東京バレエ団が6年ぶりに上演する名作「ジゼル」。今回初めて本作に取り組むダンサーも多く、稽古場では斎藤友佳理(東京バレエ団芸術監督)を中心に、連日熱いリハーサルが行われています。本日は作品の要ともいえる2幕のコール・ド・バレエ(群舞)を指導する佐野志織(東京バレエ団バレエミストレス)のインタビューをお送りします。
──東京バレエ団の『ジゼル』上演は6年ぶり。今回初めて『ジゼル』に取り組むダンサーが多いと聞きました。
佐野志織 そうですね。たとえば第2幕のコール・ド・バレエの女性たちは、半数ほどが初参加の若手です。が、彼女たちは『白鳥の湖』を何度も経験し、『ラ・バヤデール』も『ラ・シルフィード』にも取り組んでいますから、皆でどう合わせるか、呼吸をどう感じて踊るかということはよくわかっています。リハーサルで様々なインフォメーションを出すと、では自分たちはこうしようと自ら探究し始めますし、「先輩たちに見てもらう時間をとってもらっています」とも言っていました。頼もしく思います。
とはいえ、表現するものは作品によって異なります。『ラ・シルフィード』のコール・ドも妖精ですが、『ジゼル』の第2幕のウィリはまた全然違う。そこはしっかりリハーサルを重ねていきます。
──ウィリのイメージは、青く透明で、冷たい雰囲気が印象的ですね。
佐野 全体的なイメージはそうですが、今回、芸術監督の斎藤友佳理が『ジゼル』を指導するにあたって求めているもの、同時に、私自身もいろいろ学んで思ったのは、冷たさを強調するというより、そこに女性らしさというものが絶対に欠かせないということです。
私が東京バレエ団で初めて『ジゼル』に取り組んだのは、1996年の復活公演(15年の空白期間ののちに実現した)でしたが、その時の第2幕のコール・ドは、どちらかというと揃えることに重点が置かれ、フォーメーションは"真っ直ぐ"という印象。同時にウィリたちの冷たさが強調される形でもありました。けれど今回、ロシアの資料や映像にあたってみると、整列したウィリたちは"真っ直ぐ"ではなく、斜めに並んでいる。すると必然的に、肩の向きに角度がつき、より女性らしいラインが出てくるのです。
──では、第2幕のコール・ド・バレエの印象は、従来とは少し違ったものになりますか。
佐野 6年前の上演で初めてミストレスとして『ジゼル』に携わった際も、実は、この"真っ直ぐ"に少し抵抗を感じてはいたのです。
ウィリのイメージについて考えると、強くて冷酷で、男性を死ぬまで踊らせるという側面と、結婚前に亡くなった女性が、少女時代の、楽しく踊っていた頃のことが忘れられずに踊り続けているという側面があると思います。だとすると、ウィリたちには女性らしさが絶対に必要で、ただただ男性たちを殺す冷酷な存在であるというのとは違う形になってくるのではないかと。ですから、今度の舞台をご覧いただいて、従来と少し印象が変わったと感じられるかもしれません。
──だからこそ、女性らしいラインを求められているというわけですね。
佐野 ほかにもたとえば、身体を前に傾けて胸の前で両手を重ねる独特のポーズがありますが、あの両手は、自分の純血を守る、胸を隠すという意味があると考えられます。こうした細かい部分も、ちょっとした角度の違いで印象は大きく変わります。
斜めのフォーメーションにすることで、一人ひとりの姿は今まで以上に目立って見えることになるけれど、全員がきれいな佇まいでいられたらとても美しいものになるのではないかなと思っています。音楽の取り方についても今まで以上に敏感になるように、と指導しています。
──第1幕も踊りの場面がふんだんにありますね。
佐野 ペザントの踊り、ジゼルの友人たちのパ・ド・シスなどもありますね。皆で揃えて踊るところは揃えるけれど、それは2幕のウィリたちが整然と揃うのとは全く違う。もっと個人個人が見えて、ざわざわとしている。だって、世の中で皆と全く同じ動きをしている人なんて誰一人いないでしょう(笑)?
