2022/10/05
「ラ・バヤデール」ブロンズ像キャスト鼎談(池本祥真、井福俊太郎、生方隆之介)
開幕が迫る東京バレエ団マカロワ版「ラ・バヤデール」。その中で2分強という短い時間ながら大きなインパクトを与えるブロンズ像。注目されている方も多いのではないでしょうか? 今回はブロンズ像を演じる3キャストの鼎談をお届けいたします!
左から:井福 俊太郎、池本 祥真、生方 隆之介
──池本さん、井福さんのお二人はすでにブロンズ像を踊ったことがあるそうですね。
池本祥真 入団前に別のカンパニーで経験していましたが、東京バレエ団のマカロワ版は2018年のオマーン公演で踊ったのが初めてでした。
井福俊太郎 僕もオマーンで初めて踊りました。会場がすごく盛り上がっていたのをよく覚えています。現地のお客さまは『ラ・バヤデール』を初めてご覧になったそうで、全身金色で登場しただけで客席から大きな反応が! あの衣裳に助けられました(笑)。今回は実力でお客さまから拍手をもらいたいです。
生方隆之介 僕は今回が初めての挑戦、初めての役なので不安を抱えつつです──。とても長いヴァリエーションですし、手の形をはじめ、絶対に崩せない決まりごとが多い。『ドン・キホーテ』のバジルとか『コッペリア』のフランツのような人間らしさがない点も独特だし、長いだけに、ペース配分を考えなければ途中で崩壊してしまう。リハーサルに取り組む中で、いろいろとわかってきました。
今年4月にクランコ版『ロミオとジュリエット』のマキューシオを踊らせてもらったのですが、たとえば最初にいきなりジャンプがあるとか、一旦はけることはあっても相当長い間踊り続けながら、見せ場となるテクニックも盛り込まれている。本当に難しいなと感じながら取り組みました。でも、その経験があったからこそ、今回の役柄も乗り切ることができるのではと思っているところです。
──今回はアメリカン・バレエ・シアターのスターとして活躍したフリオ・ボッカさんが指導にいらっしゃいましたが、リハーサルの雰囲気はいかがでしたか。
池本 海外から振付指導の方に来ていただく機会はたびたびありますが、皆さん、その「作品」のことを指導するためにいらしているので、僕ら個々のダンサーたちのテクニックについて踏み込んで指導していただくチャンスはなかなかありません。でもボッカさんはテクニックについてより具体的なアドバイスをくださることが多かったですよね。
生方 それがしっくりこなければ自分たちのやり方を探せばいい、とも。ダンサーの気持ちに寄り添ってくれるので、とても嬉しく思いました。僕の場合ブロンズは全く初めてですから、とにかく、フリオさんのアドバイスに向き合いつつ、先輩方の踊りを見て、自分なりに見つけていこうと、練習を重ねています。
井福 フリオさんはソロルを踊る前にブロンズ像も経験されていたそうで、上体の表現についてはとても細かくアドバイスをいただきました。肩、肘、手首、それから胸。もうちょっとこうすると美しく見えるよ、と。
池本 ロシアで上演されているヴァージョンでは、ブロンズ像はソロルとガムザッティの婚約式の余興の一つとして出てくることが多いと思いますが、マカロワ版では第3幕の冒頭に、神として登場する。そこが難しいところです。
──人間を演じるように自由ではないということでしょうか。
池本 『ドン・キホーテ』のバジルを快活でかっこいい青年として演じたいのなら、そのためのテクニックを入れて見せることを考えます。王子の場合は、気品を醸し出すためにどんなところを強調すべきか考えることもできます。でも、ブロンズ像は形が完全に決まっていて、僕だったらここでもっと脚を上げたほうが見栄えがいいなと思っていたとしても、それはできないんです。
井福 僕たち踊る側にとっては縛りの多い踊りではあるけれど、舞台では、それぞれに違ったものが見えてくるかもしれません。
生方 機械的に踊ってしまうのは違うのかなと思いますが、ロボットではないですから。
──また、全身金色の塗料というユニークな装いには独特の苦労があるのではないかと想像されます。
井福 オマーン公演では女性も男性も肌を見せてはいけなかったので、僕も金色の衣裳を着て踊りました。だから僕は塗料を塗る通常版のブロンズは未経験です。
池本 塗料は手にも塗るので、何も触ることができないし、座ることもできない。気を遣います。水分を取るときは飲み物を固定して手放しでストロー(笑)。バレエ団によって微妙に色味や質感が違っているのも面白く、東京バレエ団は、インテリアの装飾にあるようなブロンズに近いけれど、ロシアはもっと黄色い塗料をベッタリと塗るのが主流かと思います。
ちなみに東京バレエ団の『ラ・バヤデール』の衣裳は、ヨランダ・ソナベントさんのデザインでスカラ座の製作。本当にきれいですよね。
井福 重厚感のある音楽もいいなと思います。音楽が古代インドのあの世界へと皆をいざなってくれる。
生方 2015年にコジョカルとシクリャローフが客演した時に客席で観ていたのですが、第2幕「影の王国」のコール・ド・バレエへの拍手が鳴り止まなくて、僕も感動してずっと拍手していたのを覚えています。コール・ドだけでなくヴァリエーションもそれぞれに素晴らしい。
池本 ロシアで多いのは、「影の王国」で終わるヴァージョン。最後は主役の踊りで大いに盛り上がりますが、マカロワ版は3幕があって、ドラマをしっかり描き出すことで、より感動的な舞台になる。世界中で人気を得ているこのヴァージョンを踊ることができるのはダンサー冥利に尽きるし、僕や俊太郎のように小柄なダンサーにとってこの役は避けては通れない道かなとも。
井福 長い間、踊り注がれてきた役柄を踊ることができるのは本当に光栄なこと。多くのお客さまが歴代の名ダンサーたちの踊りを動画で見てご存じなのは少し恐ろしいけれど(笑)、喜びを噛み締めながら踊りたいです。
池本 これがなくてもストーリーは成立する踊りだからこそ、自分が踊ることで何か意味を持たせることができればと思っています。
(取材・文)加藤智子
東京バレエ団「ラ・バヤデール」
★10月12日(水)
◆10月13日(木)
◇10月14日(金)
◆10月15日(土)
★10月16日(日)
ブロンズキャスト出演日
★・・・池本 祥真 ◇・・・井福 俊太郎 ◆・・・生方 隆之介
最後にブロンズ像の特徴的なポーズで1枚。皆様のご来場をおまちしております!