去る6月7日(金)に開催された横浜DeNAベイスターズと埼玉西武ライオンズの日本生命セ・パ交流戦の始球式に沖香菜子が登板しました。
始球式の前にA.ラミレス監督と
横浜市出身の沖は小学生の時から熱烈なベイスターズファンで、ファンクラブに入会し、沖縄で行われる春季キャンプまで応援に行くほど。今回はご縁があり、交流戦の始球式への登坂という名誉な機会をいただきました。
室内練習場で好調なピッチングをみせる沖
当日は雨の影響により20分遅れで試合開始。その2分前に場内のセンター大型ビジョンで沖が紹介され、
マウンドへあがった沖が柔軟な身体を活かし、足を高くあげると場内からはどよめきがおきました。そのまま腕を大きくふりかぶると球は大きく弧を描いてキャッチャーミットの中へ。直前の練習に付き合ってくださったスタッフの方からは「ノーバウンドでマウンドまで届く投球ができる女性は稀です!」とお褒めの言葉をいただきました。
沖はこの日に備えて、同じくベイスターズファンの後藤健太朗と休みの日に河原で練習をしていたそう。無事に始球式を終えた沖は満面の笑顔で客席へ戻り、この日はベイスターズの選手の皆さんに大きな声援を贈っていました。
大役を終えて満面の笑顔の沖
去る5月31日~6月1日にかけ、モスクワ(ロシア)でグローバル・バレエホリデーという公演が初めて開催されました。ボリショイ・バレエ、モスクワ音楽劇場バレエなどのロシアを代表するバレエ団に加え、ベルリン国立バレエ団、ウィーン国立バレエ団など、世界各地からバレエ団を代表する13名のダンサーたちが集い、初夏のモスクワを華やかに彩りました。東京バレエ団からは上野水香が出演。その様子を写真とともにレポートします。
今回上野がペアを組んだのはモスクワ音楽劇場バレエのジョージ・スミレフスキーさん。長身の美しいラインを誇る、カンパニーを代表するプリンシパルの一人です。上野とは「黒鳥のパ・ド・ドゥ」と「グラン・パ・クラシック」、そして「眠れる森の美女」のパ・ド・ドゥの一部を踊りました。
パートナーのジョージ・スミレフスキーさんと
上野にとっては「グラン・パ・クラシック」は初めて挑戦する作品。"前から挑戦してみたい!"と思っていた作品なだけに、踊れる喜びをかみしめていた上野。日本にいる間は秋元康臣とともにリハーサルをしていたそうで、"とにかくリハーサルが楽しかった!"と充実した笑顔をのぞかせました。本番の感想はというと、"野外という、いつも踊っている劇場とは異なる独特の雰囲気でしたが、相手のサポートも万全で集中して舞台にのぞむことができました"とにっこり。
今回は野外の特設ステージということもあり、演出にはプロジェクション・マッピングが取り入れられていたとのこと。なんと踊っているダンサーの背景幕に、リアルタイムで撮影されたダンサーのアップの映像が大写しになっていました。上野自身は"踊っているときは全く気が付かなかった(笑)"そうで、応援にかけつけた斎藤友佳理(東京バレエ団芸術監督)の息子さんからの話と写真をみて、初めて気が付いたそうです。
公演の2日目にはニコライ・ツィスカリーゼ(元ボリショイ・バレエ プリンシパル、現ワガノワ・バレエ・アカデミー校長)によるマスタークラスがあり、ゲストダンサーたちも参加。ちなみにこの日は観客も参加可能なバーレッスン体験コーナーまで設けられ、会場も盛り上がっていたそうです!
写真左より、上野水香、マリア・アイシュヴァルト、ミハイル・カニスキン、ニコライ・ツィスカリーゼ、ルシア・ラカッラ、デニス・ロジキン、大川航矢(敬称略)
そして今回はグローバル・バレエホリデーの名に相応しく、「眠れる森の美女」をスペシャルヴァージョンで上演。終幕のグラン・パ・ド・ドゥを細かくパートごとにわけ、出演ダンサーたちがリレーのように踊りついでいったそうです。上野はアダージオの一場面を担当。こちらもスミレフスキーさんの盤石のサポートでしっかり踊りきることができました。
写真左が上野水香とジョージ・スミレフスキー。右はルシア・ラカッラとデニス・ロジキン
海外のガラ公演には何度も出演した経験のある上野ですが、"今回は開放的な雰囲気の中で、お客様の反応も温かく、自然を感じながらのびのびと楽しんで踊ることができました!"と確かな手ごたえを感じた様子。6月末にはローマのカラカラ野外劇場での公演も控えているだけに、良い刺激となったようです。東京バレエ団の第34次海外公演、開幕はまもなくです!
