5月2日(土)、20世紀を代表する偉大なバレリーナ、ロシアのマイヤ・プリセツカヤが心臓発作で亡くなりました。享年89歳。
1943年にボリショイ・バレエに入団したプリセツカヤは、「白鳥の湖」や「ドン・キホーテ」で大成功を収め、50~60年代には世界最高峰のバレリーナとしての評価を獲得していました。そのプリセツカヤを初めて日本に招へいしたのが東京バレエ団でした。1968年、「白鳥の湖」の舞台で、当時すでに伝説的な至芸と評判だった彼女のしなやかで情感あふれる腕の動きは、類まれな音楽性や演技力とあいまって感動を呼び大きな話題になりました。
プリセツカヤはその後、69年の〈マイヤ・プリセツカヤのすべて〉、74年の東京バレエ団創立10周年記念公演にも客演。後年まで名演を続けた「瀕死の白鳥」、また夫君のロディオン・シチェドリン編曲によるビゼーの音楽を用い、ソビエト体制の下、"闘うバレリーナ"を標ぼうするかのような情熱的な「カルメン」(アルベルト・アロンソ振付)が、強烈な印象を残しました。
そして76年には、当時東京バレエ団主催で上演された第1回世界バレエフェスティバルに、アリシア・アロンソ、マーゴ・フォンテインと並ぶ三大バレリーナの一人として妍を競い、3年後の第2回では、20世紀バレエ団(現モーリス・ベジャール・バレエ団)の故ジョルジュ・ドンとともに、ベジャール振付の「レダ」を披露。自由な表現を希求する芸術家の生き様がひときわ光彩を放ちました。
プリセツカヤは、東京バレエ団の前身である東京バレエ学校と、バレエ団の創成期に多大な尽力をくださった故スラミフィ・メッセレルの姪でもあります。また昨2014年、東京バレエ団の創立50周年にあたっては、没地となったドイツよりわざわざ祝辞を寄せてくれました。
「かなり前のこと─正確に言えば46年前のことですが─私は東京バレエ団とともに「白鳥の湖」を踊りました。それ以降私とバレエ団の間に親愛の情が生まれ、また観客も私たちのことを愛してくださいました。東京バレエ団は非常に有名なバレエ団になりました。権威あり、創造的で、常に前進しているバレエ団です。これはまさに成功です!...」
東京バレエ団と深い縁で結ばれ、また日本の舞台芸術界に多大な影響を与えた不世出の芸術家の死に、深く哀悼の意を表します。
公益財団法人日本舞台芸術振興会/東京バレエ団
写真(左)1968年初来日公演より。相手役はニコライ・ファジェーチェフ。撮影:長谷川清一
(右)1976年、第1回世界バレエフェスティバルのカーテンコールより、中央がプリセツカヤ。
既報の通り、4月17日(金)、ニューヨークで行われたユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)2015のガラ公演〈レガシー〉に東京バレエ団が出演し、アメリカ・デビューを飾りました。会場は舞台芸術の殿堂リンカーン・センター内にある、ニューヨーク・シティ・バレエの本拠地、デヴィッド・H.・コーク劇場。
ニューヨークの一大バレエ・イベント、今回で16回目を迎える国際バレエ・コンクール、YAGP。決選終了後に行われる恒例のガラ公演の二日目に、今年は現役スターダンサーであるデヴィッド・ホールバーグが自身と繋がりのある団体を集めて企画した〈レガシー〉が行われ、共演経験のある東京バレエ団が招聘されることになったものです。
東京バレエ団はこれまで海外公演を30か国152都市において738回実施していますが、バレエ団としてアメリカ合衆国の舞台に立つのはこれが初めてとなりました。
上野水香、木村和夫を含む一行8名は4月14日にニューヨーク入りし、現地では次期芸術監督の斎藤友佳理も合流。2日間のリハーサルを経て本番の舞台に臨みました。