冒頭のヒラリオン登場の場面から、山あいの村にすむ人間の営みと、その中で自然に湧いてくる人間の感情が描かれていますね。収穫祭の賑わいも、そこに生きる一人ひとりの生活が見えてくるほどに、生き生きしていることが重要です。そうであればこそ、その後の場面がよりドラマティックに見えてくるもの。
1幕の終盤では、もちろん、そこで何が起きるかは予めわかってはいるけれど、いままさにそこで起きていることとして捉え、反応できる感性を持っていてほしいと思っています。
第1幕の見せ場の1つ、男女8名による華やかなペザントの踊り(パ・ド・ユイット)
──復活公演から25年。当時と今とでは、ダンサーたちの取り組み方に違いはありますか。
佐野 踊りに対する本質的な部分、作品への取り組み方は、当時も今も大きく変わっていないと思います。さらに、今のダンサーたちには様々な作品の経験があり、そこで得られた柔軟性がある。新制作で取り組んだ『くるみ割り人形』(2019年12月初演)でも、決められたことをこなすのではなく、自分たちでどう感じ、どう演じるかということを追求しました。そうした経験は『ジゼル』でも活きてくるのではないでしょうか。
──ではあらためて、バレエ『ジゼル』の魅力について、教えてください。
佐野 個人的な話になりますが、高校時代、発表会で初めて男性と組んで主役を演じたのが『ジゼル』でした。第2幕、それも後半のみでしたが、この時、物語の中で何者かになって踊るということを初めて経験し、それまでに味わったことのない感動を覚えたのです。それが転機となってあらためてプロを目指すようになったのですが、その後東京バレエ団で『ジゼル』の全幕に取り組むことができて、本当に嬉しく思ったものです。
『ジゼル』に携わっていると、人を愛するってどういうことなんだろう、と考えさせられます。2幕でジゼルは自分を裏切ったアルブレヒトを赦します。もしかしたら、ジゼルには"赦そう"という思いすらなく、ただ自分の愛を貫き、彼の苦しむ姿を見たくない、幸せになってもらいたいという一心で、ウィリたちから彼を守り、「彼を殺さないで」とミルタに懇願するのかもしれない。そんなところに、人は心の深み、愛を感じて涙するのだと思います。
取材・文:加藤智子(フリーライター)
ただいま東京バレエ団は関内ホールにて、子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』を上演中!
この公演は横浜市教育委員会が主催するもので、「心の教育 バレエの世界」をテーマに、横浜市立小学校の4年生を対象にした芸術鑑賞プログラムです。
今年はコロナ禍のために座席の間隔をあけ、客席は全員マスク着用のうえでの実施と、様々な対策を講じて上演しています。
さらに、子どものためのバレエ名物のカーテンコールや客席を使用した演出のとりやめなど、昨年とは違う形での開催となりましたが、会場は事前に配布されたプログラムに熱心に目をとおし、食い入るようにして舞台をみつめる小学生の熱気であふれています。
今回の公演では多数のダンサーたちが初役デビューを飾っています。
こちらは写真左から生方隆之介(バジル)、涌田美紀(キトリ)、見事主役の重責を果たしました。そして
長谷川琴音(写真左)、瓜生遥花(写真右)はキトリの友人役デビューでした。
このあとの公演の舞台裏は、公式Twitter, Instagramでご紹介してまいります。どうぞお楽しみに!