上野の他に、寺田翠さん、大川航矢さん(ともにノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場)という2名の日本人ダンサーも出演していました。
今年創立55周年を迎える東京バレエ団は、いま、創立記念シリーズを展開中で、6月下旬には記念プロジェクトの一環として実施する第34次海外公演がスタート。出発を約2週間後に控えた6月4日、都内ホテルにて「東京バレエ団創立55周年記念シリーズ記者会見」を開催しました。この日は、東京バレエ団を運営する日本舞台芸術振興会専務理事の髙橋典夫と東京バレエ団芸術監督・斎藤友佳理のほか、上野水香、川島麻実子、沖香菜子、柄本弾、秋元康臣、宮川新大らプリンシパルたちも出席。華やいだ雰囲気の中で行われた会見の模様をレポートします。
冒頭、「55周年記念シリーズ」の概要と主旨について語った髙橋は、そのテーマをずばり、「東京バレエ団のブランディング」と明言。あらためてそのラインナップを紹介しました。
すでに3月に『海賊』全幕のバレエ団初演、4月の〈上野の森バレエホリデイ〉でブルメイステル版『白鳥の湖』を上演した東京バレエ団ですが、現在はポーランド、オーストリア、イタリアをめぐる第34次海外公演のためのリハーサル中。帰国後は、8月の〈めぐろバレエ祭り〉での〈サマー・バレエ・コンサート〉と、子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』、10月には勅使川原三郎作品の世界初演を控えています。まだ具体的な形にはなっていない勅使川原作品ですが、武満徹の音楽を使うことが決まっており、「東京バレエ団の海外戦略の、一つの武器になればと思います」と髙橋。
記念シリーズは、さらに12月の『くるみ割り人形』新制作、2020年3月の『ラ・シルフィード』へと続きますが、公演以外にもいくつかの関連事業を展開しています。その一つが、東京バレエ団創設者の故・佐々木忠次の生涯を描いた、桜沢エリカ氏による漫画の英語版、『A Japanese Diaghilev』(新書館)の出版。バレエ史研究の斎藤慶子氏が、東京バレエ団の前身である東京バレエ学校について書いた『チャイコフスキー記念東京バレエ学校(仮題)』(文藝春秋)も12月に出版される予定で、「日本のバレエ史に一石を投じるものになるのではないか」(髙橋)と期待を寄せます。附属の東京バレエ学校は来年開校60周年を迎えますが、これに合わせてジョン・ノイマイヤー振付『ヨンダーリング』の上演も予定、「バレエ団とバレエ学校の連携をさらに強めていくべき」とも。
「これら一連の事業を通して、芸術的にも、組織的にも、東京バレエ団のブランド価値が上がることを願っている。これからは、挑戦を続けていかなければ生き残れないと思っています」と攻めの姿勢をアピールしました。
続いて挨拶した芸術監督・斎藤。プティパ生誕200年記念の締めくくりとしてバレエ団初演した『海賊』や、8月の〈サマー・バレエ・コンサート〉で今年生誕140年を迎えるアグリッピーナ・ワガノワの『ディアナとアクテオン』をコール・ド・バレエ付きで取り上げることに触れ、「歴史を振りかえってもらいたいという気持ちがより増してきた」と、思いを明かします。
勅使川原三郎氏への委嘱作については、「勅使川原さんには、東京バレエ団にしかできない真珠のような作品を、また、海外でも日本でも受け入れられる、ツアーにも持っていきやすい、話題性のある、大成功する(笑)作品を、とお願いしています」(斎藤)。
12月の『くるみ割り人形』新制作についても、「20年以上、もっとも数多く踊ってきた愛着のある作品」とコメント。『くるみ割り人形』は前身の東京バレエ学校が開校2年目に上演し、ずっと踊り継がれてきた作品です。