〈レガシー〉では7つのプログラムが上演され、東京バレエ団の登場順は前半の最後。ボリショイ・バレエのエフゲーニャ・オブラスツォーワとセミョーン・チュージン、アメリカン・バレエ・シアターのヴェロニカ・パルト、マリインスキー・バレエのエカテリーナ・コンダウーロワ、チュージンに続いて、東京バレエ団が十八番のモーリス・ベジャール作品「バクチⅢ」を上演。木村扮するシヴァ神と、上野扮するその妻シャクティを中心に、真紅の衣裳に身を包んだ8名による、エキゾチックで力強く、かつエレガントなダンスに、会場は歓声が飛び交うほどの盛り上がりを見せました。
木村和夫は「一回だけの公演で一発勝負だけに、会場の空気をしっかり感じながらも、地に足をつけてベジャールのスタイルをしっかり見せることを心掛けました。東京バレエ団の存在をアピールできたと思います」。YAGPのガラにはホールバーグ、ホセ・カレーニョとともに出演経験がある上野水香は、「ニューヨークの観客のノリの良さは知っていましたが、ベジャールの作品をとても喜んでくださって嬉しかったです。また、上演前にホールバーグが舞台上で東京バレエ団の紹介をしてくれたのですが、彼の心遣いや人との繋がりを大切にする気持ちが伝わってきて、ありがたいと感じました」と語りました。
ユース・アメリカ・グランプリ2015
デヴィッド・ホールバーグ プレゼンツ 〈レガシー〉
2015年4月17日(金) 7:00p.m. デヴィッド・H・コーク劇場(リンカーン・センター)
出演:
「ファラオの娘」よりパ・ド・ドゥ エフゲーニャ・オブラスツォーワ、セミョーン・チュージン(ボリショイ・バレエ)
「スクリャービン・ダンス」 ヴェロニカ・パルト(アメリカン・バレエ・シアター)
「ダイヤモンド・パ・ド・ドゥ」 エカテリーナ・コンダウーロワ(マリインスキー・バレエ)、セミョーン・チュージン(ボリショイ・バレエ)
「バクチⅢ」 上野水香、木村和夫、安田峻介、永田雄大、吉田蓮、和田康佑、竹下虎志、宮崎大樹(東京バレエ団)
新作 ABTスタジオ・カンパニー
「アンスポークン・ダイアローグ」 アンバー・スコット、ルディ・ハークス(オーストラリア・バレエ団)
「コレオグラフィック・ゲーム 3×3」 エカテリーナ・コンダウーロワ、アレクサンダー・セルゲイエフ、ほか(マリインスキー・バレエ)
撮影(舞台):瀬戸秀美
取材/文:新藤弘子(舞踊評論家) 3月の『ジゼル』で、初のアルブレヒト役を好演した柄本弾。力強い動きと落ち着いた演技に加え、ジゼル役の渡辺理恵の儚げな魅力を引き立てるサポートも安定感抜群だった。インタビューは公演前の慌ただしい時期に行われたが、疲れも見せず、響きのいい声でていねいに答えてくれた。 ---バレエを始めた頃のことを教えてください。 兄や姉に続いて習い始めました。小中学校時代は野球やバレーボール、水泳、バスケなどもやっていて、どちらかというとバレエは二の次。真剣にやり始めたのは高校生になってからです。 ---何か転機が? 大阪のバレエ教室の発表会に呼んでいただき、同年代の男子たちと出演したのですが、みんなもういろんな賞を取っていて、めちゃめちゃうまくて、何ひとつ勝てない(笑)。もっと真剣にやらないとバレエでやってくのは絶対に無理だと気づいて、週に8〜9回レッスンするようになりました。真剣になるのがもう少し早ければよかったなと思います。 ---東京バレエ団に入るきっかけは? 発表会やワークショップに高岸直樹さんがよく来られていて、バレエ団を身近に感じるようになりました。他のバレエ団のオーディションも受けましたが、最終的にここに入りたいと思い、決めました。その頃にはもうプロになる決意は固めていました。 ---入団して苦労したことは? 苦労しかないですね(笑)。18歳で入団して、最初の大役が新人公演の『白鳥の湖』のロットバルトだったんですが、緊張するし、衣裳は重いし、最後のリフトが上がらなくて、その夜は悔し泣きして。パ・ド・ドゥの大切さを感じたし、もう絶対リフトは失敗しないようにしようと思いましたね。 ---最近はいろいろな方の指導を受けていますね。 小林十市さんには、『火の鳥』『ギリシャの踊り』『ボレロ』など、いろいろな踊りをご指導いただきました。振付家と一緒に仕事をしていた方から教わるのはすごく財産になります。マラーホフさんからご自身が長年踊ってきた『ジゼル』を教えていただけるのもラッキーというしかない。去年の『ロミオとジュリエット』はバレエ団初演の作品で主役という初めての経験、しかも初日ということでプレッシャーも感じていましたが、ケヴィン(・ヘイゲン)さんやノイマイヤーさんにたくさんのことを教えていただいて、いい財産になっています。 ---プレッシャーや本番には強い? うーん、そういわれるんですけど、前日に本番の音楽が聞こえて眠れなくなることもあるし、緊張はあります。でも幕が上がって舞台に立つと、意外に振り切れるし楽しめる。だから強いっていわれるのかも(笑)。 ---『眠れる森の美女』『ジゼル』のような古典は難しいですか? 難しいです。マラーホフ版『眠れる森の美女』の王子も緊張しました。もともとクラシックの王子より、バジルやソロルのような役が踊りたかったので。流れるように美しくというより、ダイナミックな踊り。さらに好きなのが、力強さを前面に出す、ベジャールさんの作品です。クラシックが嫌いなわけではないけど、自分の踊りのスタイルはそちらの方が合っているような気がして。 ---これからどんなダンサーを目指していきますか? 誰みたいになりたいというのはないんですが、やってみたい作品はあります。三十代半ばくらいになったらオネーギンを踊りたい。で、若いうちにロミオをもう一度踊りたい。それからレンスキーも。東京バレエ団にいるからには、『ボレロ』のメロディにも憧れますし。 ---バレエ以外のことも教えてください。いまは一人暮らし? はい。帰ったらもう、風呂はいって寝ているくらいで(笑)。入浴剤を入れたり、クエン酸とかアミノ酸とか、回復を促すものを摂取して体をケアする。料理は嫌いじゃないけど、片付けが面倒で。でもこの前は餃子を作りましたよ。皮を買ってきて、餡は自分で作って詰めて。 ---舞台では自信にあふれて見えます。今年も主役が続きますが、意気込みを聞かせてください。 そんなことないです、小心者です(笑)。夜寝る前に、あそこ失敗したらどうしよう、とか考えます。ひとつひとつの役にまじめに取り組んで、全力でいい舞台にするしかないですね。あまり先のことを考えても中途半端になるだけなので、何が一番しなきゃいけないことなのかを間違えないように、あとはリハーサルに全力で臨むようにしたいです。 舞台姿は貫禄さえ漂うのに、受け答えはまったく飾らず、じつに自然体。そんなギャップも柄本の魅力だろう。6月には『ラ・バヤデール』全幕初主演が待っている。力強さに加え、ノーブルさにも磨きがかかってきた柄本に、ソロル役はよく似合うはず。公演がとても楽しみになってきた。
4月より東京バレエ団に11名の新入団員が入団しました。 前列左より清田こゆき、水野明香利、今村のぞみ、鈴木理央、 森田理沙、吉田早織、足立真里亜の女性7名。 後列左より山本達史、古道貴大、樋口祐輝、中村瑛人の男性4名です。 今後の新入団員の活躍に、皆様どうぞご期待ください。
3月14日の「ジゼル」終演後、3月末をもって東京バレエ団を退団する高岸直樹の退団セレモニーが行われました。 「ジゼル」のカーテンコール終了後、高岸直樹の代表作である「ボレロ」の音楽が流れ始め、再び幕が上がると"直樹さん 29年間おつかれさまでした"という看板と紙吹雪が舞う中にスーツ姿の高岸が。舞台袖からダンサーたちが次々と登場し、高岸に一輪のバラを手渡していきます。一人ひとりに笑顔で応える高岸。ダンサーたちに続いて、バレエ・ミストレスの佐野志織、アーティスティック・アドバイザーのウラジーミル・マラーホフ、指揮者のワレリー・オブジャニコフ、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団長、最後に芸術監督の飯田宗孝が登場。