東京バレエ団「M」の10年ぶりの再演まであと9日! 今回の上演にあたり、初演時の「女」役誕生に貢献し、ベジャールとともに作品を創り上げてきた吉岡美佳(元プリンシパル・現東京バレエ団特別団員)が来団し、指導にあたっています。
後輩たちを厳しくもあたたく見守る吉岡に、現在のリハーサルの状況について話を聞きました。ぜひご一読ください。
──『M』では、初演時から「女」役を務められていました。
吉岡 ダンサーにとって、そのキャリアの転機になるような作品というものがありますよね。
東京バレエ団に入団後、数年の間に、ベジャールさんの作品では『ザ・カブキ』の顔世御前、『ドン・ジョヴァンニ』のヴァリエーションを踊っていましたが、その時点ではベジャールさんに直に指導していただくことがなくて、1993年の『M』がベジャールさんと直接一緒にお仕事をさせていただく初めての機会となりました。この時、ベジャールさんと一対一でリハーサルをさせてもらったことで、自分の中でちょっと何かが変わるものがあったと思います。たとえば、イリ・キリアンさんとのお仕事(『パーフェクト・コンセプション』世界初演)が実現したのはその翌年のことでした。
──ベジャールさんとのリハーサルでは、最初はとても緊張されたそうですね。
吉岡 そう、怖かったのです(笑)。あのブルーの眼で見つめられると、考えていることをすべて見透かされているような感じがして。でも実はすごく優しくて、会うといつも手にキスをしてくれて! 当時はまだ60代でしたから、ご自分で実際に動いて見せてくださることも。それを見て感じた通りに動いて見せると、「そうだね」「いや、もっとこういう感じで」と指示をいただく──。そうして稽古を進めていきました。それはダンサーとして本当に大きな経験でしたね。
──「女」という役づくりについては?
吉岡 ベジャールさんから「こういう役だからこう踊って」という説明は特にありませんでした。プログラムか何かの解説を見て知ったのですが、正式には「生命と再生の源を象徴する女」という役名です。
『M』には三島由紀夫のさまざまな作品のイメージが登場しますが、配役表には「禁色」とか「鹿鳴館」とか、場面のタイトルが書いてあって、私が演じた「女」の登場する場面は「鏡子の家」と記されていました。それで初めて三島の本を読んでみたのです。だからといって、あの「女」が「鏡子の家」のあの女性なのかというと、それはちょっと違うような気もします。でも、読んでいるのと読んでいないのとでは、舞台に立ったときに自分が発するもの、存在感、深みといったものが変わってくるはずです。
──強くて美しい女性、という印象です。
吉岡 ベジャールさんの作品ではよく、色でいえば白と黒という対照的な女性が登場します。『バレエ・フォー・ライフ』や『ブレルとバルバラ』もそうですね。白い衣裳の女性は、母親のような穏やかな愛。もういっぽうの黒い衣裳の女性は、もっと強くて激しい愛で、緊張感がある。『M』もまさにそう。白い衣裳の「海上の月」は母を思わせる慈愛に満ちた女性ですが、黒い衣裳の「女」は正反対。登場の場面では三島の分身の一人、IV
- シ(死)にからまれて、どこか死に対する予感とか怯えが見え隠れする。そこから男性(I - イチ)とのパ・ド・ドゥが始まりますが、決して穏やかな雰囲気ではなく、男性のお腹にぶつかっていく瞬間もある。私の中では闘牛のイメージでした。リハーサルの時にはつい躊躇してしまったけれど(笑)。
2005年の公演より。女役を演じる吉岡美佳
──今、リハーサルではどんなことに配慮して指導されていますか。
吉岡 ベジャールさんの振付は実にシンプル。言われた通りの振付をきちんとその通りに踊ることで、その振付が生きて、作品の中のその場が生きてくるものだと思います。ダンサーたちには、ベジャール作品を大事に踊ってほしいなと思います。そうでなければ、いまこうして取り組む必要などないわけですから。
──10年ぶりの上演となる今回は、ほぼすべての役柄が新キャストに。フレッシュな『M』となりますね。