「東京バレエ学校では当初、ワイノーネン振付によるヴァージョンそのものを上演していたそうですが、その後、演出振付を大きく変えたようなのです。東京バレエ団ではそれをずっとワイノーネン版として上演していたのですが、55周年を機に、このクレジットの問題についてなんとか改めなければと考えていました」。そこで、現在の東京バレエ団のヴァージョンを基本に、見直すべき振付に手を加え、装置・衣裳を新たにして上演することを決断。現在、斎藤の夫ニコライ・フョードロフ氏(バレエ・プロデューサー)の協力を得て、ロシアで装置・衣裳を製作していると話します。装置はマリインスキー劇場の舞台を手がけている美術家に依頼、衣裳はその点数の多さから、モスクワとサンクトペテルブルクの5カ所もの工房で同時進行で作っていると、新たな舞台への意欲を見せていました。
会見の終盤には、プリンシパルたちから、直後に控えた海外公演への抱負が次々と飛び出します。
前日までロシアのフェスティバルに出演していた上野水香は、「各地のオペラハウス、素敵な場所にたくさん行ける。それぞれの場所のそれぞれの雰囲気、お客さまを感じながら、一つひとつ大切につとめたい」。川島麻実子も、「55周年という節目の年の海外ツアーに参加できることを誇りに思うとともに、身の引き締まる思い。つねに新しい気持ちで、丁寧に一つずつ踊りたい」。沖香菜子は「1カ月間もの海外ツアーは初めて。たくさんの振付家の作品を踊らせていただきますが、挑戦できるのは東京バレエ団だからこそ。そのありがたさを感じながら、頑張りたい」。
男性陣も、「前回のミラノ・スカラ座での『ザ・カブキ』ではコール・ドでの出演でしたが、今回は由良之助を踊らせていただきます。しっかり調整しつつ、楽しみながら演じたい」(柄本弾)、「『春の祭典』に初めて挑戦させていただきます。これほど長い期間ツアーに出るのは初めてですが、歴史ある劇場で踊れることは幸せ。東京バレエ団でしかできない貴重な経験だと思います」(秋元康臣)、「ヨーロッパで長く生活していたので、海外ツアーは一種の里帰りのような気持ち。自分の舞台もそうですが、各地の友達に会えるのが楽しみです」(宮川新大)と、期待に目を輝かせていました。
東京バレエ団は6月19日、第34次海外公演に出発。約1カ月の間に、3カ国5都市、計11回の公演を実施する予定です。
写真左より、宮川新大、秋元康臣、柄本弾、斎藤友佳理、上野水香、川島麻実子、沖香菜子
去る5月、東京バレエ団には那須野圭右さん(モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督補佐)が来団。2年ぶりの上演となるモーリス・ベジャール振付「春の祭典」のリハーサルを指導してくださいました。
これまでにも何度も東京バレエ団と仕事をしてきた那須野さんですが、意外なことに、1つの作品に絞ってを指導するのは今回が初めて。「ベジャールのスタイルを伝えたい」と連日熱い指導でダンサーたちを導いてくださいました。
実は、「春の祭典」のリハーサルならではの名物がその"音"。スタッフが常駐している事務所の真上にメインのリハーサルが行われているスタジオがあるため、ダンサーたちのジャンプの振動が下の階まで伝わってくるのです。入社したばかりのスタッフやお客様がびっくりするくらいの大きな音ですが、慣れてくると、「あ、今日もリハーサルだな」とお互いに顔を見合わせています。
初めてこの作品に挑戦するダンサーたちは体力的にかなり消耗している様子でしたが、ベジャールの傑作を踊れる喜びをかみしめていました。
今回の「春の祭典」は今月末のカラカラ野外劇場(イタリア・ローマ)、ミラノ・スカラ座(イタリア・ミラノ)で上演するほか、10月末に東京で上演を予定しています。イタリアでは東京バレエ団の公演にかなり注目が集まっており、国際的な新聞「La Repubblica」の記者が取材にきたり、ローマ市長のヴィルジニア・ラッジ氏が自らバレエ団に表敬訪問にいらっしゃるなど徐々に盛り上がりをみせています。海外公演の様子は本ブログでもご紹介してまいりますのでどうぞお楽しみに。
リハーサルの最終日には、なんと那須野さんからバレエ団全員にサプライズプレゼント! 美味しいドーナツの差し入れをいただきました。那須野さんの厳しくもバレエ、そしてベジャールへの愛あふれる指導でダンサーたちもステップアップできたようです。那須野さん、ありがとうございました!