高岸にバラを渡し、「お客様の前でこのようなセレモニーができることを嬉しく思っています。直樹お疲れさま。29年間数多くの作品の主役を務め、東京バレエ団のために踊り、みんなの励みになって貢献してきてくれた」と特別団員証が手渡されました。その後、高岸直樹が万感の思いを込めて次のように挨拶。 「私、高岸直樹は29年間お世話になりました東京バレエ団を退団させていただきます。 思えば、19歳の時に京都からやってきまして、東京バレエ団の門をたたきました。未熟な私がここまで成長させていただけたのは、バレエ団の皆さん、スタッフの方々、そしてお客様のおかげだと心から感謝しております。退団はしますが、もちろんこれからも東京バレエ団を陰ながら応援し、支えていきたいと思っています。 私自身、今後は後進の指導もしていきますが、ダンサーとしてクラシック・バレエというジャンルにとらわれず、表現者をして様々なパフォーマンスにチャレンジしていきたいと思っています。また、皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。 東京バレエ団はこれからもますます発展していくと思います。引き続き、これからもよろしくお願いいたします」 深く頭をさげ感謝の気持ちを伝える高岸に、観客、ダンサー、スタッフからはあたたかい拍手が贈られました。拍手が鳴り響くなか、高岸直樹といえば誰もがこの作品を思い浮かべる「ザ・カブキ」第一幕ラストの由良之助のヴァリエーションの音楽が流れ、退団セレモニーは爽やかな感動のうちに終了しました。 29年にわたり高岸直樹をご支援くださった皆さまに、改めましてお礼を申し上げます。 photo:Kiyonori Hasegawa
2月13日、都内ホテルにて、斎藤友佳理東京バレエ団芸術監督就任記者会見が行われ、斎藤友佳理とともに、飯田宗孝現芸術監督、公益財団法人日本舞台芸術振興会の高橋典夫事務局長が出席しました。 冒頭で、2013年12月にスタートし、残すは『ジゼル』のみとなった創立50周年記念シリーズの実績を振り返った高橋事務局長。51年目からの新たな体制づくりの必要性を感じ、「50周年事業の最後の仕上げ」として、斎藤友佳理の芸術監督就任を考えていたといいます。これは、現在アーティスティック・アドバイザー任期中であるウラジーミル・マラーホフの強い勧めであったとも。この日に会見が決まった理由の一つが、「今日は佐々木忠次総監督の誕生日だから」だと言う飯田現芸術監督は、東京バレエ団長として佐々木総監督を補佐し、東京バレエ団、東京バレエ学校を監督していくことも発表されました。 長くプリマ・バレリーナとして踊ったうえ、ロシア国立モスクワ舞踊大学院バレエ・マスターおよび教師科を首席で卒業した斎藤。2013年の『ラ・シルフィード』では振付家より指導を一任され、舞台を大成功に導きました。この大役を受けるにあたり、「不安な気持ちはありますが、愛する東京バレエ団をさらに大きく飛躍させる一助になればと、周囲の勧めもあり、お引き受けしました。まずは、指導体制の統一を目指したい」と抱負を語ります。斎藤の芸術監督就任は8月1日の予定。「最初の大きな仕事は、来年2月に予定される『白鳥の湖』。ウラジーミル・ブルメイステル版を上演します。1953年にモスクワのスタニスラフスキー、ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場(モスクワ音楽劇場)で初演された、演劇的要素の強い『白鳥の湖』です」 また、8月の "子どものためのバレエ『ドン・キホーテ』"新制作、10月の『ドン・キホーテ』神奈川公演、11月〜12月のシルヴィ・ギエム ラスト・ツアーでのウィリアム・フォーサイス振付『イン・ザミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』バレエ団初演、イリ・キリアンの『ドリームタイム』などのラインナップも発表。