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レポート2023/03/29

〈Choreographic Project 2023〉上演レポート

東京バレエ団が、コロナ禍で中断していた〈Choreographic Project〉のスタジオ・パフォーマンスを復活させた。「ダンサーたちが自ら創作に取り組むことで、振付者・出演者双方の創造力・表現力を刺激し、アーティストとしてのモチベーションを高めてもらいたい」と斎藤友佳理芸術監督が発案、2017年にスタートした本プロジェクトは、東京バレエ団スタジオでのパフォーマンスから始まり、手作り感あふれる公演が名物に。3年ぶりに実現するスタジオ・パフォーマンスに立ち会いたいと、東京バレエ団友の会クラブ・アッサンブレの会員を中心とした多くの観客が集った。

スタジオに入っていくと、観客を席へと案内するダンサーたちの姿。お馴染みの光景だけれど、さらに今年は開演前のアナウンスの場面でもダンサーたちが登場、携帯電話の電源オフや飲食禁止などの注意事項をユーモアにあふれた動きで伝え、客席は一気に和やかなムードに。これは司会を務めた岡崎隼也の提案だそう。初年度から本プロジェクトに積極的に取り組んできた彼ならではのアイデアだ。

その後最初に上演されたのは、岡崎による『運命より』。岡崎は2020年のスタジオ・パフォーマンスでメリメの「カルメン」を原作とした『運命』抜粋版を発表、いずれ1時間ほどの大きな作品に仕上げたいと考えているが、今回は限られた上演時間でできることを、と前回取り上げなかった場面をコラージュし、ダンサーたちの身体表現、その生き生きとした姿を前面に打ち出すことに注力した。カルメン役の伝田陽美と、ホセ役の柄本弾(3月19日のみ)、また秋山瑛、政本絵美、平木菜子、中沢恵理子、安西くるみ、樋口祐輝、井福俊太郎、岡﨑司、また学者役の鳥海創らダンサーたちが、岡崎の複雑な振付に全力で取り組み、迫力あるパフォーマンスに。全編上演をどのように構想しているのか、興味をそそる。

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「運命より」振付: 岡崎 隼也(photo: Koujiro Yoshikawa)


2番目の作品は、やはり常連として本プロジェクトをリードするブラウリオ・アルバレスの『アツモリ』。平家物語の、若くして戦で命を落とした平敦盛の物語に着想したデュエットだ。アツモリ役の南江祐生、彼が愛用していたという笛・小枝を演じる長谷川琴音が、石井眞木による和の旋律に真摯に向き合い、死後の世界を表現。上演後のトークでアルバレスは、「彼は戦争に関わり、地獄に落ちなければならなかった。それがすごく悲しかった。死についての、これは僕なりの一つの答え」と思い入れたっぷりに語っていた。

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「アツモリ」振付: ブラウリオ・アルバレス (photo: Koujiro Yoshikawa)


3番目の作品は、振付初挑戦の加藤くるみによる『What a Wonderful World』。ルイ・アームストロングの名曲のカヴァー曲に出会い、「この音楽で振付けたい」と出品を決意。振付の過程で、この曲のハッピーな歌詞に込められた意味をしっかりと肌で感じ、「この歌詞のように、毎日幸せと感じられない時もあり、日々悩んだり、考えたりして生きているということをテーマにした」という。加藤のテーマと、生方隆之介、岡﨑 司、加古貴也、前川琴音、鈴木香厘ら若手を中心とした5人のメンバーたちの、ダンサーとして過ごす日々が重なり合って見えたことも魅力に。アフタートークでは「今後も作品を作ってみたい」と、意欲的だ。

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「What a Wonderful World」振付: 加藤 くるみ(photo: Koujiro Yoshikawa)


バレエ・スタッフの木村和夫も毎回作品を出品しているが、今回は男性二人のデュエット作品で挑戦。タイトルは『fruits of wisdom』。「人同士の好きと嫌いの感情は、実は近いものがあったり、憧れの裏返しだったりするけれど、それがパン!と反転したとき、磁石のように結びつく。そんな瞬間を稽古場の中に表現したかった」という言葉通り、品行方正なバレエ・ダンサー役の大塚卓と、やんちゃな雰囲気の樋口祐輝が警戒しながらも、徐々に近づき、ついには響き合う様子を、リアルな演技で表現。通常の公演では見ることのできない、二人の隠れた個性が活きたパフォーマンスに。

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「fruits of wisdom」振付: 木村 和夫(photo: Koujiro Yoshikawa)


続いては、岡崎隼也のもう1つの作品、『cube』。岡崎が好きだというアーティストの新譜と、その楽曲が挿入曲として使われた映画「ノマドランド」にインスパイアされて創作した女性3人の作品。筋書きのない小品ではあるけれど、加藤くるみ、富田翔子、相澤圭の各々のダンスが、力強く、かつ繊細に立ち上がり、演者3人が岡崎の振付を介して自分を表現しようする姿勢が、清々しい印象を残す。

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「cube」振付: 岡崎 隼也(photo: Koujiro Yoshikawa)


最後の作品は、今回も2作品を出品したブラウリオ・アルバレスによる『OMIAI』。日本の文学に興味を持ち、さまざまな作家の小説を読んできたというアルバレスが、谷崎潤一郎「細雪」のお見合いのエピソードをコメディ・タッチにバレエ化した。その根底には、古めかしいお見合いのシステムに対する驚きや、そこに生きる家族のドラマを生き生きと描き出そうとする意欲が透けて見える。秋山瑛演じる次女、彼女のお見合いを取り仕切る"知己の美容師"役の伝田陽美、お見合い相手の裕福な家の息子・大塚卓らのやりとりに、奔放な三女・瓜生遥花が絡む様子が何とも可笑しい。これも全幕としてしっかり作り込んだ舞台で観てみたい作品の一つに。出演はほかに政本絵美、平木菜子、生方隆之介、安村圭太、玉川貴博、鳥海創、山下湧吾。

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「OMIAI」振付: ブラウリオ・アルバレス(photo: Koujiro Yoshikawa)


全6作品の上演のあとは4人の振付者によるアフタートークも実施。それぞれが作品にこめた思いを語るだけなく、観客からの質問にも応じ、ファンにとってはダンサーとの貴重な交流の場に。創作期間中にはハンブルク・バレエ団日本公演で来日していたジョン・ノイマイヤーのアドバイスを受けたというが、2月に上演したキリアン振付『小さな死』で指導を務めた中村恩恵からも貴重な意見をもらい、参加者それぞれにとって意義深い時間となったはず。来年度はダンサー主体のクラウドファンディングも予定されているというが、ますますの発展が期待される本プロジェクトに、これからも注目してきたい。


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3/18(土)終演後 アフタートークの様子(photo: Koujiro Yoshikawa)

(取材・文)加藤智子

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