東京バレエ団も加入している(一社)日本バレエ団連盟の事業として、バレエ教師として世界的に活躍しているローラン・フォーゲル氏の特別クラスが1週間行われました。この事業は、文化庁委託事業「2019年度次代の文化を創造する新進芸術育成事業」の一環として、プロのダンサーたちの更なるレベルアップをはかるため、毎年のように開催されています。
フォーゲル氏はジョン・クランコ・バレエスクールで学んだのちシュツットガルト・バレエ団に入団。プリンシパルとして数々の作品に主演し、カンパニーに貢献しました。現役引退後はモナコ王立プリンセス・グレース・バレエ・アカデミーの教師として後進の指導にあたっているほか、世界中のバレエ団でゲスト教師として活躍しています。ちなみに、同校は上野水香の卒業した学校でもあり、稽古場では上野とはフランス語で会話するフォーゲル氏の姿もありました。
今回、バレエ団連盟としては5度目の招聘となるフォーゲル氏は「ツマサキ」など時折日本語の単語も交えながら、ダンサーたちを丁寧に指導。クラスの前後にはヴァリエーションのアドバイスなどを受けに話しかけるダンサーの姿もあり、普段とは異なるクラスからダンサーたちもおおいに刺激を受けたようです。
最後はみんなで記念撮影。ローラン先生ありがとうございました!またお会いしましょう!
まもなく初日をむかえる東京バレエ団ブルメイステル版「白鳥の湖」。東京バレエ団の代名詞でもある一糸乱れぬ第2幕のコール・ド・バレエ(群舞)は大きな見せ場となっています。そこで、その秘密にせまるべく、コール・ドの指導にあたる佐野志織(東京バレエ団バレエミストレス)を加藤智子さん(フリーライター)に取材していただきました。指導者の目線から「白鳥の湖」がみえてくるとても興味深いインタビューです。ぜひご一読ください。
──指導者の立場から、美しいコール・ド・バレエの条件とは、どのようなものと捉えられていますか。
佐野志織 まず、基本的なフォーム、フォーメーションなどを皆で揃えるというのは当たり前ですが、それプラス、呼吸とか、一人ひとりのあり方のようなものが必要だと思っています。ただ形や角度が揃っていればいいというわけではなく、コール・ド・バレエの中の、ある一人にポンとスポットライトが当てられたとしても、バレリーナとして、白鳥として、主役のオデットと同じくらいの存在としていられるようにしてほしい──。いつも、そう皆に言っています。そうしてこそ主役も一層引き立ち、輝いて見えると思うのです。
──皆さん、それを実践していらっしゃるわけですね。
佐野 踊っているほうは必死だと思います(笑)。そこまで行き着いてはいないかもしれないけれど、「やろうとする」ということの積み重ねですね。初めてコール・ドに入るダンサーがいるいっぽうで、皆を引っ張っていく経験者もいますから、私が指導するだけでなく、ダンサーたち自身が話し合ったり、かなり細かいところを指摘し合いながら作り上げていっています。これはもう東京バレエ団の伝統です。東京バレエ団のコール・ドの美しさを崩してはならない、というプライドのようなものもありますから、指先の向き、角度、重心の置き方も、細かいところまで、一人ひとりの意識は高いですね。
──さらに、バレエ・ブラン(白いバレエ)ならではの美しさを追求しなければいけませんね。
佐野 まずはその物語のなかでどうあるべきか、です。白いバレエといっても、作品によって少しトーンが違ってくる──たとえば『ジゼル』は、冷たくて、透明な、氷の芯の青い感じ。『ラ・バヤデール』ならば、アヘンの夢の中で、ニキヤの影、幻想が見えるという状況ですから、冷たくもないし、温かすぎることもない。ジゼルもニキヤも死んだ存在という意味では同じだけれど、『ジゼル』のウィリの世界のあり方と『ラ・バヤデール』の影の王国では、同じ「白」でも違って見えてくるでしょう。
では『白鳥』はどうかというと、オデットという女性が白鳥の姿に変えられてしまったように、コール・ドの白鳥たちも一人ひとりが生きているはず。羽毛のような温かみのある世界ではないかと思うのです。
──第2幕と第4幕でも、また世界が違いますね。