吉岡 演じるダンサーが変われば、作品は全く違うものになるもの。でも少なくとも、私も、(初演ダンサーで、今回ともに指導にあたっている)小林十市さんも、高岸直樹さんも、当時ベジャールさんに言われたこと、教えていただいたことを、最大限、ダンサーたちに伝えようと努めています。それは私たちの使命だと思うし、やりがいがあります。ベジャール作品は、映像を見て振付を覚えるだけで上演できるものではないし、東京バレエ団のオリジナル作品を途絶えさせるわけにはいかない。こうやって作品を継承していくことはとても大切なことと考えています。初演後のヨーロッパ・ツアーで高い評価を受けた作品ですが、いまあらためて、日本のお客さまに観ていただきたいと思っています。
三島由紀夫の没後50周年を記念し、東京バレエ団が10年ぶりに上演するベジャールの傑作『M』。本作の再演にあたり、東京バレエ団では初演時に「Ⅳ―シ(死)」の役をつとめ、さらにベジャールの振付アシスタントをつとめた小林十市さん(元モーリス・ベジャール・バレエ団)に作品の指導をお願いしました。
現在南仏に活動拠点をおく小林さんは、7月末に帰国後2週間の自宅待機期間をへて来団。その後2週間にわたり、ダンサーたちにベジャールならではの振付のニュアンスや表現を細かく伝承していきました。そのリハーサルも終盤にさしかかった8月の下旬、帰国間際の小林さんに現在の手応えをうかがいました。ぜひご一読ください。
──1993年の『M』初演の際には、ベジャールさんの振付アシスタントを務められました。
小林 「鹿鳴館」のワルツの場面の振り写しと、ダンサーの配置を任せてもらいました。が、実際のところアシスタントって何なのかわかっていなくて、リハーサル初日は最後まで残らずに帰ってしまった(笑)。翌日ベジャールさんから、「自分は動いて見せることができないから、十市は動いて、ダンサーたちにそのニュアンスを伝えてほしい」と言われ、ああ、そういうことかと!
現場では、当時の芸術監督の溝下司朗さんが最初から最後までリハーサルを見ておられて、初演の公演プログラムには、リハーサル後のベジャールさんの指示を司朗先生がノートに取り、僕が横で聞いている写真が載っています。
──『M』創作の過程をずっと見ておられたわけですね。
小林 だから皆さんは僕を『M』のエキスパートと思われているかもしれないけれど、全然、違うんです(笑)。『M』(1993)は『ザ・カブキ』(1984)と同様、ベジャールさんが東京バレエ団にプレゼントしたものですし、飯田宗孝先生も、佐野志織さんも、高岸直樹さんも木村和夫さんも、東京での初演の後、ヨーロッパツアーに出て、その間に20回以上も『M』を踊っている(その後パリ・オペラ座公演で合流)。本当は皆さんのほうがずっと詳しい!
僕ができるのは、ベジャールさんのボキャブラリー、動きのニュアンスについて「こうではないか」とアドバイスすること。それは、長くベジャールさんの作品を踊ってきた自分だから伝えられることかなと思っています。
聖セバスチャン役の樋口祐輝を指導する小林さん
──もっとも印象的な要素の一つは、三島の分身であるイチ、ニ、サン、シの存在です。彼らは2つのパ・ド・カトルを中心に、様々な場面に登場します。
小林 振付の段階では、「お互いの距離をはかりながら」「ここでお互いを見て」といった動きのアイデアをポンと渡されて、そこから4人がアドリブで動いていました。細かいところまでは決められていないのです。今回指導するにあたって『M』の記録映像を4本見たのだけれど、全部違っている! つまり、動きのアイデアから外れてさえいなければ、どう動いてもいいということだったのです。
今回初めて、4役とも新キャストが配されましたが、指導の場では、この時はどこを通過していくか、別にここじゃなくでもいいとか、この二人の目線がどこかですれ違ればいいとか──そんな細かな作業を重ねていました。
写真左より、池本祥真(Ⅳーシ)、宮川新大(Ⅱーニ)、秋元康臣(Ⅲーサン)、柄本弾(Ⅰーイチ)
──ご自身が初演したシ(死)はどんな役柄と捉えられますか。
