7/3(土)、7/4(日)の〈HOPE JAPAN 2021〉全国ツアー、東京公演のみで上演するベジャール振付「ロミオとジュリエット」(パ・ド・ドゥ)の上演に先駆け、初演キャストのインタビューを2回にわたって紹介しています。
本日は初演時のジュリエットの一人、栗橋桂子さんのインタビューです。ぜひご一読ください。
──今回、『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥのリハーサルのために久しぶりの来団を果たされたとのこと、稽古場は当時と場所も規模も異なりますが、いろいろと思い出されるのではないでしょうか。
栗橋桂子 懐かしいですね。『ロミオとジュリエット』の上演はもう38年も前のことなので、お声がけをいただいた時には「すっかり忘れていると思うから役には立てないわよ」と言ったくらいです(笑)。当時は『白鳥の湖』のオデットや、『眠れる森の美女』のオーロラ姫などをよく踊っていました。もっと古い時期では『くるみ割り人形』や『シンデレラ』なども思い出されます。
──『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥが上演された1983年の〈ベジャールの夕〉は、東京バレエ団がベジャール作品に本格的に取り組むきっかけとなった公演です。ベジャール率いる20世紀バレエ団はすでに何度か日本公演を行い、ちょうど映画「愛と哀しみのボレロ」でジョルジュ・ドンが注目された時期でもあります。
栗橋 佐々木さん(東京バレエ団創設者の佐々木忠次)はベジャールさんのバレエがとてもお好きで、スタジオで何かとベジャールさんのお話をされていましたね。当時はベジャール人気がどんどん高まっていました。私がまだ中学生の頃の話になりますが、先輩たちが20世紀バレエ団の公演に行くんだと言って盛り上がっていたのをよく覚えています。私は夜の公演には行けなかったので、羨ましく思っていました。
──ベジャールのリハーサルはどのような雰囲気でしたか。
栗橋 家に昔のノートが残っているのですが、同時進行で稽古していた『眠れる森の美女』のことばかり書いてあって、なぜかベジャールさんのリハーサルのことは書かれていないのです。(笑)! まずは『ドン・ジョヴァンニ』のリハーサルから入ったことは覚えています。ベジャールさんは、夜中のうちに次の日のリハーサルの振付の場面をすべて頭の中で完成させた状態でいらっしゃる。翌日にはそれがまた変わっていたり、ダンサーによって微妙に修正が入っていたり──。だから、こちらはすごく緊張するし、神経を使います。踊る人が変わるとニュアンスの違いが出るのだと思いますが、でもそこで「あなたは絶対にこうだ」とはならなかったのです。自由にやらせてくれる部分があったんですね。そんな中でいざ『ロミオとジュリエット』のパートナーが決まると──私は津村正作さんと組んでいたのですが──、まずは二人で基本の振付を練習してつくっていき、それをベジャールさんに見ていただく。常にそんなふうにしてリハーサルが進みました。
──ジュリエットという役柄については、何か指示を受けられましたか。
栗橋 当時はちょうど溝下司朗さんが芸術監督になられた頃だったかと思いますが、キャスティングに関してベジャールさんから、「ジュリエットは可憐さのある人を選びなさい」と言われていたそうです。溝下さんには「可憐さ......、大丈夫だよね!?」って言われましたが(笑)、ベジャールさんのリハーサルでその点が問題になったことはなかったし、そうでない人は選ばなかったはずなので、あえて作り込むことはせず、自然に演じることを心がけていました。
──ベジャールの振付に戸惑うようなことは──?
栗橋 『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥは、数あるベジャール作品の中でも、よりクラシックの要素が強い作品です。東京バレエ団はその後、『春の祭典』や『火の鳥』などにも取り組んでいますが、こうした独特の、強烈な個性を放つ作品と比べると、とくに違和感もなく取り組むことができたと思います。
──ベジャールの『ロミオとジュリエット』の魅力について教えてください。
栗橋 一般的な『ロミオとジュリエット』とは趣が違いますね。二つの対立する家の争いが背景にありますが、そこには、ベジャールさんがそれまでの人生で体験されたこと──戦争の体験が、反映されているのだと思うのです。ベジャールさんのバレエには、優れたダンサーの美しい部分を見せるようなバレエと違って、人生の表も裏も織り込まれている。そういった深い部分があるからこそ、素晴らしいのだと思います。
──久しぶりの復活上演についてはどう思われますか。
栗橋 それはもう嬉しいです! 作品というものは財産ですから、ぜひ繋げていってもらいたいと思います。ベジャールさんの作品は偉大で、苦難を乗り越えるエネルギーにあふれています。現代にも乗り越えなければならないいろいろな問題がありますが、そこに響く作品ではないかと思うのです。
ダンサーたちの活躍を、とても楽しみにしています。東京バレエ団が他と違うのは、その表現力だと思います。東京バレエ団でなら、表現力のパワーに満ちた、素晴らしい舞台を観ることができると言われるような、スペシャルなバレエ団でいてほしいと思っています。
取材協力:栗橋桂子(元東京バレエ団)
取材・文:加藤智子(フリーライター)
あと1週間ほどで、創立60周年記念シリーズの第二弾、新制作『...
2023年10月20日(金)〜22日(日)、ついに世界初演を...
全幕世界初演までいよいよ2週間を切った「かぐや姫」。10月...
バレエ好きにとっての夏の風物詩。今年も8月21日(月)〜27...
見どころが凝縮され、子どもたちが楽しめるバレエ作品として人気...
7月9日、ハンブルク・バレエ団による、第48回〈ニジンスキー...
7月22日最終公演のカーテンコール オ...
東京バレエ団はオーストラリア・バレエ団の招聘、文化庁文化芸術...
ロマンティック・バレエの名作「...
東京バレエ団が、コロナ禍で中断していた〈Choreograp...