その後についても、「バレエ団の財産である『ザ・カブキ』などのオリジナル作品は定期的に上演し続けたい。また、ベジャールの『ボレロ』『春の祭典』など、限られたバレエ団でしか上演されない作品も継続して上演したい」とし、「今、ヨーロッパやロシアにはアイデアに富んだ振付家が誕生している」と、新作への意欲ものぞかせました。 さらに、ダンサーとしての活動は? という質問には、「自身で踊ることもとても幸せですが、自分が求めているものを、人を通して、舞台で表現してもらえた時の喜びは格別。何年か先に、また踊りたいと思う時があるかもしれませんが、今はまったく考えていません」と迷いなく答えました。 加えて高橋事務局長からは、東京バレエ学校の海外研修制度や、8月に東京文化会館の舞台で東京バレエ団オーディションを開催、海外で活躍中のダンサーたちに機会を与えるといった新たな取り組みも発表されました。 次の50年を見据えた東京バレエ団。その果敢なチャレンジから目が離せません! 取材/文:加藤智子(フリーライター) 撮影:引地信彦
今週の土曜日2/21(土)10:00a.m.より「ラ・バヤデール」の一斉発売が開始されます。その前に、本公演の初演映像をいま一度お届けいたします。
神聖な踊りと熱いドラマ、絢爛たるスケールをもって初演から圧倒的な賞賛をいただいている「ラ・バヤデール」。東京バレエ団では英国ロイヤル・バレエ団やアメリカン・バレエ・シアターが採用しているナタリア・マカロワ振付・演出版を上演しています。
2009年初演の際、東京バレエ団は振付指導のオルガ・エヴレイノフに長期にわたってロシア・バレエのテクニックや演技術を徹底的に叩き込まれ、公演が近付くと20世紀伝説のバレリーナであるナタリア・マカロワ手ずからの指導を受けました。
初日の舞台を観たマカロワはバレエ・ブランの名場面と言われる「影の王国」で、「見て、あのそろったデヴェロッペ!」と感嘆の声をあげ、惜しみない称賛を与えてくれました。その奇跡の舞台がいま一度よみがえります。どうぞご期待ください!
取材/文:新藤弘子(舞踊評論家) ---バレエとの出会いについて教えてください。 姉のバレエ教室についていって、まねをしてたらしいんです。母がそれを見て、やらせてみようと。まわりは女の子だらけだったけど、まだ5歳だったので気にせず暴れてました(笑)。ちょっと肩身が狭くなってきたのが小学校4年生くらい。5年生のとき東京バレエ学校に入学して、男の子が僕だけじゃない! と思ったのを覚えています。 ---バレエ学校時代、印象に残っているのは? スクール・パフォーマンスで少年科の踊りを観て、かっこいいなと思いました。入団2年前のスクール・パフォーマンスでデジレ王子を踊った時は、パ・ド・ドゥのアダージオで、どうしようもないくらい頭がこんがらがってしまいましたが、先生方に教えていただけて、すごく助かりました。 ---東京バレエ団に入ろうと決めた理由は? 入団して苦労したことはありますか? 団員のかたの後ろ姿にずっと憧れていたので、卒業したらここに入ろうと決めていました。入団後はリハーサルの量が格段に増えましたね。特に海外ツアーで『春の祭典』や『タムタム』を踊った去年の夏! 頭も体も追いつくのに必死でした。踊りでは、アダージオと演技。僕は『スプリング・アンド・フォール』のようなさわやか系の踊り、『タムタム』の力強い動きとかは得意なんですが、『春の祭典』の生贄では「弱者というものをどう演じるか」で悩みました。今度のデジレもまだ課題が残っているので、マラーホフさんの王子像をしっかり理解して自分のものにしたいと思います。 ---心に残る出会いや憧れのダンサーについて教えてください。 