佐野 そうなんです。2幕の中だけでも、最初は楚楚とした佇まいのオデットですが、王子と出会って徐々に愛情が湧きあがってきて、白鳥たちもそれを見守って──、というように、少し変化があります。4幕では、打ちひしがれたオデットが帰ってきて、彼女を迎える白鳥たちにも悲しみが広がる。続いてオデットを守るためにロットバルトと戦う場面もあり、精神的な強さも必要になってくる。
白鳥のコール・ドには、そうした意思の力が働くと感じます。そこには、ウィリのような厳然たる拒絶とは違った、いろんな感情がある。一人ひとりが分析し、ああしようこうしようとは考えていないかもしれないけれど、音楽、振付が導いてくれているところもあるし、表現としてそうならざるを得ないものもあるわけです。
─― 一人ひとりがしっかりと踊れば、自ずとそうなり、皆が揃う、ということですね。
佐野 たとえば同じメソッドでしっかり育ってきた人たちが集まっているロシアのバレエ団のコール・ドなどは、この角度で頭の付け方はこうで、絶対にこうなる!というのがあって、それは本当にすごいなと思います。東京バレエ団のダンサーも選ばれて入ってきた人たちではあるけれど、一人ひとり千差万別なので、揃えるよう、いろいろと工夫が必要です。そのいっぽうで、一人ひとりの踊り手としてのあり方のようなものは、なくしちゃいけないなと。
皆には、その両方を追求してほしいのですが、まあでも、まずは揃えるところから、となると、「◯◯ちゃん! そこ違うーっ!!」となりがちで(笑)。
私自身もそうでしたが、コール・ドで踊っているときに、舞台上でふと、皆が一つになっていると感じる瞬間がよくあるもの。二十数人くらいで踊っていても、まるで一人で踊っているかのように感じることが。もちろん、技術的なことをそれまでに徹底してやってきているからこそ、ですが、それはとても心地のよいものでした。
──では、東京バレエ団の『白鳥の湖』、見どころを教えてください。
佐野 第2幕のコール・ドが、形だけでなく心も一つになって踊っている、その空気感と、白鳥の羽ばたきみたいなものを感じ取っていただけたら。第3幕の個性的なキャラクター・ダンスとの対比もすごく鮮やかに出てくるのではないかなと思います。一人ひとりが生き生きと踊っているコール・ドを、ぜひご覧になっていただきたいですね。
──世界に通用するバレエ団を作るためには、アンサンブルを強化すべし、と考えたのは創設者の佐々木忠次氏(故人)ですね。
佐野 こうしたら佐々木さんに叱られるかなとか、喜んでくれるかな、という思いは、自分の中に常にあります。舞台上の踊りだけでなく、楽屋や舞台袖での行動や日常生活まで、舞台人としてのあり方をとても厳しく教えられました。確かに、普段のそういうところは舞台のちょっとしたところで出てしまいますから、私も、日頃からしつこく言ってお説教しています(笑)。
取材・文:加藤智子(フリーライター)
東京バレエ団初演「海賊」の初日まであと1日となりました。会場の東京文化会館では、先ほどまで本番に向けた最終リハーサルが行われていました。
本作の初演にあたり、東京バレエ団では入念な準備を重ねてきました。まずは振付家であるアンナ=マリー・ホームズ氏本人を招き、5週間にもわたって密度の濃いリハーサルを続けてきました。そして、主役の4名(メドーラ、コンラッド、アリ、ギュルナーラ)以外のソリスト役は全て団内のオーディションで選抜。その結果、ベテランのソリストから入団1年目の研究生まで、これまでにない多彩な配役が実現。全5公演ですべてキャストの組み合わせが変わることなりました。
今回の上演では衣裳、舞台装置は芸術の殿堂、ミラノ・スカラ座のものを使用します。世界最高峰の職人たちの手による衣裳、装置は芸術品といえるほどの完成度を誇っています。衣裳は「すごく着心地が良いし動きやすい!!」(山田眞央)と、ダンサーたちもとても嬉しそうです。
また、初演のためにスカラ座から3名のスタッフが来日し、日本側とスタッフと力をあわせて舞台をつくっています。
衣裳部屋の取材の一コマ
仕込みの合間をぬってスカラ座から来日した舞台スタッフにインタビューしました
今回の公演は、リハーサルから本番までの過程をCSテレ朝チャンネル2、およびWOWOWの2つのテレビ番組で異なる角度から取材していただいています。舞台映像も一部番組で放送される予定ですのでどうぞお楽しみに!
