台での単独公演は初めての試み。どんな作品との出会いがあるか、期待が高まる中での開演となりました。
トップバッターは、東京シティ・バレエ団 草間華奈さん振付の「蓮華─renge─」。ヨハン・セバスティアン・バッハの無伴奏チェロ組曲の調べとともに繰り広げられる、男女6人による、しっとりとした、音楽性あふれる作品でした。
続く2作品目からは、東京バレエ団のダンサーたちの作品が続きます。
ブラウリオ・アルバレスは、アグスティン・ララの曲で前川琴音と山仁尚に振付けた初々しいデュエット「Farolito」を披露。バレエ・スタッフの木村和夫は、2017年の〈バレエホリデイ〉で発表した「Humming Bird」を上演。当初から若いダンサーたちが踊り継いできたデュエットですが、今回も研究生の池内絢音と岸本花がみずみずしい踊りで魅せました。
「Humming Bird」
Photo:Shoko Matsuhashi
金子仁美はモーツァルトのトルコ行進曲に振付けた、女性3人のコミカルで可愛らしい作品「Daydream」を上演。ショーウインドウから飛び出した美しいマネキンに扮する加藤くるみ、髙浦由美子、上田実歩の3人によるキャッチーな人形振りが魅力的。
「Daydream」
Photo:Shoko Matsuhashi
岡崎隼也は3月の〈THE TOKYO BALLET Choreographic Project〉で発表した、レディオヘッドの音楽による「somewhere but not here.」を、新たに映像付きで上演。舞台上で踊られるのは工桃子と富田翔子のデュエットですが、やがて映像の中の二人の男性ダンサーたちのダンスと交わり、えもいわれぬ独特の世界観を打ち出します。
ブラウリオ・アルバレスはもう1作、「風薫る」を上演。長谷川琴音、鈴木香厘、居川愛梨がヨハン・セバスティアン・バッハのフルートと通奏低音のためのソナタにのせて展開する小品は、ヒマワリ、ツバキ、ブーゲンビリアの花をイメージして振付けたというチャーミングな踊り。
「風薫る」
Photo:Shoko Matsuhashi
最後の作品は、岡崎隼也の「Connect」。2017年の〈バレエホリデイ〉屋外特設ステージで上演された作品「Scramble」の続編として、振付を大幅に改訂して上演、自身の振付の強みをより明確に打ち出して、会場全体を楽しませました。
「Scramble」
Photo:Shoko Matsuhashi
こうして〈上野の森バレエホリデイ 2022〉はフィナーレへ! 多くのお客さまが、東京バレエ団をはじめとするダンサーたち、他ジャンルのアーティストたちによる多彩なイベントを存分に楽しんだ3日間となりました!
取材・文:加藤智子(フリーライター)