憧れる人はたくさんいますが、一番はルグリさん! 足さばきや回転のきれいさ、ラインの美しさや身体のしなやかさ、自分が求めるものをすべて持っていると感じます。同期では松野くん。バレエ学校で一緒にレッスンしてきましたが、改めて話してみると頑張り屋で、リハーサルにも集中して取り組む。努力の結晶という感じで、応援したいと思える存在です。(柄本)弾さんは、僕とそんなに年齢も変わらないのに技術のレベルが高い。『バレエ・インペリアル』をリハーサルで踊られているのを見た時、この色気やオーラはどうやって発してるんだろうと思いました(笑)。 ---ターニング・ポイントはありましたか? 2013年に『カルメン』と『ロミオとジュリエット』のトライアウトがあり、頑張って目立とうとレッスンしたんです。そのとき先輩に「秀雄はいつもあのくらい動けばいいのに」と言われ、あっ、そういうことか、と。自分に足りないものをひとつ見つけたと思いました。それからバレエに対する姿勢も身体も変わりました。筋肉が増えてケガもしにくくなった。この1年くらいは怒濤のようにあっという間! ノイマイヤーさんやルグリさんの指導も受けられて充実しています。 ---今後どんなダンサーになりたいですか? 踊ってみたい作品や好きな作品は? 幼い頃から、何でも踊れるダンサーになりたいと思っていました。王子も悪役もキャラクター的な役も踊りたいし、物語のない作品もドラマティックな作品も。振付家ではベジャールさんが好きです。憧れは『ザ・カブキ』の由良之助や、『ボレロ』『ギリシャの踊り』『火の鳥』...。コジョカルさんの公演で観たクルグの『レディオとジュリエット』も踊ってみたいです。 ---バレエ以外で好きなことを教えてください。 音楽はクラシック、特にバッハが好きでよく聞いていました。あとは食べること!(笑) 卵料理が好きで、よく自分でも作りますよ。ゴーヤチャンプルーとかオムライスとか。 入団して4年目だが、正確なポジション、はつらつとした動きの美しさは、すでに多くの人の知るところ。ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』では若き僧ロレンスをみずみずしく演じ、新たなファンを獲得した。リハーサルでは跳躍などをのびのびとこなす一方、マラーホフの演技指導にけんめいに応える。デジレ役は、選ばれた特別な存在であることを、何気ないしぐさを通して観客に示さねばならない。妖精の声を聞くように耳元に手をやる動きはまだ初々しいが、若く魅力的な王子の誕生を予感させる。 「突き詰めるタイプで、よく頭が迷宮入りするんです」と笑い、「考えに考えて一番自分がやりやすい方法を見つける」と語る。ていねいな言葉の端から、自信がきらっとこぼれ出るようで頼もしい。デジレ役でもきっと、大きな成長を見せてくれるに違いない。 撮影:細野晋司
取材/文:新藤弘子(舞踊評論家) ---バレエとはどうやって出会いましたか? 子どもの頃、実家の向かいがバレエ教室で、姿勢やお行儀もよくなるだろうと母が連れて行ってくれました。もともと動くのが大好きで、家でも歌ったり踊ったりするような子だったので、楽しかったですね。大学進学のために上京してから東京バレエ学校に入学しました。入団は20歳の時です。 ---バレエと大学の両立はたいへんだったのでは? 両親から「大学に行かなければバレエを続けてはだめ」と言われていたこともあって、頑張りました。もう一度やれと言われたら辛いけれど、2つのことがあったからこそ必死になれたし、自信にもつながりました。いまは両親に感謝しています。 ---入団して苦労したことは? 東京バレエ団といえばきれいなコール・ド・バレエ! 列の揃え方、首の角度など、バレエ団の形を細かく身体に入れるのが大変で、最初は苦戦しました。バレエは楽しく踊るものだったのに、仕事になったとたん、大好きなものを取り上げられたように感じてしまって。