そして本日(3月14日)はゲネプロ(舞台総稽古)。オーケストラとマエストロ(ケン・シェ)とは特にテンポを入念に確認しました。幕間の休憩時間には斎藤友佳理(芸術監督)、佐野志織(バレエミストレス)がダンサーたちにかけより、修正箇所を細かく確認していきます。ホームズ氏はマエストロとオーケストラのそばに駆け寄り、「そこはもっと早く!」などと1小節も疎かにせず、細かく指示していきます。
2幕の海賊たちの洞窟の場面。写真は作業灯ですが、照明が当たると非常に美しくなります
3幕の仕込みの一コマ
ダンサーたちは初演のゲネプロでさぞ緊張しているかと思いきや・・・意外にもときおり笑いもこぼれるほどの和やかな雰囲気の舞台袖。「海賊」という作品を踊れることを、皆心から楽しんでいるようです。また、舞台で踊っているダンサーにあわせ、他の日に同じ役で舞台に立つダンサーが音に合わせて舞台袖で踊っているゲネプロならではの光景もみられました。
ただ、やはり楽しいだけではありません。「この作品では踊るか着替えるかしかしていなくて、休む間が全くない」(上野水香)と語る主役陣に加え、「過去最大人数の早替えで、舞台裏は戦場です(苦笑)」(上田実歩)と、1人で何役もこなす群舞のダンサーまで、それぞれの課題を抱えながらも一致団結して作品に取り組んでいます。
3幕の"花園"の場面。女性たちはこのあとの衣裳と頭飾りの着替えが物凄く大変です
そんな「海賊」も、いよいよ明日、3月15日にその全貌が明らかになります。東京バレエ団が総力をあげてお贈りする古典の名作をどうぞお見逃しなく!
東京バレエ団のスタジオでは、来月初演する『海賊』に向けて連日熱いリハーサルが行われています。今回の公演で初日のヒロイン、メドーラ役を演じるのは上野水香。これまでも東京バレエ団で数々の初演作品に主演してきた上野を加藤智子さん(フリーライター)に取材していただきました!
──アンナ=マリー・ホームズさんのリハーサルが進行中ですね。
上野水香 とても優しい方ですね。温かくて、でも言うべきことは言ってくださる。ロシアで学び、プリマとして活躍して、芸術監督、また振付をされたりと、長いキャリアをお持ちの方です。初めて東京バレエ団にいらして、私たちを新鮮な目で見て、これまでに受けたことのないようなアドバイスをくださるので、本当に驚きます。たとえば、ホームズさんの言われる通りにすると、今までできなかった回数を回れてしまう──! それを本番でやるかどうかは別としても、いま、この年齢になって新たにできるようになることがあるんだ!と嬉しくなりました。
──『海賊』の魅力はどんなところにあるのでしょうか?
上野 子どもの頃、初めて見た『海賊』がキーロフ・バレエの映像でした。メドーラのアルティナイ・アスィルムラートワがとても可愛らしくて、ファルフ・ルジマトフのアリが凄くて! これがあまりにも強く心に残っていたものだから、ABTが全幕をホームズ版で上演したというのをテレビで見た時は、ああ、楽しい作品なんだなと感じる程度でした。ところが、今回、ホームズ版に挑戦する前に、あらためてABTの映像を見直してみたら、宮川新大くんが「ハマった」と言う意味がよくわかったんです!(2月上旬に開催された記者懇親会で宮川は、シュツットガルトに留学していた頃、「ABTのビデオを見て夜な夜なマネをしていた」と告白!)これは確かにハマる要素がある、と思ったんです。そのうちの一つが、音楽性。この音でこの表情、この音でこの動き、というところが実に音楽的なんです。実は、英国ロイヤル・バレエ団のマカロワ版『ラ・バヤデール』もそこが素晴らしくて、すっかりハマっていました。私も今回、この点に注意して、常に音を絶対に外さないようにと意識して取り組んでいます。
──稽古場は、初演ならではの熱気ですね。
上野 皆で力を合わせている感じが、とっても楽しいんです。初めての演目なので、最初の頃は出番のタイミングが把握できていなくて、沖香菜子ちゃんに「いまです、ハイ!」と背中を押してもらったこともあるんです(笑)。この楽しさが、そのまま皆さんに伝わればいいなと思っています。
──メドーラはどんな役柄でしょうか?
上野 このヴァージョンのメドーラはお姫さまとか舞姫とは違って、"普通の女性"。等身大の女性として、特別に作り込まず、ストーリーの中で自然に生きれることができれば、と思うんです。ABT の映像のジュリー(・ケント)を見て、そう感じました。あのメドーラは彼女そのものだ、と! 今回も、"上野水香のメドーラ"を見ていただけるのではないかと思います。
ただし、このバレエはとてもハード(笑)! とくに第1幕のヴァリエーションはすごく長くて! こんなに長いクラシックのヴァリエーションは初めてです。
──今回の見どころについてお話ください。
上野 バレエ団で『海賊』を初演する、そのこと自体が大きな見どころかと思います。古典でありながら、新しい。皆さんにとってお馴染みの東京バレエ団のダンサーたちが、これまで見せたことのない、新しい顔を見せるはず。クラシックだけど、新しい何か!なんです。今まで私のことを見てくださっていた方にとっても、見たことあるようで全く新しい上野水香を、また、全く新しい東京バレエ団を、見ていただけると思います! それに、初演には初演ならではの緊張感がありますよね。この先どうなるか、お客さまも舞台の上のダンサーたちにもわからない。そこにスポットライトが当てられる瞬間を、見逃さないでいただけたらと思うんです。
──なるほど、初演は1回きりですよね。
上野 たとえば、2009年のマカロワ版『ラ・バヤデール』のバレエ団初演の時は、自分の中でも奇跡のように集中できたことを覚えています。マカロワさんご自身がいらしていたことも、作品の力も影響していたかと思いますが、あのときは"特別"でした。再演以降には感じられなかったことです。もちろん再演には再演の、練られたものならではの良さがあるけれど、1回目だからこその独特の空気。それはぜひご覧になって、心に残していただけたら嬉しいです。どうぞ、見逃さないでくださいね!