小林 冒頭の海の場面では少年とともにお婆さんとして登場し、その後、狂言回し的な存在としてマジックを見せる。それはある種、ディアボリックな、悪魔的な感じです。そこからまた、生と死の「死」であることの怖さも押し出していく──。最初のパ・ド・カトルに至るまでに、既に3つの異なる色を出しています。そこには、ストーリーの中にいるときと、客観視しているときの使い分けがあって、それでいて一貫しているのは、全部を引っ張っていく存在です。
自分に振付けられたこの役をあらためて客観的に見ると、たとえば、正座して、少年のランドセルからお習字の道具を取り出す場面がありますが、僕は噺家の家に生まれたというバックグラウンドがあって、畳の部屋で正座したり、剣道をやっていて神棚にお辞儀をしたりといったことが身体に染みついている。それをベジャールさんが僕の中に見出していた──。ベジャールさんはこのダンサーにはこういったオプションがあるから、と有効に使う方だったのです。
池本祥真は6代目の「Ⅳーシ(死)」の役を引き継ぐ
──あらためて、『M』とはどんな作品で、その魅力はどんなところにあると思いますか。
小林 ベジャールさんの頭の中にある美学が作品化されたもの、と言えると思います。『M』がヨーロッパで高い評価を受けているのは、日本のシンプルな美、美しい所作や、様式的なものがふんだんに散りばめられているからでしょう。禅僧が書く、「円相」というものがありますね。しゅっと一筆で書かれた円ですが、悟りの象徴、真実や宇宙、また輪廻転生を表しているともいわれるし、見る人によってどのようにも解釈できるという。海に始まって海に還る、『M』はまるであの円相のようだと思います。
宇宙規模でいえば、人の人生なんて一瞬だけれど、いまの若いダンサーたちが見せる、ほのかな一瞬の炎のような、その瞬間を、共有していただけたらと思っています。
取材・文:加藤智子(フリーライター)
リハーサル写真:松橋晶子
東京バレエ団ではコロナ禍で延期になった3公演を9月に続けて上演。先週の「ドン・キホーテ」全幕公演を無事に終え、ダンサーたちもようやくエンジンが全開になってきたようです。
ここで、ダンサーたちの舞台への復帰の足がかりとなった〈Choreographic Project 2020〉を改めて振り返りたいと思います。東京バレエ団を長く取材してくださっている加藤智子さん(フリーライター)のレポートをご紹介。ぜひご一読ください!
ソーシャルディスタンスを保ったカーテンコール
さる9月5日(土)、東京バレエ団は、めぐろパーシモンホールにて〈Choreographic Project(コレオグラフィック・プロジェクト)2020〉を開催した。8月に行われる予定であった〈めぐろバレエ祭り〉連動企画として、劇場の舞台で、団員による振付作品のみの公演を行うという試みが実現した。
上演されたのは、これまでに同プロジェクトで誕生した既存の作品に、今年1月に行われたスタジオパフォーマンスで観客賞に選ばれた1作品に、本公演の2週間前に実施された試演会で選出された2つの新作も加わった全7作品。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、観客は定員の50%以下と寂しい光景ではあったが、バレエ団にとっては半年ぶりの舞台とあって、会場は静かな熱気にあふれていた。
最初に上演された作品は、岡崎隼也振付『Scramble(スクランブル)』。2017年のスタジオパフォーマンスにて観客賞を受賞、その後〈上野の森バレエホリデイ〉の屋外特設ステージで上演された作品だ。若手中心の新キャスト、劇場での本格的な照明によって、岡崎ならではの鋭角的な動きが、より立体的に浮かび上がった。
岡崎隼也振付『Scramble』
指導陣からの出品となる木村和夫の『RISE(ライズ)』は、映画「シンドラーのリスト」の音楽、ケルティック・ウーマンの楽曲で構成された新作だ。一輪の花を慈しむように舞う柄本弾と、丈の長いチュチュをまとった沖香菜子以下14人の女性ダンサーたちは、ともすると『ジゼル』のアルブレヒトとウィリたちのようにも見えるが、闇の中に光を見つけたかのように彼方を見据えるその姿はずっと清々しく、明るい。リハーサル期間中、木村は「後付けになってしまうけれど」としながら、「今は皆、闇の中で手探りをしている状況かもしれないが、いつかこれを克服して、目の前がぱっと開けた時、また皆で手を繋いでいけたら──」と作品にこめた思いを明かした。ダンサーの成長を促す機会を大切にしたいとも話す木村。出演ダンサーの中には、この公演が東京バレエ団での初舞台という4人の研究生がいたが、彼女たちにとっても忘れがたい貴重な体験となったのでは。