リハーサルと大学を往復しながら、なんでこんなに辛くなってしまったんだろうと思ったときもありますが、舞台に立つと、やっぱり好きだからやめられない。私は同期の人たちに恵まれていて、いまでも退団した方を含めて月に1回くらい集まってバレエの話をしていますし、先輩方もいろんなアドバイスをくださるので、人間関係の面では恵まれていますね。 ---印象に残る出会いはありますか? マラーホフさん、ルグリさん、ギエムさんなど、小さい頃から東京バレエ団の公演で観ていた人たちと同じ舞台に立てるのは、とても光栄です。初めて観た東京バレエ団の全幕が吉岡美佳さんとマラーホフさんの『眠れる森の美女』でしたし、初めてソロを踊ったのもマラーホフ版『眠れる森の美女』の妖精だったので、全幕初主演もこの作品で迎えられるのが嬉しいです。デジレ役の(岸本)秀雄くんは後輩で、緊張しているのか「すみません!」が口ぐせで。最近は1回百円罰金ね、と言ってるんですけど(笑)。私はつい恥ずかしがったり考え過ぎたりしてしまうんですが、秀雄くんはとても素直。感情豊かで基礎も大切にしていて、マラーホフさんのお手本をそのままやってみようとする。ダンサーとしても人としても魅力的で、見習いたいなあと思います。 ---難しかった役や作品は? 以前はオディールやカラボスのような強い役が多かったので、『ドン・キホーテ』のドリアードの女王は自分に足りない部分を求められる踊りだと思いました。「コミカルではっきりした踊りができるのはわかっているから、曲に合わせてゆっくり伸びやかに踊ることを意識しなさい」といわれて。『エチュード』ではギエムさんがフェッテのしかたや踊りのめりはりのつけ方を教えてくださったり、(吉岡)美佳さんが「自分が信じられないなら私を信じて」と言ってくださったりして、勇気がわきました。今回のオーロラは、マラーホフさんや美佳さんが実際に筋肉に触れ、手のポーズひとつから直してくださるので、とてもわかりやすい。あと3週間、少しでも吸収して役に近づきたいです。 ---どんなダンサーになりたいですか? いまは次々に新しい役があって息つく暇もなく、1年後にどうなっているか想像もつかないのですが、このオーロラ姫を踊りきることで、ひとつステップを上がりたいと思っています。私はベジャールさんには指導していただく機会がなかったのですが、いまマラーホフさんにご自身の振付を教えていただけるのがとても嬉しくて、キリアンさん、エックさん、ノイマイヤーさんの作品も、ご本人の指導でぜひ踊ってみたいんです。そういうチャンスがあれば飛びつきたいです(笑)。 きりっとした顔立ちと美しいラインで、新しい役に挑むたびに鮮やかな印象を刻んできた川島麻実子。創立50周年祝祭ガラの『ペトルーシュカ』バレリーナでも、その愛らしさは際立っていた。リハーサルではマラーホフの指示に敏感に反応しながら、いきいきと踊る。バレエについて真摯に語る表情が魅力的だが、話が友人や家族のことに触れると、花が咲いたように明るい笑顔がはじけた。大好きな人たちとお茶をしたり、お菓子を作ったりするのは貴重な時間。本や海外ドラマも大好き。レッスン着の色も役柄に合わせるという繊細な感受性が、オーロラ役で大きく開花するのが待ち遠しい。 撮影:細野晋司
マラーホフ版「眠れる森の美女」の初日まで1か月を切りました。 ウラジーミル・マラーホフがアーティスティック・アドバイザーに就任して2作目となる「眠れる森の美女」。マラーホフは休む暇なく稽古場を移動しながら、リハーサル指導にあたっています。 マラーホフ自身も定評のあるカラボス役で出演する公演に先駆け、少しだけですがマラーホフのカラボスの映像をご紹介します。妖しくも美しいマラーホフのカラボスは必見です!
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