取材・文:加藤智子(フリーライター)
昨日(2月7日)、来月に東京バレエ団初演となる「海賊」のマスコミ向け公開リハーサル&記者懇親会を行いました。大作の初演とあってか、スタジオには大勢の記者の方がつめかけ、ダンサーたちの熱演も相まって、時折歓声も起こるほどの盛り上がりをみせました。そんな熱気あふれる公開リハーサル&記者懇親会を高橋森彦氏(舞踊評論家)のレポートでご紹介します。ぜひご一読ください!
幕開きの場面より
バレエ「海賊」はオスマン帝国全盛期の地中海で海賊たちが繰り広げる壮麗な一大ロマンだ。東京バレエ団初演に際し選んだのはアンナ=マリー・ホームズ版。"古典バレエの父"マリウス・プティパによる改訂を踏まえたコンスタンチン・セルゲイエフ版に基づく振付で、スピーディーかつ物語性豊かに展開する。
今回はマリー・ホームズが計5週間程リハーサルに立ち会う力の入りようで、この日は全3幕(プロローグ付)から第1幕と第2幕の途中までを公開した。
第1幕では海賊の首領コンラッドが奴隷商人ランケデムに競売された少女メドーラに恋し、彼女を買い取ったパシャ(オスマンの高官)の下から救う。
柄本弾(コンラッド)、上野水香(メドーラ)
川島麻実子(ギュルナーラ)、池本祥真(ランケデム)
メドーラの上野水香はチャーミングかつ魅惑的な踊り。コンラッドの柄本弾は堂々たる首領ぶりだ。ランケデムの池本祥真は高々とした跳躍に加え吸い付くような着地も鮮やか。ランケデムと踊るメドーラの友人ギュルナーラの川島麻実子は優美な体使いが映える。
通常は第3幕で踊られる3人のオダリスクの踊りを第1幕に配したのがマリー・ホームズ版の特徴の一つで、涌田美紀、二瓶加奈子、吉江絵璃奈が活きのよい踊りをみせた。
(左から)涌田美紀、二瓶加奈子、吉江絵璃奈
第2幕はキャストを変えて披露。メドーラの沖香菜子とコンラッドの秋元康臣、コンラッドの従順な奴隷アリの池本祥真が踊るパ・ド・トロワは大きな見せ場だ。沖の柔らかくしなやかな踊り、秋元の端正で渋い身のこなし、第1幕のランケデムに続く登場となった池本の滞空時間の長い跳躍に魅せられた。
コンラッドの仲間ビルバントの金指承太郎はロシア仕込みの新戦力で、恋人役アメイ(マリー・ホームズが東京バレエ団版のために命名)の奈良春夏と息もぴったり。そしてパシャの木村和夫の芝居の一つひとつがコミカルで楽しい。パシャのユーモラスな性格造形もマリー・ホームズ版の特色である。
沖香菜子(メドーラ)、秋元康臣(コンラッド)、池本祥真(アリ)
[写真中央] 奈良春夏(アメイ)、金指承太郎(ビルバント)
記者懇親会にはマリー・ホームズ、芸術監督の斎藤友佳理、上野、川島、柄本、宮川新大が出席した。
マリー・ホームズはキーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)で初めて踊った北米出身者で、師事したセルゲイエフ夫人のナタリア・ドゥジンスカヤから「海賊」の権利を得て改訂し世界中で振付指導を行う。「ダンサーだった頃に楽しんで踊りましたがステージングも楽しい」とにこやかに語る。
斎藤は「海賊」を取り上げるのは「ダンサーの個性を活かせる全幕物」であること、プティパ生誕200年のシーズンを締めくくる意味合いがあることを説明し、マリー・ホームズ版を「シンプルで分かりやすく、ちょうどよい長さで、私にとって大切な「海賊」のキャラクターの踊りも残されている」と評する。
上野は「女性のいろいろな面を表現する余地があるので自分なりのメドーラ像を創りあげたい」と抱負を述べ、川島は「和気あいあいとしてリハーサルや本番に臨めるのは今の東京バレエ団ならでは」と団の充実を伝えた。柄本は「男性ダンサーにとって「海賊」は憧れ!」と意気込み、アリとランケデムを日替わりで踊る宮川はリハーサル中に「自分がアリなのかランケデムなのか分からなくなる」と笑いを誘う。