木村和夫振付『RISE』
岡崎隼也の2作目は、『Calling(コーリング)......』。緊急事態宣言発出後に創作した新作は、サン=サーンスの「白鳥」に振付けたソロで、コロナ禍にあって、舞台に立つ機会を求め続けていた上野水香と、彼女の舞台を待ち望む観客の人たちを思い、「既に知られている上野水香のイメージを壊すのではなく、何か新しい見せ方を目指したい」と取り組んだ。名作「瀕死の白鳥」で知られる音楽は、「儚さ、寂しさの中にも、どこか明るく、強い意思を感じる」という岡崎。「最後に、明るい未来への希望を見せたい」と、上野の力強さを印象付けた。
岡崎隼也振付『Calling......』
次の『理由』は、2018年スタジオパフォーマンスにて観客賞を受賞した岡崎の作品。スツールを用いた内省的な作品は、秋山瑛、涌田美紀、足立真里亜、中沢恵理子というフレッシュなキャストで、より深みある、印象深いパフォーマンスに。
岡崎隼也振付『理由』
ブラウリオ・アルバレスの『Adagietto(アダージエット)』も2018年の初演で観客賞を受賞、第1位に輝いた作品だ。奈良春夏と秋元康臣、岸本夏未と樋口祐輝ほか全5組のカップルが、マーラー交響曲第5番第4楽章アダージェットで踊る。広く知られたこの音楽をしっかりと活かす振付の工夫や、布を用いるユニークな演出は、上演を重ねることでより説得力あるものに。
ブラウリオ・アルバレス振付『Adagietto』
続いて上演されたアルバレスの『夜叉』も、2019年に観客賞を獲得している。鬼婆伝説に想を得て、アルバレスの故郷メキシコで国民的人気を得ている楽曲、アルトゥロ・マルケスのダンソン第2番に振付けた、日本とメキシコの文化の融合を目指した意欲作。女性のメインロールは初演から引き続き中川美雪、男性は宮川新大が初めて取り組み、それぞれの持ち味を存分に活かした演技でストーリーを伝えた。ラテン特有のリズムを活かしたダイナミックな振付は大きな見どころ。アルバレスは「日本人が「赤トンボ」を聴いて懐かしさを感じるのは、日本人だからこそ。メキシコ人にとってこの楽曲は、それと同じまさに特別な音楽。日本のダンサーには馴染みにくいところがあったかもしれない」と当初の思いを明かしていたが、上演を重ね、ダンサーが音楽をどんどん自分のものにしていく様子を実感したという。
ブラウリオ・アルバレス振付『夜叉』
ラストは、今年1月のスタジオパフォーマンスにて観客賞を受賞した岡崎隼也の『運命』抜粋版。「カルメン」の音楽で、運命に翻弄され、愛し、傷つく若者たちの姿をドラマティックに描き出す大作で、沖香菜子、伝田陽美、秋山瑛、政本絵美、加藤くるみ、柄本弾、秋元康臣、池本祥真、樋口祐輝、鳥海創らが、岡崎独特の複雑な振付をしっかりと消化し、熱演を繰り広げた。
岡崎隼也振付『運命』ー抜粋版ー
5人のプリンシパルから研究生まで、多くのダンサーが参加した今回の公演は、彼らに舞台で踊る喜びをあらためて実感させることになった。振付者にとっても、コロナ禍の不安を作品に反映させたり、あらためて作品を見つめ直したりと、これからの創作につながる貴重な経験に。今後、新たに振付に挑戦したいと手を挙げるダンサーが続けば、このプロジェクトはさらに有意義なものになるだろう。
取材・文:加藤智子(フリーライター)
東京バレエ団では、"もっと東京バレエ団のことを知りたい!" "良い席で公演を観たい!" "割引料金でチケットを買いたい!" という方のために、公式のファンクラブ、「クラブ・アッサンブレ」を設けております。年会費も2,000円(税込み)と廉価に設定しており、随時ご入会を承っております。
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