配役に際してはトライアウトを行いマリー・ホームズと協議を重ねて決めた。この日のリハーサルに接した限りでも適材適所だと納得させる。
[左より] 宮川新大(アリ、ランケデム)、上野水香(メドーラ)、アンナ=マリー・ホームズ(振付家)、斎藤友佳理(芸術監督)、川島麻実子(ギュルナーラ)、柄本弾(コンラッド)
「"プティパ・イヤー"の最後を飾る、愛と冒険のグランド・バレエ!」という惹句に偽りはあるまい。創立55周年を迎えた東京バレエ団の新たな船出を飾る華やかな公演になりそうだ。
取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)
東京バレエ団には現在16人の研究生が在籍し、団員とともにレッスンを受けながら、プロとして活躍するための経験を積んでいます。すでに舞台で活躍する彼らの初々しい姿をご覧になられた方も多いことでしょう。
実は、2018年春にスタートしたこの体制のもと、これまで東京バレエ学校に設けられていた「海外研修制度」が、東京バレエ団研究生を対象として実施されることになり、2018年9月より、米澤一葉がロシア・サンクトペテルブルクのワガノワ・バレエ・アカデミーに約1年間留学しています。
ここでは、冬休みを利用して一時帰国していた彼女に、ワガノワでの留学生活について話してもらいました。
──今回の留学の前にワガノワ・バレエ・アカデミーへは短期留学をしたことがあるそうですね。
中学2年生の時でしたが、「またここでしっかり勉強したい」と思っていました。
──現地での授業の様子を教えてください。
高校1年生に相当する6年生のクラスに入りました。15人中2、3人を除いて全員ロシア人。皆きれいでスタイルも良いけれど、何よりも、しっかりと基礎ができていると感じます。
午前中は9時10分から11時頃までがレッスン。担任のカセンコーワ先生は、たまに「5番!」「頭!」と日本語で注意をくださる、優しい方です。
右手の建物がワガノワ・バレエ・アカデミー
──日本ではなかなか体験できないクラスも?
午後はフタローイ(第二の)クラスで、デュエット、キャラクター、アクチョール のクラスが組まれています。デュエットは、基礎中の基礎、バランスから始め、ピルエット、リフトなどもやっています。キャラクターは東京バレエ団の舞台でもきっと役に立つ、と積極的に取り組んでいます。アクチョールは、アクト、つまり、演技のクラス。全く初めての経験なので戸惑います。
留学生のクラスでは、学年末の公演を目指してヴァリエーションを学びはじめました。先生のご提案を受け、自分で考えた結果、『ショピニアーナ』のヴァリエーションを選びました。上体の使い方、足先など、課題がたくさんあります。
ワガノワ・バレエ・アカデミーの中庭にて。ここもいまはすっかり雪景色だそう
──バレエ団の海外研修制度を利用してよかったと思うことは。
体調不良の時や落ち込んだ時も、バレエ団のスタッフにメールなどでアドバイスをもらえてとても心強いです。
リハーサルの見学に行くべきか、コンクールに出たいと申し出るべきかと悩んでいたところ、東京バレエ学校でお世話になったコーリャ先生(アーティスティック・アドヴァイザーのニコライ・フョードロフ)から、「いまはやるべきことをしっかりやるべき」とアドバイスをいただき、迷いなく基礎固めに集中することができています。
皆さんにいろんなサポートをしていただき、本当に感謝しています。
──留学期間後半にむけての抱負を教えてください。
いつも、バレエ団に戻ってからのことを考えながら勉強しています。すっかり太って帰ってきたら台無し、いい状態で帰ってこなければ! 東京バレエ団の舞台で活かせるよう、ロシア・バレエのダイナミックな踊りをしっかり学んでいきたいと思います。
教室にて。自習の時間も大切にしている
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